小田切徳美の発言 (国民生活・経済に関する調査会)
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○参考人(小田切徳美君) ありがとうございます。明治大学の小田切でございます。
このような機会をいただきまして、大変ありがとうございます。
テーマであります地域活性化の取組及び地域間格差の現状と課題等に関わって、特に田園回帰という新しい動きについて少しお話をさせていただきたいと思います。この動き自体がこの活性化あるいは地域間格差について大いに関わるというふうに私自身思っております。(資料映写)
まず、田園回帰という言葉なんですが、この言葉は、政府文書でいえば今から二年前の食料・農業・農村白書の中で取り上げられております、特集の中で取り上げられております。御存じのようにこの食料・農業・農村白書は閣議決定文書でもございまして、そういう文書の中でこういう言葉が出てきたというのが一つの特徴でございます。
この特集の中に取り上げられているのが下の方にあります内閣府の世論調査であります。細かく見ることは省略したいと思いますが、非常に印象的な数字が出ております。
約千八百ぐらいのサンプルサイズだというふうに記憶しておりますが、それぞれ男性、女性、世代別に、あなたは都市住民、あなたは農山漁村への定住願望がありますかという、そんなことを聞いておりますが、イエスというふうに回答している者、これを見ていきますと、二〇一四年の数字ですが、二十代の男性四七・四%という、こういう数字であります。つまり、都市に住む若者の半分近くが将来的には農山漁村に移住したいという、そんな思いを強めているという、そんな傾向がはっきり出てきております。
もう一点注目したいのは、実は女性の三十代、四十代であります。絶対的な割合は低いんですが、実は伸びのポイントとしては女性の三十代、四十代が一番大きくなっております。恐らく一番現実的な志向性を持っている世代だというふうに思いますが、その世代でもこういった動きが出てきているというのが一つの特徴です。
今申し上げたのは二〇一四年度の調査だったんですが、実は直近に総務省で同じような調査をさせていただきました。私が座長を担当させていただきました「田園回帰」に関する調査研究会、これが中間報告をこの三月に行いましたが、これはインターネット調査で三千のサンプルを持っております。
ここで、御覧のように、男性の世代、女性の世代別にそれぞれ見ておりますが、同じような傾向が出ていると同時に、少し違うのが、実は二十代と三十代がほぼ並び始めております。この図でいえば緑の部分のところまで、ここが移住願望が何がしかの形であるということなんですが、男性の二十代、三十代、これ三つのカテゴリーを足すと男性二十代が四三・八となります。三十代が四三・六%というふうになって、ほとんど並んでいるというのが一つの特徴であります。前には見られなかった傾向、つまり、田園回帰の願望が若手を中心に、そして三十代にまで広がり始めているというのが一つの特徴であります。
上から三番目に小さな数字で書いておりますが、全体として見れば、調査した対象の三千強のうち三一%、三〇・六%が移住願望を持っておりますが、さらにその方々にどうしたら移住するのかというふうに聞きましたところ、条件が整えばすぐにでもというのがこの中で一六・一%あります。つまり、全体の調査対象の五%が条件があればすぐにでも移住したいという、こういう数字が出ているというのも一つの特徴であります。
さて、それではどういうところに移住しているのかということなんですが、島根県の地図がここにあります。このデータは、藤山さんという田園回帰一%戦略を唱えて大変有名な研究者ですが、この藤山さんが島根県の一つ一つの地域、この一つ一つの地域は小学校区に相当しますが、その中で二〇〇九年から一四年、どのように三十代の女性が動いたのかというのを見ております。
実は、赤い部分が増加であります。全体の島根県の二百二十七エリアある中で九十六エリア、ここで三十代の女性が現に増加しているという、こういう傾向が出ているということであります。
