清水池義治の発言 (農林水産委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○清水池参考人 皆さん、おはようございます。北海道大学の清水池でございます。
私は、この十年余り、酪農、特に生乳流通とそれに関係する制度に関して研究を行ってまいりました。その中で、生産者の方々、この中にはいわゆる自主販売の生産者の方々も含みますけれども、そういった方々や、指定団体を初めとする農協の方々、そして乳業メーカー、関係する業者の方々、いろいろな方とお話をしながら、さまざまな知見を得てまいりました。
きょうは、その知見に基づきまして、畜安法等改正案に関しての私の意見を述べさせていただきます。
まず、結論から申し上げますと、現在提案されております畜安法等改正法案は、以下の理由で、今の改正法案に基づいて制度を改正するということは望ましくないというふうに考えております。仮にこの内容で可決するのであれば、大幅な修正並びに酪農マルキンといったセーフティーネットの追加的な整備が最低限必要であるというふうに考えます。
以下、項目ごとに述べさせていただきます。
まず一つ目ですけれども、今回の制度改正は、生産者所得の向上に資さないということです。
昨年の規制改革推進会議での議論を見てまいりましたが、今回の改革の基本的な目的というのは、生産者所得の向上ということだったはずです。しかし、改正法案のように制度改正をすることが、なぜ、どのように生産者所得の向上につながるのか、理解するのが難しいです。
確かに、今回のように制度改正をすることで生産者の販売の選択肢がふえる、これは、別の言い方をすると、生乳販売の環境がより競争的になるということを意味しているんですけれども、これは確かにそのとおり、生乳販売をめぐる環境が非常に競争的になるというのは確かだと思います。
しかし、一般的に、販売競争が強まれば、生産者乳価というのはむしろ低下いたします。ですので、そういうふうになれば、所得はむしろ下がるのではないか、こういった懸念もあるというふうに考えております。
引き続いて、年間販売計画についてです。
今回の改正法案では、法の目的に需給の安定というものが明記されました。これは、私としては非常に評価したいというふうに考えております。
需給の安定をどのように達成するのかという手段の中に年間販売計画の策定と実施というものがあるんですが、今のような中身では、法の目的である需給の安定というものは確保できないというふうに考えております。
その理由ですけれども、乳製品向け、飲用向けとありますが、特に、飲用向けの需要というものは非常に不安定です。月ごと、週ごと、時には、年末年始などのような時期には、日ごとによっても予測を超えて変動いたします。そのため、不安定な飲用向けを優先配乳して、残った乳製品向けで帳尻合わせをするという仕組みが行われてきました。これが指定団体共販、特に北海道ではホクレンの共販を通じて行われてまいりました。
ですので、月別の用途別販売計画を立てても、それはあくまでも目安にすぎないということです。需給が計画を超えて変動することも当然あり得ます。むしろその方が普通なのかもしれません。ですから、その目安に実績を合わせることが需給の安定につながるわけでは必ずしもないというふうに考えます。むしろ、計画と実際の需給の動向がずれてきた場合、その計画をフレキシブルに変更していくことこそが需給の安定につながるということで、そのような調整ができるのは、全量生乳を引き受けて多元販売を行っている指定団体共販以外にはないということになります。
ですから、むしろ今まで需給の帳尻合わせを引き受けてきた指定団体共販の機能維持こそが需給の安定に必要というふうに思われます。
既に現在の指定団体共販によって需給の安定がある程度達成されている以上、年間販売計画における用途比率は完全に自由とはせず、例えば、農水省の牛乳乳製品統計の用途比率を参考に地域ごとに比率の基準を設けるということも考えられるのではないかと思います。例えば、北海道では飲用二割、乳製品八割ですね。これは各申請者ごとの基準比率とするか、あるいは地域全体の合計がその比率におさまるようにする、これは議論の余地があろうかと思います。
続いて、集送乳調整金についてです。
集送乳調整金の交付は、生産者が集送乳コストを負担している工場着乳価で取引を行っている対象に限定すべきということです。工場着価格というのは、乳業メーカーの工場に届けられた時点での乳価という意味ですけれども、この場合は生産者、生産者団体が集送乳コストを負担しておりますので、その見合いとして集送乳調整金を出すのは妥当です。
