川口順子の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(川口順子君) 御紹介をいただきました川口順子でございます。この場に、席に座るのは本当に久しぶり、四年ぶりでございまして、大変に懐かしくも思っております。
私は今、研究者をしておりますけれども、必ずしも議員と外交の問題についての研究者ということではございませんので、むしろ今まで実践者であった立場、あるいは今、政界を引退しました後で、一人の有識者として国際関係に関わっているという立場から、実践的な立場からお話をさせていただきたいと思います。何らかの御参考になれば大変に光栄に存じております。
まず、議員外交の必要性でございます。
本題と少し迂遠な立場、遠い立場からこのテーマにアプローチをしたいと思いますけれども、私は数年前に、劇団四季のミュージカルで「異国の丘」というのを見ました。「異国の丘」は、若い方ではあるいは御存じない方もいらっしゃるかもしれませんけれども、シベリアに抑留された日本人の望郷の念、哀感を歌った歌でございまして、私ぐらいの世代から多分上の世代の人間には何らかの感慨を持たずしては聴けない歌でもございます。
このストーリー、ミュージカルのストーリーですけれども、これは、戦前首相を務め、終戦後の東久邇内閣で国務大臣でもあった近衛文麿の長男である近衛文隆をモデルといたしておりまして、近衛文隆によって企てられた和平工作についてでございます。
ストーリーはここの本筋ではありませんで、私がこのミュージカルについて非常に印象深かったのは、日中戦争前の、宋美齢、この方は九歳で米国に行って、英語が堪能で、そして蒋介石の夫人でもあった方ですけれども、この方を中心とする反日工作を中国がアメリカの市民社会に対して行っていたということでございました。
アメリカの雑誌である「ライフ」や「タイム」の発行者であるヘンリー・ルースという人がいましたけれども、その支援を宋美齢は獲得をしまして、「タイム」は、一九三七年にパーソンズ・オブ・ザ・イヤー、その人に蒋介石を選んだということがございました。また、そのヘンリー・ルース自体も、反日キャンペーンを、あるいは対中支援を米国の市民社会に対して行ったと言われていまして、それから宋美齢は、フランクリン・ルーズベルトの妻のエレノア・ルーズベルトと親交が深くて、大統領の支援を得て、第二次大戦中もアメリカで抗日戦の支援を訴えたと言われております。
史実がどれぐらい正確であるのか、この史実については検証が多分必要なんであろうと思いますけれども、それはともかくとして、私たちがここで認識をしなければいけないことというのは、政策実施の環境づくりにおいて市民社会に働きかけることの重要性であります。この認識を当時の中国の国民党政府が持っていたということでありますし、当時の日本政府がこの点をどう考えていたのかはよく分かりませんけれども、興味のある点だと思います。
これは今から約八十年ぐらい前の一九三〇年代におけるお話でして、この時点で既に世論は外交に影響を与えたわけですけれども、現代のように国際政治経済の相互依存が進んで、市民社会が直接に国際問題に広く深く関わる、これには近代のあるいは現代のコミュニケーションの技術の発展というのも大きく資しているわけですけれども、こういう時代に我が国として国際社会の各層に日本として働きかける、あるいは日本に対する理解を持ってもらうということは、大変に重要であると私は考えております。
この仕事は政府だけではできません。日本社会を構成する様々な主体が、それぞれの立場からこれに取り組む必要があります。その中で、国会議員の果たす役割というのは極めて重要だと私は考えています。
それは、レジュメに幾つか書いてございますけれども、まず、言うまでもなく、政策決定の鍵を国会議員は握っているからであります。それから、各国の、これは国内外の世論に大きな影響を与えるということであります。それから、社会からも尊敬をされる存在であるということです。
私は、数年前にスウェーデンを訪問する機会がありまして、スウェーデンの有識者と話をしておりました。そのときに、スウェーデンの有識者がしばしば、これは国際交流について話をしていたんだと思いますけれども、パーラメントから、議会からお金をもらってというせりふを口にしました。私は最初、政府の組む予算と別なお金をパーラメントが、議会が枠として持っていて、それを使う話をしているのかなと思って聞いてみましたら、いえ、違います、別の枠ではありません、予算を決めるのは政府でなくて議会でしょう、ですから私たちは予算を政府からもらうとは言いません、議会からもらうと言いますという答えが返ってきたわけです。
