阿部正浩の発言 (厚生労働委員会)
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○阿部参考人 中央大学経済学部の阿部と申します。
よろしくお願いいたします。
私は、大学で労働経済学を専攻しておりまして、主に日本の労働市場について研究を行っております。本日は、そうした立場から、最近の労働市場の状況をお話しした上で、今、日本の労働市場に必要とされている政策のパッケージについて、少し私の意見を述べたいというふうに思っております。
まず、お手元の資料の一ページ目でございますが、これは、皆様御案内のとおり、リーマン・ショック以降、日本の労働市場での失業率及び有効求人倍率の推移を示しているものでございます。
リーマン・ショック以降、失業率が継続的に低下をし、一方で有効求人倍率が上昇しているというのは御案内のとおりかと思います。
ことし一月、失業率三%、有効求人倍率は一・四倍程度ということになっておりまして、我が国の労働市場は、労働需要の不足によっている失業が発生していない、ほぼ完全雇用の状態にあるというふうに私は認識しているところであります。そういう意味では、非常に、景気回復に伴って労働市場の需給がタイトになって、労働市場の政策としては余り必要ないのではないかというようなことも言われるときがありますが、実際のところ、細かなところを見ていきますと、課題がないわけではありません。
というのは、二枚目のグラフをごらんいただきたいのですが、これは均衡失業率と需要不足失業率を推計したグラフでございます。
均衡失業率というのは、先ほど申しました完全雇用状態の失業率がどの程度あるかということであります。完全雇用状態というのはどういうことかというと、需要が不足することによって発生する失業がほぼない、ですから、需要不足の失業がほぼないような状況にある状況を均衡失業率というように言っているわけでございます。
問題は、この均衡失業率が今ほぼ三%程度で高どまりしているというところであります。これが八〇年代ですと、二%の半ば、あるいは一%の後半というぐらいの数字でしたので、相当、日本の労働市場では均衡失業率が高どまりしている状態であるということになります。
では、何で均衡失業率が生じるかということでございますが、一般的には、構造的な問題、産業や職業の構造的な問題によって生じているというふうに考えられております。つまり、衰退する産業がある一方で成長する産業がある、衰退する職業がある一方で成長する職業がある、この産業と職業の間に必要な知識や技能、そういったものの違いがあることによって失業が生じてしまうというようなことがよく言われており、よく、ミスマッチが生じているとかいうような言葉で言われているところでございます。
こうしたミスマッチあるいは産業や職業の間の知識や技能がアンバランスなことによって生じる構造的失業ですが、これがあると、なかなか失業された方が次の仕事を探しにくいですとか、長期失業に陥るというようなことが生じます。そういった意味で、従来から、ミスマッチを防ぐためには教育訓練の拡充が必要だとよく言われているところでありまして、今回の法改正においても、一部そうした配慮があるというふうに私は考えております。
ただ、長期失業が問題になっているわけですけれども、その長期失業者の中には一部、一生懸命というか、密度の濃い職探しをされていないような層が一定程度いるということも事実のようであります。
三枚目のページは、厚生労働省の職業安定分科会雇用保険部会の平成二十八年十月十七日に提示された雇用保険受給者の実態に関するアンケート調査でございますが、その次のページ、五ページ目、就職できない理由についてといったところで、年齢の違いによる再就職割合の違いということを見ておりますが、特に、表の一番右側にあります、雇用保険受給終了後に再就職先が見つからなかった、これが長期失業者にほぼ相当するかと思いますが、他の年齢層と比較して特に六十歳以上、六十歳から六十四歳、六十五歳以上のところに赤い文字が示されていると思いますが、ほかの年齢層に比べてこうした六十歳以上の層が就職活動に関しては長期化する傾向があるかというふうに考えられます。
もう一つあるのは、次のページでございますが、六ページ目、雇用保険受給中に考えていた再就職する時期の違いによってどの程度再就職の割合が違うかということでございます。またこの赤い文字のところを注目していただきたいと思いますが、雇用保険受給期間中に、受給終了時期にかかわらず一刻も早く就職したいと考えていたという方々は、雇用保険受給期間中に再就職が見つかっている一方で、雇用保険終了後に再就職先が見つからなかった割合は七・八%、相当低い。一方、できるだけ受給終了した後に就職したいと考えていた人たちの場合には、雇用保険受給期間中に再就職が見つかった方は七・一%に対して、雇用保険受給終了後に再就職先が見つからなかった割合が五四・九%と高うございます。
次のページが、求職活動中にどの程度企業に応募をしていたかということですが、応募回数が最も多かった時期が、給付制限期間中ですとか、所定給付日数の前半ですとか、所定給付日数の後半に一番応募回数が多かったというふうに答えている方々の、雇用保険期間中に再就職が見つかった割合は高うございます一方で、基本手当の受給終了後ですとか、企業へ応募はしなかった、そういった余り密度の濃い就職活動をされていなかった層では、比較的長い失業期間というふうになっているということであります。
したがいまして、そこに書いてありますように、早期から就職活動を行うことが再就職の割合を大きく左右するということになっているかと思います。
〔三ッ林委員長代理退席、委員長着席〕
また、離職理由の違いによっても再就職の割合が違います。
