中嶋康博の発言 (内閣委員会)

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○中嶋参考人 おはようございます。
 本日は、このような発言の機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、農林水産省の食料・農業・農村政策審議会において、基本計画等の検討に携わってまいりました。そのような立場から、本日は、専ら農業、それから関連する農業政策にかかわる問題について、意見を陳述させていただきたいと思っております。
 平成二十八年の十月、一年ほど前に開催されたTPP特別委員会におきましても、実は意見陳述させていただきました。その際に私は、農林水産分野の対策において不安を払拭して将来の展望に結びつく期待形成の構築が大事であり、それが再生産可能な条件を形成すると申し上げました。そのことに加えて、影響を遮断するだけの単なる中和策では頑強な対策とはならない、再生産から更に一歩進め、農業が持続可能となるための対策とするべきだと主張させていただいたわけであります。
 この立場は、今回のTPP11の対策を考える上でも全く同じで、繰り返しになる点もございますが、御容赦いただければと存じます。
 まず、再生産可能な条件の確認であります。
 輸入枠の拡大やマークアップ引下げなどへの対策として、経営安定、安定供給のための備えが用意されておりまして、現段階で、この経営安定対策による収入補填や強い農林水産業の構築、体質強化対策による生産コストの引下げなどによって影響を遮断することで、現在の生産を維持できると私は考えております。
 なお、TPP12と比べて、11ではアメリカが参加しないことから、農林水産物の重要品目が再生産可能とするための対策のハードルは低くなっておりますが、もちろん、将来アメリカが参加した場合においても、12について検討したときの結論から、この対策は有効だと考えます。
 その上で、指摘したいことは、今回の対策では、重要品目が再生産可能であることを目指しているだけではなく、日本農業全体がこの後も持続可能な発展を遂げるための対策を展開しているということでございます。体質強化対策は、さきに述べたような、単にコストを削減するためのものではございません。攻めの農林水産業への転換を目指したものであり、既に三年間、補正予算を組んで実施されてきたところであります。
 TPP12の対策が示された後、農林水産業をめぐる状況変化の中で、一つの象徴的現象として指摘したいことは、国産農林水産物、食品の輸出が伸びていることであります。政府は、平成三十一年に輸出額を一兆円にするという目標を定めています。二十七年は七千四百五十一億円、二十八年は七千五百二億円と、やや足踏みした感がございましたが、昨年の平成二十九年は八千七十一億円となり、対前年比七・六%と再び増加し始めております。
 もう一つ、関連することとして取り上げたいのは、訪日外国人観光客の増加です。平成二十七年が千九百七十四万人で、二千万の大台の一歩手前でありましたけれども、二十八年にはそれを超えて二千四百万人、そして、昨年の平成二十九年は二千八百七十万人になっております。インバウンド観光は、目に見えて、日本社会や経済に大きなインパクトを与えております。
 私は、このことが近い将来に海外での日本食の拡大につながっていく、それが国産農林水産物、食品の輸出を後押ししていくのではないかと期待をしております。
 かつて、八〇年代から九〇年代に円高が大きく進んだとき、それまでにはないほど数多くの日本人が海外旅行に出かけ、さまざまな外国での体験をすることになりました。そのとき、現地の食に出会うことになったのだと思います。非常に多くの日本人が外国の本物の食を経験することになり、現在のSNS時代と同じというわけにはいきませんが、しかし、口コミでその経験は人々の間に広く伝播していったことは想像にかたくありません。
 肌感覚でありますが、そのころを境にして、海外料理を出す本物のレストランが国内でふえていったように思っております。そうした実体験が、我が国で豊かな多様な食が更に展開していった背景にあるのだと思うわけであります。
 ただし、その結果、その本物の料理を実現するべく、円高の後押しの中、海外の農産物や食品を輸入することになったのは、やや残念なことでありました。
 それはともかく、海外からの観光客の皆さんに我が国の食を売り込んでいただくような仕掛けをつくれないでしょうか。そして、それをきっかけに、TPPや日・EU・EPAの後押しで輸出を拡大できないかと思う次第であります。更にTPPへの参加国を今後ふやし、それらの国の旺盛な食市場をもっと取り込んでいただきたいと思っております。
 ただ、今までは、輸出をしようとハッパをかけても、なかなか進みませんでした。我が国には一億二千万人の豊かな人々が暮らし、食欲旺盛な巨大市場がそばにあるということならば、わざわざ海外に持っていくことはない、食は国内市場ファーストで対応するのがよいということであったと思います。
 しかし、ここ数年の努力が積み重なり、ついに風穴が開きつつあります。一旦ルートが開拓されると、その後の取引はスムーズになります。好循環の歯車が回り始めたのかもしれません。
 ところで、人口については、国内で減り始めているわけであります。一方、世界ではふえ続けているという非対称の状況にあります。このことにどのように対処していくのかが、我が国における現在の食料、農業をめぐる課題を解決していくポイントとなります。
