熊谷亮丸の発言 (予算委員会公聴会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○熊谷公述人 おはようございます。大和総研の熊谷亮丸でございます。
 本日は、お招きいただきまして、心より光栄に存じます。御審議の御参考にさせていただきたく、平成二十九年度の予算案につきまして、賛成の立場から意見を申し述べたいと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは、お手元の資料で、「世界経済の潮流と日本経済の行方」という資料をごらんいただきたいと思いますけれども、まず一ページ目でございます。
 きょう、私からは、大きく三つの点について申し上げたい。
 一点目としては、日本経済の現状と展望ということでございますが、メーンのシナリオとしては、日本経済は着実な景気の回復が見込まれる。先月、私はダボス会議に参加してまいりましたけれども、ここでも、海外の財務当局もしくはIMFのラガルド専務理事を初めとした方々は、基本的には、景気は着実に循環面では回復をしていく、こういう見方でございました。ただ、他方で、海外の下振れのリスクについては引き続き留意が必要である。
 二番目のところに書いてございますけれども、一つは、今後のトランプ政権の政策がどうなるかということ。二点目として、中国経済のいわゆるバブルがこれからはじけるのかどうかということ。そして、アメリカが出口戦略、金利を上げていったときに、新興国からお金が引き揚げられて新興国の経済が動揺する可能性。さらには、地政学的なリスクなどと言われる、世界じゅうでいろいろなトラブルが起きて、これによってリスクオフと言われている円高、株安が進む可能性。そして、ブレグジットの影響等を受けて欧州経済が動揺する。これらの中では、特にやはり一番目のトランプ政権、それから二番目の中国経済、ここをかなり慎重に見きわめていくことが必要であると思います。
 三点目として、アベノミクスでございますけれども、私は、基本的な方向性は、正しい方向での政策が打たれている、こういう考え方でございます。ただ、まだ道半ばということでございますので、例えば、社会保障制度の抜本的な改革、もしくは三本目の矢、成長戦略の強化、これらについては従来以上に加速をしていくことが必要になる。成長戦略の中でいうと、やはり労働市場の改革というのが最大の課題であるというふうに思います。
 きょうは、以上の三点につきまして、残された時間で、具体的なデータ等を使ってお話をさせていただきたいと思います。
 二ページ目をごらんください。
 一番上のところに書いてございますけれども、これから日本経済は、私どもの見通しとしては、一七年度一・三%、一八年度一・一%ということで、世界経済の回復にも支えられて、メーンのシナリオでは緩やかな景気の回復を続けるという見方です。
 三ページ目をごらんください。
 今、日本経済は着実な回復の軌道に入ってきた。
 まず、左のグラフでございますが、赤い線が輸出の動き、そしてブルーの線が生産の動きということですけれども、世界経済が今サイクル的によくなっていることもあって、この輸出と生産が着実に今拡大の方向に向かっているということ。
 さらには、右のグラフがいわゆる在庫循環というものでございます。縦軸が出荷の伸び、横軸が在庫の伸びでございますが、時計回りでぐるぐると回りながら在庫調整というのが進んでいく。そして、左下のところから、今、ぐるりと回り込んで、在庫循環が上の方向に向かっている。徐々に景気が回復をして、これから在庫を積み増していく局面に、循環的に見れば入っているということでございます。
 四ページ目をごらんください。
 その背景としては、冒頭、ダボス会議の話をさせていただきましたけれども、世界経済のサイクルが今着実に改善の方向に向かっている。ブルーの線が世界の景気先行指数、緑の線が日本の生産ということですが、やはり日本経済は、海外経済の動向によってかなり振らされるところがあるわけでございますので、今、世界的にITの在庫なども軽くなって、世界の生産が戻っていく、その中で日本経済も、若干のタイムラグを置いて回復の方向に来ているということがございます。
 五ページ目をごらんください。
 実質賃金が低迷している、こういう議論があったわけでございますが、ここで四種類の賃金をお示ししております。国民経済にとって最も重要なのは、紫の白丸の線で示したもの、つまり、一人当たりの賃金に雇用者数を掛けて、国民の懐に入るお金の総額が、これを物価と比べたときにどうかというものでございますけれども、これは今、直近のデータでは前年比で二%弱ぐらい伸びているということでございますので、今、物価と比べたときの国民全体の懐ぐあいも着実に回復の方向に来ている。
 そして、六ページ目。
 従来から、伸びているのは非正規ばかりである、こういう議論があったわけでございますが、現状は、正規雇用の伸びが非正規雇用を上回っている。二〇一五年に八年ぶりに正規雇用が増加をした、そこから正規雇用は八十万人弱程度増加をしておるわけでございまして、しかも今、非正規雇用の伸びを上回ってきているということがございます。
