上西充子の発言 (厚生労働委員会)

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○上西参考人 法政大学の上西と申します。
 本日は、意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私からは、一括法案のうち、職業安定法の改正案について、中でも募集時における労働条件の明示に関する事項について意見を申し上げます。
 お手元の配付資料をごらんください。
 今回の法律案に関して私が問題と考える点を五点にまとめました。順に御説明いたします。
 第一に、募集時の労働条件に固定残業代を含んでいる場合、新たに指針で明示を求めるだけでは不十分だと考えます。
 まず、固定残業代をめぐる問題について皆様と理解を共有しておきたいのですが、固定残業代を含んだ形で給与を提示するということは、中途採用だけではなく、新卒の求人でも行われています。
 お手元の資料の一ページ目に、A社からC社までの初任給のモデルを示しました。一見すると、A社とB社の初任給は同額に見えます。けれども、B社は同じ二十万円の中に四万円の残業代を含んでいます。また、C社は初任給が二十四万円と条件がよいように見えますが、八万円分の残業代がその中に含まれています。
 もしも給与に一定額の残業代が含まれていることが募集時に隠されていたならば、求職者は労働条件を比較して適切に求職活動を行うことができません。実際には固定残業代は募集時に隠されていることが多く、そのことがこれまで賃金と労働時間をめぐるトラブルの大きな原因となってきました。国会でも、固定残業代をめぐる問題は繰り返し取り上げられてきました。
 固定残業代が募集時に隠されている場合、誠実な求人企業の側も被害をこうむります。見た目だけがよい求人に求職者を奪われ、労働市場における公正な競争を阻害されてしまう可能性があるからです。
 そのため、職業安定法改正案の作成に至る検討過程においては、固定残業代の明示は重要なポイントの一つでした。そのことは、配付資料の一ページ目に抜粋をした、雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書、それから職業紹介等に関する制度の改正に関する労働政策審議会の建議が示すとおりです。
 しかしながら、固定残業代の明示に関する事項は今回の法律案には盛り込まれていません。労働政策審議会における法律案要綱の検討過程を確認すると、改正法が成立した後に指針が作成される予定のようです。二〇一五年の秋に成立をした若者雇用促進法の場合も、指針によって固定残業代の明示を求めるという方法がとられました。
 では、若者雇用促進法に基づく指針の場合、指針が出されたことによって、若者を対象とした求人における固定残業代の明示は的確に行われるようになったのでしょうか。
 配付資料の二ページ目をごらんください。
 若者雇用促進法に基づく指針は二〇一五年十月一日から適用とされ、翌年三月に新規大卒の募集要項が公開されるまでには六カ月の準備の時間がありました。けれども、六カ月後の二〇一六年三月にウエブ上で公開された新規大卒の募集要項を見ると、指針に従った表示が行われていたケースもあったものの、そうではないケースも多く見られました。
 朝日新聞が二〇一六年五月にウエブ上の就活サイトのリクナビで検索を行ったところ、固定残業があるとしている約百九十社のうち、三分の二の会社は、固定残業代とそれに相当する時間のいずれか、または両方を示していませんでした。時間数だけ、あるいは金額だけでは、情報として不十分であるのは明らかです。
 また、二〇一六年三月の募集要項では固定残業代を含んでいることをうかがわせる記述は全くなかったような企業の中にも、実際には固定残業代を給与に含ませていた企業もあったようです。ことしの三月に公開された募集要項との比較から、それがわかります。
 配付資料のX社、これはあくまで一例ですが、この企業の下の方に示した募集要項を見ると、初任給二十五万円には四十五時間分の残業代五万円余りが含まれているということがわかります。けれども、上の方に示した、こちらは昨年の募集要項ですが、こちらからは、固定残業代が二十五万円の中に含まれているということはわかりません。固定残業代を明示せよという指針は実際には守られていなかったということでしょう。東証一部上場の大企業においても、このような例は複数確認済みです。
