木村汎の発言 (外交防衛委員会)

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○参考人(木村汎君) 最初に、米ロ関係について一言申し上げます。
 私は、トランプ政権の外交行動様式が非常に予想困難で、時期尚早に何かしゃべることは慎まないといけないと思っておりますけれども、米ロ関係を長年研究してきた者の一人として一つのことだけ申し上げたいと思います。
 それは、過去三代のアメリカの政権、ひょっとすると四代にわたってロシアとの関係には次のようなパターン、サイクルが見られるということでございます。どのようなパターンか、サイクルかと申しますと、政権当初はどの米国政権もロシアに対して関係改善をしようと努力するわけでございますが、時間の経過とともに米ロ関係は悪化しまして、最終段階になりますと最も悪化するという、なぜかこのパターンが過去三代あるいは四代にわたって見られるわけでございます。
 その例をちょっと皆様に御紹介いたしますと、遡って申しますと、一番最近のオバマ米政権、これは民主党でございますけれども、リセットということを提唱したのは有名でございます。それでノーベル賞をもらったぐらいで、再構築といいますか、米ロ関係を再構築したいとオバマ大統領はおっしゃって、高邁な理想をお立てになったんですが、しばらく成功した後、ウクライナの危機が起こりまして、結局は今、新冷戦とも言われる最も悪い米ロ関係になっている。これは大変皮肉なことでございますが、現実でございます。
 その前の政権は共和党でございました。ブッシュの息子さんの、ジュニアの方でございましたが、この方も、九・一一事件がすぐ起こりましたので、プーチン大統領に協力を求めたところ、プーチン大統領はいろいろな思惑からそれに乗りまして、米ロ関係は、まあ蜜月と言うと言い過ぎですけれども、一種いい関係が生まれました。ところが、ジョージア、昔はグルジアと申しておりましたところにロシアが軍事侵攻しましたために関係が悪化しまして、結局はブッシュ大統領の末期は関係悪化したまま政権を去るということになりました。
 三番目に、更に遡りますと、クリントン、今度は民主党でございます。ヒラリーさんの御主人のビル・クリントンの時代はエリツィンが登場した頃でございますから、エリツィンがどうかして、西側のような民主主義あるいは市場経済へ近づこうとするかのようなそぶりといいますかジェスチャーというか改革を見せたものですから、クリントン政権は、ここで助けなければ男が廃ると、変な言い方ですけど、というような意気込みでロシアを助けました。ところがその後、コソボ空爆とかいろんな事件が起こりまして、やはり最終的には関係が悪化したと。
 更にその前にも遡ることはできますけど、それは省略いたします。
 そうしますと、ここに私が見出すのは、一つの米ロ関係におけるパターンでございます。それは、米ロ関係は複雑な関係でございまして、二つのC、英語のCから成り立っております。一つはコオペレーション、協力の頭文字のCでございます。もう一つはコンフロンテーション、つまり対立のCでございます。
 最初のうちはどの政権も、乃公出ずんばというような意気込みもあって、ロシア関係を改善してみせるという非常に善意な意図で開始するわけで、最初はコオペレーションのCの方が主流を占めます。ところが、最終的にはなぜか、それはこの後で述べますけれども、コンフロンテーションのCの方が目立つ関係になって政権を離れていくという皮肉な関係でございます。
 その理由はいろいろありましょう。しかし、一、二挙げますと、アメリカのいわゆる単独主義といいますか一国主義、ユニラテラリズムというものがやはりこの根底にあるんですね。それに対抗してロシアは、冷戦に事実上敗れたとはいえども、自分もかつては第二位の、アメリカと対抗した強大国である、少なくとも核では現在そうであると。そして、ロシアは独自の民族、文化、言語、宗教、地理、歴史を持った、独自の価値観に基づいて国づくりをする国であって、必ずしも西欧流の民主主義や市場経済を猿まねするつもりはないという自負心がロシア人にはございます。冷戦に敗れたとはいえ、それはヒトラー・ドイツや日本が敗戦、負けたように軍事的な敗戦ではなくて、観念上の、理論上の敗戦であって、ロシア人の大半は自分の国が負けたとは決して思っておりません。これはひょっとしたらアメリカの陰謀によって負けたことになっているのではないかという思いすらあるわけでございます。
