高原明生の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(高原明生君) 私の母国語は日本語ですので、もし話が分かりにくくても言い訳の言いようがありません。その場合は、どうぞ後でたくさん御質問をなさってください。
今の前のお二人の先生方のお話の中心はアメリカあるいは日米関係ということでしたけれども、私自身は中国のことを研究していますので、中国、日中関係ということがお話の中心になります。
今、東アジアの平和を脅かす要因というのが大きくなっている、多くの人が不安を感じ始めている、そういう状況ですね。北朝鮮の核開発、ミサイル発射、これも、当然でありますが、中国を研究する私のような者からすれば、非常に残念なことに、ここ数年の中国の海洋進出、また海洋における行動、それから国際法の無視。御案内のとおり、昨年の七月、ハーグの国際仲裁裁判所の判決が出まして、中国対フィリピンの案件だったんですけれども、中国の主張がほぼ全面的に退けられましたが、中国はそれを無視し続けているという現状がございます。
それから、もう一点挙げるとするならば、東アジア地域、アジア太平洋の中でも特に東アジア地域の国民の間で排他的なナショナリズムが高まる傾向が見られます。特に日本と中国の間、あるいは日本と韓国の間もそうかもしれません。中国と韓国の間もそうかもしれないんですが、国民の認識のずれというのが非常に大きくなっているということを私は大変ゆゆしき問題だと感じています。
例えばなんですが、昨年発表されました言論NPOなどが毎年行っている世論調査の結果ですけれども、毎年こういうことを聞いています。将来、日中間で領土をめぐって軍事紛争が勃発すると思いますかと。この問いに対しまして、昨年は何と中国で、可能性があると、将来領土をめぐる軍事紛争が起こり得ると答えた人の数、パーセンテージが二一ポイントも飛び上がって六二・六%に達するということがございました。これは非常に不思議なことです。昨年は特に、そういう判決はありましたけれども、具体的な目立った衝突事件があったわけでもないにもかかわらず、なぜこういうことになるのか。
私も研究者として一つの推測をしますと、やはり南シナ海問題に中国当局が大変敏感になっていて、日本側が行うどんな動きもかなり針小棒大に誇張された形で中国で報道されているという事実があります。そうした中国のマスメディアの報道ぶりの影響ではないかというふうに感じております。これについてどうするかというのは、また後で申したいと思います。
次のページへ参りますけれども、いろんな認識ギャップがあるというのは一般国民もそうだし当局もそうであるということなんですが、南シナ海をめぐる日中の論争状況というのは、次のようになっているのは御案内のとおりでしょうから簡単に申しますけれども、日本側は中国をどのように批判するかというと、東シナ海の二〇一二年以来の状況を踏まえて、力による一方的な現状変更は認められない、法の支配が大事でしょう、紛争は平和的手段で解決しなければならない、こういうことを一貫して言い続けてまいりました。それから、国際仲裁裁判所の判断につきましては、仲裁判断は最終的なものである、紛争当事国を法的に拘束するものだ、当事国はこの判断に従わなければならない、そういう言い方を続けてきたわけですね。
下の方のスライドですけれども、それに対して中国は何と言っているかというと、去年の三月の全国人民代表大会における記者会見での発言ですが、私たちみんな知っている王毅外相、元駐日大使ですね、日本政府とその指導者が日中関係の改善を声高に唱える一方で、他方では至る所で絶えず中国にトラブルをもたらしている、中国のことを批判している。これはまさに典型的な裏表のあるやり方ではないか。中国語でリャンミェンレン、両面人と言うんですけれども、ヤヌスのように表と裏と二枚顔を持っている、そういうやり口を取っているではないかと。また、日中関係の病根は日本の指導者の対中認識だ、発展した中国は日本の友なのか敵なのか、パートナーかライバルなのか、まあ敵、ライバルとして捉えているんじゃないかという、そういう言い方で批判したのが去年です。今年はもうちょっと言葉遣いが悪くなって、更に悪くなって、日本は心の病を治せと、中国の絶えざる発展、振興という事実を理性的に取り扱い受け入れなければならない、そういう言い方をしています。
