中川淳司の発言 (内閣委員会)
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○中川参考人 おはようございます。中川と申します。
国際経済法を専攻しておりまして、貿易・投資に関する国際ルールを研究しております。本日は、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、長いので、TPP11と、この後、略させていただきますけれども、TPP11の背景と意義ということについて、国際経済法の観点からお話をさせていただきます。
御案内のとおり、TPP11は、一昨年の十二月に国会承認されたTPP、それがもとになっております。昨年の一月にアメリカのトランプ大統領がTPPから離脱いたしました。それを受けて、残る十一カ国が、TPPをできるだけ早期に実現するために交渉を続けて取りまとめたというものであります。お手元の配付資料の二ページ目にその簡単な経緯を書いてあります。
そこで、まず、もとになっているTPPの背景と意義について振り返ってみることにいたします。
配付資料の三ページをごらんください。そこには、ボーイング787のサプライチェーンというものを置きました。
それを見ましても、ボーイング787というアメリカ製の飛行機が、実は世界じゅうから部品を取り寄せてそれを組み立てるという形でつくられていることがわかります。サプライチェーンあるいは供給網のグローバル化と呼ばれる現象であります。航空機に限らず、製造業全般にそういう供給網のグローバル化が進んでいるというのが今日の世界経済の特色であります。
資料の次、四ページ目をごらんください。
供給網のグローバル化をやるとなると、国境はありますけれども、シームレスに物を移動させて、ノウハウも移動させてつくっていくということが必要になります。そのために、個々の拠点をつなぐコストを下げる必要がありますし、個別の工程の生産コストをもちろん下げるということも必要ですけれども、それを実現しようと思いますと、さまざまな貿易・投資ルールが必要となります。ざっくりまとめてありますけれども、説明は、もし必要があれば、後で御質問があればいたします。
本来、こういうルールはWTOという世界貿易機関でつくるというのが本筋でありますけれども、御案内のとおり、ドーハ交渉を失敗いたしまして、WTOが機能しておりません。そこで、先進国、主要国は、たくさんの国が参加するFTA、いわゆるメガFTA、広域FTAを通じてそういう必要なルールをつくっていくという方針をとるようになりまして、その中で、TPPが最初にまとまった広域FTAであります。
五枚目の資料をごらんください。
TPPは、さまざまな先進的な貿易・投資ルールを盛り込んでおります。項目だけ挙げますと、貿易円滑化に関するルール、これは通関手続とかそういうところです。それから投資ルール、そこに書きましたのは、これは例えば、中国が実行していて、アメリカが問題にしているような、そういう実践ですけれども、それを禁止しております。電子商取引、さまざまなルールがございます。国有企業の規制という、これも中国を念頭に置いてつくられたルールですけれども、そういったものも含んでおります。知的財産についても、模倣品、海賊版を厳しく規制するという内容を持っております。
膨大な協定でありますけれども、TPPはそういう意味で、先進的な貿易・投資ルールを盛り込んだ二十一世紀のFTAということになりました。
以上がTPPの背景と意義であります。
次に、資料の六枚目をごらんください。
最初に申し上げた経緯でTPPからアメリカが離脱をして、残る十一カ国でTPP11をまとめたわけですね。TPP11はTPPのルールの大半を吸収しております。
御案内のとおり、凍結項目ということで、テキスト、附属書から二十二項目が今回凍結されましたけれども、全体として、条文数からいくと恐らく二千条ぐらいあると思うんですね。八千ページぐらいの膨大なTPPの協定のうちの二十二項目に絞り込んだということです。その中で、ルールにかかわる、私はルールのお話をしておりますので、ルールにかかわる主な凍結項目としてそこに書かせていただきました。
郵便独占に係る急送便サービスの義務を免除したことであるとか、それから、投資家と国の紛争解決、ISDSというものがございますけれども、その適用対象を少し絞り込む、そういう凍結が行われました。政府調達の参加条件についても、労働基準に関する部分の参加条件を緩和するというふうな規定が入りました。
その下に挙げましたのは、いずれも知的財産にかかわるものであります。これはアメリカがTPPの交渉で非常に強く要求をして、日本側も基本的に先端技術の保護を推進するという立場から同調していて盛り込んだ、TPPに盛り込んだルールですけれども、その一部が凍結されるということがあります。
しかし、戻って資料五ページ目に書きましたような、先進的な貿易・投資ルール、供給網のグローバル化に必要な先進的なルールは、全てTPP11でも引き継がれて、実現を見るということになったわけであります。