 固定残業代が給与を高く見せる効果を持つことを考えると、企業としては給与に固定残業代が含まれていることやその詳細はできるだけ伏せておきたい、そういう意向があると考えてもおかしくありません。X社の場合は、ことしは一定の情報開示を行っていますが、ことし三月の募集要項でさえ、固定残業代の存在をいまだに隠している企業もどうやらある模様です。
 このように、各企業の対応がばらばらであり、それが放置されたままであれば、真面目に情報開示をした企業の方が不利な競争条件に立たされてしまうという大変おかしな状況が生まれてしまいます。
 皆様のお手元にある法律案に関する参考資料の三百六ページの調査結果でも、固定残業代の存在が面接時や入社時などに後出しで出されている実態が明らかになっています。このような実態に適切に対処できるような法改正でなければなりません。
 労働政策審議会の建議の趣旨を踏まえれば、募集時における固定残業代の明示は、強行規定ではない指針によってではなく、省令によって定め、さらに、固定残業代を採用しているにもかかわらず募集の段階で適切に明示を行わないような企業については指導を行い、指導に従わない企業には、企業名を公表するなどの対策をとっていくことが必要と考えます。そのような内容が法律案に盛り込まれるべきです。
    〔委員長退席、三ッ林委員長代理着席〕
 四ページ目に移って、二番目のポイントです。
 今回の法律案では、募集時の労働条件から労働契約締結に至る過程で変更を行う場合には、改めてその変更内容を明示することとされており、それが働く方を保護することになると位置づけられています。十日のこの委員会で、大臣はそのように答弁をされています。しかしながら、私は、変更内容を明示すればよいとなると、募集に際しての労働条件の明示義務の意味が損なわれ、募集時からの労働条件の大幅な変更に、むしろお墨つきを与えかねないのではないかと危惧しております。
 この点について御説明申し上げます。
 まず、変更のタイミングはいつであるかという問題があります。
 法律案を読むと、配付資料の下線部に示すとおり、労働契約を締結しようとする場合に、変更があれば、その変更事項を明示しなければならないとされています。
 この労働契約を締結しようとする場合とは、一体いつのタイミングを指すのでしょうか。それが労働契約締結の直前であれば、労働契約の締結時に労働条件が書面で交付されるのですから、それをよく確認して労働契約を締結するというこれまでのあり方と実質的には変わらないことになります。
 労働契約の締結時とは、多くの求職者にとっては、やり直しがきかないタイミングです。そのタイミングになってから労働条件を後出しで変更することを許してしまうのであれば、求人トラブルが横行する現状に対して、実効性のある改善とはなりません。さらに、改善とならないだけではなく、むしろ状況を悪化させる可能性もあります。
 五ページをごらんください。
 能力や適性を口実にした労働条件の大幅な変更があり得ます。正社員で募集をしておいて、君なら契約社員だねとか、二十万円で募集しておいて、君なら十七万円だねとか、事務職で募集しておいて、君なら販売職だねなどのケースが考えられます。
 その場合、見た目のよい求人を使ってだます意図がもともとあったのか、もしくは能力や適性を見きわめて労働条件を変更したのか、その点を識別することは困難です。
 募集に際して虚偽の労働条件を表示することは、四ページ目に示したとおり、現状でも罰則が設けられています。しかし、その罰則には実効性がありません。虚偽であることの立証は困難であるからです。
 また、まだ契約が締結されていない段階にある求職者は、途中で労働条件を変更して提示されたとしても、問題だと争うことによって経済的に得るものがありません。その点が残業代不払いなどの問題とは異なります。
 そのため、争うことも困難であり、後から労働条件が変更されて、こんな労働条件だと初めからわかっていれば応募していなかったのにというような場合でも、辞退して求職活動を一からやり直すか、もしくは求職活動をやり直す余裕はないために泣く泣く承諾するかという大変つらい状況に置かれてしまいます。求職者には、せっかくつかんだ就職先を失いたくないという思いがあるため、問題が把握できた場合であっても行政指導を行いにくいという声も聞いています。求人者と求職者の間には圧倒的な力関係の差があるのです。
 このような事情があるため、求人と実態が違うというトラブルは表面化しにくいのです。ハローワークの求人におけるトラブルの件数が公表されていますが、あれはあくまで氷山の一角です。たとえ苦情処理の窓口を設けても、苦情を申し立てずに諦めるケースも多いだろうと考えられます。