私は、これに対して中国の人によく言うんですけれども、いや、決して裏表じゃない、これはどっちも表なんだと、そういう説明をしています。つまり、日本にとって中国との関係が大事なのは疑いありません。御案内のとおり、九割の日本人が中国に対していいイメージを持っていないのは事実です。しかし、七割の日本人は日中関係が大事だというふうに感じているわけですね。ですから、情緒的には中国のやっていることは受け入れ難い、しかし、理性的には関係を良くしなければならないということは大方の日本人は分かっている、これが現状だと思います。
でありまして、中国のやり方は、これは受け入れられない、力をもって自分の意思を他者に押し付ける、これは絶対やってはならないことだというのが、前世紀、我々がひどい戦争をやって負けて得た教訓なわけですね。それは、日本人が得た教訓ということだけではなくて、人類全体が得た教訓として国連憲章にもちゃんと書いてあるわけですから、これも絶対守ってもらわなきゃならない。そういう二つの表の顔だというふうに中国側に説明すると、言った相手は何となく分かってくれるということがございます。
次のページへ参りまして、じゃ、どうして中国は行動を取っているのか。あたかも行動第一、既成事実をまずつくる、外交第二、後で外交的に処理をする、そういった私は行動第一主義と呼んでいるようなやり方をしているのかと。
これも詳しく言うと時間がないんですけれども、基本的な要因は、もちろん実力が上がったということです。以前はできなかったことが今できるようになっている、これが基本ですね。それに加えて、中国共産党はやはり力を信奉する。力と金だと、そういう意識が強いリーダーシップだというふうに思います。
また、リーダーシップだけではなくて、一般国民の側でも遵法意識がやはり比較的低い。法律というのは自分たちの行動を縛るものである、そういう意識が強いと思いますね。もちろん法律は、それだけじゃなくて権力の濫用から私たちを守ってくれる、そういう自分を守るものでもあるわけなんですけれども、法治が徹底していない社会においては、あくまでも法律というのは自分を束縛するものだと、そういう意識が強いものですから、遵法意識が国内的にも国際的にも低い。だから、政府の法を無視するようなやり方を許容するという、そういう面があろうかというふうに思います。
また、リーダーシップにとってみると、指導部にとってみると、市場化の進展によってかなり社会が多様化している、利益が多元化している、また意識が多様化している下で何とか国をまとめなければならない。また、共産党の中も、実は相当深刻な意見の分岐、分立、対立があります。党も何とかしてまとめなければならない。そういうときに、多少外国と摩擦があっても、あるいは多少摩擦があった方がまとめやすい、そういう意識はあると思いますね。怖いのは外国から来る批判じゃない、怖いのは国内から来る批判だ、そういう事情が第三点として挙げられます。そのことはもちろん、社会全般にナショナリズムが高まっている、これは共産党の愛国主義教育が非常に大きくあずかっているわけですが、そういった事情も当然あります。
それから、もう一つ加えるとすると、習近平さんというリーダー自身の傾向、性向というのがあると思いますね。前の指導者と比べて行動を取るのがお好きであるということですね。
例えば、ハーグの仲裁裁判所の判断が出て一週間後のことですけれども、地方に視察に行った際に習さんは次のように言いました。中華民族のエネルギーは余りに長く抑圧されてきた、ここらでひとつ爆発させて偉大な中国の夢を実現させねばならないんだと。しかし、これは別に海軍に向かって言ったわけじゃないんですね。どういうコンテクストで言ったかというと、ある工場を訪ねたときに、その工場の従業員の士気を上げようと思ってこういうことを言ったと思われます。ただ、こういう彼の発言というのは、下々の部門がそれぞれの利益に即して自分たちにいいように解釈しているわけなので、こういう発言を聞いた海軍や海上法執行機関はどう受け止めるかというのは当然問題としてあるわけですね。
中国がこれだけ隆々と発展して、そして影響力を高めているという状況ですから、今後の東アジアの平和の要となるのが中国の力の自制ということ、そして、もう一つの大国である日本との関係を安定させるということ、これが全地域的に大きな課題、あるいはもしかしたら全世界的な大きな課題と言ってもいいかもしれません。
