鳥畑与一の発言 (内閣委員会)
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○鳥畑参考人 静岡大学の鳥畑と申します。
お手元の資料を見ていただければと思います。
このたびは、本法案に対する意見陳述の貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
私は、一昨年十二月の参議院内閣委員会参考人質疑において、IRに収益エンジンとしてカジノを組み込むことでカジノを合法化するIR型カジノは、日本経済の発展と地域社会の安定と振興に逆行すると発言させていただきました。
その後のIR推進会議取りまとめ、各地公聴会での指摘、本法案の内容を通じて、私の懸念はより現実的なものとなっていると考えます。
まず、IR型カジノの前提条件つくりと言えるギャンブル等依存症対策基本法の問題点を二点指摘させていただきます。
この法案は、第一に、ギャンブル依存症対策を統一的に進める、独立権限を持った対策機関の設立が欠落しています。
シンガポールでは、IR設置を認めて真っ先に設立したのはNCPG、ナショナル・カウンシル・オン・プロブレム・ギャンブリングでした。
二〇一〇年のIRオープンに五年先行して設立されたNCPGは、カジノだけではなく、既存の全てのギャンブルを対象に、その危険性の啓蒙、宣伝のほか、依存症の早期発見や治療への誘導を関係機関とともに強力に進めてきました。
何よりも、NCPGが自己排除制度の実施を担当することで、カジノ企業任せの自己排除制度の他国と比較して、極めて高い実効性を実現しております。
お手元の資料、図表の方、一から四をごらんになってください。
シンガポールの自己排除制度の適用者は、本年三月末で三十七万人。そのうち、市民又は政府から補助を受けている低所得者層の部分だけを見ても、七万三千人近くとなっております。これは、シンガポールの成人人口三百六万人の二・四%に当たります。
ほかに、入場回数制限とあわせて、まずはシンガポール市民にカジノを体験させない政策が有効に機能しているのではないか、これが図表の四で示されていると考えます。
また一枚目にお戻りください。
ところが、シンガポールを一モデルにしながら、本法案は各省庁の縦割りでの推進体制のままです。
第二に、ギャンブル依存症を発生させるギャンブル業界に依存症対策費用を負担させる仕組みが欠落しています。
カジノを含めたあらゆる利用可能なギャンブルを通じて依存症が深刻化する危険性を考えれば、カジノのほか既存のギャンブル産業にも責任に応じた費用負担をさせるべきです。カジノからの納付金で依存症対策を進める場合は、カジノの社会的コスト負担を財政に転嫁することになり、財政改善への貢献に逆行するばかりか、国と地方自治体のギャンブル拡大の誘因となりかねません。
二、政府は、カジノ単独では刑法の賭博禁止の違法性を阻却できないが、IRの中に組み込んだカジノは違法性を阻却できるとします。
推進会議取りまとめでは、公共政策としてのIR又は新しい公益という概念で、民設、民営、私益のカジノが、あたかも、公益性を始めとした、法務省がこれまで示してきた八条件を満たすかのような主張がなされています。
その論拠は、カジノの高収益で、世界最高水準の国際会議場、展示施設や宿泊施設、観光の魅力増進施設、送客機能施設等が実現し、観光振興や巨大な雇用と税収の実現などの経済効果が生まれるというものです。カジノの収益性の水準が、IR型カジノの経済効果を左右する仕組みとなっています。
このカジノの高収益性は、低率のハウスエッジのもと、大数の法則等で収益を実現するカジノのビジネス手法の特性上、不可避的に世界最高水準の依存症対策と矛盾するものです。
IR施設面積の三%以下にカジノ行為区域を制限するということは、一・五ヘクタールのカジノで五十ヘクタールの施設の投資と運営費を賄うということになります。しかし、一・五ヘクタール程度のカジノでは、ラスベガス・ストリップ地区のIR型カジノ等の海外の事例を見ても、宣伝されている高収益を上げるのは非現実的です。
また資料の五から六をごらんになってください。
