岡本行夫の発言 (外交防衛委員会)

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○参考人(岡本行夫君) このような場で意見を陳述できることは光栄であります。お招きいただいたことに感謝いたします。
 私も長い間世界情勢を見てきましたけれども、残念ながら将来の展望を今ほど不安を持って感じたことはございません。
 我々の前には新しい世界が広がりつつあります。どのような世界か。単純化して申し上げれば、新しい帝国主義と漂流の時代ではないでしょうか。
 根っこにあるのは、グローバリゼーションの揺り戻しです。
 人、物、情報、サービス、資金などが国境を越えて自由に行き来することによって世界には大きな富がもたらされました。一九九〇年と二〇一五年を比較してみますと、世界のGDPは二十三兆ドルから七十四兆ドルに、貿易は輸出総額が三兆五千億ドルから十六兆三千億ドルに、直接投資は二千億ドルから二兆ドルにと飛躍的に伸びました。
 しかし一方で、高額所得者とその他の人々の間に大きな格差がつくり出され、世界の上位一割の人々が世界の総資産の八八%を保有する一方、下位五割の三十五億人の総資産は合わせても一%にしかならないという極端なまでの所得格差が発生しています。先進国でも二極分化が起こり、人々は高額所得か低額所得かどちらかになり、中産階級が減っていくという事態が起こっています。
 特に、現在の揺り戻しの大きな原因になっているのが、物づくりのベースが先進国から途上国に移動したことです。先進国の製造業の雇用者の数を同じく一九九〇年と二〇一五年で比較しますと、アメリカのコンファレンス・ボードによる計算では、アメリカで二八%、イギリスで四九%、日本でも三八%の雇用減少が起こっています。当然、職を失ったり収入の減った人々の間には大きな不満がたまっていきました。昨年、アメリカでトランプ候補を当選させ、イギリスのEU離脱をもたらしたのも、基本的にはこの揺り戻しでした。
 時代は転換しました。前回起こった転換は、一九八九年から九一年の時期です。ベルリンの壁の崩壊、東西ドイツの統一、ソ連邦の解体、中東での湾岸戦争といった重大事件により、世界の対立構造が基本的に転換しました。そのときの転換は未来への展望をもたらすものと受け止められ、人々は楽観と期待を抱きました。しかし、世界の人々の多くにその恩恵がもたらされなかったことは先ほど述べたとおりです。
 政治的にも、世界には平和と民主主義が広まり、人権が尊重される新しい枠組みに収れんしていくと思われましたが、そうはならず、紛争はやまず、かえって大規模テロが多発する世界になってしまったかの感があります。アラブの春の失敗でも明らかなように、その大きな原因の一つには、やはりグローバリゼーションの揺り戻しがあったと思います。
 今回の時代転換は、更に世界全体を漂流させ、理念や国際法秩序ではなく、武力と自己都合が支配する世界へと向かわせる憂鬱なものになるかもしれません。しかも、この新しい時代は短期的ではなく、これから長期にわたって続く気がいたします。
 アメリカではトランプ政権が誕生し、アメリカ第一主義に向かっています。EUは分裂し、弱くなっています。アメリカとEUが国際情勢へのチェック機能を果たせなくなる中で、ロシアと中国は勢い付き、帝国主義的な拡張主義を一層強めているように見えます。
 トランプ大統領は就任演説で、世界の国々は自国の利益第一主義でいこう、アメリカがその模範を見せると宣言しました。トランプ演説をそのまま読めば、各国はお互い背を向け合ってもいいということになります。そうなってしまえば、自由、民主主義、法の支配、自由貿易、多角的経済システム、人権尊重、国際機関の強化、貧困国支援、環境保護といった国際公共財は誰が負担し、誰が守るのか。アメリカは世界をそのような時代に向かわせるのでしょうか。
 私は、トランプ大統領が政治経験を積んで軌道修正を図ること、そして、今任命されつつある立派な閣僚たちがバランス感覚を持って特に対外関係を扱ってくれることに望みをつないでいます。例えば、ティラソン国務長官やマティス国防長官など、外交・安全保障に携わるチームは、現実的な考えと経験を持った人たちです。オバマ政権よりも強力な布陣である気がします。
 アメリカ経済は当分良くなるでしょう。元々アメリカの景気サイクルは好循環の局面にあったのが、さらに、トランプ大統領の大規模なインフラ整備や大幅減税や規制緩和などによって、短期的には一層の弾みが付いていくでしょう。ただし、既に景気拡大が八年も続いている中で、米国経済がやがて減速に向かう局面には十分注意しなければなりません。
 心配なのは通商面での保護主義です。これは渡邊参考人にお任せしたいとは思いますが、TPPの発効は絶望的になりました。しかし、日本は自由貿易制度をどこよりも必要とする国家です。日米二国間のFTAも検討してよいのではないでしょうか。元々二〇〇六年にチリなど四か国がTPP構想を発表するまでは日本政府もアメリカとの二国間FTAの是非を検討してきたのですから、驚くような話ではありません。RCEPや日EU間のFTAもあります。日本は、アメリカが保護主義に傾いても自由貿易ネットワークづくりの旗振り役となっていくべきだと思います。
 深刻なのは欧州の状況です。今やメイ首相のEU離脱の意思は固く、かつてはEU残留派が多数を占めていたイギリス議会の空気も離脱の方へ固まりつつあるようです。EUを失うイギリス、イギリスを失うEU、共に大きな損失を被ることになると思いますが、より懸念されるのは、イギリスとEU残留国との対立、そして欧州全体に生じつつある亀裂の深さです。
 こうしてプーチン大統領の念願していた構図が出現しつつあります。プーチン氏の野望は強大なロシアの復活にあります。もはやクリミアを手放すことはなく、さらにウクライナの東部二州を狙って分断工作を進めるでしょう。