例えば、倒産、希望退職への応募、その他会社からの申し出によるといった会社都合による離職者の場合には、早期に再就職したいと考えている方々が多いこともあり、受給終了時期にかかわらず一刻も早く就職したいと考えている層が一定程度おり、こういった人たちの再就職の時期は相当早くなっているというふうに考えられます。
雇用保険というのは、そもそもは、失業中の生活の安定と同時に、早期就職を労働者に促していくということが本来の目的かと思います。そういった意味で、失業給付の水準や日数といったものは、生活の安定と同時に、求職者のモラルハザードを防いで、早期の失業離脱あるいは再就職に向けて、そうした行動を促すように設計されることが必要かと思われます。そういった意味で、今回、給付日数あるいは給付水準といったものはこうしたことを反映して設定されているというふうに私は理解をしているところであります。
また同時に、こういった再就職に導いていくためには、労働市場の需給調整機能を高度化していく必要があるというふうに考えておりまして、その意味で、今般の改正案で職業安定法が果たす役割は重要であるというふうに認識しております。
こうした長期失業あるいはミスマッチ失業の課題といったものがある一方で、他方で、失業率が下がってきて有効求人倍率が上がっているという中では、人手不足に悩んでいる企業も多数発生しているということであります。御案内のとおり、今、人が足りず業務が上手に遂行できないような、例えば宅配便の問題ですとか、あるいは外食産業の営業時間の短縮ですとか、そういったことが如実にあらわれているわけでございます。
こうした状況は、今後の人口減少、特にこれから若年人口が減少していくということを考えていきますと、この人手不足の問題というのは今後も顕在化していくだろうというふうに思います。そういう意味で、働く希望のある方が実際働けるようになるということが、労働市場政策としては求められるんだろうと思います。
今、日本の人口の推移は、御案内のとおりですのでちょっとはしょりまして、十ページ目に、二〇一六年の労働力状態という円グラフがございます。
ここで、不本意非正規の雇用労働者が三%。それから就職希望者、これは非労働力人口の中の就職希望者ですが、四%。それから完全失業者が、全体では一%。こういった人たちが仕事につけるようにしていくということが望まれるというふうに思います。これを果たすような労働市場政策というのが今求められていると思います。そういった意味でも、労働市場の需給調整機能や、あるいは育児休業制度の拡充ですとか、そういったことが必要かというふうに思います。
また、今後の労働市場のことを考えていくと、人口が減少していく中で労働力不足が顕在化していくという中では、当然ながら、働く希望のある人たちが働ける状態にするということが望まれるわけですが、その一方で、生産性を上げていくといったことも必要かと思います。
十一ページ目に、労働生産性の変化率の寄与度分解というようなグラフがございます。
これは、三つの要因に労働生産性の変化を分解したものでありまして、グラフの赤い部分が純生産性要素。というのは、労働者の知識が高度になったとか技能が高度になったとかそういったことによって生産性が上がった部分、寄与した部分であります。もう一個、緑色の部分が、ボーモル効果というふうに言っていまして、これは生産性の上昇率が相対的に高いような産業の全体のシェアが高まっていけば生産性を引き上げるということでありまして、それが緑色の部分です。最後に、紫の部分が、デニソン効果というふうに呼ばれておりまして、これは生産性の水準が相対的に低い産業から高い産業に人が移ることによって生産性が引き上げられる部分だということであります。
これを見ますと、これは二〇一〇年までしかないんですか、直近の〇六年から一〇年の部分については、生産性が余り上がっていない中で、それまでと比べて一番大きく変わったのは、赤い部分が小さくなっているということでありまして、純生産性効果が小さくなっている。その一方で、紫色の部分は若干大きくなって、労働移動の効果がかなり生産性に寄与しているということがおわかりになるかと思います。
今後ますます生産性を上げていく必要があると思うのですが、その場合には、赤い部分と紫色の部分、それから緑の部分、これをうまく伸ばしていく必要があるだろうというふうに思います。
そういう意味では、赤い部分を伸ばすためには、教育訓練の拡充、大学教育も含めて教育の充実といったものが必要かというふうに思います。また、紫色の部分も相当生産性に寄与しておりますので、労働市場での需給調整機能の高度化をより進めていくといったことが必要かと思います。そして、低い生産性の部門から高い生産性のある部門に人を動かして、日本経済の生産性をより高めていくといったことが必要かというふうに私は考えているところであります。
ここまで、日本全体の労働市場の概況についてお話をさせていただきましたが、最後に、地域労働市場の状況についてお話ししたいと思います。
といいますのも、地域によって、失業率、有効求人倍率に大きな幅がございます。
最後のページに載せているのは地域別の有効求人倍率でございますが、確かに、リーマン・ショック以降、日本全体の有効求人倍率が上がっていく中で、各地域の有効求人倍率も上がっているわけですが、しかし、一方では、地域によってはまだ厳しい地域がある、有効求人倍率がまだ一を超えていないような地域もございます。
こういったところでは、より、地域の労働市場政策を行いつつ、地域の活力を維持向上させるといったことが必要かと思います。今は地方創生と言われておりますが、地方創生の第一には労働市場を整備して状況を改善するといったことが必要かと思いますので、今後はますます地域別の労働市場政策への配慮といったものが必要になるかというふうに思います。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)