そこで、私たちとしましては、大きな戦略的な目標として、日本の戦略的な目標として、どうすれば中国との共生を実現できるのか、お互いを敵視せず、どっちの国が発展しようと、どれだけ発展しようと不安を感じないで安心して暮らせることができるようにどうすればなるのか、そういう状況を目標として努力すべきではないかと思います。大平首相が前おっしゃったように、日中は引っ越せない隣人ですから、お互いに、要するに日本だけが努力するわけじゃない、中国にも努力してもらわなきゃなりませんが、相手を敵にしたら大変だ、味方にしたら大きな利益がある、そのことを国民の間に、日本の国民だけではなくて中国の国民の間にも認識として広めていくということが大切だと思います。
そのための総方針というふうにちょっと格好付けて書きましたけれども、私は、日本と中国の二国間関係で見た場合には、つい脆弱な面にばかり目が行くわけですね。マスコミも脆弱な面を取り上げがちです。それだけでは、しかしないわけですよね。強靱な面も日中関係にはあるわけでありますから、強靱な面をどうやったら一層強化できるのか、脆弱な面をどうやったらうまく抑制できるのか、管理できるのか、そういった発想で日本も中国も日中関係の改善、発展に取り組むべきではないかというふうに思います。
強靱性の内容は、もう言わずと知れた経済的な結び付き。貿易の額でいえば、もうここ数年ずっと日米貿易の一・五倍、毎年あるわけなんですね。非常に大きな貿易パートナー、最大の貿易パートナーです。文化的な結び付きも非常に強いです。これは、伝統的な我々の中国文化に対する、古典文化に対する憧れもありますし、中国の若者の日本の現代文化に対する憧れもある、両面ある大変いい関係が実はあります。それから、海賊対策にせよ環境問題にせよ、あるいは麻薬対策、感染症対策等々、非伝統的な安全保障の面では実は相当に内容のある協力が今現在進行中であるという事実があります。
しかし、歴史問題、あるいは尖閣の問題、安全保障の問題、北朝鮮問題では幸いずっと協力をしてきた実績がありますけれども、こうした脆弱性を抱えているのも言うまでもございません。
そこで、残りの五分で、中国への三つのアプローチということを次のページからお話し申し上げたいと思うんですが、国際関係論からすると、平和を保つためにはどうすればいいか。三つの主な考え方があるんですね。一つはバランス・オブ・パワーです。やっぱり力のバランスが大事だと、一番目がリアリズム。二番目がリベラリズムですね。利益の相互依存、そういう関係が平和をもたらすと、これが二番目の考え方。三番目の考え方は、コンストラクティビズムと言いますけれども、価値を、規範を共有すること。それによって平和は保たれるという考え方ですね。私自身は、日中の間をどうやって、あるいは世界と中国の間をどうやって平和を保っていくかというと、この三つの考え方を総動員しないと間に合わない、そうかもしれない、非常に危機感を持っているのが現状です。
一番目ですけれども、リアリズム的な考え方からすれば、やはり力のバランスが変わっているのは今事実なんですけれども、余り急に変わるとこれは危ないんですね。やっぱりぬきんでた力を持ってしまうと、どうしてもその力を振るう誘惑に駆られます。これは個人でもそうかもしれないし、国でもそうだと思いますね。それを防止するために、やはり防衛力の強化、海上保安庁の能力の強化、同盟ネットワークの強化等々、こうした措置は私は必要だと思います。
しかし、それだけやりますと、さっき伊藤先生の話にもありましたように、軍拡競争になりますから、それと同時に、どうやって対話を進めていったらいいのか、協力を進めていったらいいのか。今、海空連絡メカニズムの交渉をずっとやっていますけれども、それに限らず、自衛隊と人民解放軍の間あるいは防衛当局間の交流、是非進めなければならないというふうに思います。
簡単に、今、尖閣で中国が圧力を日本に掛け続けている状況の下で妥協することは絶対に良くないと思いますね。それは実は中国にとっても良くない。中国の中にも、強硬派だけではなくて穏健派がいるわけです。国粋主義者だけではなくて国際主義者もいるわけですね。もし日本が圧力に負けて折れてしまうと、中国で勝利の凱歌を上げるのは国粋派であり強硬派です。我々が応援しなければならない国際派、穏健派はいよいよ周縁化されてしまうことになりますので、それはすべきでないと思います。
二番目のアプローチは、経済や非伝統的安全保障問題での協力の推進ですね。