例えば、ラスベガス・サンズはベネチアン・リゾートホテルとパラッツォ・リゾートホテルをラスベガス・ストリップに持っておりますが、カジノ面積二万平方メートルで、合わせて、二〇一六年、四億三千九百万ドル程度のカジノ収益しか上げることができておりません。
またお戻りください。
高収益実現の障害としてカジノ面積の絶対面積規制が削除されましたが、IR施設面積比でのカジノ面積規制としたことは、カジノ面積を広げるために、ますますIR施設を巨大化せざるを得ないことになります。IR施設が巨大化するほど、カジノの高収益を高めるため、依存症対策を緩和していかざるを得なくなります。
今国会でも、巨大なMICE施設が国民負担なしに実現するとの説明がされていますが、ギャンブルの負けという国民犠牲の上に、MICE等のIR投資が回収され、運営されるというのが実態ではないでしょうか。
三、経済効果をカジノの高収益性に依存するIR型カジノのスキームが必然的に依存症対策を形骸化せざるを得ないことは、現実に本法案の内容で示されています。
入場料徴収は、入場料も含めた負け額を取り戻せると信じる依存症者の行動を促進することはあれ、抑制することはありません。
また、週三回、月十回という入場回数制限は、七十二時間連続カジノ漬けを容認することであり、年間百二十回の入場を認めるということです。入場回数を月一回から八回に制限するシンガポールの入場回数制限や、年間百回のカジノ入場で高リスク依存症者として扱う韓国の事例から見ても、依存症者に優しい回数制限と言わざるを得ません。
世界最高水準のカジノ規制と言うならば、そして大人の社交場としてのカジノを強調するならば、欧州におけるギャンブル継続時間やかけ金額の制限、事前にかけ金額を決定させるなどの規制を導入すべきです。詳細については資料の九をごらんになってください。
四、今回の法案は、公設、公営、公益のギャンブルのみ認めるというこれまでの方針を百八十度転換させるものです。しかし、カジノ事業者の私益追求を肯定しながら、その利益の一部が納付金や寄附等で社会還元されることをもってカジノ事業者の利潤極大化行動を公益性で粉飾することはできません。
例えば、世界最大のカジノ事業者であり、日本進出が最有力視されているラスベガス・サンズの場合、過去六年間で百八十七億ドルの利益を株主等に還元したことを誇っています。
資料の二枚目、図表十をごらんになってください。
ラスベガス・サンズのアニュアルレポートによりますと、過去六年間で純益百六十億ドルを上げていますが、それを上回る株主還元、百八十七億ドル、をしております。その株主は、アデルソン一族とファンドという構成になっております。
また一枚目にお戻りください。
その株主の七割はアデルソン一族であり、残るは投資ファンドであり、投資に対する利益率二〇%の実現を経営目標に掲げております。
また資料二枚目の方をちょっと縦にして見ていただければと思いますが、ラスベガス・サンズのグローバル成長戦略の中で、投資に対する利益率目標二〇%ということを掲げております。
またお戻りください。
犯罪組織との関係根絶をもって健全なカジノとされていますが、それは、カジノが利益極大化を目指す投資ビジネスの中に組み込まれたということであり、顧客の資産を費消し尽くすまでかけ続けさせるという略奪的ギャンブルと呼ばれるカジノのビジネス手法がより洗練されてきたということです。
しかし、その利益源はかけ金の負け額であり、そして、顧客を依存症状態に誘導するほど利益が拡大するのであり、人の不幸を最大化することで利益が最大化するビジネスは、目的の公益性とは全く相反するものです。
裏側をごらんになってください。
五、本法案では、マネーロンダリング対策でいわゆるジャンケットを認めない一方、カジノ事業者の特定金融業務を認めています。これは、顧客資産等の信用審査の上で信用枠を設定してかけ金額を顧客に貸し付けるものであり、顧客のかけ行為の継続時間の長期化や射幸性増大を通じて依存症の危険性を高めるばかりか、顧客の金融資産のかけによる喪失を促進するものです。このことは、カジノ合法化が日本の家計金融資産を標的としていることを如実に示しています。
家族みんなで楽しめるIRは、カジノ収益による価格サービス、コンプと言われておりますが、でさまざまな入り口から誘引した顧客をカジノに誘導して収益化するというのが実態であり、家族みんなのギャンブル漬けを促進することになります。