 七ページ目でございます。
 今後の課題としては、やはりしっかりとベースアップを行っていくということが必要になる。
 ここでお示しをしているのは、一万円賃金が上がったときに、赤で示しているのは、ベースアップなどで一万円上がると、グラフの左端の部分で、消費は八千六百円程度ふえる。ところが、ボーナスで一万円所得がふえたとしても、消費に回るのは千十七円しかない。これは私どもが過去のデータで推計したものでございますけれども、こういう観点からも、今の政労使会議をさらに強化して、企業がベースアップをしっかりと行っていくことが鍵になるということです。
 八ページ目は、原油が下がってきたことも日本経済を下支えするということ。
 図表の左上の部分で、赤で囲んだ部分がございますけれども、原油が百五ドルで高どまりしていたときと現状で比較をすると、私どものマクロモデルを使うと、一七年度の国内総生産、GDPが〇・九%程度、五兆円近く押し上げられるという結果でございます。
 九ページ以降で、本日の二つ目の論点、リスク要因ということで、特にトランプ政権の動向、加えて中国経済について、ポイントを絞ってお話をしたいと思います。
 十ページ目をごらんください。
 トランプ政権については、やはりいい材料と悪い材料が混在している状況です。
 上半分に書いてある好材料、今、マーケットはこちらに注目しているわけでございますけれども、まず、短期的には、大型の減税やインフラ投資によって景気が刺激される。
 二点目として、アメリカが国内への資金還流策をとっている。今、アメリカは、海外に二・五兆ドル、三百兆円近いいわゆる留保利益を持っているわけですから、このお金をアメリカに入れたとき、税制上の優遇を行うと言われておりますので、これがドル高ですとかアメリカの株高などへとつながる。
 三点目として、金融規制の緩和。
 四点目として、金利が上がることによって日米の金利差が拡大して円安・ドル高になり、それが日本にとってもプラスである。
 これらの四点は好材料です。
 他方で、将来的に若干心配な点は、やはりこれだけの政策をとると、双子の赤字、財政赤字、経常赤字が拡大してくる。そうなってくると、アメリカの当局がいずれはドル安カードを切って、円高・ドル安になるリスクも存在する。また、孤立主義によって地政学的なリスクが出る。そして、保護貿易主義の問題等々。
 今のところは、この上半分のところを市場は好感しているわけですけれども、下半分の方に移行しないかどうかということ、これを慎重に見きわめることが必要であると思います。
 十一ページでございますけれども、左下の赤い部分、今アメリカが言っている財政政策を全てとると、五・九兆ドル、十年間で六百兆円以上、アメリカの財政赤字が拡大してくる可能性というのがある。
 もう一つ心配なのは、十二ページ以降のいわゆるドル安カードでございます。
 十二ページでお示ししたように、アメリカは非常に利己的な通貨戦略というのを行ってきた。
 具体的には、十三ページでございますけれども、三つのステップがあって、最初にドル高政策をとる。ドル高政策をとると赤字が拡大して、そうなると次に二番目のドル安政策に行く。ドル安をとっていると、インフレの問題、トリプル安の問題、こういうものが出てきて、ドルの安定化策に行って、市場が落ちついてくるとまた一番に戻る。過去数十年間、このサイクルを何度も繰り返してきたという歴史があります。
 十四ページに、このサイクルが何によって決まっているかというのを示しておりますけれども、基本的には三つの要因で決まっている。アメリカの経常赤字の動向、アメリカのインフレの動向、アメリカの金融市場の動向ということでございますが、これから、(1)のドル高から(2)のドル安に行くとすれば、今、三条件の中で、一の経常赤字の拡大は満たしている、三の金融市場の安定も満たしている。残された条件は、二のインフレがある程度抑制されてマネジャブルな状況になれば、アメリカは、過去の経験から見ると、ドル高政策からドル安政策へと転換する可能性というのがあるわけでございますので、これについてもかなり警戒的に見ておくことが必要であると思います。
 十五ページは、中国でございます。
 今、金融面での過剰が一千百兆円弱、設備の過剰が七百四十兆円弱。ただ、やろうと思えば、財政出動は六百から八百兆円ぐらい、まだ出すことが可能でございますので、結論は、少なくとも一、二年はカンフル剤でもたせた後で、中長期、早ければ向こう三年から五年ぐらいのところで、若干、バブル崩壊を警戒的に見ていくことが必要ではないかという考え方でございます。
 十六ページは、三つのシナリオがございますけれども、これから、最悪のシナリオとしては、三のメルトダウンシナリオというのを頭の片隅に置いておくことが必要である。
 十七ページに、今申し上げたメルトダウンシナリオの概要がございますけれども、もし中国が景気刺激策をとらずに自然体で調整したとすれば、実力の成長率が一・六%程度まで将来的に落ちる可能性というのが出てくる。
