藤林武史の発言 (厚生労働委員会)
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○藤林参考人 福岡市こども総合相談センター、福岡市児童相談所長の藤林でございます。
本日は、発言の機会を与えていただき、まことにありがとうございます。
私は、二〇〇三年から児童相談所長を続けておりまして、ことしで十五年目を迎えております。職種的には精神科医師であり、精神科の医師の視点を持った児童相談所長としまして、子供たちの長い経過を見てまいりました。この間、少しでも子供たちの将来がよきものになるように、幾つもの新たなチャレンジに努めてまいりました。また、その一部は、日本子ども虐待防止学会等で、発表や発言もしてまいりました。
そして、これらを評価いただき、昨年の児童福祉法改正の基礎となりました、新たな子ども家庭福祉のあり方に関する専門委員会の委員に選んでいただき、また、今回の児童福祉法改正の基礎となります、児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会の委員にも選んでいただき、発言してまいりました。
自己紹介が長くなりましたが、本日は改正法案につきまして、今までの経験をもとに、私なりに考えております法改正の意義と課題、それから今後への期待について所見を述べさせていただきます。
昨年五月二十七日、改正児童福祉法案を全会一致で可決いただきましたが、その法律の内容は、児童福祉関係者の間では、本当に画期的な内容という評価であります。何よりも、子どもの権利条約の精神にのっとり、家庭や、あるいは家庭と同様の環境で健やかに成長、発達することを保障するという、実に明確な理念に裏づけられたものです。
一方、昨年の法改正では解決が困難な課題が残されていると私は考えておりました。それは、長期間施設に入所しながらも家庭復帰がかなわない子供たちの存在であり、保護されることなく、十分とは言えない家庭養育環境にいる多数の子供たちの存在です。
もう少し具体的に説明いたします。
虐待等の理由で施設等に入所している場合、家庭復帰を進めるため、保護者の抱えている問題や養育環境を改善するため多様な支援サービスの提案を行うわけですが、私ども児童相談所の支援や指導を受け入れない保護者の方々が一定数いらっしゃいます。こうして養育環境が改善しないまま、家庭復帰できない子供が本当に大勢いらっしゃいます。
一方で、虐待等で児童相談所が通告を受けた子供さんの中には、分離するほどではないものの、私どもが提案する支援サービスを利用されないまま、十分とは言えない養育環境のまま在宅で過ごしている子供も多くいらっしゃいます。
では、保護したらいいのではないかと思われるかもしれませんが、確かに保護する場合もありますが、保護したからといって、子供にとって安全で安心な家庭環境、健やかな成長、発達が保障される環境をつくり出すというゴールには直結しないのです。いろいろと条件をつけて一時保護から解除し、児童相談所が指導を行おうとしても限界があります。
なぜ児童相談所の指導に限界があるのか。現行の児童福祉法において、児童相談所として保護者に養育態度や養育環境の改善を促す手段としましては、児童福祉法二十七条一項二号措置、それから児童虐待防止法十一条三項勧告がありますが、これらの行政処分を行ったとしても、何ら権利が制限されるわけでもなく、また罰則があるわけでもなく、保護者に養育態度や養育環境を改善いただくようなインセンティブが働かないのです。
私が所長として十五年経験してきた中で、児童相談所の持つ支援や指導の限界のために、子供が不十分な養育環境に置かれ、その後、状況がより悪化して保護されるという子供を何人も体験してまいりました。保護したものの、養育環境が変わらないため、何年も分離したままになるケースも経験してまいりました。
二〇一一年、全国で初めて、福岡市児童相談所に常勤の弁護士を配置いたしました。児童相談所の法的対応力を強化することで、今まで難しいと思っていたケースも、職権で保護し、児童福祉法二十八条の申し立てを行い、親権者の意に反した分離を積極的に行ってまいりました。しかしながら、常勤弁護士の法的対応力をもってしても、保護者の養育態度や養育環境を変えることは難しいのです。行政機関である児童相談所だけが頑張る限界と思っております。