なぜ三十代の女性に注目したのか。これはもちろん、先ほど見たように、この世代が言わば最も現実的な動きをするという、そういうこともありますが、先生方御存じの例の増田レポートであります。増田レポートは、二十代、三十代の女性が将来半減するということをもって消滅可能性を論じました。ところが、現実にこういうふうに細かく見ていくと、つまり市町村単位でなく見ていくと増加しているところが出てきているという、このことが初めて明らかになったというふうに思います。
右は鳥取県、隣の鳥取県の数字を見ておりますが、ここは地域分布というよりも数そのものを御覧いただきたいと思いますが、表の中に、二〇一一年が五百四人、これは移住者の実数でございますが、二〇一五年、最も新しいデータですが、約二千人と四倍になっている数字も確認することができます。
それでは、この移住者、全国的にどういうふうな数なのか。残念ながら全国データはございません。この全国データがない中で、私どもの大学とNHKと毎日新聞で合同調査を二回ほど取っております。その結果、二〇一四年度の数字を御紹介させていただくと、全国で約一万人の移住者がいるという、そのことが確認されております。
ただ、ここには最狭義というふうに書いておりますが、ここでの移住者は県境をまたいでいることが条件であります。あるいは、都道府県や市町村の何がしかのあっせん窓口を経ていることが条件であります。全国を比較するためにこういうふうな制限を付けざるを得なかったということですが、そういう意味では恐らくこの一万二千人の数倍はいるというふうに思いますが、見ていただきたいのは、むしろ青いグラフのトレンドです。これで見ていただきますように、移住者はこの五年間で四倍に増加しているという、こんな傾向が出ております。もちろん、これがそのままのトレンドで伸びていくというふうには思いませんが、ただし単純延長すれば数万人規模になるという、そのことが予想されるということであります。
ただ、この調査の中で、私ども大変驚いたんですが、明らかになったのは地域間格差の存在であります。四十七都道府県のうち、東京と大阪は調査しておりませんので四十五道府県が対象なんですが、下の表にございますように、二〇一四年度、そのトップファイブを掲げますと、岡山、鳥取、長野、島根、岐阜、こんなところが出てくるわけですが、この五県の合計で実は全国の四八%を占めているという、こういう状況になっております。つまり、残りの五二%で四十県がひしめいているという、こういうふうな格差が出ているというのが一つのポイントであります。
それでは、どういう特徴が見られるのか、私どもの実態調査結果を御披露させていただきたいと思います。
一つは、二十代、三十代が中心であることも明らかになっています。いわゆる団塊の世代の移住が予想され、期待されておりましたが、それは期待ほどは多くなかったというのが実態であります。
それから二番目は、何といっても女性割合が上昇しております。かつては単身の男性が主な移住者だったわけですが、最近ではファミリー世代が移住している、したがって、必然的に女性の割合も増えているという特徴もあります。
そして三番目、地域振興上大変重要な論点ですが、移住、これは一般にはIターン者を想定されるというふうに思いますが、Iターン者が増えているところでは地元出身のUターン者が増えるという、こういうある種の傾向があることが分かり始めております。
なぜこのことを強調するのかと申し上げますと、実は、移住施策、地元からは必ずしも評判がいいものではありません。なぜよそ者だけを優遇するのかという、そういう議論は実は市町村の住民の中からしばしば出てくるわけなんですが、そうではなく、こういう方々が来ることによってその地域出身の息子や娘が帰ってくる可能性が高まるという、そんな傾向が明らかになっております。
そして、こういった特徴の延長線上に、私どもが孫ターンというふうに呼んでいる、一世代飛ばしで帰ってくる。つまり、息子、娘はもう東京、大阪に、そこに張り付いてしまっているけど、その子供、つまり孫が戻るという傾向が出てきておりまして、考えてみればNHKの朝ドラの「あまちゃん」がまさにそうだったわけですが、こういった傾向が実はかなり普遍的に見られる。恐らく、これは推測ですが、移住者の一割程度は孫ターンではないかという、そんなふうに私ども捉えております。
当然、こういうふうなお話をすると、先生方からの質問は、それでは彼らはどのような仕事しているのか、仕事がない中で移住が本当に成功するのかということなんですが、実はそこに新しいライフスタイルが生まれていることも見逃せないというふうに思います。