 ですから、軍事的な敗北を経験していないロシア人には、まだ自分たちは大国であるという意識があるので、日本人とはそこは根本的に違う。それどころか、ドイツに対して、連合国の勝利を導いたのは自分たちの犠牲において、貢献においてでないかとすら思っている。
 そういうわけで、プーチン大統領のイデオローグは、主権民主主義という言葉を唱えました。これは形容矛盾な言葉なんですね。なぜかというと、民主主義というのには形容句、修飾語を付けてはいけないので、民主主義は民主主義で絶対的なものなんです。ところが、ロシアの場合は、ロシアの主権を維持したままでの民主主義であって、ロシア型民主主義、ロシア型市場経済主義、ロシア型国家資本主義なので、それに外国がいちゃもんを付けたり干渉することは甚だ迷惑である、千万であるという意味で、自分たちの主権を、ロシアの主権を維持しつつ一般的な民主主義へアプローチする国だという、米欧型のモデルを猿まねするようなことは自分たちに潔しとしないというこういう意識ですね、こういう意識がロシア人のほとんどにある。これが一番目の理由じゃないかと思います。
 二番目は、それに関連しまして、プーチン政権は、自己のサバイバルが大事でございますから、下からの人民反乱によるレジームチェンジという政体の変更、ロシア型の民主主義や市場経済から、国家資本主義から、西側、欧米流の民主主義や市場経済になるいわゆるレジームチェンジ、政体の変更を非常に嫌っております。
 そして、プーチン自身の体験は、述べる時間はございませんけれども、東独に派遣されているときにベルリンの壁が崩壊した、あるいはホーネッカー体制が崩れた。その後も、カラー革命が自分の近くの国で、かつての衛星国とみなしたグルジアやウクライナで起こって、最近はまたウクライナでマイダン革命が起こって、その大統領が命からがら自分の国に逃げてくるのを保護しなければならなかった。あるいは、アラブの春というようなことが起こった。あるいは、自分の国のお膝元で、二〇一一年の暮れにはモスクワでプーチンは去れといったような集団的な集会やデモも行われたぐらいで、下からの革命ということを彼は非常に恐れているわけですね。ちなみに、今年はロシア革命百周年でございます。そのこともあって、下からの革命ということをプーチンは気にして、来年の再選につなげたいと思っている。こういうことも二番目として言えるかと思います。
 第三番目に、ロシアやアメリカがコオペレーションを進めようと思いましても、世界にはそれ以外の国々がありまして、その国々、例えばジョージア、ウクライナ、シリア、その他その他がいろんな問題を引き起こして、それに介入する態度がロシアとアメリカでは違っておりまして、ここからも対立が発生するのではないかと思います。そのほかも皆さん思い付かれることもあると存じます。
 次に、日ロ関係に参りますと、安倍政権は、新アプローチ、新発想を提唱されました。そして、去年プーチンが来ました。十二月十六日の共同記者会見で分かったことは、安倍首相が、過去にいつまでもこだわっていては一ミリも日ロ関係は前進しないとおっしゃって、日ロ関係は過去に目を向けるのではなくて未来志向でいきましょうということをおっしゃった。これが私は新しいアプローチの内容だったということと思っております。
 ところが、これに対してはちょっと疑問を抱きますのは、過去の上に現在が築かれ、現在の上に初めて未来が築かれるわけですから、過去のことを一切ないがしろにして、清算して、きれいさっぱり行水を浴びたかのごとく未来に進もうとしても、人間は連続した心理を持つ生きた動物でございますから、果たして日本とロシアの国民の間に何らのわだかまりのない明るい関係が構築できるかと思うと、僕は大いに疑問でございます。
