馬田啓一の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(馬田啓一君) 馬田でございます。よろしくお願いいたします。
本日は、トランプ・ショックとアジア太平洋の新通商秩序の行方という、こういうタイトルで意見を述べさせていただきたいと思います。
お配りしました資料ですけれども、これはパワーポイントで作成したものでありますけれども、十五分という非常に短い時間でございますので、後半の方の特に日本のTPP絡みの通商戦略については、議論の中でより詳しく御説明していくという、そういう意味で資料程度にとどめておかせていただければというふうに思います。
前半のFTAAP、アジア太平洋自由貿易圏の実現に向けて、アメリカがTPP離脱を表明してどうなるんだろうという、そういう非常に暗雲が漂っておる状況であります。このTPPが完全に葬り去られれば、その延長線上につくられているFTAAPがどうなるか、アジア太平洋の新しい秩序がどうなるかと、非常に大きな問題がここに存在しておりますので、そのアジア太平洋、新しい秩序の問題について私見を述べさせていただきます。
FTAAPというのは、御存じのとおり、アメリカが言い出しっぺでございます。東アジア共同体構想が出たときに、アメリカを締め出すと、こういうふうなことでアジアの地域主義に非常に不安を持った当時のブッシュ政権が、二〇〇八年に、APECをベースにAPECの加盟国を参加国とするFTAAP、アジア自由貿易圏構想を打ち出しました。しかしAPECは、御存じのとおり、非拘束の原則に基づく組織でございますので、APEC内でのFTAAP交渉は非常に難しいというふうにアメリカは判断し、方向転換し、二〇〇八年、APECの外のTPPに参加し、TPPの拡大を通じてFTAAPの実現を目指すことになったわけでございます。
TPPの意義につきましては、改めて言うまでもなく、高いレベルの包括的な二十一世紀型のFTAモデルと言われますように、他のメガFTA交渉のひな形となるであろうと。さらには、将来、WTOルールに進化していくことも期待されております。
そういった高い自由化と、そして包括的なルールを目指しているものでありますけれども、TPPの長期的な意義は、これは中国が最終的なターゲットであるということであります。中長期の視点で見れば、TPPの最大のターゲットは中国。TPP参加国を増やし、そして中国包囲網を形成し、さらに外堀、内堀を埋めるような形で中国に対してTPPに参加せざるを得ないような状況をつくり、そして、中国がTPPに参加したいときに、今の体制、国家資本主義というこの体制を変えろ、さらには国際的なルールに従えというふうに中国に迫る、これがアメリカのこれまでの通商戦略のシナリオでありました。これがトランプのTPP離脱によってどぶに捨てるような形で葬り去ってよろしいのかという、そういう問題がございます。
アメリカ主導のTPPを警戒した中国は、RCEP、東アジア地域包括的経済連携に肩入れし、国家資本主義の体制を維持しながらメガFTA締結を目指しておるところであります。ですから、アジア太平洋に、一方でアメリカが主導するTPP、もう一方は中国が非常に肩入れするRCEP、このTPPとRCEPをめぐり米中の確執が強まってまいりましたけれども、米国のTPP離脱でまさに中国が不戦勝というふうな形になるような状況になってきております。それでよろしいのかというふうなことで今注目が集まっているというふうに思います。
アジア太平洋における主導権をめぐる力学が変わろうとしているわけでありますけれども、二〇一〇年にAPEC、日本で行われまして、横浜ビジョンが採択されました。それはFTAAP実現への道筋を提示しましたけれども、TPPルートかあるいはRCEPルートかについてはいまだ不確定な状況であります。
このため、二〇一四年の中国で行われたAPEC北京会合におきましては、FTAAP実現に向けて具体的な道筋を示そうと、中国は北京ロードマップの策定を議題といたしました。しかし、その狙いはどこにあるかといえば、TPPを牽制し、TPP以外の選択肢もあるのだということを示すことによってアジアの国々にTPP離れを促すと、こういうふうなことをもくろんだわけであります。
習近平は、北京ロードマップを歴史的一歩というふうに自画自賛いたしましたけれども、しかし、TPPルートを重視する、TPPの延長線上にFTAAPを実現しようと思っているアメリカがこの北京ロードマップを骨抜きにしたと、こういうふうなことは否めないと思います。
今後の展開につきましては、TPPによりFTAAPを実現するというふうな大方の見方があったわけですけれども、それが完全に崩れ、トランプ・ショックでまさかの事態になったわけでありますけれども、去年、二〇一六年十一月に、APECリマ会合ではリマ宣言が打ち出されました。発効に向けて協調を演出した形でありますけれども、TPP参加国はTPPの国内的な承認手続を完了せよ、一方でRCEP交渉については早期にその合意を得よと、こういうふうな声明が出されました。
しかしながら、トランプがFTAAPに対してどういうふうな対応を示すか、TPPを否定し、さらにはその先に位置付けられるFTAAPも冷淡になるのか、予断は許されない状況であります。TPPが日の目を見ないようなことになる最悪の事態がある場合には、APECの中でFTAAPの問題をしっかりと議論していく、そういうAPECの出番も場合によっては必要になるかもしれません。
