白石隆の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(白石隆君) ありがとうございます。
 それでは、申し上げます。
 お手元に資料があると思いますので、このとおりに申し上げますが、まず最初に、現在の世界の趨勢というものを簡単に押さえておきますと、世界経済は、二〇〇〇年から二〇一五年までで三十三兆ドルから七十五兆ドルに拡大しております。
 その中で大きく三つ、富の分布については変化がございます。一つはG7が地盤沈下し、新興国が台頭した。二番目に欧米、北アメリカとそれからヨーロッパが地盤沈下し、アジアが台頭したと。で、アジアの中では日本が地盤沈下し、中国が台頭した。これが一つでございます。
 もう一つは、それに伴いまして力のバランス、これはここでは指標として軍事費を見ておりますけれども、アメリカの軍事費を一〇〇としますと、中国の軍事費というのは、一九八九年にはアメリカの三十分の一でございましたが、二〇一四年には三分の一に拡大していると。ソ連、ロシアは、冷戦の最後のときで大体アメリカの三分の二でございましたけれども、これがいっとき一九九八年には六%まで下がりまして、最近では一六%程度まで回復していると。日本、オーストラリアは、経年的に下がってきております。
 三番目に、期待と現実ということで、一九九六年から二〇〇五年までの十年間と二〇〇六年から二〇一五年までの十年間に一人当たりの実質の国内所得がどのくらい伸びたかを見ますと、日本は最初の十年間が六%、次の十年間が四%で、ある意味では低空飛行しておりますが、アメリカ、イギリス、フランスなどは、最初の十年間に非常に順調に所得が伸び、次の十年間に所得が伸びなかったと。その結果、国民の期待が膨らんだところでこの期待に応えられなくて国民が怒り、ポピュリズムが今現れていると言っていいと思います。
 それに対しまして、アジアは、最初の十年にも非常に、実は中国の場合なんかは二倍以上に所得が伸びておりますし、それ以外のところも大体が二桁の伸び率ですけれども、それ以上に最近の、次の十年間に所得が伸びております。これは国民の期待が非常に膨らんでいるということでございますので、これからの十年、この期待に応えられないとアジアは不安定化する可能性が高い、こういうのが大きな傾向でございます。
 次に、世界システムと地域システムの特徴について申し上げます。
 現在の世界システムというのは、原理的には大きく五つの制度の上に成り立っているというふうに言っていいだろうと思います。一つはアメリカの平和、これが国際的な安全保障の仕組みでございます。二つ目が国際経済としてはドル本位制とWTOでございます。三番目に国内政治体制としては自由民主主義、国内経済体制としては市場経済。こういう五つの制度の上に現在のシステムというのは基本的につくられていると。
 ただし、世界中こうなっているとは申しません。現在の東アジアについて申しますと、安全保障のシステムというのはアメリカの平和でございますけれども、アメリカを中心とするハブとスポークスの安全保障システムが、これが制度的には基盤になっており、日米同盟というのはこの地域的な安全保障システムの基軸になっております。国際金融では、ドル本位制が基本でございますが、これがチェンマイ・イニシアティブ等によって補完されていると。貿易システムは、WTOに加えて地域的なバイ、マルチのFTA、これはASEANプラスのFTAであるとか現在交渉中のRCEPというようなものがございます。それから、TPPもこういう試みでございました。国内政治的には、自由民主主義と権威主義のミックスになっております。経済的には、市場経済と中国のような社会主義市場経済、これは最近英語では国家資本主義というふうに言われるようになっておりますけれども、こういうもののミックスになっております。
 次に、アメリカの政策というものをざっくりと、過去三十年あるいは三十五年くらいで見ますと、冷戦終結以降、特にレーガン政権の第二期以降ですね、アメリカの大戦略というのは、封じ込め戦略が終わって、先代のブッシュ大統領が一九九一年に使った言葉を使いますと、新国際秩序というのが言わば大きな国際秩序のビジョンになっております。
 これはどういうものかと申しますと、先ほど申しました世界システムの大きな五つの原理を踏まえてこの原理を強化していこうというのが、これが基本的な考え方だというふうに言っていいだろうと思います。つまり、アメリカの平和ということで、唯一の超大国としてのアメリカの地位を守る、これが一つでございます。それから二番目に、グローバル化戦略としましては、国境を越えた資本移動の自由化を進める、通商の自由化を進める、民主主義を推進する、あるいはグッドガバナンスを行うと。それから、マルチラテラリズムで、みんなでできる限りルールを作ると。みんなで作っても、アメリカが一番力が強いですからアメリカに有利なルールができると、こういうものでございます。