児童相談所の職員となった弁護士の課長とも何度も話し合う中で、裁判所がもっと関与することで、児童相談所指導の実効性が向上する、ひいては、子供が家庭での健やかな成長、発達が保障されるのではないかと考えるようになりました。
日本においては、分離した後の、家庭裁判所から保護者への勧告制度はありますが、イギリスやドイツなど諸外国のように、在宅の保護者に家庭裁判所が関与する仕組みはありません。例えばイギリスでは、スーパービジョンオーダーといった裁判所が関与する仕組みがありますし、ドイツでは、子の福祉の危殆化における家庭裁判所の措置の容易化のための法律が二〇〇八年に制定されています。
ドイツのこの法律の仕組みを少し説明いたします。ドイツにおいても、日本と同様の現実があったと聞いています。つまり、児童虐待のケースで、少年局があらゆる手段を尽くしても奏功せず、最後の手段として親権の取り上げだけが残された段階で初めて家庭裁判所に保護措置の申し立てがなされるようになっていたのです。
ところが、二〇〇八年の法改正で、在宅のまま早期に介入できるようになったわけです。要するに、子供の福祉の危険化のおそれがあり、その回避のために、公権力が強行的に保護者の養育に介入する必要があると判断される場合には、少年局は家庭裁判所に手続喚起を行い、裁判所の手続が開始されるというものです。
ドイツの仕組みのように、分離されないまでも、在宅のままで裁判所が関与することで子供の家庭養育環境が改善できないかと考え、前述の司法関与等在り方検討委員会で意見を述べてまいりました。何度も議論を重ねる中で、ことしの一月に取りまとめられ、これを基礎として今回の法案となったと理解しております。
今回の法案の画期的なところは、今まで分離の決定という最終場面でしか裁判所から児童相談所の指導措置の勧告がなされていなかったのですが、審理期間中に指導措置が勧告され、その結果を児童相談所が家庭裁判所に報告するというプロセスが介在していることです。
あたかも少年審判の試験観察に類似したものであり、児童相談所の指導措置に対して、保護者がその指導や支援を受け入れたかどうか、その効果はどうなのか、最終審判で判断するわけですから、この期間、保護者に対して強いインセンティブが働き、児童相談所の指導や提案する支援を受けようというモチベーションにつながるというふうに思います。その結果、保護者がカウンセリングを受ける、または一定のプログラムを受講する、児童相談所や市町村が提案する支援を受け入れる可能性が高まります。また、裁判所から直接保護者に勧告が通知されますので、より動機づけには効果的と思われます。
今までの二十八条審判後の家庭裁判所による勧告では、保護者は、養育態度を改める、児童相談所の支援を受け入れると言えば、それがどの程度実行に移されたか裁判所が確認することなく、児童相談所の判断だけで家庭復帰になっていたわけです。
この改正法案では、家庭裁判所の審理期間中に、具体的な実績と成果を最終審判の判断に加味されるわけですから、再虐待の危険性を予防することもできると思います。しかも、養育態度や養育環境の改善の持続も期待できると思います。改正法案の二十八条審判を児童相談所が使いこなすことで、在宅の子供たちにとっても、長期間の分離をせずに養育環境が改善することが効果として期待できます。
今まで、全国の児童相談所関係者は、保護者指導の実効性を高めるため、一層の司法関与を求めてきたのですが、今回の改正法案は、現場のニーズに応える大きな一歩と私は位置づけたいと思います。
次に、今回の改正法案の、あと二つの大きな柱についても考えを述べたいと思います。
一つは、家庭裁判所による一時保護の審査の導入です。
保護者の同意を得ずに児童相談所が保護する場面というのは日常的に発生しているのですが、それがきっかけで養育環境が改まり、安心、安全な家庭環境に復帰できることも多いのですが、反対に、一時保護がきっかけで児童相談所と保護者との対立が発生し、分離後も養育環境の改善につながらないというケースも経験します。
児童相談所としては、支援的な関係を築き、これらの提案する支援を受け入れてもらいたいわけですが、拒否的になってしまうと話し合いにも応じなくなります。このようになってしまう大きな要因の一つに、一時保護の手続があります。
