郷原信郎の発言 (法務委員会)

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○郷原参考人 弁護士の郷原でございます。
 きょうは、このような機会を与えていただきまして、大変光栄に思っております。
 私は、平成十八年まで二十三年間、検察に所属して、検察の実務等にもかかわってきたほか、その退官前後に桐蔭横浜大学の法科大学院等で法科大学院の教育にもかかわりました。そういった経験、法曹としての経験と、それから、後ほどお話をいたしますが、総務省の行政評価局による、法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価が行われた際に、研究会の座長代理として、この法曹養成問題についていろいろ調査検討を行いました。そういった経験に基づいて、まず、司法修習生に対する給費制度の創設が今回検討されていることについての私の考えを申し述べたいと思います。
 まず、結論から申しますと、司法修習生や若手法曹の現在の経済状況を考えたとき、その負担軽減のために修習給付金制度を創設されるということ自体は、私は望ましいことだと考えております。それ自体には賛成であります。
 しかしながら、こういう現状に至っていることについて、これがそもそも法曹養成制度改革の失敗というところにあるという認識を改めて持たないといけないんじゃないかと思います。そして、いわばその失敗の犠牲者になった、貸与制で今なお大きな借金を抱えている若手法曹がたくさんいるわけです。彼らをこのままの状態にして、これから先、修習給付金制度を創設していくということで果たしていいのかという点に若干問題があるんじゃないかと考えております。
 この法曹養成制度改革は、二〇〇一年の司法制度改革審議会の提言に基づいて、実働法曹人口五万人規模、そして司法試験の合格者数を平成二十二年ころには年間三千人程度とするということを目指して、そういう方針が打ち出されたことに基づいて進められてきたものでありました。
 しかし、まさに現状は、そういったことが全くうまくいかなかったどころか、結局、法科大学院の多くが募集停止に追い込まれ、そして法曹を目指す司法試験志願者自体も激減するということになって、結果的に、文科省から法科大学院に無駄な補助金を出させることで膨大な財政上の負担を生じさせたばかりでなく、拡大する司法の世界を目指して法科大学院に入学してきた多くの若者たちを、法曹資格の取れない法科大学院修了者、そして法曹資格を取っても仕事ができない、就職もできない、そういう修習終了者をたくさん輩出して、路頭に迷わせるという悲惨な結果をもたらしたわけです。
 私は、法科大学院教育にかかわっていたころから、そもそも、法科大学院の乱立によって司法試験合格者が当初の予定より大幅に低下するという予想のもとでは、司法試験合格に特化した法科大学院教育というのは早晩行き詰まるに違いないということを考えておりました。むしろ、司法試験合格を目指す教育だけではなくて、法科大学院としては、もっと経済社会のさまざまなニーズに応えられるような教育に転換していかなければ、恐らくこの制度は失敗するだろうということを述べてまいりました。実際に、その後の状況は、まさに惨たんたるものになっていったわけであります。
 そして、先ほども申しましたように、二〇一〇年に、総務省行政評価局で政策評価が開始されました。これも、もう既に三千人という目標が全く達成できない、二千人程度の合格者しか出せない状況になっているという状況を踏まえて行われたものでした。
 そして、その結果、研究会の成果に基づいて、その後、政策評価が行われまして、ここでは、年間合格者の数値目標を現状を踏まえて速やかに検討することとか、法科大学院に対して実入学者数に見合ったさらなる入学定員の削減を求めることなどの勧告が行われたものであります。
 こういう動きに合わせてといいましょうか、法務省の方でもいろいろな検討が行われて、二〇一三年には法曹養成制度検討会議の中間提言で、この三千人程度という年間合格者数を撤回するということが了承され、実質的には、法曹の大幅増員という計画自体が大幅に見直されるに至ったということになります。
 今回の給付制の復活というのも、このような法曹の大幅増員を目指してやってきたことが、結局、計画どおりにはできなかった、それ自体を見直さないといけなかったということに関連しているんじゃないかと考えられます。というのは、この年間三千人という合格者が実際には二千人程度にとどまっているという状況のもとで、一度、貸与制への移行が暫定的に停止されるという状況もあったわけです。もし法曹養成制度改革が予定どおりに進んでいたら、このような給付制の復活ということはなかったんじゃないかと思います。