 また、募集時の労働条件は公開されているため第三者がチェックしやすいですが、その後の面接時における労働条件の変更は一対一の関係の中で行われるので、実態把握も困難です。
 改めてまとめますが、労働条件が募集時から変更した場合に求人者に新たな明示義務を課すという法律案の内容は、実効性において、現行法における労働契約締結時の労働条件明示義務を超えるメリットを求職者にもたらすものではありません。むしろ、変更時に明示すればよいと求人者に受け取られ、募集時からの労働条件の大幅な変更にお墨つきを与えかねず、改悪のおそれが強いものと考えます。
 六ページに移って三点目です。今回の法律案では固定残業代の明示にかかわるトラブルはどうなるのかです。
 図示をしたようなケースを想定してみてください。募集時の月収は二十万円と書かれています。一方、労働契約締結時の書類には基本給十五万円と固定残業代五万円と書かれています。これは果たして変更でしょうか。変更であれば、法律案では変更点について明示義務が設けられます。しかし、変更ではなく、求人票の記載スペースが小さかったので書けなかっただけだというように主張されるかもしれません。
 労働条件が変更した場合にはそれを明示せよという今回の法律案では、このようなトラブルに対処できません。求人トラブルを防止するためには、変更する場合の明示ではなく、募集時における労働条件の明示について、より的確な明示を求めることが重要と考えます。
 労働契約締結時の労働条件と異なる労働条件を募集時に示すことは違法とすべきです。加えて、募集時に明示する労働条件を最低保証と位置づける取り組みの促進が行われるべきです。
 続けて、七ページ目の四点目です。
 新規学卒の場合、募集から入社までにはかなりの期間があるため、募集時に労働条件の的確な明示を行わせることは特に重要です。そして、内定時における労働条件の書面交付も確実に行わせるべきです。
 現在の大卒採用のスケジュールにおいては、実は、労働契約の締結時とはいつの時点を指すのか曖昧であるのが現状です。六月ごろに面接を終えて就活を終える学生もいますが、十月の内定式でさえ労働条件の書面がいただけないというようなケースも実際には多いようです。
 四月の入社になって初めて本当の労働条件がわかるということであれば、非常に学生は厳しい状況に置かれます。まずは、現状において労働条件の書面交付の実態がどうなっているか調査を行い、適切な対策を進めていただきたいというふうに考えております。
 八ページ目に移ります。
 時間も限られておりますので、その他の点は列挙するにとどめましたが、裁量労働制が適用されている求人の場合にも、その明示は募集に際して求められていないという点が大きな問題としてあります。新卒採用でも、裁量労働制が本来の範囲を超えて拡張適用されているという実態があります。
 また、現在の募集時の労働条件明示の形式は統一されていないため、給与に固定残業代が含まれているか否かがわからない、あるいは給与と諸手当は別建てなのかどうかわからない、期間の定めのない雇用なのかどうなのかもわからない、実は業務委託かもしれないなど、募集要項では判別できないという大きな問題があります。
 そのため、ハローワークの求人票の書式なども参考にしながら、一般の求職者にもわかりやすく、かつ、紛れがない形での労働条件の表示を行うモデル求人票を厚生労働省が作成すべきです。
 来年度には、総合的職場情報提供サイトが新たに運用される予定とも聞いております。各社はそのサイトにモデル求人票の書式に従った求人票を掲載することを促すなど、モデル求人票の普及に厚生労働省として取り組みを行うべきです。同じ条件で数十人規模を採用する新規学卒採用などでは、このような取り組みは効果的と考えます。これは法改正を待たずに行えることですので、直ちに取り組んでいただきたいと思います。
 最後になりますが、今回の職業安定法の改正案は、これまで申し上げてきたように、多くの課題を積み残しております。また、状況をさらに悪化させるおそれを含む内容ともなっております。年度末までに成立が必要な雇用保険法の改正案などと一括で今回法案が提出されておりますが、一括法案からは切り離した上で、改めて、職業安定法については法案を別途提出すべきと考えます。
 以上です。ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 上西充子

speaker_id: 31470

日付: 2017-03-14

院: 衆議院

会議名: 厚生労働委員会