ナリワイとか、あるいは少し古い言葉ですが半農半X、あるいはドラッカーが一九九〇年代に言ったパラレルキャリア、こんな言葉で表現できるというふうに思いますが、複数の仕事を行う、こんな傾向も出てきております。夫婦移住の場合の標準型でいえば、年間六十万円、これは月当たり五万円という意味なんですが、この仕事を夫婦で五つ集めて暮らすような、そんなライフスタイル、これは貧困の上このようなライフスタイルにならざるを得ないということでは決してなくて、むしろそれを選び取っているという、自ら起業を行って、そしてNPOとして活躍するなどという、そんな傾向も見ることができます。詳しい事例は省略しますが、ここに書いたような幾つかの事例を私たちは目撃あるいは調査をしております。
こういった状況の中で、当然、従来から言われております移住をめぐるハードル、当然ハードルが存在しておりました。私ども三大ハードルというふうに言っておりますが、村、すなわちコミュニティーですが、あるいは住宅、空き家がない、そして今申し上げたような仕事がない、こういったハードルがあることは確かであります。しばしば自治体職員は、村はいつまでも閉鎖的だとか、あるいは空き家など絶対流動化しないとか、仕事がないから人など来ない、しばしば自虐的にこういうことをおっしゃっておりますが、詳しく御紹介することは省略しますが、実はこの三つのハードルが下がっているというのが実態であります。
特に、空き家が流動化しないということについては、しっかり空き家はその所有者の悩みに応えれば空き家も本来は流動化するんだという、そんなふうに言われ始めております。むしろ、空き家が流動化しないというのは農村伝説だなどという言葉さえもあって、その意味で、どのように流動化させるのかということを真剣に考えているところでは、いよいよこういう動きも出てきているということだろうと思います。
飛ばさせていただきまして、それでは課題がないのかというと、そうではありません。新たな課題が浮かび上がっております。この移住者の特徴を先ほど幾つか御紹介させていただきましたが、一言で言えば多様性です。あるいは多様化であります。ライフスタイルをめぐる多様化、あるいは世代をめぐる多様化、こういうものが明らかに出てきておりまして、この移住者の気持ちが多様化すれば、当然地域それ自体も多様化ですから、多様掛ける多様、こういうふうな状況の中で、言わばミスマッチが非常に起こりやすい状況が今生まれております。
そういう意味で、この地域と人のマッチングをどのようにするのかというのが実は非常に大きな課題となっております。
右に表がありますが、これは地域おこし協力隊の応募理由のアンケートでございますが、いろいろありますが、ここで見ていただきたいのは、実は理由が最大でも一九%、その他でも一七%という形で、非常に分散しているということであります。そういう点でも多様化を見ることができるわけであります。このミスマッチをどのように解消するのかが第一の課題でございます。
第二の課題は、移住者のライフステージに応じた支援というのが重要になってきております。
移住施策は、しばしば移住というこの瞬間に支援が集中しがちであります。ところが、移住が終わって定住に入れば、定住なりの課題があります。当然、仕事をどうするのかという課題がやはり存在しております。そして、永住段階にあれば、ここはここで課題になっておりまして、特に教育費が非常に大きな課題であります。先ほど申し上げましたように、夫婦で場合によったら三百万円でライフスタイルを楽しんでいる、そういう移住者がいて、彼らが、それでは東京に子供を出すとき、大学に出すときにはたと困ってしまう。この教育費が一つの大きな課題でありまして、現在、政府などが進めております奨学金の充実というのは確かに大きな課題であることが確認できるわけであります。
いずれにしても、移住ばかりに集中しない、言わば家族目線で、家族のライフステージに応じた支援が今後の課題となるというふうに思っております。
それでは、今日いただきました地域活性化というテーマとこの田園回帰がどういうふうに結び付くのかということをお話ししてみたいと思います。