以上、非常に駆け足で申し上げましたけれども、国際経済法、ルールの観点から見たTPPの意義であります。つまり、今日の世界経済に必要な供給網のグローバル化に欠かせない新しいルールを、WTOにかわってTPP11が実現しようとしているということであります。
しかし、現在の世界情勢を見ますと、TPP11にはそれ以上の、加えての意義が二つあると考えています。
資料の七枚目をごらんください。
まず、今日的意義として、アメリカのトランプ政権との関係であります。
先月の十七日から十八日にかけてフロリダで日米首脳会談が行われました。経済面に関しては、そこに太字で書きましたけれども、自由で公正かつ相互的な貿易取引のための協議、新貿易協議とかFFRとか、いろいろな言い方をされていますけれども、そういう協議を日米間で開始するということで合意いたしました。早ければ六月の末にも最初の会合が開かれるというふうに聞いております。
資料に引用いたしましたのは、日米首脳会談後の記者会見からの引用であります。安倍総理の発言として、アメリカが二国間交渉に関心を持っている、それは承知はしているけれども、日本はTPPが両国にとって最善と考えているということを言われました。つまり、この新しく始まる日米協議でも、やはりアメリカに対してはTPPへの復帰を求めて粘り強く働きかけている、そういう意向を表明されたわけであります。
しかし、その直後に、これは私、テレビでその中継を見ておりましたけれども、トランプ大統領は発言されまして、参加国が、仮に我々が、アメリカが拒めないような非常にポジティブな、アメリカにとって都合のいい見直し案というものを出して、そういうディールを提示しない限りはTPPには戻らないと。中略しましたけれども、二国間協定を我々は望んでいるんだということで、あくまでも日米の二国間でのディールと。そういう言葉は出ませんでしたけれども、日米のFTAを結ぶことを目指している、そういったことを発言され、日米の間で、新協議に関しての思惑の違いといいますか方針の違いが明らかになったわけです。
他方で、アメリカのトランプ政権はTPP復帰の可能性を否定しているわけではありません。アメリカにとっていい条件が提示されればという条件付でありますけれども、一応そういう窓は開いております。
とはいえ、十一月の中間選挙に向けて、大統領としては、アメリカ側としては、有権者にアピールする、非常に、貿易赤字を減らすような提案を求めて圧力をかけてくることが予想されます。
そういう協議に当たって、TPP11が実現しているということは、アメリカ側に対して日本が従来からの立場をあくまでも主張して粘り強く対抗していく、そういう盾になると考えております。
最後のスライドをごらんください。八ページ目ですね。TPPの将来的意義ということで、二つ書かせていただきました。
今日の世界情勢は、自由貿易体制の持続可能性が非常に問われている危機的な状況にあると思います。トランプ政権の米国第一の通商政策、米中の貿易摩擦が非常に深刻化しておりますし、また、イギリスはEUから離脱するといったことで、自由貿易体制にまさに逆行する動き、保護主義的な動きが強まっているところであります。
そうした中で、TPP11は、自由貿易体制の堅持を世界にアピールしていく、そういう重要な意義があると考えています。
さらに、その先の世界に向けて、将来的な意義というものを強調しておきたいと思います。
一つは、TPP11の拡大であります。既にTPP11への参加意思を表明した国として、タイ、韓国、台湾、コロンビアそして英国がございます。また、もとになっているTPPへの参加意思を表明している国として、インドネシア、フィリピンがございます。TPP11が発効すれば、引き続いて、TPP11へのこれらの国を加える拡大交渉、そういうプロセスが始まるということが期待できます。
もう一つ、日本が交渉中の、TPP以外の広域FTAとして三つあります。EUとのEPA、これは交渉は妥結しまして、間もなく署名に至るという、実現に向けての動きが続いていると聞いています。それからRCEP、東アジア地域包括的経済連携がございます。また、日中韓のFTAもございます。TPP11に引き続いて、日本としては、こういった広域FTAの実現に向けて引き続き努力をしているということを期待しております。
こうした交渉がまとまれば、アメリカにとっては、TPPから離脱したということで、日本に対する貿易関係でますます不利に扱われるという、機会費用が増していくということになりまして、それがTPPへの復帰を促す強い圧力として作用するというふうに考えられます。
また、TPP11が拡大し、アメリカがもし復帰しということになれば、TPPが大きなアジア太平洋のスタンダードになるわけで、そこには中国も加入を考えざるを得ない、そういう状況がつくられていくだろうと思います。そうした観点から考えても、TPP11の早期発効、実現が重要であると私は考えております。
以上で私の説明は終わります。どうもありがとうございました。(拍手)