 これを受けまして、地域戦略としましては、オバマ大統領の下で八年間にわたってはリバランシングということが行われてまいりました。これは、軍事的には太平洋、大西洋、五対五で置いていたアメリカの軍事的なアセットを太平洋六、大西洋四に少し軸足を移す、これが軍事的なリバランシングでございます。政治的には同盟国、パートナー国との政治的連携を推進し、ASEANプラスの様々のプロセス、つまりこれは東アジア・サミットであるとかRCEPだとか、あるいは、あっ、ごめんなさい、これRCEPじゃございません、ASEAN地域フォーラムでございます、それからASEANの防衛大臣会合プラス、こういうふうなものを強化していく。それから、TPPをつくる。それから、同盟重視で、G2ということで中国を重視するのではなくて同盟を中心にしてアジア外交を組み立てる。それから、対中政策としては関与と抑止の両にらみでアプローチすると。
 これがオバマ政権下の地域政策でございましたが、トランプ政権になりまして、どうもこれまで、まだ二週間ちょっとでございますけれども、これをひっくり返し壊そうと、そういう非常に大きな衝動があるように思います。ただし、現在のところ、まだ政策決定のプロセスは極めて不確定でございまして、確定的なことを申し上げるというところには来ておりません。ただ、これまでの大統領等の方々の発言を見ておりますと、以下のようなことはおよそかなり大きい確率で言えるのではないだろうか。
 一つは、アメリカ・ファーストということで、アメリカとしてできる限り大きな行動の自由を維持しながらアメリカの国益を追求する。そのときにはマルチラテラリズムよりもバイラテラリズム、二国間の交渉の方がはるかに自分たちの意思が通りますので、バイラテラリズムを重視すると。そうしますと、まずアメリカの平和については、アメリカの平和ということで世界全体にコミットするのではなくて、むしろバイの同盟を重視すると。通商についても、TPPのようなマルチではなくてバイを重視すると。
 通貨、金融は、これまでのところよく分かりませんし、ナショナル・エコノミック・カウンシルはまだ現在のところ音なしでございますが、為替政策が通商政策の一環になるかもしれない。これは非常に警戒する必要があるんだろうと思います。
 国内政治体制としては、自由民主主義、人権には恐らく全く関心がないと。それから、国内市場経済につきましては、市場経済にはもちろん賛成だけれども、過度の規制には反対であるし、競争条件は平準化しなきゃいかぬということで、EUはどうも好きではなさそうですし、中国の国家資本主義に対してもかなり批判的な立場を取っていると。
 つまり、ごく簡単に申しますと、強引にアメリカの市場経済のルールを他国に押し付けてくる可能性が強いのではないかと思います。
 地域政策としましては、こういうことを踏まえまして、同盟重視といって一番重視されるのは日本であり、恐らく次にオーストラリア、インドでございますが、韓国は韓国の国内の政治の事情もありまして、どうなるかはよく分からない。中国については、恐らくこれまでの関与と抑止ではなくて、関与よりも抑止に相当傾いた対中政策になるのではないかと。ASEANについてはどうなるか全く分かりません。それから最後に、TPPには参加しないと。
 こういうことを全部踏まえますと、どうも大きい趨勢としては、安全保障、通商いずれにおいてもバイを強調し、アメリカを中心とするハブとスポークスのシステムをもう一度つくっていこうとするのが基本的なアプローチになるのではないだろうかと思います。
 次に、中国につきましては、習近平政権は中国の夢ということを言っておりますが、経済的には既に経済成長が減速し、そういう中で膨らんだ期待にどう応えるかというのが、これが非常に大きな国内政治課題になっております。と同時に、今年に限って申しますと、党大会に向けて党国家の中枢のリーダーシップをどう編成するのかということが非常に大きな課題になっていると。
