安藤光義の発言 (農林水産委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○安藤参考人 おはようございます。東京大学の安藤と申します。
このような場にお招きいただきましたことに感謝申し上げます。
ここで行う私の問題提起が目指しているのは、収入保険制度が農業生産者にとってより役に立つものとしていくための検討素材を提供することにあります。
時間に限りがありますので、早速意見の陳述を始めさせていただきます。
食管制度は既に廃止されている現在、作況変動だけでなく価格変動というリスクに農業生産者はますますさらされており、新たなセーフティーネットの構築が求められています。農業災害補償制度を見直し、収入保険制度を導入しようという意図は十分理解できます。
しかしながら、御提案の内容については、以下にお話しするような問題点があると考えます。
なお、私が提示する視点は主として水田作経営、特に稲作経営からのものです。日本農業が抱える構造問題は水田農業であり、平成三十年度に米の生産調整が廃止される影響を大きく受けることが予想されるためです。
私が考える問題点は、次の四点でございます。
一点目は、収入保険制度の制度としての安定性をめぐる問題です。
二点目は、収入減少影響緩和対策、以下ではナラシ対策と呼びますが、これと収入保険制度とを比べた場合、果たしてどちらが稲作経営にとって有利かという問題です。
三点目は、ナラシ対策と収入保険制度の並立という複雑な構造を将来的にどのように整理していくかという問題です。
四点目は、収入保険制度がもたらす可能性がある細かな税務等の問題点となります。
最初は、収入保険制度の安定性をめぐる問題です。
この制度は、どれくらいの人数の加入者を想定し、どのような収支計算となるのでしょうか。加入者が少ないと制度として成り立たないことが懸念されるからです。
アメリカでも、農業保険制度は長い間、収量保険である作物保険だけという状況が続いていましたが、一九九六年度から、価格低下に対応できる収入保険が導入されています。収入保険制度の導入は世界的な潮流と言えるかもしれません。また、アメリカでは作物保険よりも収入保険の方が加入面積を上回っています。二〇一三年度の数字ですが、前者が九千九百万エーカーに対し、後者は一億九千七百万エーカーとなっています。
アメリカの収入保険は、作物別収入保険と経営単位収入保険とに分かれています。日本で今回導入しようとしているのは、後者の経営単位収入保険になると考えます。アメリカにおけるこの経営単位収入保険の加入証券数は一千百件を超える程度とわずかにとどまっています。アメリカの農業収入保険の加入証券数は百二十万件を超えており、この数字と比べると、いかにネグレジブルなものかがおわかりになると思います。アメリカにおける収入保険の大宗は作物別収入保険であり、それがスタンダードなのです。
こうしたアメリカの状況を鑑みますと、もちろん、日本の場合は作物別収入保険がないので単純な比較を行うことはできませんが、新しく導入される収入保険制度にどれくらいの農業生産者の加入が見込まれるかが危惧されます。
また、日本の収入保険制度は青色申告者を対象としており、十分な数の加入者を確保できるかどうかも気になるところです。青色申告を行っている農業者のうち、どれくらいの方々がどのような条件で加入される見込みで、その結果としての本制度の経営収支はどのようなものになると考えているのでしょうか。場合によっては、青色申告者に限定することなく対象を広げる必要があるかもしれません。
現在の検討中の制度を字義どおり理解すれば、セーフティーネットの対象者は青色申告者に限定されているということになります。農業構造改革の重要性は理解できますし、私もそれに賛同するものですが、農政として守るべき農業生産者はここだけに限定しますよというメッセージとして受けとめられてしまう可能性があります。この点も気になるところです。
中山間地域では零細な農業生産者が粘り強く頑張っているので、また、中山間地域等直接支払制度のようなすぐれた制度の支援もあるため、農地が保全され、国土が維持されていますが、彼らの大半はこのセーフティーネットの外に置かれてしまうからです。