 そのときに思い出すのは、ゴルバチョフという前の政治家が述べた言葉で、相互に日ロ関係は血が生き生きと通う、ロシア語で言うとポールノクローブノエ・アタナシエーニェ、関係にならなければならないと言ったんですが、そういう関係が果たしてできるでしょうか。日本人の一部には、ロシアが領土を返さないで平和条約を結んだ場合、してやられた、何かだまされた、こんな国民はもう今後尊敬できない、信用できないという気持ちがかえって日ロ関係の未来を妨げるんではないかと思います。
 共同経済活動そのものに関しても、よく言われているように三つの疑問があります。
 一つは、これはよく言われていることで、主権問題を棚上げした特別区とか特別な制度というものが果たして可能かという法律的な問題であります。課税権はどうするのか、警察権はどうするのか、裁判権はどうするのか。これは国家主権の一部でありますから、その国家主権を曖昧にして果たして可能なのか。
 二番目に、人間住むところ必ずトラブル、紛争、犯罪等の発生が不可避でございます。それで、一番参考になるのが、最近、名越健郎という方が、「北方領土の謎」ということで、北方四島に何度も訪問されて、学術アドバイザーって訪問されて、向こうの二つの新聞、「赤い灯台」と「国境にて」を日本で唯一取られて、そのロシア語を三年間、四年間熟読された結果分かったことは、この北方領土では犯罪が非常に多い、ロシア人の間で犯罪が多発している、殺人、強姦、その他が起こっている。ほかに娯楽がないことかもしれませんけど。そこへ日本人という違った価値観を持つ国民が入っていって協力して犯罪やトラブルが起こらないか、大いに疑問だと思います。
 思い出すのは、樺太が、現サハリンでございますけど、かつて実は日本人とロシア人が混住していた地域だったんですね。しかし、それが余りにもトラブルが多発するもので、一八七五年の樺太千島交換条約を結ぶことになった。そのことを我々はもう一度思い出すべきではないでしょうか。
 しかも、その後、ロシアはソビエト時代というものを経験し、いまだに主権的民主主義を主張している、我々と価値観が違う国民でございます。価値観や体制の違う日ロ両国民が果たしてこの四島で平和共存的に共同経済活動をトラブルなしに運営できるものか、私個人は分かりません。私は、人間を少し、善意のものでなくて性悪説に立っているかも分かりませんが、一抹の懸念を持ちます。
 そして、仮に安倍首相がおっしゃるように経済活動が万一うまくいく場合でも問題がございます。そうすれば、もうこれでいいじゃないかということで、領土問題はもう解決しなくても実際平和共存しているんだからいいんじゃないかということで、これはロシアの思うつぼに入るんである。実効支配しているのはあくまでもそれはロシアの側であり、ロシアの法律の下ででございましょうから、結局はロシアの方に主権が及んでいくのではないかと思います。
 そして、最後に、箇条書で読むだけにさせていただきますけれども、日ロ関係にはまだまだ問題がございます。一抹の懸念は、経済協力のみが先行して領土問題の解決が半永久的に後回しにされる危険。二番目に、交渉に自ら期限を設定する愚を回避すべきだと思います。領土交渉は主権をめぐる交渉ですから、オール・オア・ナッシングになる形しかないわけで、一ミリごとの進歩ということは実はあり得ないので、言葉のあやにすぎません。三番目に、プーチン政権は安定しているからこの時期にこそという考え方があると思いますけれども、彼が、愛国心があって領土を決して譲ろうとしない、それはクリミアを併合した点からも分かります。
 そういう意味で、取引は確かに必要でございましょうけれども、まだそのタイミングは熟していないというのが私の意見で、国際情勢は時々刻々動いておりますけれども、私の関係では、ロシアはこれから衰退一方の国でございますから、時期さえ待てば日本に有利な時代が来る。したがって、短気は損気だという平凡な結論になります。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 木村汎

speaker_id: 6969

日付: 2017-02-09

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会