 ただ、十八ページをごらんいただくと、中国は社会主義の国でございますから、短期的には、景気刺激策によって当面景気は底がたい動きが予想される。緑の線が、景気循環信号指数といって、十個のデータを合成したもの、これによって政策判断の局面を五つに分けることができるわけですが、一番下の低迷が視野に入ると、やはりカンフル剤を打って、一度は真ん中の方向に押し戻していく。ことしは政治のイベント等もございますので、その意味では、少なくとも一、二年程度は中国経済は底がたい動きが予想されるということでございます。
 十九ページをごらんください。
 冒頭申し上げたように、私は、アベノミクスの基本的な方向性は正しいという考え方でございまして、いわゆる追い出し五点セットもしくは七重苦、これらを全て反対の方向に転換して、今、着実に景気は回復軌道に入っている。
 ただ、二十ページの部分で、課題でございますけれども、一つは、社会保障制度の改革等によって財政の規律を維持すること、二点目として、成長戦略を強化すること、三点目として、分配政策を強化するということでございますが、私がきょう強調したいポイントとして、この二と三は一体の課題である。つまり、国民の所得をふやすときに、三の分配政策だけでは所得はふえない。二の成長戦略と三の分配政策、これを同時並行的に行うことこそが、持続的に国民の所得を伸ばすための鍵であるということです。
 なぜそう考えているかというのは、二十一ページでございますけれども、日米独の時間当たりの実質賃金というのを比較してみたものでございます。
 一の生産性、二の企業の競争力、三の労働分配率、この三つに要因分解できるわけでございますが、確かに三の分配率は若干下がっている。ただ、ほかの国も同じぐらいのペースで下がっているわけでございますから、もちろん日本は、対策は打たなくてはいけないけれども、世界の潮流に逆らうということはなかなか難しい部分もある。そうなってくると、一の生産性、それから二の広い意味での企業の競争力、これらは分配政策では上がらないわけで、やはり三本目の矢の成長戦略を強化すること、それから分配政策を行うこと、この成長と分配の二兎を追うことこそが、国民の所得を持続的に伸ばすための鍵だという考え方です。
 二十二ページは、女性の活躍の重要性。これは見てのとおりでございますけれども、女性が活躍している国ほど、国際的に見れば経済状況がいい。
 そして、二十三ページ以降、最大の成長戦略の鍵は労働市場の改革である。
 二十三ページにお示しをしているように、メンバーシップ型の正社員と非正規雇用への二極化、ここから日本のさまざまな問題が起きているわけであって、まず上半分のところでいえば、過重労働の問題、高齢者の活用のおくれ、そして不十分な職業訓練等があって、右上のところにある労働生産性の低迷という問題が起きている。そして、一番下の部分でございますけれども、やはり、将来不安から、少子化それから消費の低迷ということが起きているわけでございますので、具体的には、二十四ページにあるような、同一労働同一賃金を軸としたさまざまな施策を講じて労働市場の改革を行っていく、これがやはりこれからの成長戦略の鍵であるということでございます。
 最後に、財政について一言だけ申し上げますと、二十七ページをごらんください。
 二十七ページの右側に数字、左側にグラフがございますけれども、右の図表を見ていただくと、まず一番上にあるのが現状、今の財政状況がどうであるか。右上のところを見ていただくと、国の借金はGDPの一九〇%まで来ている。
 そして、上半分、ケースの一が経済成長に失敗するケース、そして下半分が経済成長に成功するケースということでございますが、やはり上半分の、成長がうまくいかないと、財政状況は非常に厳しい状態になってしまう。そして、下半分の部分で、成長に成功したとしても、それだけではやはり財政再建は難しいということがあって、下半分で、改革なしですと、右端で、二七八%まで債務は積み上がる。これを一〇〇%まで落としていく改革。
 改革のAというのは、国民負担はふやさずに給付だけを減らす。改革のBは、消費税を二〇%まで上げて、そして給付を抑制するということでございますが、左のグラフで見ていただくと、まず改革のAは、左下にあるブルーの小さな丸、改革のBは、真ん中の上の方にある茶色の大きな丸ということでございますが、これが恐らく二つの両極で、この間の部分で国民がどういう負担、そしてどういう給付を望むか。このあたりを国民的な定量的な議論として行っていくことが必要であると考える次第でございます。
 私の方から御報告は以上でございまして、ポイントとしては、日本経済は着実に回復をしている、ただ、海外にはリスク要因が山積している、アベノミクスは基本的に正しい方向で政策が打たれていますが、積み残した課題、社会保障制度の改革ですとか成長戦略、とりわけ労働市場の改革などの課題について、これからさらに取り組んでいくことが必要であると思います。
 私からは以上でございます。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119305262X00120170221_002

発言者: 熊谷亮丸

speaker_id: 14410

日付: 2017-02-21

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会