 そのように考えますと、今回の司法修習生に対する給付か貸与かという問題は、国の政策が揺れ動いたことによってこのような状況に至っているという、この現実を直視しなければいけないと思います。
 そして、もし、今後、このような給付制度が今後の司法修習生のみに適用されるということになりますと、かなり大きな借財を抱えて出発した貸与法曹と給付法曹の差が若年世代の法曹の中に生まれるわけです。果たしてそれが今後の法曹の世界にとって望ましいことなのかということも考える必要があるんじゃないかと思います。
 そもそも、法曹の制度、司法制度というのは、国の社会のあり方そのものにかかわる問題です。日本の社会がどういう社会であり、その中で司法がどのような機能を果たすべきなのかということを根本的に考えた上で、法曹養成のあり方、法曹の数ということを考えなければならなかったんじゃないか。
 ところが、この法曹養成制度改革においては、まさに需給関係という、需給関係を考慮するという、法曹を、言ってみれば商品のように考える考え方に基づいて、数をふやせば事件がふえるだろうという単純かつ安易な考え方で制度改革が行われてきたわけです。こういう考え方を根本的に改めるということをまず行わなければ、今後、現状に合わせてびほう的に制度改革を行っていっても、根本的な解決にはならないように思います。
 それからもう一点、裁判所定員法の関係では、裁判所の定員の問題とは直接は関係いたしませんが、私は、弁護士として刑事事件にかかわる中で、裁判所の基本的な考え方の中で、実体判断というのが非常に重視されて、令状などの審査において十分な体制が構築されていないんじゃないかということを常日ごろから考えてまいりました。そのあたりのことを法務委員会の先生方にぜひ御認識いただきたいと考えております。
 とりわけ、今、刑事訴訟法の改正によって、通信傍受も大幅に拡大するということになっております。先日の最高裁判例で、GPS捜査について令状が必要とされるということになると、今後、立法措置も必要になります。このところの社会の複雑化、多様化、そしてIT技術の進歩によって、重大な人権侵害に当たるということで、令状審査の対象となる捜査というのはどんどんその範囲が広がってくるんじゃないかと思います。
 こうした中で、有罪、無罪の実体判断ももちろん重要ですけれども、捜査によって重大な人権侵害が行われることに対するチェックというのも、これも極めて重要なんじゃないかと思います。
 ところが、私は、これまでの刑事実務の経験で申しますと、日本の裁判所の体制というのは、令状審査の体制が非常に薄弱なんじゃないかと思います。実体裁判の方は、事件の重大性に応じて合議体で裁判が行われたり単独の裁判官で裁判が行われたりしますが、逮捕状、勾留状の発付、捜索・差し押さえ許可状の発付などは、多くは、まだ任官したての若い裁判官が一人でやるわけです。
 それでも多くの事件は適切な判断ができるんでしょうが、私が担当しております事件の一つである美濃加茂市長事件、今、上告審に係属中ですが、これなどは、五万人にも上る市民の代表である市長の刑事事件です。まさに、市長が逮捕され、勾留が継続されるかどうかというのは、その市民の生活にも市政にも重大な影響を及ぼすわけです。
 私が非常に違和感を覚えたのは、この事件で、勾留の理由として、逃亡のおそれというのが記載されていたことです。強制捜査が行われたら一時身を隠したりするおそれがあるというようなことを任官一年目の若い裁判官が理由にしていました。どうして市長が市民を置いて逃げるのか。これは確かに、教科書的には、独身で単身居住、年齢も二十代ということになると、逃亡のおそれあり。恐らく教科書的に判断したんだろうと思います。市長というのがどういう仕事であり、市民とどういう関係であるということが、恐らく実体験としてわかっていないのではないか。
 やはり重大な事件、重要な事件について、社会的にも重要な影響を及ぼすような事件については令状審査も慎重に行う必要があると思いますし、そういう面で、裁判所の体制も、これまで実体の審理についてしっかり行われてきた、それをさらに、そういう令状審査についても十分な経験を持った裁判官がしっかり判断をするということに必要な体制が整備されることが私は望ましいんじゃないかと思います。
 直ちに今、定員をどうのこうのという話じゃないんですけれども、裁判所の定員の将来の姿の中に、そういった観点も含めて考えていただければと考えております。
 私の方からは以上です。(拍手)

発言情報

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発言者: 郷原信郎

speaker_id: 29864

日付: 2017-03-24

院: 衆議院

会議名: 法務委員会