しかし、一方で、一部の取引では、これは指定団体以外ということですけれども、庭先乳価での取引も行われております。この場合、一般的に、生産者が集送乳コストを負担しているわけでは必ずしもありません。要は、庭先で売ってしまうわけですから、それより後のかかるコストは生産者以外の主体が負担するということになります。ですから、この場合、生産者が集送乳コストを負担していませんので、集送乳調整金の交付は必要ではないというふうに考えます。
次に、部分委託についてです。
いいとこ取り防止のための部分委託拒否項目について、現状で幾つか項目が、案だと思いますけれども、示されておりますが、これだけではいいとこ取りの防止というものは困難であるというふうに考えます。例えば、生産の季節変動を超えた変動でありますとか売れ残りの場合は部分委託を拒否できるというようなものがありますけれども、これに関して具体的な基準をつくるのは非常に難しいと考えます。
なぜなら、季節変動といいましても、地域によっても季節変動は異なりますし、あるいは、生産者とか乳業メーカーがどういう主体に対して販売を行っているかによっても季節変動の仕方というのは程度がかなり異なります。ですから、何をもって季節変動を超えているかという具体的な基準、例えば統一基準、数値基準を含めてしまいますと、主体によって状況が違いますので、一律の基準をやってもほとんど意味がありませんし、もしも季節変動を超えていますよというふうに指摘して、いや超えていないというふうに反論された場合、要は、基準がない以上、どうしようもないのではないかなというふうにも思います。
あと、売れ残りに関しても、売れ残りの場合はだめというのは比較的はっきりしているようですけれども、これも、何をもって売れ残りとするのか、基準を決めるというのは難しいのではないかというふうに思います。
ですから、具体的な基準をつくれない以上、どういうふうにこの拒否項目を当てはめていくのかというのは極めて難しいと思います。
このいいとこ取りの問題なんですけれども、共販外への販売行動によって生じるリスクを、他者である共販へ転嫁してしまうというのが大きな問題点です。
もちろん、共販を通じた協調とあるいは競争、これのバランスが大事です。そういう意味で、私も、協調ばかりしていればいいというわけではないんですけれども、今の制度改正の中身では、過度に競争に偏ったアンバランスなものになる可能性があるというふうに考えております。
最後、提案をして終わりたいと思いますけれども、生産者が安心して酪農経営に取り組める環境づくりが必要と考えますが、しかし、現状は、むしろ生産者が不安に感じるような環境がいろいろあるというのも確かです。
例えば、今回の制度改正による生乳販売競争の強化、そして、これはどうなるかわかりませんけれどもTPP、あるいは日・EU・EPA、あるいは将来的に予想されます日米FTAなどの発効は、生産者の経営リスクを確実に高めるものです。こういった動きに対して、生産者は不安を感じております。
長い目で見ますと、これから日本も世界の酪農大国との競争というものが求められる時代に、望む、望まないにかかわらず、なっていくと思うんですけれども、その相手であります米国やカナダ、EU諸国には、乳価が下がった場合に政府が乳製品を買い上げて乳価を一定水準で支える制度や、その他の所得補償制度というものがあります。一方、我が国にはそのような制度がありません。要は、乳価が一定水準以下に下がらないように支える制度というものがないわけです。要は、競争相手にはそのようなものがあるが、我が国にはそのような制度がないということです。
現状の補給金制度は、一定の経済状況の変化があれば単価は更新されますけれども、それがどのタイミングで行われるかというのは不明瞭でありますし、それ以外の場合は、基本的には固定的な単価が支払われます。かつ、補給金単価の水準も、乳価本体と比べますと一割に満たない水準で、所得補償の機能が十分とは言えません。さらに、飲用向けが主体の都府県酪農を支える制度というのは、そもそもありません。
本改正法案を可決するのであれば、せめて、既存の牛マルキン、豚マルキンのような、粗収益が生産費を下回った場合のその差額の一部を補填する、酪農版のマルキンの整備が最低限必要であるというふうに考えます。
酪農は、国民の基礎的な食料を供給する非常に重要な産業です。特に飲用向けに関しては、輸入が非常に難しくて、基本的には国内で調達するしかありません。今の日本の酪農というのは、北海道と都府県との酪農が、絶妙な協調と競争のバランスの中で、お互い切磋琢磨しながら発展してきました。
そういうことを考えていきますと、今回の制度改正は、その微妙なバランスを崩すおそれがあります。ですので、内容に関しては、いま一度内容を慎重に審議していただければなというふうに考えております。
以上で私の意見陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)