保護者にとっては、保護に至った理由よりも、突然児童相談所がやってきて保護されたという事態に大きな怒りやトラウマを感じ、その後の支援関係に移行できないままになってしまうのです。一時保護のプロセスの中で、判断、決定の部分を裁判所が担うということは、保護者にとっては適正な手続を保障されることになり、仮に一時保護するとの判断に至ったとしても、保護者の納得感の改善が期待でき、保護者との支援関係に移行できる可能性が出てきます。
今まで児童相談所だけで判断していた一時保護決定に裁判所の審査が導入されることは、児童相談所の職員に新たな業務負担がふえると思う向きもあるようですが、保護後に支援業務に専念できるメリットと家庭復帰に進めるケースがふえることが期待できることから、私は大きな意義があると思います。
もう一つの柱である接近禁止命令の拡大についてですが、この改正法案も現場の要請に応えていただいたもので、とてもありがたく思います。
重い虐待で保護した子供さんの中には、その後の回復プロセスにおいて、虐待者が絶対に会わない、来ないという安全の保障が必要な場合があります。子供に虐待者が接近しないことを法的に保障するのが接近禁止命令です。現在、この法律は、二十八条審判に基づく措置の場合だけに限定されています。ですから、保護者が里親や施設入所に同意してしまうと、接近禁止命令は使えないことになります。
通常、こういった虐待ケースの場合の同意は、里親や施設の所在地を教えない条件で保護者から同意を得るわけですが、転校しない限り高校には子供さんは通学するわけですから、保護者が会おうと思えば、高校の通学路で子供と会えるわけです。また、一時保護中に高校に通学する場合が私どものところでは最近ふえてきており、こんな場合も通学路で会ってしまう心配があります。
そこで、子供が通学途中や生活圏で虐待者と会う可能性を排除するためには、二十八条ケースだけに限定せずに、同意入所や一時保護中の場合も含めていただくことで、安心して学校に通うことができます。一時保護中だからといって通学を断念しなくてもよくなり、高校生に限らず、一時保護中の通学保障が可能になります。この項目の法改正も、子供の権利を保障する昨年の児童福祉法改正の流れに沿った、本当に意義深いものと思います。
次に、課題について述べたいと思います。
心身ともに健やかに家庭で暮らす権利を保障する児童福祉法三条の二の家庭養育原則、これを実現するための一層の司法の関与、この観点から、今回の法改正は大きな一歩を踏み出したと私は思います。
一方、司法の関与が大きく進んだといっても、この改正法案の仕組みを使いこなして子供の権利を保障する主体は、やはり児童相談所の役割です。二十八条申し立て件数が、児童相談所によってばらつきがあるわけなんですけれども、分離目的だけでなく、在宅支援の一環としてこの法案を使いこなすためには、児童福祉の専門職だけでなく、法律の専門家も必要です。
私は、常々、児童相談所の今後のあるべき姿として、ソーシャルワークだけではなく、リーガルな視点で法的権限を駆使することが必要と述べてまいりました。つまり、リーガルソーシャルワークという、法律家とソーシャルワーカーの協働が重要と思うのです。
昨年の改正で児童相談所に弁護士を配置するようになりましたが、まだ十分とは言えない状況にあります。今回の改正法案を十分こなせるよう、常勤弁護士を配置するなど、児童相談所の体制強化が課題の一つと思います。
もう一つの課題は、今回の新たな家庭裁判所の勧告のもとでの保護者指導につきまして、どのようなケースに効果的なのか、どのように運用すればよいのか、実際に使ってみないとわからない点も多くあります。一時保護の司法審査についても同様のことが言えます。全国の事例を集積し分析する中で、今後、必要な改善点も見えてくると思われます。
改正法案の中には、この法律の施行後三年をめどとして、児童相談所の体制の整備の状況、家庭裁判所の関与のもとでの児童相談所等がとる措置の実施状況等を勘案し、法律の規定について検討を加えて、その結果に基づいて必要な措置を講ずるといった検討規定を加えていただいております。この検討規定はとても重要と私は思います。この検討規定を活用して、よりよい法制度へと成熟していくことを期待しております。
最後になりますが、子供の福祉、権利保障のために、今回の改正法案が速やかに成立し、施行されることを期待いたしまして、私の意見陳述を終わりたいと思います。
ありがとうございました。(拍手)