今、とかく中国というとすぐ腕まくりをして、ああ、これは綱引きだ、けんかだというふうにむきになる日本人も昨今は増えているんですけれども、それは良くないと私は思います。そうではなくて、我々の支援もあって、多大なる支援もあって中国は隆々と発展したわけですから、その大きくなった中国の国力をどう私たちの利益のために活用するのか、そういう発想が非常に重要だというふうに思っております。さっき申しましたように、既存の協力も多々あるわけですから、それを一般の国民に知らす広報、これをもっとやらないと、つい国民は脆弱性の方にばかり目を向けてしまうということがあろうと思います。
アジアインフラ投資銀行、AIIBに私自身は最初から参加した方がいいと思っておりますけれども、実績が次第にできてきて、国際基準でちゃんとやっているというその認識がもう少し広まれば、アメリカとの協調の上で私はAIIBに入ってもいいんじゃないかというふうに感じている次第であります。
時間がないので次へ参りますけれども、次のページですが、最後の、規範を共有する、価値を共有する、これも絶対に必要なことですね。
今、中国は近代化の真っただ中にいるので、我々、明治、大正、昭和の初めも経験がありますけれども、言わば富国強兵パラダイムにとらわれているという、そういう状況なんですね。近代と伝統との相克、あつれきも強いので、どうしても西洋に対する反発が前に出るという、そういう精神状態に中国は今いるわけです。
日本と中国の間の相互不信も全然解消されない。国交を正常化して四十五年たちますけれども、どうしてこんなに相互理解が進まないのかと、もう本当に何か、私も責任があると思うんですけれども、我々中国研究者も大変に残念な思いです。それは、そういう認識ギャップだとか相互の不理解というのは何を要因としているか。非常に重要なのはもちろん情報ギャップですよね。後ろに付録で、漁船衝突事件のときの中国側の報道、あるいは日本人が知っている当時の状況についてのギャップの大きさというのをよく示しているこれを付けておきました。時間があれば、あるいは御質問があれば後で解説しますけれども。
これを埋めるには、中国のマスメディアには頼れません、あるいは日本のマスメディアにも実は頼れません。やっぱり商業主義が先に立ってしまうので、どうしてもみんなに受ける、みんなに見てもらえる、目を引く、そういうセンセーショナルな報道をするのは、中国も日本も実はメディアは同じなんですね。
じゃ、そういう状況下で何ができるのかということを考えたときに、ここに公論外交という翻訳をした言葉を書きました。これはいわゆるパブリックディプロマシーの日本語訳なんですけれども、相手の国民に私たちの知っている事実をどうやって伝達するか、私たちの本当の気持ちをどうやって伝えるのか。今、官邸を中心に大きな予算を付けて対外発信、一生懸命やっていますよ。それは大変結構なことだと思うんですが、もっと中国正面にやってほしいというのが私の印象です。
知識交流、青少年交流、これも大事ですね。是非、国会議員の方々、今、何千人もの青少年が中国から来ますので、毎年、ホームステイをしてあげてください。ホームステイは非常にインパクトがあるんです。
中国で、私、実は新日中友好二十一世紀委員会をやっているときに、日本では国会議員、県会議員の人に泊めてもらいたい、でも、中国ではあなた方中央委員会の中央委員に泊めてもらいたいと、日本の青少年が行ったときですね。そうしたら、その場に中央委員が二名いまして、手を挙げて泊めますというふうに言っていました。しかし、その後で中国の友達にその話をしましたら、いや、連中、泊めないよと言うんですね。どうしてと聞いたら、彼らは自分たちがどんなにいい暮らしをしているか知られたくないからさという、それはちょっと冗談のような話ですけれども。是非、青少年交流を日本と同じような予算を付けて中国でも推進してほしいというふうにも思っています。
そういう公論外交だ何だということをやる際に、歴史を忘れないことは大事ですね。もし日本人が歴史を忘れたら、日本外交は世界で立つ瀬を失います。これは絶対忘れてはならないことだと思いますね。日本では近代史の教育をもっと今以上にやるべきだし、中国では戦後の現代史の教育をちゃんとやらないと、私たち両国の若者たちが共に未来を築くことは絶対にできないと思います。
最後にですけれども、もう時間が過ぎましたが、申し訳ありません、構想実現のためにやっぱり日本自身が能力を構築しないと、どんなにアピールしても外国の人たちには聞いてもらえない、中国人も聞いてくれません。ですので、教育が大事ですね。基礎は語学力と社交力だと思います。どれだけ魅力ある日本人をつくることができるのかということが、インテリジェンスの強化、外交力の強化とともに大変重要だと思っている次第です。
以上であります。ありがとうございました。