民主主義社会において議会の位置付けがかくも重要であるとスウェーデンの国民が思っているということを認識をいたしまして、目からうろこが落ちた思いがいたしました。当時、私は参議院議員だったと思うんですけれども、それにもかかわらず、予算を政府からもらうというふうに思っていたということを反省もいたしました。議会あるいは議員、国会や議員の役割というのはそれほどに重要だと認識されているということだと思います。
それから、このレジュメの一ポツの最後のところに、議員同士である方が、相手の立場に理解を持ちながら円滑に話ができるというふうに書いてありますけれども、私、かつてアメリカにある日本大使館で公使を務めていたことがございます。そのときは通商摩擦華やかな頃で、アメリカの議員に働きかけようと思ってしばしば公使という立場でアポを申し込んだわけですけれども、これがなかなか会いにくかったというのが実際でございました。私、二年おりましたけれども、その間に会えた、直接に話ができた国会議員、議会議員というのは本当に数名しかいなかったということでございます。
これは、議員が行って議員と話をするというのは、対等であって、お互いの立場もよく理解しながら話ができるという意味で、一番円滑にいくということであります。
国際社会で、私も今いろいろ参加をしておりますが、多くの有識者同士の会合がありまして、国際問題、政治問題、環境問題、いろいろなテーマについて開催されています。そういった場で日本の立場を責任ある人が発言をしていくということは求められているわけですけれども、私が参加をしている中で、あるいは私が見聞している中で、議員の参加というのは本当にまれです。日本からの議員の参加はまれです。忙しいので短時間しか参加できない人が多くて、こういった議論への貢献がしにくいということもあろうかと思いますけれども、これも機会を失っているという意味では非常にもったいないことだと思います。
次に、レジュメの二番目、議員外交とは何かということでございます。
幅が広いということが言える、一言で言いますと幅が広いということだと思います。これはいろんな視点でそうだと思います。まず、分野からいきましても、これ、外務省の設置法を見ますと、設置法の四条一項に所掌事務として日本国の安全保障、対外経済関係、経済協力、文化その他の分野における国際交流とありまして、以下、二項以下に条約締結とか邦人保護とか、全部で二十九ぐらいの項目が並んでいます。これをその議員外交の対象と考えれば、いかに幅が広いかということであるかと思います。
それから、その次に機能とあります。この議員外交の果たす機能というのも幅が広いというふうに思います。いろんなタイプがございまして、例えば政府の発令があって特使として行くということもあるでしょうし、あるいは政府の意を酌んで自主的に、あるいは党の意思で行くということもあるでしょう。議員団や議員個人の交流、議員連盟や議員個人の政治活動の一環として行う、あるいは市民社会と共同して行う、日本の外交の環境づくりとして行う、様々あると思います。政府の意見に反対だからそれを言いに行くというのもあるかもしれません。そういった非常に幅の広さというのがあると思います。
じゃ、どれが大事なんだというふうに疑問をお感じかもしれませんけれども、私はそれぞれの機能が全て大事なんだろうというふうに思っております。国会や国会議員の関わり合い方というのは、それぞれの機能に応じておのずから異なってくるのではないかと思います。
三番目に舞台ですけれども、議員外交が行われる場も、これは何も海外に行って人と会ってということだけではないと思います。国内に大勢の方がいらっしゃる、その方と日本で会う、あるいはネット社会に今なっていますけれども、ネットでメールをするとかあるいはチャットをするとか、いろいろな場がございます。
それで、最後に議員外交の権限というのは何かということですが、私はこれ、法律の専門家ではありませんので詳しく申し上げることは控えますけれども、基本的に、こちらに書いてありますように、外交というのは、憲法によって内閣の職務権限として規定をされております。それに対しまして、国会は立法府でありまして、外交との関係では、憲法六十二条の国政調査権、報告受理権、これは憲法七十二条です、それから、条約を締結するのは政府ですけれども、これを承認する承認権、憲法七十三条、それからあと、国会法で質問権ですとか、衆議院規則及び参議院規則で質疑権とか、いろいろあります。立法府の立場というのは、そういう法令で決められたことを介して、政府の行う外交を広い意味でいえば監視をするという立場にあるというふうに思います。
ただ、日本は米国と違いまして議院内閣制の国ですから、立法と行政の関係、立法府と行政府の関係というのは、アメリカのようなチェックス・アンド・バランセスで非常に厳しくチェックをし合うということよりは、より緩やかな分立関係だというふうに私は理解をしております。外交についても、共働で行う部分というのが、共働的に行う、共に働くという部分が広いのではないかというふうに思います。