日本が今なすべきことは、アジア太平洋のリーダーとして、形を変えてでもTPPの生き残りに向けて最大限の外交努力をすべきかと考えます。
RCEPかTPPか、どういう形でFTAAPができるか。TPPルートよりもRCEPルートであれば、決して、高いレベルの包括的なメガFTAになる可能性は非常に薄いものがあります。中国は、中国の国家資本主義とうまく相入れるようなメガFTAを実現しようとしているわけであります。それに対して日本は、それをよしとしないと、こういうことであれば、何とか、TPPが脱線しても、その脱線したTPPを、FTAAPに向けた同じレールに持っていくことができなくても、FTAAPに向けた違うレールに、元に戻すようなそういう積極的な対応がアジアのリーダー国として必要ではないのかなというふうに思われます。
アメリカを抜きにしたTPPの案も、今オーストラリアとかニュージーランド、あるいは中南米から出ています。しかし、日本はそのアメリカ抜きのTPP11の案に乗るべきではない。あくまでもアメリカが参加するような形で、修正されてもTPPの実現に向けてアジア太平洋諸国の間を調整していく、それが今、日本がやらなければいけない役割ではないだろうかと思います。
そういう意味で、アメリカをもう一度、あのトランプをもう一度TPPの方に顔を向けさせるために日本は今何をすべきか。一つは、RCEPが早期に合意されればアメリカはアジアの地域主義の新しい経済統合体の実現に非常に警戒心を持つであろうということで、TPPに対するまた見直しが始まるだろうという意味で、RCEP交渉をできればこの二〇一七年、年内にまとめるというふうな努力を日本も積極的にしていく必要があろうかと思います。
TPPの頓挫が、その危機がRCEPにどういうふうな影響を与えるか。加速させるのか、それとも停滞の方向に持っていくのか、意見は、見方は二つに分かれております。RCEPはASEANプラス6の枠組みで十六か国によって交渉がされていますけれども、ASEANが議長国であります。ASEANセントラリティーを尊重する形でASEANが運転席に座ってハンドルを握っているはずですが、どこまでしっかりそのハンドルを握っているのか。調整役がなかなか存在感を示し切れない中でRCEPの交渉をどう今年中にまとめるか、それには裏技の折衷案も日本から提案すべきである。
その折衷案は何か。今、TPPをこれまでてこにして、日本、オーストラリア、そしてニュージーランド、高いレベルのRCEP、一方でインドとか中国は低いレベルの自由化、緩い枠組みでRCEPをつくろうという、その二つの、高いか低いかの利害対立が非常に激しくなり、溝が埋まっていない状況であります。その溝をどういうふうに埋めるのか。これは、溝を埋めようとすると二〇一七年中にはまとまりません。
そこで、ASEAN経済共同体は二〇一五年末に発効しました、AEC二〇一五。そして、百点満点で八十五点でありますけれども、その残された十五点は残り十年間で埋めていこう、AEC二〇二五。二〇一五と二〇二五とを上手に使って、二段階方式でASEAN経済共同体を発足しています。
そのASEANのやり方をRCEPも取り入れるべきである。ASEANが議長国であり、今年二〇一七年、ASEANが創設して五十周年という記念すべき節目の年であります。その節目の年に議長国ASEANがRCEPをまとめる。そういうふうなことが可能なチャンスなんです。日本がそういうふうな二段階方式で、AEC方式で、ASEANがそれを言えばそれなりの重みがあると、こういうふうな捉え方ができますので、日本はASEANとともに年内にRCEPをまとめる、それがひいてはTPPの生き残りにつながるのであろうと、こういうふうに考えるところであります。
トランプはTPP離脱によって本当に墓穴を掘るのか。墓穴を掘る、そのとばっちりは日本が受けることになるわけです。日本はTPPを、どんな形であるにせよ、これを葬り去るというふうなことはさせずに、何とか生き残る方法を粘り強く積極的に進めていくべきだろうと思います。そのために、TPPの修正案をいいタイミングでトランプに主張する、それが大事だろうと思います。
日米首脳会談が二月十日に行われます。その場でそれを言うかどうかは安倍首相の判断でありますけれども、最もいいタイミングで、アメリカがTPPに対して、その意義と、そしてアメリカにとってもプラスだと、そしてアジア太平洋にとっても必要なルールだと、こういうふうな認識を持ってもらうために、修正案というふうな、現行のTPPではない修正案という形でアメリカの方にうまく説得していく、そういう姿勢が大事であろう、こういうふうに思います。
待てば海路の日和ありという言葉がございます。待てば海路の日和あり、いずれは太平洋の荒波も収まるだろう、トランプの話もやむであろう、時間を掛けてでもTPP修正案を何とかまとめ上げ、そしてその延長線上にFTAAPを実現していくという、そういうふうな積極的な日本の取組が必要であろうというふうなことで、私の陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。