山岸尚之の発言 (環境委員会)

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○参考人(山岸尚之君) おはようございます。
 WWFジャパンの気候変動・エネルギーグループ長、山岸と申します。本日はこのような機会をいただきましたこと、改めて御礼申し上げます。
 WWFジャパンは一九七一年に設立されまして、世界百か国以上で活動を展開しているWWFという組織の日本のオフィスになります。私は、WWFの中で気候変動、いわゆる温暖化問題を担当する担当者として、本日、この適応法案についての意見を軽く三点ほど申し述べさせていただきます。
 早速中身の方に入っていきたいと思います。
 お手元に配付されております資料の、スライドで言いますと二番目、「改善および実効性確保に向けたポイント」という形で本日三点ほどお話をさせていただきたいと思います。これらの諸点は、現行の法案の改善点と、それから、もしこれらが実施されるときに是非留意していただきたいポイントとなっております。
 まず一点目は、パリ協定との連携をもう少し明示的にしてはいかがかという点でございます。この点について、後ほど詳しく述べさせていただきます。二つ目は、地域における実施を確保するための仕組みを整備する必要があるという点です。そして三番目が、緩和こそ最大の適応策であるというポイントです。これらについて、順を追って説明をさせていただきます。
 おめくりいただきまして、下のスライド、「パリ協定とは」というところを御覧ください。
 釈迦に説法ではありますけれども、パリ協定は、世界の百九十か国以上が合意をした本当の意味でのグローバルな国際合意です。その中では、地球の平均気温の上昇を二度より十分低く、できれば一・五度に抑えるという大目標を掲げて、そしてそれに向けて、今世紀後半に向けては世界の排出量を実質的にはゼロに持っていくという大きな目標を掲げています。業界関係者の中では、この目標のことをよく脱炭素化というふうに表現をしております。そして、そうした排出量削減の側面だけではなく、能力が足りない、若しくは経済的な支援が必要な国に対しては支援を提供するし、今日のテーマであります気候変動の影響に対して適応していくということも盛り込まれております。
 おめくりいただきまして、その中でも、パリ協定の中でも、適応というのはかなり高く位置付けられております。
 一つおわびがございまして、この五番目のスライド、「パリ協定の「目的」」の後に括弧書きで「二条b項」と書いておりますが、二条一項(b)の間違いです。おわびして訂正申し上げます。
 このパリ協定の二条というのは、パリ協定の目的を書いてある条項なんですね。そして、二条一項の(a)というところでは、先ほど言及をいたしました二度とか一・五度ということが書かれています。それと並列する形でこの(b)には適応が書かれているということをまず強調しておきたいと思います。それだけパリ協定自体の中でも適応というのは高く位置付けられている目標、目的であるということです。
 そのため、下のスライドに行っていただきますと、パリ協定全体の中でも適応に対して各国が取り組むということは非常に重視をされています。各国が、日本も出しております国別目標、通称NDCと呼んでいる目標の中には、適応を含めている国もありますし、それとは別の形で適応に関する報告書を出すということもパリ協定の中では言われております。これらをもって世界各国で適応を進めていくということが強調されているわけです。
 ただ、おめくりいただきまして、実はパリ協定が目指すものとそれから各国の取組の間には大きなギャップがある、つまり差があるということも同時に認識がされています。こちらのスライドにありますUNEPの報告書が示す大きなギャップというのは、緩和、つまり排出量削減におけるギャップではあるんですけれども、同様にして、適応分野においても、やはりまだまだパリ協定が目指すようなところと各国の取組の間には大きな差があるということが認識されています。
 このために、パリ協定の下では一つ大きな仕組みが導入されておりまして、その一つが五年ごとに各国の取組を強化していくという仕組みです。それを図示したのが八枚目のスライドになっておりまして、五年サイクルでの改善の仕組みというものです。