三番目に、効果的な議員外交のための環境整備ということについて申し上げたいと思います。国がどこまで議員外交の環境整備をすべきなのかという点が一つ論点としてあるかと思います。
これ、結論を先に申し上げると、さきにお話をしましたように、議員外交の幅、機能というのは非常に広いということですので、一言で、国は議員外交を支援すべきだということは一概には言えないと思います。
公的な色彩が強い、例えば政府の特使として行くというようなものもありますし、政府に反対の意見を言いに行くというのもありますし、あるいは、たまたま自分の政治的な立場と一致するから行くというようなこともあるだろうと思います。ですから、国民の税金を使ってそれをどこまで支援していくかということは、これは一つのルールで決めることは困難で、言ってみれば、議員活動を国があるいは国民が税金を使ってどこまで支援するのかという問題と同じ問題であるというふうに私は思います。
私も議員外交には非常に関心を持って議員時代行ってまいりましたし、ここにいらっしゃる皆様もそうだろうと思います。ですから、支援については、その立場に立てば多々ますます弁ずだと思っております。私も同意見をずっと持っております。
これは、議員外交というのがこの複雑な国際情勢の中でどれぐらい意味を持つか、どれぐらい大切かということについて国民の皆様の意識がそろうことがまず必要であって、これは鶏と卵のようなところがあって、一生懸命にやって、それが国民に見えて、そして税金がそこにもっと使われるようになるということで、今はそれを好循環に持っていく、悪循環に持っていくのではなくて好循環に持っていくというのがまずは議員の務めではないかというふうに思います。
この観点で、私は参議院が自ら一つ改革できることがあると思っています。それは何かといいますと、国会議員の海外出張をより柔軟にするということであります。
日本の閣僚は国会の承認がないと国会開会中は海外に行けませんが、大変に世界的には、海外に出にくい閣僚は日本の閣僚だということで有名になっています。国会議員についても同じことが言えると思います。ここを自由にするのは、これはまさに国会の中の問題でございますので、皆様でお話しになられて、そしてそれを緩やかな、議員活動がしやすいルールにしていただくということは、一つできることではないかというふうに思います。
各国いろんな工夫があって、例えば、各会派一人ずつ出るというようなこともありますし、委員長には代理を立てる、これは実際に制度としては可能なんだろうと思いますが、それを柔軟に進めるということもあり得るかなというふうに思います。
残り二分でございますので、私が思うところの議員外交のための実践的なノウハウをちょっと申し上げたいと思います。
これは、それぞれの議員の時間あるいは志向、選挙区の事情、いろんなことがありますので、自分のスタイルで柔軟にということだというふうに思っておりますが、私は、いろいろなやり方がある中で、これは面と向かって会うのが一番いいと決めないで、メールとか電話とかソーシャルメディアとか、いろいろなものを使うというふうに考えることが大事だと思います。
それから、議員外交を効果的にやるためには、多分、その相手の、例えば議員なら議員、人と長期的につながる関係を築くということだろうと思います。それに非常に資すると私が思いますのは、二国間の議連、あるいはマルチの議連というのもありますが、そういうのがありますが、余りアメリカとかEUとか大きいところに入ってもなかなか人数が多過ぎますが、どっちかといえば、小さな二国間の議連に入って真面目にその議連の仕事をやっていくということで、そこで相手国の議員と親しくなればこちらもだんだんに歳月を経て発言権が出るようになりますし、向こうもそういうことなので、十年付き合ってみたら向こうは首相になっていたということもあるかもしれません。ですから、そういう長続きする関係をつくるということが大事だろうと思います。
議論をするというのは大事なことなんですけれども、私は、結論先にありきではなくて、相手が議論をするときの議論の仕方が面白いとか切り口が面白いとか、日本のことをよく知っているとか、あるいはその相手の国のことをよく知っているとか、人間的に魅力があるとか、これは日本人同士のお付き合いと同じで、お互いにいかに相手に魅力を感じるかという関係を議員同士で付き合うということが大事であるというふうに思います。そういう意味では、議員団として行くことも意味があるんですけれども、個人で飛び込んでいっていろいろな関係をつくっていくということも非常に意味があるかと思います。
議員外交への御関心をお持ちいただいているということを大変にうれしく思いますし、皆様のますますのその面での御活躍も御期待を申し上げたいと思います。
ありがとうございました。