鈴木宣弘の発言 (農林水産委員会)
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○鈴木参考人 おはようございます。東大の鈴木でございます。
本日は、このような機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
さて、私の方からは、お配りしております「「岩盤」なくしてセーフティネットは完結しない」というペーパーを見ていただければと思います。
私は、別名ミスター岩盤と呼ばれまして、二つの政権にまたがりまして岩盤の議論に深くかかわらせていただきました。そういう立場から、この収入保険は岩盤のない底なし沼ではないかという論点をまず述べさせていただきます。
この収入保険がまずセーフティーネットなのかどうかについての本質的な議論が必要だと思います。端的に言えば、提案されている収入保険は、所得の岩盤、下支えとしてのセーフティーネットではないということです。
傾向的に価格が下落する側面では、例えば、これから五年間の平均米価が一俵一万円になったら一万円より下がった分の一部は補填します、さらに次の五年は平均九千円になったら九千円より下がった分は補填します、これでは、どんどん基準収入が下がり続ける底なし沼です。つまり、提案の収入保険は、岩盤対策だった戸別所得補償の廃止に対する代替措置にはなり得ないということです。
収入変動をならすナラシ対策には岩盤がないから、所得がどこまで下がるかわからない、経営計画が立てられないという現場の切実な声を受けてこの戸別所得補償制度が実現したわけでございますが、結局、それをやめてしまって、端的に言えば、ナラシと同じ考え方の収入保険を追加しても、底なし沼が二つ並んでいるだけで岩盤は消えたまま、もとのもくあみです。
収入保険の導入を否定するものではありませんが、もう一つ、最低限の生産費を償える水準との差額を不足払いする岩盤政策をセットで準備するべきではないでしょうか。そうしないと、これまで岩盤を求める現場の切実な声に基づいて政策形成を議論してきた経緯は何だったのか、これで現場が納得できるのかということになります。
実際、我々の計量経済的な試算では、戸別所得補償制度を廃止し、ナラシあるいは収入保険のみを残して生産調整もやめていくという状況では、二〇三〇年には米価は一俵一万円を切ります。これに収入保険があっても、それをわずかに上回る支えしかできません。これは貿易自由化の影響は含んでいませんので、実際には、さらに深刻な米価下落が続く懸念があるということです。
米国の仕組みを参考にしたといいますけれども、アメリカには、生産コストに見合う水準の目標価格と市場価格との差額を補填する不足払いという強固な岩盤があります。それに、二〇一四年農業法で収入補償というものも選択になりましたが、それも、基準収入は、販売価格が目標価格を下回ったときには、それを目標価格に置きかえて基準収入を計算する。これにも岩盤が組み込まれているわけです。
いずれにしましても、最低限の生産費水準を補償する強固な岩盤を用意した上で、年々の収入変動をならす収入保険も入りたい人は入ってねとプラスアルファで収入保険を準備しているのがアメリカであるのに対して、我が国では、アメリカにおけるようなメーンの岩盤は逆に廃止して、プラスアルファの部分のみにして、これをアメリカの仕組みに近いかのように説明するのは極めてミスリーディングだと思います。
それから、いわゆる牛・豚マルキンの方がベターだという議論ですが、対象から牛、豚を除外しているのは、生産費を償える水準との差額を不足払いする形のマルキンがあるからだというふうに説明されていますが、それはつまり、いみじくも、マルキン型の仕組みの方がベターであると認めていることになりまして、そうであれば、むしろ、牛、豚以外にも、収入保険ではなくて、全体にマルキン型の仕組みを導入すべきだという帰結にもなります。
それから、御案内のとおり、畑作物にも固定支払い、ゲタ対策があり、米、麦、大豆などのナラシも当面継続されるもとで、対象が青色申告農家に限定され、膨大な書類を伴う煩雑な手続も必要な中では、わざわざ収入保険に加入するという農家はかなり限定されるということが考えられます。
ですから、提案の収入保険が日本全体をカバーするような基本政策には今のところはなり得ない。そもそも岩盤がないんですから、これを今後の日本農業のセーフティーネットの目玉かのように誤解してはならないということではないかと思います。つまり、一つの選択肢がふえたのだ。かつ、一つの選択肢だとしましても、対象の限定性をもっと軽減し、手続の簡素化に努めないと、実効性のある選択肢にはならないと考えます。漁業共済における積立ぷらすのような普及率の高い収入保険を参考にする必要もあるのではないでしょうか。
それから、農家の切実な声で実現した岩盤の経緯は忘れちゃいけない、政策というのは現場の声がつくってきたのではないかという議論です。