ちなみに、山間農業地域では、主業農家も集落営農もない農業集落が占める割合は五割を超えています。
次がナラシ対策との比較です。
これを行うためには、収入保険制度の内容について正確に理解する必要があります。そのためには、以下のような疑問点が明らかにされる必要があると考えます。
捨てづくりや意図的な安売りなどによって生じた収入減少は補償の対象外とするとありますが、このうち、安売りを意図的であると認定する場合、それはどのような方法で行うことになるのでしょうか。意図的な安売りではなく、生産過剰によって販売価格が大きく下落した場合との弁別はどのように行うことになるのでしょうか。
基準収入は過去五年間の平均収入、いわゆる五中五としていますけれども、ナラシ対策と同様、五中三とするべきではないでしょうか。五中五とする理由として、本制度では、農業者個々の収入を用いるため、モラルハザードにつながるおそれが挙げられていますが、意図的に作物の栽培を行わないというような事態は、合理的な経済主体の行動としておよそ考えることができません。お客さんに常に一定の品質の商品を安定的に長年にわたって供給することで農業生産者の信用は培われるものであり、それをみずから毀損するような行動をとることはあり得ないのではないでしょうか。合理的な経済主体は長期的な視点から行動をしているのです。ここでの想定は経済学的にナンセンスな想定と言わざるを得ないと思います。
また、平成三十年度からの生産調整の廃止によって米価下落の可能性は高まっており、五中五ではその影響を直撃することになりますので、その点を視野に入れた制度とすべきではないでしょうか。
支払い率という概念の理解が一般の農業生産者の方々には難しい点も気になっています。ナラシ対策では、当年産の販売収入の合計が標準的収入を下回った場合、その差額の九割が補填されるのに対し、収入保険制度では基準収入の九割の補填とはなりません。九割補填ではなくても農業経営の安定を図ることはできるのでしょうか。基準収入の九割が補填されない収入保険制度がセーフティーネットとしての役割を果たし得るのかどうか、大きな疑問が残るところです。
繰り返しになりますが、生産調整廃止によって米価の下落が予想されるだけに、基準収入の九割は補填されないこの収入保険制度で稲作経営の安定を図ることは難しいのではないでしょうか。農林水産省が作成された資料を見ても、ナラシ対策は収入減少割合が一割以内であったとしても補填が行われるのに対し、収入保険制度はそうはなってはいません。
そこでさらなる疑問です。支払い率はなぜ九割とされたのでしょうか。事務コストが増嵩し、保険料も高くなるといった問題があるという説明がありますが、このコストを国が負担して農業経営の安定を図るのが本来の筋ではないかと考えます。ナラシ対策は事務費を徴収していないはずです。
また、当年の収入が補償限度額を下回ることが明らかになった際に、それ以降の経営努力を怠るといったモラルハザードが指摘されていますが、自然災害以外により生じる収入減少として考えられるのは、販売価格の下落しかないと思います。しかし、これは農産物を収穫し販売してみなければわからないのではないでしょうか。
一年一作の稲作経営の場合、想定されているような経営努力を怠ることはできないと思います。最終的な経営成果が出るまでのどの段階で、当年の収入が補償限度額を下回ることが明らかとなり、それを踏まえて経営努力を怠ることになることは本当にあり得るのでしょうか。具体的な農作業暦を示しながら、この時点だ、そういう説明をする必要があると考えます。特に稲作経営について、そのようなことがどのような場合に起こり得るのか、具体的に示していただきたいところです。
保険料、積立金と補填金額の試算については、支払い率一〇〇%の場合も示していただければと思います。さまざまな保険料、積立金のケースについて、その場合の収入保険制度の全体の収支予想を示す必要もあると思います。これは最初の問題と関連してきます。
最後に、収入保険制度とナラシ対策との比較についての私の考えを述べます。
稲作の作況の変動は極めて小さく、直近の平成二十年から平成二十四年にかけての五年間の十アール当たり収量は五百二十キログラムから五百四十キログラムの範囲内で安定した推移を示しており、作況指数も九八から一〇二の範囲内におさまっています。稲作経営の収入を決めるのは米価と言ってよいでしょう。