 御案内のとおり、人口減少は、消費者、マーケットの縮小という消費をめぐる課題と、生産者、担い手の減少という生産をめぐる課題をもたらしております。
 三年前、閣議決定いたしました食料・農業・農村基本計画では、カロリーベースの食料自給率の目標を四五%と定めました。そこでは、まず、目標年次の平成三十七年までは、総供給熱量と呼ばれる需要量は、人口が減るなどの要因から、基準年に比べ一割ほど低下すると見込んでおります。一方、国産供給熱量と呼ばれる供給量は五%拡大する中で、この自給率目標というのは達成されると考えていたわけであります。
 この基本計画の中でも明記しておりますけれども、農地は、計画期間に、荒廃農地の再生にも取り組みつつ、それでも七%ほど減少すると見通しております。あわせて、担い手不足、人手不足、これは御案内のとおりであります。こういった中で五%の生産向上を達成するためには、作物構成の変更に加えて、労働生産性、土地生産性そして全要素生産性の引上げが欠かせません。そのための振興のあり方が基本計画で示されていたわけであります。
 このように発展していくために、その出発点である現在の生産の足場固めをすることが必要であり、今回の経営安定対策、体質強化対策が重要な役割を果たすということであります。
 その上で、生産性の向上を現実のものにしていくためには、イノベーションが絶対に必要であるということです。
 今や、生命科学、情報科学、ロボット工学の分野などで、基本計画策定時には明確に認識されていなかった新しい科学技術が次々に利用可能になってまいりました。それらが生産性向上に貢献してくると大いに期待しておりますけれども、現場でそれらの技術を導入するには、それに関する投資が行われなければいけません。
 しかし、我が国農業は、長い間、投資を減らし続けました。実質投資額を確認してみると、平成元年の農業機械、施設、動物、植物などへ向けた投資額を一〇〇としたとき、その後、毎年のように低下し続け、東日本大震災の起こった平成二十三年には半分の五五しかございませんでした。このところ若干持ち直しているわけでありますが、それでも六〇程度の水準であります。
 体質強化対策では、投資を促進するため、産地パワーアップ事業のような補助制度や金融、税制上の措置などがさまざま用意され、そのことは高く評価したいと思います。しかし、投資しやすい環境を用意したとしても、将来に対する確たる展望がなければ、最終的には農家の皆さんが思い切って投資には踏み切りません。生産振興は重要でありますけれども、加えて、バリューチェーンの構築、需要フロンティアの拡大という施策が決定的に重要になってまいります。
 御存じのように、平成七年あたりを境に国全体の食料消費が減り始めています。平成七年は年間の支出額は八十三・一兆円でしたが、二十三年は七十六・三兆円になり、約十五年の間に七兆円近くが蒸発してしまったわけであります。この時期の景気動向は、消費の低迷に影響を与えている可能性はあります。ただ、あわせて国民の摂取カロリーの動向を確認してみると、先ほど自給率のところで指摘いたしましたとおり、毎年低下しています。今後、人口が減少するので、国内の食料消費額は低下せざるを得ません。
 高齢化が更に進む社会において、健康食や介護食など新たな食のマーケットの開拓に取り組む動きがございます。そのような取組を成功させるためにも、核となる原料生産を振興するのは重要でありますが、それだけでは不十分です。原料農産物の集荷、流通、加工などを行う一次加工業を育成し生産性を向上させるため、業界再編や投資促進によるイノベーションの実現が求められます。また、新たな商品の創造には、規格や認証などソフトの開発も含めた多角的な取組が求められるわけです。そのような観点から、あわせて行われている農業競争力強化プログラムの意義を強調しておきたいと思います。
 しかし、人口の低下が加速することを考えると、国内での食料消費拡大の取組にも限界があることを自覚すべきであります。頑張った生産者がしっかりと売り先を確保するためにも、さきに指摘した輸出市場の開拓が必須となります。
 もう一つ留意しなければならないことは、今後、世界の食料需要が更に増大することです。世界の人口はふえ、途上国も所得をふやします。この状態が進んでいったとき、我が国はこれまでどおり必要な食料を海外から調達できるのか。一部の水産物では、既に買い負けがささやかれております。将来的には、輸入品を少しでも代替し、できるだけ国産品で国民の食料を賄える状態に向けて、生産性を向上させなければなりません。
 TPP11発効後に発動する経営安定対策と、先行して取り組まれている体質強化対策を組み合わせることで、農業と関連する産業を含めた食料の供給体制がより筋肉質な力強い産業へ生まれ変わるような取組が進むことを期待しております。
 そのためにも、体質強化対策が有効に機能しているかを常に確認しなければなりません。PDCAサイクルを回しながら問題を発見し、継続的に改善に取り組むことを希望する次第でございます。
 以上で私の陳述を終えたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 中嶋康博

speaker_id: 5478

日付: 2018-05-17

院: 衆議院

会議名: 内閣委員会