小澤俊朗の発言 (法務委員会)
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○小澤参考人 おはようございます。本日は、お招きいただきまして、大変光栄に存じます。
私は、テロ等準備罪の創設を含む法案に賛成の立場から意見を申し上げます。
私は、刑事司法の分野に造詣が深いということは全くないのでありますけれども、二〇一二年の一月から二〇一四年の八月まで、在ウィーン国際機関日本政府代表部の特命全権大使を務めております。退官した現在、国際大学と東京大学駒場で教鞭をとっております。
ウィーンは、世界第三の国連都市として知られております。国際原子力機関を初め多数の国際機関が存在しており、また、国連組織犯罪防止条約、すなわちTOC条約関連の事務を行うUNODC、これは国連事務局の一部である国連薬物犯罪事務所のことを指します。このUNODCもウィーンに所在しております。
私は、日本の常駐代表として、二〇一二年十月にウィーンで開催されました第六回TOC条約締約国会合にも出席しております。本日、この場にお招きいただきましたのは、在ウィーン国際機関日本政府代表部の特命全権大使を務めていた際、我が国とUNODCとの協力関係の推進に当たって経験があるからだと理解しておりますので、国際的な刑事司法分野での協力の現場で日本政府を代表して活動したことのある立場から、このTOC条約を締結する必要性について幾つか所感を述べたいと存じます。
まず最初に、世界のテロ情勢と国際社会の組織犯罪対策の現状についてです。
二〇〇〇年十二月にイタリアのパレルモでTOC条約の署名会議が開催された以降も、世界各地で組織的な犯罪集団やテロリズム集団による犯罪が頻発しております。二〇〇一年九月十一日には米国においてアルカイダによる同時多発テロが発生し、それ以降も、ISILやボコ・ハラムなどのテロリズム集団によるテロが頻発しております。日本人もその標的となり、死傷者を出す事態となっております。こうした中、各国政府は、国際機関も活用しつつ、必死になってこうした犯罪と闘っております。
この点、TOC条約について、テロを条約の対象としていないのではないかという議論があるようですが、これは不思議な議論だと思います。国際社会は、このTOC条約がテロ組織を含む組織犯罪集団と闘う上で重要な枠組みである、こう認識しております。このTOC条約を通じて、捜査共助等のさまざまな協力を実際に行っているという現実があります。
テロと国際組織犯罪に関する安保理決議二一九五というものは、二〇一四年十二月に全会一致で採択されております。テロと闘っていく上で、TOC条約未締結国には、条約に加入することを優先事項として奨励されております。このような現状の中で、この条約がテロと関係があるか否かが議論されるということは、何とも不思議でなりません。
二番目に、我が国がTOC条約未締結国であることの意味について申し上げます。
刑事司法分野における最大かつ最重要の国際会議として、我が国は一九七〇年に京都で第四回コングレスを開催しておりますが、その五十年後に当たる二〇二〇年、すなわち、東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるその同じ年に、世界から四、五千名の参加を得て第十四回のコングレスが本邦で開催されることが決定されております。五年に一度開催されるこのコングレスの本邦開催は、刑事司法分野における日本のリーダーシップを再構築する大きなチャンスでありますので、UNODC事務局の協力を得つつ、日本らしいイニシアチブをとっていっていただきたいと考えます。
しかしながら、前回我が国がコングレスを開催した一九七〇年の当時と比べ、刑事司法分野における今日の日本の存在感の低下は否めないと考えます。アジアの中でも低下しているのです。
これには幾つかの理由があります。
一つには、日本の社会経済発展が近隣諸国の社会発展を促し、アジアの中でも幾つかの国が刑事司法の分野でイニシアチブをとり始めてきたことが挙げられます。
二つ目としては、刑事司法分野におけるいわゆる南北問題の存在があります。インターネット管理の問題やテロリズムの定義の問題が典型例でありますけれども、麻薬問題厳罰主義の是非や死刑是非の問題などもあります。これらの問題については、我が国としてのイニシアチブをとりにくい事情があります。
そして三つ目が、我が国がTOC条約にいまだ加入できていないことです。これは、国際協力のニーズが高いためにほとんどの国連加盟国が締結している国連条約でありますけれども、我が国は署名国の地位にとどまっています。TOC条約については、私が締約国会合に署名国として出席した際の締約国数は百七十二でした。現在の締約国数は百八十七であると聞きます。目ぼしい国は全て締約国であると言って過言ではありません。
TOC条約を補足するものとして人身取引議定書と密入国議定書がありますが、我が国はTOC条約に加入できないでいるため、これらの重要な議定書についても締約国になれていないのが現状です。
我が国は、締約国会合では、オブザーバーとして、イランなどの未締結署名国とともに一番後ろの席に座らされます。組織犯罪の防止のためのミニマムグローバルスタンダードであると言ってよいTOC条約の世界で、我が国がいつまでもそのような立場でいてよいはずはないと考えます。
三番目に、国内法を整備してTOC条約を締結する必要性について申し述べます。
繰り返しますが、TOC条約は、国際的な組織犯罪に対処するための国際協力に関するミニマムグローバルスタンダードを定める条約であると言えます。このミニマムグローバルスタンダードを満たす法整備がなぜ我が国でおくれているかについて、各国の大使から照会を受けることがありましたが、私が幾ら説明してもなかなか理解されませんでした。
TOC条約は、重大な犯罪の合意罪または参加罪の少なくとも一方を犯罪化することを締約国に義務づけています。合意罪の法制を採用している国としては例えばイギリス、アメリカなどがあり、参加罪の法制を採用している国としては例えばフランス、イタリアなどがありますけれども、こうした国々で合意罪あるいは参加罪が人権抑圧に使われているという懸念は聞きません。各国の大使が私の説明を聞いても理解できないでいる、あるいはいたというのは、不思議なことではなかったのかもしれません。
最後になりますけれども、本委員会はテロ等準備罪を創設することを含む法案について御審議中でいらっしゃいます。ぜひ、TOC条約の義務を履行するための国内法を整備していただき、もって我が国がTOC条約と関連議定書の締約国となれるようにしていただきたいと考えます。
冒頭に申し上げたとおり、我が国は二〇二〇年に第十四回コングレスのホスト国になります。世界のリーダーたちが集まるこの会議の前に、国際協力のミニマムグローバルスタンダードを規定するTOC条約を締結していただきたいと考えます。東京オリンピック・パラリンピックに加え、刑事司法分野のオリンピックとも言えるほど重要なコングレスの成功を期して、必要な準備が全て実行されていくことを期待しております。
御清聴ありがとうございます。(拍手)