鈴木俊博の発言 (厚生労働委員会)
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○鈴木参考人 私は、仙台、宮城の地域で、民間の虐待防止活動の立場から、十八年間この活動をしてきたそういう立場から、今回の法改正及び今後の児童福祉のあり方について少し意見を述べさせてもらいたいと思います。
まず、こういう機会を与えていただいたことに感謝したいと思います。
私、本業は精神科でソーシャルワーカーをしています。精神科は虐待された人たちの本当に吹きだまりのような感じを私は受けています。それも含めて少しお話をさせていただきたいと思います。
まず、今回の法改正なんですが、一つは、指導勧告に裁判所、司法が関与する、それから、一時保護にも司法が関与する、接近禁止命令を強化する、おおむね私は賛成でございます。ただし、全部について申し上げることはできませんが、二番目に申し上げた一時保護の司法介入について、この点についてだけ少し気がかりなことがございます。
今、さきの国会で、児童が権利の主体である、そういう趣旨の文言が法に明記されたということはすごく大きな一歩だと思っています。御存じだとは思いますが、暴力と虐待はどう違うか、この定義なんですが、一般の暴力と違い、虐待は、暴力当事者間の力の差、ここに着目した概念です。つまり、圧倒的強者から弱者が暴力を振るわれる、これを一般的な暴力とは区別してわざわざ虐待と定義したわけです。そういう意味では、児童がいかに社会の中で弱者であるかというのは、僕がここで申し上げる必要もありません。圧倒的な弱者です。そういう意味では、児童が特別に配慮されて権利を守っていかなきゃならないというのは当然だと思うんですね。
もちろん、人権全般の観点からいえば、加害者である親の人権も守らなければなりません。吉田先生おっしゃるとおり、そういう観点はとても重要だと思います。ただ、今この時点で、この虐待の問題でいまだに百から七十名の子供たちが毎年亡くなっている、しかも、関係機関が関与しているにもかかわらず亡くなるケースも後を絶たない、こういう中で子供に人権を認めるのであれば、まずはそちらに十分配慮した制度改革が必要なんだろうと僕は思います。そういう意味では、司法介入に賛成ではありますが、現時点で、僕は、バランスを欠いている、そんなふうに感じます。
子供が身近な大人の存在から不当な暴力を受ける、あるいは受けたときに、速やかに対処できる、そういう制度がまずは整ってから、そういう全般の人権を配慮していくというのが僕はいいんじゃないかというふうに思っています。
私は、現場で、民間の立場ですから、そうそう、何でしょうね、専従ではございませんので、ただ、二〇〇〇年に児童虐待防止法が成立した一年前に私どもの団体は設立しています。ほぼ、この法律と年が一緒なんですね。成立当初、地域の児童相談所と私はよく一時保護に行きました。そのころは、やはり皆さん必死で、模索して、民間も行政も垣根がなくて、とにかく一生懸命やった、そんな印象を持っています。そういう中で、公務員である児童相談所の職員の方々と一緒に活動をしてきたわけです。
ただ、私が地域で実感として感じているのは、公務員の方々が、つまり、虐待やDV家庭というのは、多くの場合、特にケースが重篤であればあるほど、みずから、助けてくれと、そんなふうに相談に来るケースはまれです。つまり、助けてくれとも言われないところに出向いていって、児童虐待の問題を指摘して、それを共有して、求めてもいない支援をしていく、これが虐待の現場にあります。
明治以来、日本の福祉制度は、窓口で、私は困っていますから助けてくださいと自己申告して福祉制度を利用する、そういう制度をやってきたわけです。頼まれもしない、困ってもいないところに介入していって、そこで子供を救う、あるいは親を支援する、こういう技術や知識はどこの専門教育機関も教えていません。児童相談所や民間がその現場でいきなり、児童福祉司さんとか保健師さんがそういう現実を実践していくしかないわけですね。そのときに親が児童相談所に殴り込んでくる、そういう事態も起こっているわけです。
この現実を考えると、果たして、僕は、公僕と言われるような公務員の方々、住民に行政サービスを提供するというイメージで公務員になっている方々に、この任務や機能を背負って実効性を上げていってもらうと期待すること自体が限度があるんじゃないか、そう思っています。むしろ、公務員でこれに近い仕事をしているのは、多分、警察でしょうか。
ここで新しい制度設計を話す時間はないので申し上げませんが、僕は、やはりそういう意味では、今、児童相談所を中心としたこの制度だけで本当にこれから先やっていけるのか、政治を担っている皆さんにそこのところをぜひ考えていただきたいと思っています。
資料を三枚用意してまいりました。一と二は、日本子ども虐待防止学会という学会で私どもがパネル展示をした内容をそのままお持ちしたものです。
資料の一なんですが、これが、今の日本の虐待の現状を俯瞰的にあらわしたイラストです。いかに拡大再生産のような悪循環がここにあるかということを簡単に示しています。
家族機能というものがどんどん低下して、コミュニティーがなくなっています。そこに、メンタルヘルス、DVの問題を抱えたり、いろいろな家族問題が出てきます。そこで養育される子供がいろいろな問題を抱えます。SOSを出せる家族、出せない家族、さまざまですが、出せない家族はますますその中で孤立をして、悪循環を繰り返し、そこで育った子供たちは愛着に不安定さを抱えます。その子供たちは、家に安心感を求めないので、外に出ていきます。若年で妊娠をするというような温床がここにあるわけです。そして、また子育てをする。その子供たちがまた同じ循環に入っていく。