 そういう中で、恐らく確実に言えますことは、もう現在の政権は韜光養晦ということはもう言わなくなりまして、中国の夢というふうに言っておりますけれども、この中国の夢というのが、英語で申しましてチャイナドリームなのかチャイニーズドリームなのか。中国の私の同業者のような研究者に聞きますと、これは両方いまだに追求しているんだと申しますけれども、だんだんと国の資源が厳しくなってきたときにどちらを選ぶんだろうかという問題が一つ。そういう中で、安全保障では既にアジア新秩序観ということで、アジアの安全保障はアジアでというふうに言っておりますし、一帯一路ということで、これは国際公共投資であると同時に、オバマ政権時代のリバランシングに対抗するカウンターリバランシングであり、同時にインフラの分野ではそれぞれの事実上のスタンダードを取りに行くものでもあるというふうに言えると思います。
 ということを全部踏まえますと、本音のところではやはりアジアの盟主を目指しているというふうに考えざるを得ないと。ただし、現在のところ国内的にいろんな課題がありますので、アメリカ・トランプ政権とは正面から対立したいとは思わないのではないかと想像しますが、一つの中国という原則は譲れませんので、なかなかこれから緊張が厳しくなっていく可能性は十分あると思います。
 その中で、それではアジア地域のダイナミズムというのはどうなるかと。一言で申しますと、アジアの地域協力の特徴というのは、その時々の大きなリスクをどうヘッジするかにございます。
 一九九七年、九八年の経済危機のときには、アメリカが幾つかの国に介入して、アメリカが非常に大きなリスクと意識されるようになりました。そのときにはアメリカを外した地域協力ということで東アジアが重要になりましたが、二〇〇〇年代の半ばから中国が南シナ海等でリスクとして意識されるようになると、ASEANプラス3に加えてASEANプラス6ができ、このASEANプラス6がASEANプラス8になって、アメリカを入れて中国というリスクをヘッジするようになったと。
 もう一遍アメリカがリスクになったらどうなるかと。私は、そのときには中国の出方次第だと思いますが、一帯一路あるいは南シナ海の中国の行動次第によっては、もう一度アメリカを抜いた地域協力という可能性はあるだろうと。これは、例えばドゥテルテ・フィリピン大統領の現状凍結のようなものを中国が事実上やるかどうかに相当懸かっていると思います。
 こういうことがなければ、それぞれの国は勝手にいろんなことを始めるようになるだろうと。そうしますと、人権とかあるいは民主主義ということをアメリカ政府が言わなくなりますと、例えばタイのプラユット首相であるだとかフィリピンのドゥテルテ大統領だとか、あるいはマレーシアのナジブ首相のような人たちがもっとやりたいようにいろんなことをやり始める可能性もあるということでございます。
 それでは最後に、もう時間がございません、日本の外交の在り方について申し上げます。
 念頭に置いておくべきことは七点ございます。これだけ申し上げます。
 一つは、日本は超大国ではございませんが、決して小国でもございません。日本が右往左往することほどこの地域を不安定化させるという危険はあります。ですから、右往左往しない、これが非常に重要だと思います。
 二番目に、日本は世界システムから非常に恩恵を受けた国であるが、同時に外から見ると模範国でもあると。
 三番目に、アメリカと中国の力が拮抗するようになればなるほど日本の戦略的価値は上がる。
 四番目に、日本は予測可能性の高い信頼される勢力なのだと。これは、アメリカの予測可能性が落ちれば落ちるほど日本の安定勢力としての価値は上がるということでもございます。
 五番目に、アメリカ・ファーストということを言うアメリカ政府に日本がアジアで追随すると、あるいはアメリカと同じことだけやると日本の存在感は薄れます。
 六番目に、アメリカ・ファーストという戦略がこれからトランプ大統領以降にもずっと定着するかどうかというのは、これは分かりません。私は、アメリカ人という人たちはそういう人たちではないのではないかという感覚は持っております。
 最後に、中国の夢というのは次第にチャイナドリームに傾斜していくんではないだろうかと考えております。
 そういう中で、日本の外交、もう時間がございませんのでやめますが、一点だけ、日本の外交というのは日米同盟基軸であるが、同時にマルチの様々の動きをする必要があるだろうと。つまり、バイとマルチの組合せで、外交については、アジアについては日本でかなり独自の取組もした方がいいというのが私が申し上げたいことでございます。
 どうもありがとうございます。

発言情報

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発言者: 白石隆

speaker_id: 23532

日付: 2017-02-08

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会