そうなりますと、収量の減少ではなく、価格の低下に着目して両者を比べるのが現実的だと思います。農林水産省が作成した資料によりますと、シナリオ2の、価格が二割低下の場合の補填金は、現行制度の四百八十七万円に対し、収入保険制度は三百二十九万円と現行制度の方が有利です。これが逆転するのは、シナリオ5の、価格が四割下落する場合です。補填金は現行制度の四百八十七万円に対し、収入保険制度は九百八十七万円となります。そもそもナラシ対策で対応できるのは二割の減収までなので、このような結果となるわけですが、ここから導き出せる結論は次のようになります。
緩やかな米価の下落であればナラシ対策で対応が可能であり、そちらに加入する方が有利だが、米価が大きく下落するような場合はナラシ対策では限界があり、収入保険制度に加入した方が有利であるというものです。
私が稲作経営者だと仮定した場合、どうするかは将来の米価の行方をどう見るか次第ということになります。農林水産省が全力を挙げて今年度も生産調整の達成に取り組んでいるので米価は今後も下がらないと強気に出れば、収入保険制度には入らずに、ナラシ対策だけでいきます。少なくとも二割近くの米価の下落がないと予想すれば、ナラシ対策だけで十分です。しかし、生産調整の廃止で米価は暴落と踏めば、収入保険制度に加入します。
ここで一つの疑問が生じます。
収入保険制度への十分な加入者を確保するためには、米価の大幅な下落が必要ということでしょうか。それとも、米価の大幅な下落を見越しているからこそ、青色申告者だけを救うために、収入保険制度を生産調整廃止にあわせて導入するということでしょうか。米価の大幅な下落を前提とした制度設計だったということなのでしょうか。
三番目が、将来的に全体的な制度のあり方をどう考えるかという問題です。
現時点では、複数の制度が並立しており、農業生産者にはわかりにくく、どのように制度を使い分けるか大いに迷うところです。
最終的にはナラシ対策を収入保険制度に集約していくことになるのでしょうか。その場合、どのようなプロセスで進めようとお考えなのでしょうか。どことは申しませんが、出口戦略を考えないと身動きがとれなくなってしまいます。もちろん、平成三十年度以降米価の大幅な下落が続けば、是非もなく収入保険制度に集約していくと思いますが、それは望ましいシナリオではないでしょう。
いずれにしても、複数の制度が並立した状態を混乱なく整理していく必要があり、そのシナリオを検討しなくてはなりません。また、収入保険制度がスタートして一定期間の後に見直しも必要となるでしょう。特に生産調整廃止の影響を見定めることは重要であります。
最後に、収入保険制度がもたらす可能性のある問題点を幾つか指摘したいと思います。
保険支払いの時期が税務申告後になることがもたらす問題があります。既に他の方々からも指摘を受けている点ですが、保険支払いの時期が遅いことが経営の資金繰りに支障を来すのではないかという問題です。また、支払い時期の関係から、保険金は翌年度に収入として計上されるため、税負担が重くなってしまう可能性もあります。こうした点についてどのような対応を考えておられるのでしょうか。
ナラシ対策の交付金は農業経営基盤強化準備金に積み立てることはできますが、収入保険は農業経営基盤強化準備金の対象となるのでしょうか。農業経営強化準備金は、農業経営体の資本蓄積に大きく貢献している制度です。
これが本当の最後になりますが、水田活用の直接支払交付金が基準収入からは除外された理由をどのように考えればよいでしょうか。
保険料は基準収入に保険料率を乗じて算出されるので、飼料用米生産は保険料負担の軽減につながります。これをそのまま受けとめて、飼料用米生産の拡大に追い風が吹いていると理解してよいのでしょうか。それとも、予算の制約から、飼料用米生産の補助金をどこかで大幅に減額さらには廃止することを想定しており、そのときに保険料を支払わなくて済むようにしていると理解することもできるように思いますが、杞憂にすぎないのでしょうか。今後も飼料用米生産を現行水準の助成金で支えていくという確約をいただくことができればと思います。
以上をもちまして、私からの意見陳述を終えたいと思います。御清聴ありがとうございました。(拍手)