桃井貴子の発言 (環境委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○桃井参考人 気候ネットワークの東京事務所、桃井と申します。
 本日は、このような貴重な機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
 私が所属します気候ネットワークは、一九九七年京都議定書が採択された気候変動枠組み条約第三回締約国会合の開催された翌年、一九九八年に設立され、ことしでちょうど二十周年を迎えます。市民の立場から、気候変動の解決に向けて専門的に取り組み、国際交渉への参加、政策提言、地域レベルでの草の根活動や子供たちへの環境教育などを行ってまいりました。そして、人類にとってリスクの大きな原発には頼らず、化石燃料による温暖化もない、持続可能な社会を構築することをミッションに、活動を展開してまいりました。
 今回、気候変動適応法案が上程されるに当たり、二月二十八日、私たちの立場を示したプレスリリースを発表しましたので、そのコピーをお手元にお配りさせていただいております。
 今回申し上げたいことは、大きく二点ございます。一つは気候変動対策のかなめである緩和策について、そしてもう一つは適応法案に対してです。
 まず第一に、気候変動対策において、適応策は最大限の緩和策の実施が大前提であるということです。
 パリ協定では、一・五度から二度未満の目標が明記され、温室効果ガスの排出を早期に削減し、実質的に人為的な温室効果ガスの排出をゼロとする脱炭素社会の構築が決められました。
 本年四月二十四日の環境委員会の参考人質疑で、茨城大学の三村先生や国立環境研究所の原澤先生が御出席され、その際にも御発言されていましたが、一・五度から二度未満に抑えたとしても適応策が必要であるということをおっしゃっていたと思います。つまり、適応策をとる上で一・五度から二度の上昇に抑えるということが大前提になるということです。
 しかし、今、日本は一・五度から二度未満に抑えるための最大限の緩和策が実施できている状況にあるとはとても言いがたい状況です。パリ協定が発効し、世界が脱炭素社会を目指す中、日本はいまだに二十年前と変わらず進歩がないということを指摘しておきたいと思います。
 クライメート・アクション・トラッカーという環境NGOが、毎年各国の気候変動政策評価を行っています。今月発表された評価では、日本の削減目標が極めて不十分であることを改めて指摘しています。そして、気温上昇を四度上昇させるレベルだというふうに評価しました。
 いわゆる適応策だけ前に進めても、四度も上昇するような、人類生存に危険なレベルになっては意味をなしません。現在、日本の温室効果ガス削減目標は、二〇三〇年に二〇一三年度比二六%とされていますが、その見直しを含めて、日本の気候変動政策、エネルギー政策全体をパリ協定に合致させることが必要であると考えています。
 とりわけ日本において気候変動政策に逆行しているのが、石炭火力発電所の扱いです。
 パリ協定の一・五度から二度未満の目標達成には、新たな石炭火力はもちろん、先進国は二〇三〇年にも既存の石炭火力も全廃しなければならないとされています。そのため、先進諸国はもとより、途上国でも石炭火力発電所から脱却する動きが加速化しています。再生可能エネルギーを優先的に系統接続して主力電源とし、石炭などCO2排出量の多いものはカーボンプライシングなどのインセンティブで削減するなどの、石炭火力を廃止していく政策対応もさまざまにとられています。日本の気候変動対策を考えるとき、まず考えるべきは、緩和策が全く不十分で、むしろ真逆の状況にあるということです。
 気候ネットワークでは、国内の石炭火力発電所の新増設計画をウオッチしてきましたが、二〇一二年以降の計画は五十基に上りました。そのうち、計画が中止になったのはわずか六基です。そのほか四十四基に関しては、もし全て動けば設備容量は約二千万キロワット、CO2排出量は年間約一億千三百七十三万トンに上ります。
 環境省は、ことし三月に行った、電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の評価において、石炭火力発電所の計画が全て実行され、稼働率七〇%で稼働し、かつ、老朽石炭火力発電が稼働開始後四十五年で廃止されると仮定すると、石炭火力発電からのCO2排出量は、二〇三〇年度の削減目標や電源構成と整合する排出量を六千八百万トン程度超過することを発表しました。
 今の計画が今後のCO2排出量の増加を招くことがわかっていながら、政府は何も手を打たずに、計画が進められることを容認しています。本法案で検討する適応策は、緩和策を十分に講じないことの埋め合わせや口実にすることであってはなりません。
 次に、本法案に対しての意見を申し上げたいと思います。
 まず第一に、基本方針についてです。
 緩和策の強化は、未然に影響と被害を回避する最大の適応策であるとも言え、緩和策と適応策を総合した国全体の気候変動対策の基本方針を位置づけることが必要です。本法案の説明では、環境省は緩和策と適応策は車の両輪だとしていますが、緩和策が先ほど申し上げたような状況で、適応策のみしか扱わないということでは、車が片輪あるいは脱輪の状態だと言えるでしょう。これでは車は走りません。本法案においても、包括的な気候変動対策方針を描くことができていません。
 まず、本法案が緩和策を弱体化させることなく、緩和策を更に強化して影響を最小化させる必要があることを明示し、気候変動リスクを回避するためにとるべき緩和策についてフィードバックすることを法に位置づけるべきだと考えます。
 次に、企業や自治体、市民など、各主体の気候変動影響評価のあり方についてです。
 本法案の第十条で、政府が中央環境審議会の意見を聞き、気候変動影響評価報告書を策定することとされています。しかし、気候変動の影響やリスクは幅広い分野にまたがり、まだ把握や証拠が不十分な領域も多々あります。適切な適応策を講じるためには、適切に評価できる影響やリスクの把握が大前提となりますが、そのための仕組みが本法案では極めて不十分です。