またお手元の資料二枚目、図表十二をごらんになってください。
ラスベガスの場合ですが、カジノ目的で来客したお客さんは比率としては少ないのですが、滞在中に七十数%の方がギャンブルを体験して、最も金を使うのはギャンブルであるということが示されております。
また一枚目にお戻りください。
このことは、より多くの家庭の崩壊や老後生活の破壊を導くものになります。
世界百二十数カ国にカジノがあり、そのカジノ市場が飽和化しているもとで、いわゆるVIP市場を始めカジノ市場は大きく縮小傾向にあります。
図表十四から十八をごらんになってください。ちょっと時間がございませんので、説明は省略をいたします。
カジノを目当てにした外国ギャンブラーの訪日は期待できず、各推計においても、カジノの外国人比率は、甘目に見ても大阪等の大都市部で三割、地方では一割から二割というのが現実です。
図表十九から二十をごらんになってください。
大阪でも三〇%ちょっと、図表二十では、北海道の場合、釧路では外国人比率一〇%、空港近くの苫小牧でも二〇%しか見込めないという推計が出されております。この中には、カジノ目的でない外国観光客のカジノへの誘導部分も含まれているのであり、その場合は、外国観光客の観光支出の置きかえでしかありません。
この外国人比率の低さとラスベガス・サンズの利益配分を踏まえれば、国内の富の海外流出の危険性は高く、資金の地域外と国外への流出により、地域循環型経済の衰退が進むことになります。何よりも、カジノ収益をもとにした価格サービスによって顧客を奪われる一方で、依存症の増大という社会的コストを押しつけられる地域社会はますます衰退していくことになります。国内客中心のカジノはいわゆる共食い、カニバリゼーションであり、カジノによる経済効果の裏側で、失われた消費力によるマイナスの経済効果が発生することになります。
また資料三枚目の裏側をごらんになってください。
そこに、図表二十一ということで、ギャンブルの勝った側、カジノ企業側ではプラスの経済効果は発生しますが、失われた消費によってマイナスの経済効果が生まれ、差引きでゼロということであり、これはアメリカでは置きかえ効果、カニバリゼーションと呼ばれておりまして、いろいろな地域社会への影響等調査でこれを評価するということはもう既に常識となっております。
六、IR推進法からIR実施法の審議において、我々は具体的にどのようなIRがつくられるのかわからず、正確な経済効果や社会的コストの推計を行うことができないままです。それは、申請自治体と民間事業者が共同作成する区域整備計画の提示をもって初めて可能になりますが、この段階での経済効果と社会的コストの評価、それを踏まえた地域社会の住民の意思決定の仕組みが欠落しています。
米国マサチューセッツ州では、受入れ自治体とカジノ事業者がホストコミュニティー協定を結んだ後に住民投票を実施することで、より正確な評価に基づいた最終決定権を担保しています。ニューヨーク州は、影響評価の添付をカジノ申請に義務づけています。しかし、本法案では、自治体との協議又は議会の議決のみが要件とされ、第三者機関による影響評価の仕組みが欠落しております。
国際水準のIRによる経済効果を刑法の違法性阻却の根拠としている法案では、地方でのIRにおいてかなり背伸びした投資計画を結果せざるを得ません。実際、地方の有力候補地とされている長崎IRや北海道IRでは、本法案を踏まえて、以前よりもかなり大きな投資規模が打ち出されています。しかし、過大な投資規模ほどカジノの高収益化が必要であり、地方では、より多くの地元住民のギャンブル漬けを余儀なくします。その危険性を回避するためにも、影響評価を踏まえた住民投票の仕組みが必要です。
最後に、IR型カジノがなくても、今、日本への国際観光客は大きく増大をしています。もはや、国際観光振興のためにカジノという立法根拠はなくなったのではないでしょうか。IR型カジノがなくても国際観光客が増大している今、そもそもカジノ合法化がIRにとって不可欠なのかという根本に立ち返った議論が必要であると訴えて、私の意見とさせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)