二つの疑問から考えていきたいと思いますが、なぜ移住者は農山漁村に向かうのか、あるいはなぜ地域差は生じるのかということでございますが、これを我々に教えてくれたのが和歌山県の那智勝浦町の色川地区の皆さんです。
右側に図がありますように、実は色川地区は全住民の四五%が移住者という移住最先発地域の一つでありますが、その代表の方々は次のようなことを言っております。若者が本当にその地域を好きになったら、仕事は自分で探し、つくり出す。その地域にとって、まずは地域を磨き、魅力的にすることが重要だ。仕事がないと言う前にやるべきことがある。つまり、地域をしっかりと磨いて魅力的にすることが、実は移住が生まれて、その後に仕事は付いてくるんだ、そういった覚悟を持って若者の一部は来ているんだということを私どもに教えていただいています。
つまり、地域で今なすべきことは、何よりも地域を磨く、こちらの調査会の言葉で言うと地域活性化だということだと思います。地域を磨いて、人が輝いて、内外の人に選択されるような地域をつくる。私どもの調査によっても、人が人を呼ぶ、移住者の先輩が輝いて、それが移住者を呼び込んでいると。あるいは、今申し上げたように、地域が非常に輝いていて、こんな地域に住みたいんだということで移住が発生しているケースが非常に多いということが確認できます。
その意味で、ここに書きましたように、地域づくりと田園回帰のある種の好循環が生まれている。別の言葉で言うと、地域づくり、地域活性化なくして田園回帰なし、あるいは逆に、田園回帰なくして地域づくりなしという、こういった好循環が今生まれていることが一つのポイントだろうと思います。
もっと分かりやすく言えば、若い移住者は、前向きの人々、前向きの意識を持っている人々のところに移住してきます。別の言葉で言うと、愚痴ばっかり言っているような地域には人が入ってこないという、こういう特徴も見ることができるんだろうと思います。
話をまとめてみたいと思います。
それでは、田園回帰とは何なのか、私たちは三つの田園回帰ということを言っております。
一つは、何よりも都市から農山村に向かって新たな人口移動が起こっている、人口移動論的田園回帰であります。英語ではカウンターアーバニゼーションというふうに言いますが、既に一九七〇年代から欧米では起こっている動きでございます。現在、英国のイングランドではこの傾向がまだ続いている。地図も載せておりますが、黄色の部分がイングランドの人口減少地域でありますが、イングランド全体でこういうふうに人口減少地域と増加地域がまだら状況になっている、これがカウンターアーバニゼーションの一つの結論でございますが、日本で同じような地図を作れば過疎地域は真っ黄色という、そういう状況ですが、そうではないということが確認できます。これが言ってみれば半世紀遅れで起こっているということが一つであります。
そしてもう一つは、地域づくり論的な田園回帰、先ほど申し上げましたように、地域づくりと田園回帰が好循環を持っている。
そして、最後に先生方に是非お伝えしたいのは、このように、移住した皆さん方が、特に若い皆様方が、言わばソーシャルイノベーターという言葉を使いますが、言わば都市と農山村をつなぎ役として大きな役割を果たすという傾向が出ております。
二月に、全国町村会等の移住女子の大きなシンポジウムがありました。三人の移住女子が登壇されてお話をされたんですが、非常に印象的なのは、三人の女性が、私たちの役割は農山村と都市をつなぐことだ、異口同音におっしゃっておりました。具体的にそんな行動を彼ら、彼女は起こしております。それを我々はソーシャルイノベーターというふうに呼んで、言わば都市農村共生社会の担い手となり始めているということだろうというふうに思います。こんな傾向が出ていることを改めて確認してみたいと思います。
最後に、一点だけ付け加えてみたいと思います。
この表は、先進国の首都圏の人口傾向を見たものでございます。五十年間にわたって記しておりますが、よく言われておりますように、首都圏人口が増加しているのが日本だけでございまして、それ以外はちょうど一%内外の変化でございます。こういった傾向を改善していくためにも、先ほどの田園回帰傾向が必要であると同時に、ソーシャルイノベーターとしての若者の力というものを我々はもっと信じ、そして支援すべきだ、そのように感じております。
私の報告は以上でございます。
御清聴ありがとうございました。