本田由紀の発言 (文部科学委員会)
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○本田参考人 東京大学の本田由紀と申します。教育社会学を専門としております。
きょうは、このような場で意見を表明する機会を与えてくださいまして、本当にありがとうございます。
これから申し上げます私の意見は、お手元にあります配付資料にまとめてあります。特に冒頭には、囲みの中にその要点を箇条書きにしてあります。
見ていただければおわかりのように、意見の内容は小出参考人の御意見と重複する点もありますけれども、私の言葉で以下御説明を差し上げたいと思います。
まず第一点目ですけれども、今回の法改正の趣旨、背景についてです。
日本では教育機関の職業スキルの形成ということが国際的に見ても非常に弱体であり、専門職業人材の育成を目的とした教育訓練機関が拡充されることそのものは非常に重要であると考えております。
この職業スキル形成の弱体性については、これまで私は、さまざまな書籍であるとか論文であるとか、あるいは発言を行ってまいりました。その一部を、別紙一であるとか、あるいは、ほかの方々の分析も含めて、この配付資料の三から六ページの参考資料一、二に幾つかのデータをつけてあります。
このような状態に鑑みますと、専門職大学、専門職短期大学の創設と学校教育法内への位置づけというのは評価できる面があると考えております。
特に、私が従来から気にしておりましたのは、日本では、高等学校段階における専門教育、専門学科ですけれども、の規模が小さく、非常に社会的評価が不当に低いということが国際的に見ても大きな問題であると考えておりますけれども、その重要な原因は、専門学科からの大学進学の機会が制約されているということにあります。同じ高校卒であっても、専門学科は専門科目の比重が高いがゆえに、入試において非常に不利な立場に置かれており、AO入試や推薦入試を通じて辛うじて進学している、そういう状態にあります。
このような状態の中で、専門職大学、専門職短期大学の創設により、高校専門学科からの進学機会がこれまでよりも拡大されるということには期待を持っております。
ただしかし、これは、専門学科から進学先として専門職大学、専門職短期大学のみを想定するというわけではなく、一般の大学への進学機会の確保ということは引き続き取り組みが必要だと考えております。これが第一点目です。
第二点目ですけれども、この改正法案に対する危惧と言えるものですけれども、今回の法案においては、大学での修業年限が六年とされている医学、歯学、薬学の三分野のみが専門職大学に課程を置くことができないというふうに明記されております。これは、この三分野以外の分野に関しては、既存の大学における専門職養成と新しい専門職大学との関係が極めて不分明な状態のままであるということです。
大学には、教員免許を初め、多数の専門職業資格を取得できる課程が存在します。このような従来の大学における専門職養成と新たな専門職大学との関係をどのようにお考えになっていらっしゃるのか、整理していらっしゃるのかということが、少なくとも、本法案あるいはこれまでの中教審などにおける議論からは、十分に読み取ることができないというふうに考えております。
むしろ、上記三分野のみが明記されていることにより、従来の大学におけるさまざまな専門職養成が今後専門職大学へと、時には強引な形で転換を迫られるのではないかという印象を一般社会あるいは一般の大学の教職員及び学生は抱くおそれがあります。そのような印象は、国公立であれ私学であれ、従来の大学の運営にとって多大な混乱を招くおそれがあると考えています。
既存の大学における専門職養成は、教育課程全体の中に深く埋め込まれた形で実施されておりますので、それを無理やりに切り出すような改革が仮に行われたりすれば、これは従来の大学全体に対して大きなダメージを波及させる、そういうおそれがあります。それゆえ、本法案がそうしたことを意図しているのではないということが何らかの形で明示されることが望ましいと考えます。
同様の危惧は、昨年十一月に開催された全国知事会議における一つの資料においても表明されています。これは、本資料の六ページの参考資料三につけてあります。
近年、特に地方国立大学において予算の削減が著しく、非常に苦しい中で地方国立大学は運営されておりますけれども、一方で、地方国立大学はこれまで長きにわたり地域社会において非常に重要な役割を果たし、今回の全国知事会議の発言からもわかるように、高い評価も得ております。そうであるからには、専門職大学への急激な転換の要請などは行われるべきではないと考えております。
なお、付言すれば、一般の大学や短期大学における学問分野の職業的意義を高める努力については、私は、引き続き必要であり、今回の専門職大学、専門職短期大学の創設をもって一般の大学がそうした取り組みから免責されるということも、他方でこれは問題があるというふうに考えております。
第三に、法改正に伴って、設置基準などにおいて盛り込まれるような形で整備されるべき不可欠の条件について、二点申し上げます。
まず第一に、専門職大学、専門職短期大学の教育課程についてですけれども、これまでの資料で見る限り、これらの大学、短期大学においては、実習の強化や実務家教員の積極的任用ということが非常に強調されております。
しかし、変化の激しい職業世界の中で、真に実践力を発揮し得る職業人を育成するためには、目の前の実践的なスキルの養成にとどまらず、それぞれの分野及び関連する隣接諸分野の歴史や現状あるいは将来について俯瞰的、大局的な認識、理解を得ることができるような、そういう教育課程を整備し、非常に柔軟に、状況が変わっても対処し、その分野そのものの問題点を変革していくことができるような職業人の養成ということが必要であると考えております。
こうしたことが保証されない限り、今回の新しい教育機関の意義というのは非常に疑わしい面を持つのではないかというふうに考えております。
第二点が、専門職大学、専門職短期大学の修了者の労働市場での処遇についてです。
今回の法改正によって専門職大学、専門職短期大学が開設され、非常に充実した教育が仮に行われたとしても、そこで習得した専門性が発揮できるような労働市場と適正な労働条件の確保がなされない限り、その有効性は何ら発揮されません。
御存じのとおり、既に、日本の労働市場におきましては、専門的な訓練を受けたとしても、それがまるでなかったことかのように扱われ、あるいは非常に低く不安定な処遇でもって扱われるということが多々発生しております。学芸員など必要ないといったような発言まで起きるほど、日本では専門的な職業に対して大変低い見方がなされております、あるいは労働市場での処遇がなされております。
ここを改善しない限り、幾ら教育機関の方を拡充させたとしても、その社会的な意義というのは何ら確保されないと思っております。
既に有識者会議における審議のまとめにも記されてはおりますけれども、今後設置される専門職大学、専門職短期大学の各分野と密接に関連するような業界団体や労働組合、あるいは学協会及び省庁は、卒業生の採用や採用された後の処遇のあり方について指針や例えば職種別の最低賃金などを定めることにより、また企業を超えた労働移動を促進するようなサービスを充実させることにより、ここで形成された専門的スキルが十全に発揮されるような労働市場環境を整える責任と義務を担っている。
創設したからには、そのような環境を整備しない限り、いわば詐欺のような形になってしまうというふうに考えておりますので、このような方向での整備が別途、何らかの法制化の方向性も含めて、設置基準はもとよりですけれども、明確に規定される必要があるというふうに考えております。
以上です。(拍手)