 その上で、更に西方への影響力の拡大を画策するおそれもあります。標的は、エストニアを始めとするバルト三国であり、さらにその先のポーランドの不安定化かもしれません。もちろん、それらの国々はNATO加盟国ですから、ロシアが直接的な武力を行使することはないと思いますが、イギリスの離脱とそれに伴うEUの政治力低下は、こうしたロシアの攻勢に欧州が一体化して立ち向かうことを困難にしています。
 また、これまでイランとの核合意締結を始め国際政治の場でも影響力を発揮してきたEUの弱体化は、中東などでのロシアの影響力拡大を容易にします。
 アジアにあっての脅威は、中国と北朝鮮です。
 北朝鮮は、アメリカ大陸に到達するミサイルとそれに搭載する小型核弾頭の保有が国家目的であり、この目標を達成するまでは必要なだけ、何度でも実験を繰り返すでしょう。これに対する最も有効な制裁は中国から北朝鮮への原油輸出を禁止することですが、中国はこれに応じる気配は見せていません。つまり、北朝鮮問題は中国への対応ぶりと一緒に考えなければなりません。
 南シナ海への拡張を続ける中国に日本が対応するには、当然ながら米国との協力が前提になります。尖閣への安保条約の適用をトランプ政権の重要閣僚が明言していることは心強いことですが、米国の抑止力を万全にすることが日本の生存のためには不可欠です。抑止力とは、米国が日米安保条約に従って日本を防衛する意思を日本の周辺国に明確に示し続けることです。つまり、抑止力とは、日米安保体制の実効性をどこまで信じ続けるかという周辺国の心証の問題なのです。隙間のない日米協力体制が全般にわたって必要なのはそのためです。
 もちろん、日本は中国との関係を対決の構造にしてはなりません。中国でもいわゆる第六世代など、日本に対し、より合理的な見方をする世代が国家の幹部になりつつあります。日中関係は既に最悪の時期は脱し、徐々に改善の方向に向かっていると思います。中国の軍事的な野望には十分気を付けながら、協力できるところは協力していくことが必要です。
 これと対照的に韓国との関係は複雑で、本来あるべき緊密な日韓関係の構築には至っておりません。容易なことではありません。
 中国の場合も韓国の場合も、日本と先方の若い世代同士の交流を広げていくことが極めて大事だと思います。
 さて、このような新しい世界の中で日本はどのように生きていくべきでしょうか。私は、日本の友人であるアメリカやEUの影響力が縮小し、逆に国境や世界秩序を力で変更しようとする国々の力が増し、日本の生息スペースが狭まっていく中で、日本はむしろ安全保障面でも経済面でも文化面でも積極的に世界に打って出なければいけないと思うのです。日本にとって狭まるフロンティアを自らの力で切り開かなければならない時代になったと思うのです。
 我々はトランプ大統領のアメリカ・ファースト主義を批判しますが、誤解を恐れずに申し上げれば、日本もこれまで自分の都合だけのジャパン・ファースト主義でやってこなかったでしょうか。
 例えば、日本は難民や移民の受入れはほとんど行っていません。恥ずかしいぐらいです。しかし、アメリカが今回移民の受入れを一時的に停止すると、国会では、なぜ日本の総理大臣だけがアメリカを非難しないのかという議論が行われます。
 日本は軍事力による貢献はできないから経済協力でいくのだと世界最大の援助供与国として胸を張ってきましたが、それは既に二十年前の話になりました。今のODAは、当初予算ベースで見れば一九九七年のレベルから四割も減っています。しかも、年々返済される過去のODA供与分を再び援助に回していますから、新規のODAの額は驚くほど少ないのです。日本のODAはGDP対比でおおむね〇・二%と、DAC加盟二十八か国のうち下から三分の一ぐらいのところにいます。
 世界の安全保障への貢献は各国に比べて大きく後れを取り、二年前に平和安全法制ができるまでは、日本を守ってくれる国々の艦船が目の前で攻撃を受けても助けないという制度を変えようともしないでやってきました。日本の民間人や商船は全て外国の軍隊に守ってもらう、イラクに出かけた自衛隊すら外国の軍隊に守ってもらう、逆に日本は外国人を助けない、そのような体制の中で来ました。GDPとの対比でいえば、日本の防衛費は世界で第百二番目です。
 予算は専ら自国の繁栄と福祉のために使ってきました。ジャパン・ファーストだと言われても実は仕方がない国柄だったと思います。
 こうした国の在り方に根本的な議論が必要なときだと思います。戦後七十年を経て、日本は実力もあり、身も心も平和を志向する民主主義国家になっています。考えてみれば、世界の新しい漂流時代の到来は、日本をジャパン・ファースト主義から転換させ、国際公共財を担う新たな国家としての出発を促すことになるのではないでしょうか。そうしなければならないと思います。
 安倍総理大臣が十日にトランプ大統領と会談されます。時代の大転換が起こっているときだけに、極めて重要な日米首脳会談だと思います。アメリカを国際社会につなぎ止めること、日米関係の強さと安保体制の実効性を周辺諸国に強く印象付けること。今や自由主義社会の首脳の中で他国をリードする立場になった安倍総理が、立ち上がったばかりのトランプ大統領に、その経験と日本の立ち位置から見た世界情勢を説明することは自由世界全体にとって大事なことだと存じます。
 ともすれば閉塞状況に向かいつつある世界を、今こそ日本がこれまで蓄えてきた力と哲学をもって明るい世界へ動かしていくこと、これが日本の目指すべき道だと信じます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 岡本行夫

speaker_id: 12233

日付: 2017-02-09

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会