さらに、その資料の二をごらんいただきたいんですが、昨年の、児童相談所が一年間に対応した虐待件数が十万件を超えたと言われています。これは速報値のときにつくったものですから、多少数字が違っているかもしれません。そのうち、一時保護されたケースは一万百五件。先ほど来、吉田先生も在宅支援のお話をされましたが、在宅支援された件数が九万三千件余り。
僕は、一番問題なのは、もちろん、一時保護したような重篤なケースの問題は、これはこれでとても重要ですし、そこに課題がないわけではありませんが、この九万件の在宅支援を必要としている家族がどんな支援を受けているかということです。
現実には、もちろん、児童相談所さん、藤林先生初め一生懸命やっている方々がいらっしゃいます、親の指導も含めて。しかし、しかしです、ここに、人手とお金、そういうものが余りに不足している。
たたいてしか養育できないという親のところにそうでない方法を教える、そういうプログラムを地域地域でつくるとか、子育て支援に、このほど、国会は本当によくそこに目をつけていただいて、予算化はしていただいているようなんですが、子育て支援として、例えば、拠点に足を運んでくるお母さん方というのはかなり力のある方々です。あるいは電話相談をしてくる方もそうです。問題なのは、そこにたどり着けない人たちなんですね。その中にこの九万件の方々がいて、結局、先ほどの悪循環の温床がここにある。ここに、今虐待が行われている、しかし一時保護するまでもないという中に、あの循環が生んでいる。
申し上げたいのは、少子化と言われながら、虐待の件数は十万件を超える、ウナギ登り。とてもとんでもない反比例です。なぜこんなことが起きているかというと、ここの九万件の家庭のようなところにきちっとしたお金と人手を使っていないからだと僕は思っています。それがない限り、やはり、不安定な家族を構成して、愛着が不安定な子供をまた拡大生産していくという循環がここに生まれているというふうに思っています。
さらに、三番目の資料をごらんいただきたいんですけれども、これは、たまたま一昨日、河北新報という地域新聞に載った、仙台市の発達障害の児童に対する支援を強化していくんだという記事にあった、一つの、発達障害の児童生徒の推移という数が出ています。発達障害がごらんのようにどんどんふえていて、ここの支援がとても重要になってくるという記事なんです。
その下に、私どもの活動にも大変御協力いただいているんですが、福島県立医科大の横山教授が、こういう発達障害がふえているという現場、保育所や学校に出向いて、フィールドワークをしています。そして本当に発達障害なのかどうかということを丁寧に調査した結果なんですね。
それによりますと、実は、この下の表は、異常行動のある子供の増加と書いてありますが、棒グラフが二本ずつ、三本立っています。二本立っている右側が、本当に発達障害と鑑別された児童の数。見てください。右側の棒グラフはほとんど同じです。左側、これがふえている、増加していると言われている。実は、この子供たちは愛着障害の子供たち。つまり、被虐待の影響によってこういう子供たちがふえている、このグラフなんですね。
精神科の先生もいらっしゃるのであれなんですが、実は、発達障害と愛着障害は問題の表出が全く同じなんですね。鑑別が非常に難しいと言われています。このように、見えないところでいろいろな問題を、裾野を広く、社会問題化していくというのが、この虐待問題の特徴であると思っています。
私が今かかわっている仙台市の要保護児童対策地域協議会、若林区の委員をやっております、ここで地域の虐待児童の台帳が用意されています、ケースの。ここに掲載されている養育者の何と五〇%以上がメンタルヘルスの問題を抱えています。ここ数年の特徴です。最初は四十数%ぐらい、四〇%ぐらいだったんですけれども、あっという間に五〇%以上を超えました。
この中のケースには、例えばですが、境界性パーソナリティー障害というような診断をもらっている養育者の方がいらっしゃいます。こういう養育者と接触して支援をしていくときに、とてつもない感情的な被曝、感情の被曝に遭って疲弊する支援者がとても多いんですね。対人関係にバランスを欠いていますので、感情的に、白黒思考で、敵か味方かでかかわる癖を持っています。ですから、その知識と経験がないと、こういう現場でこういう養育者と接触していく、支援を組み立てていくというのはとても大変なことです。
そういう意味では、このような専門性というものも、今の児童相談所では本当に件数をこなすだけでいっぱいです、こういう観点からも、今の児童虐待にどう対応していくかという制度設計をぜひ見直す、そういう大胆な発想が僕はとても必要だと思っています。でないと、先ほど申し上げた、見えない社会問題が次々、次の世代に雪だるまのように押し寄せてくる。
社会保障費の拡大で今大変国は悩んでいますが、例えば、私が支援している家族で、三代続けて、兄弟も含めて生活保護受給をせざるを得ないという人たちがいます。それは、先ほど言った循環の中で生まれているんです。あるいは、虐待を受けて、ダルクというような、薬物の汚染にさらされて刑務所に行く。刑務所に一年間、一人行ったら五百万か八百万かかると言われています。こういう状況ですので……。
済みません、時間を少しオーバーしてしまったようです。ありがとうございました。(拍手)