 参考に、イギリスの仕組みを見ますと、イギリスでは、適応計画をつくる前に影響評価を行いますが、その際に証拠レポートというものを作成しています。そして、リスクが十分把握できるだけの証拠がそろっていない領域がどこにあるかについても詳細に把握し、そのギャップを埋めるような対応が検討されています。
 イギリスでも、まだ把握できていないことは多くあるようです。たまたま研究が充実しているですとか、又は影響が測定できるということだけで評価報告をすると、研究が行き届いていないけれども重大な影響があるということについて見落とされ、適応計画は重要な要素を欠くことにもなりかねません。
 そのため、イギリスの証拠レポートでは、証拠を集めるためにステークホルダーや企業の深い関与があります。二年にわたりワークショップを開き、ステークホルダーも百から二百団体がレビューをしており、どこが緊急領域かなどについて意見を述べています。適応策を講じるには、まず評価報告書をつくるまでの過程が重要です。
 しかし、日本の法案では、中央環境審議会の意見のみのプロセスだけで、深みのない影響評価を行おうとしています。ここは、企業、自治体、市民団体の積極的な関与を位置づけることが非常に重要だと考えています。
 地方自治体に対しては、地域の適応計画の策定が奨励されていますが、計画の策定の前に、十分な影響評価を行うことを求めることがまず重要だと言えます。
 特に影響が大きい事業分野に携わる業種の企業に対しては、政府が定期的に情報の提出を義務づけることも必要です。その上で、各省庁が情報提供に協力し、全省庁挙げて横断的に推進することを明記すべきだと考えています。
 第三に、適応対策の名のもとの無駄な公共事業のチェックと排除を行う必要があるという点です。
 これまでも、気候変動適応策の名のもとに、さまざまな事業の必要性が論じられてきました。例えば、無駄な公共事業と言われてきたような治水ダムや防波堤設置などに代表される事業、あるいは、熱に強い遺伝子組み換え農作物などの研究、周囲の生態系に影響を与えかねないような事業です。
 こうした事業が適応策として妥当か厳しく事業評価が行われるよう、計画に基づいて実施された適応事業を報告し、真の適応策か、ほかに環境負荷の少ない方策や費用の少ない方策で代替が可能かなどを評価する透明性の高い仕組みを導入することで、適切性を欠く事業に国家予算を無駄遣いすることのないようにすることが不可欠です。
 第四に、第三者の評価の仕組みの導入です。
 評価情報の的確性、計画の内容の妥当性を確保するためには、独立した第三者機関の評価と勧告の仕組みが必要であり、これを法に位置づけるべきです。
 法案では、影響評価報告書の策定に関する中央環境審議会における検討と意見を踏まえることとされている以外には、客観的な検証のプロセスや場もありません。各主体の参加による影響評価の必要性は前に述べましたが、適応計画の内容の妥当性、そのもとで実施される事業の的確性などについては、新たな研究を踏まえた、専門家による第三者機関による評価が必要だと考えます。そのためには、環境省のもとの中央環境審議会よりも独立性の高い第三者機関を設置し、当該機関における勧告、助言を行い、適応計画の見直しが実施される仕組みが必要だと考えます。
 第五に、市民の幅広いリスクの共有とソフト面での適応策の強化についてです。
 国内でもさまざまな気候変動と関連する影響が起こり始めているにもかかわらず、一般の市民にとって、さまざまな場所でさまざまな形で起こる気候変動リスクは、まだ実感が伴うものとはなっていないと思います。また、地域の環境の変化のみならず、グローバルな気候変動がもたらす経済への影響やインフラへの影響、食料や資源供給に対する影響などの、私たちの安定した社会や基盤を脅かすリスクについては、理解しがたいものです。
 気候変動を横断的に理解し、起こり得る被害や影響に対して迅速かつ適切に備えることのできる強靱な社会をつくるためには、ハード面だけではなく、市民や自治体、企業の人々や組織のネットワークや連携化が重要です。法案では、十三条、十四条で地域の適応センターや協議会の設置を位置づけていますが、単に組織の設立を促すのではなく、ソフト面での対応強化を図る拠点として位置づけるべきだと考えます。
 最後になりますが、日本は、気候変動のリスクに対しては、私たちの生活や経済基盤を脅かす問題であるという理解は十分に市民に行き渡っていない面があると思います。遠い島国や将来世代に影響があるかもしれないから、できることをやっていこうというレベルを超えていないと言えるかもしれません。あるいは、日本は資金力や技術力があるから対応可能だと、たかをくくっているところもあるかもしれません。
 しかし、食料や資源の多くを他国に依存し、周りを海に囲まれた島国である日本は、実は極めて脆弱な国の一つと言えます。スイスの再保険会社は、世界の六百以上の都市の中で、最も自然災害のリスクの高いトップテンをランキングしていますが、その中には東京、大阪、名古屋の三大都市が入っています。日本にいる私たちこそが、みずからの極めて深刻な気候変動のリスクを理解していないのではないでしょうか。だからこそ、政治の中でもほとんど重要視されず、脇に置かれた課題になっているのかもしれません。
 ですから、今申し上げた点を改善した上で、法案の成立を望みます。また、同法案が、日本の各主体に対し、気候変動リスクを広く共有し、緩和策の必要性と緊急性に改めて気づき、緩和対策が大きく進展することも、同時に強く期待します。
 どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

speech_id: 119604006X00820180515_004

発言者: 桃井貴子

speaker_id: 16309

日付: 2018-05-15

院: 衆議院

会議名: 環境委員会