民主党政権の後を受けた自公政権では、岩盤政策として導入された戸別所得補償制度を廃止して、いわゆるナラシに戻す、それを将来的には収入保険にしていくという方向性がまず打ち出されました。民主党政権時代に導入されたものは全て白紙に戻す、つまり、前の自公政権の二〇〇七年の政策に基本的には戻す形になっておりますが、そもそも、このときに、ナラシだけでは所得下落の歯どめがかからないという現場の切実な声が戸別所得補償制度につながったということを振り返らないといけないと思います。
ナラシ対策に対しては、対象を一定規模以上に限定して、それから、五中三という過去五年の最高と最低を除く三年平均で基準収入を計算しても、どんどん価格が下がっていくときには経営展望が開けない、この切実な現場の不満に対して、前の自公政権においてもいろいろな議論が行われまして、最終的に、ナラシは維持するが、ナラシに加えて、全販売農家に対する生産費との差額を補償する岩盤を追加するということが発表されました。実現の前に政権が交代しました。
そして、民主党への政権交代と同時に、戸別所得補償制度という形で岩盤が具体化しました。ただ、当初の戸別所得補償は固定支払いと変動支払いで、変動支払いの基準収入の計算の仕方に少し議論がありまして、これが完全な岩盤としては機能しないということで、後に変動支払いの基準価格が固定されました。
その点で注目すべきは、前回の自公政権でベストの選択肢として提案された政策は、完全に生産費を補填するまさに岩盤として提案された、むしろ、導入された当初の戸別所得補償よりも強固なセーフティーネットが提案されていたという事実であります。
提案書には、五中三ではどんどん補填額が下がっていく、我々が提案する新たな米価下落対策は、生産費を確保できる補償水準が維持されることで中長期的な経営の安定化を図ることが可能となるというふうに説明されていたわけです。
つまり、どの政党がどうとかいうことにかかわらず、現場の声がナラシに岩盤を追加する形で進化させたわけです。ですから、現場は、経営の見通しが立てられるようになったと評価して、戸別所得補償制度の長期継続を求めていました。
このように、自公政権、民主党政権を問わず、現場の切実な声を受けて政権が政策を改善し、進化させてきているわけです。こうした一連の議論の流れがある中で、現場を無視してせっかく進化したものを退化させてしまったら、これは現場はもちません。
もう一点、次の論点は、農業災害補償を弱体してはならないという点です。
提案の収入保険の加入範囲がかなり限定される、一方で、米麦では当然加入であった農業共済が収入保険との選択制になることで、収入保険にも入らないが災害補償の農業共済からも抜けるという無保険者が増加しかねません。特に、基幹作物の災害補償は広くあまねく行き渡ることが不可欠であり、だからこそ、農家が自主的な相互扶助により全員参加で基金をつくり、推進や損害評価も自分たちのボランティアで行うという、まさに共済が成立しました。
これは、実は、非常に安い費用で災害補償を実現し、農村コミュニティーの持続性にも大いに貢献しています。また、被害を未然に防止するための病虫害防除などの幅広いリスクマネジメント活動も展開されています。こうした相互扶助の共済を簡素化すれば効率化されるというふうに短絡的に考えるのは危険だと思います。
確かに、地域の人手不足で従来のような体制がとりづらくなっている側面もありますが、だからといってすぐに評価体系を簡素化するのではなく、一筆方式は維持しつつ、人手不足にはドローンによる調査などで代替するといったような最新技術の活用で評価手法を効率化し、農家へのサービスは低下させない方向性ももっと追求すべきではないでしょうか。
短絡的な簡素化の追求ではなく、地域コミュニティーの持続的発展に不可欠な相互扶助の共済の重要性をよく理解し、全員参加型で、きめ細かなニーズに低廉な費用で対応できる農家みずからの仕組みが壊されないように、その維持のための最大限の政策的誘導策をセットにする必要があると思われます。
以上、提案としてまとめますと、一つは、収入保険に加えて、前回の自公政権で提案されたような岩盤、あるいはアメリカの不足払い型の政策、あるいは固定支払いプラス変動支払いの戸別所得補償のような政策、あるいは牛・豚マルキンを全品目に拡大するというような考え方、これらはいずれも類似しておりますが、要は、最低限必要な生産費を償える岩盤を導入するということであります。
あるいは、今提案されている収入保険の基準収入の算定の中に岩盤を実質的に組み込むということも考えられます。米価であれば、例えば、一俵一万四千円を下回る年があったら、その年の値は一万四千円に置きかえて基準収入を計算する、あるいは、そうしなくても、算定に使う米価を補助金込みの米価を使う、そういうようなことで、岩盤要素をビルトインすることが可能になります。
三点目は、先ほど申し上げた、農業共済については、短絡的な簡素化の追求で相互扶助システムを壊してしまうことのないよう、実質的な当然加入に近づけられるような誘導策をしっかりと組み込む必要がある、そういうふうに考えております。
以上で私の意見陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)