 この図の下の二本のラインに着目していただきますと、一つ目のライン、一番右側には「グローバル・ストックテイク」とありますが、これは要するに世界全体で取組を見直す五年のサイクル、そして、その下が各国ごとに目標を出す五年のサイクルになるんですけれども、この二つの、世界と国別の五年のサイクルが同時に連携することによって世界全体の取組を強化するという仕組みがパリ協定の下では導入されております。
 こうしたパリ協定の仕組みを見たときに、今回の法案の中では、これを書かれた皆様方の中には、既にこれに対応しようという意図が明確に見て取れます。例えば、適応の計画に関しては、いつとは書いてありませんが、必要なときに見直しをしましょうということが書いていただいておりますし、影響評価については五年をめどに見直すということを書いていただいております。
 ただ一つ純粋な疑問としてありますのは、余りこの法案自体の中にパリ協定そのものに対する言及がないということです。例えば、パリ協定の二条一項(b)の中に明確に適応が目標として掲げてあるにもかかわらず、この法案自体はそれに対して対応しましょうというようなことは余り書かれていません。国際社会の一員として、日本がこういった適応対策を、単に自国の中にとどまることなく世界の文脈の中でやるんですよということを強調する意味では、もう少しパリ協定との連携ということを法案の中でも強調していいのではないかということがあります。
 恐らく難しいのは、おめくりいただきますと、現在、パリ協定に関する詳細なルールを今年の年末に合意する予定で国連の方で交渉をしております。その意味で、まだ若干ルールとして定まっていないところもあるので難しい面はあるかとは思うんですけれども、そうしたパリ協定との連携、特に五年サイクルとの連携という点をもう少し強調してもいいんではないかというのが第一点目の私の意見です。
 続きまして、第二点目、「実施を確保するための地域の役割」についてです。
 この気候変動の適応法案は全体としては非常に良いものだと私どもは考えておりますが、やはり法律は一つのツール、手段であって、これが活用されないことには本当の意味で日本の国内で適応が進むということはないと思いますので、その意味で非常に大事なのが地域の役割です。
 おめくりいただきまして、二つここでポイントを強調させていただきたいと思います。「地域での人材・能力育成の重要性」と「他の分野の政策に「適応」を埋め込む」というポイントです。
 当たり前のことと思われるかもしれませんが、例えば、この法案の中でも、国立環境研究所さん、それから地域気候変動適応センターからの知見を提供するというようなことが書かれています。私は、この仕事を始めてもう十五年になりますけれども、一応、そしてその地球温暖化、気候変動という分野を専門にしているつもりではおります。その人間から見ても、国立環境研究所さんが提供されるような報告書というのはやっぱり難解です。
 それらをきちんとそしゃくをして地域の対策の中に生かしていくというのは実はそんなに簡単ではなく、恐らく、皆さんの方がよく御存じだと思うんですけれども、地域はもう既に抱え切れないほどのいろんな課題を抱えておられます。人口減少などはその最たるものだと思いますし、それに連なっていろんな課題に対処しなければならない。その中で、適応について追加でやってくださいというふうに言うのは、なかなか確かに厳しいと思うんです。いい人材を確保して、しかも、後に述べますように、ほかの分野との連携、つまり、縦割りを超えた連携を促進していけるような人材というのが非常に大事になってきます。これを育成するような仕組みというものがなければ、恐らくこの法案に基づいて良い計画ができたとしても実施がされていかないということになると思います。
 その意味で、もう一つ強調しておきたいポイントが、適応対策に関していいますと、適応法案の下で、国レベル、そして地方公共団体のレベルで良い計画が作られるということと同時に、恐らくほかの分野、例えば防災政策、農業政策、国土に関する政策等々の中でそれらがきちんと取り込まれるということが非常に大事だと思います。その意味で、法案の中の十五条で他の施策との連携ということをうたっていただいていますが、これは単に、例えば適応計画があります、それからほかの分野での何らかの何とか計画があります、これら二つの間で連携ができますというだけでは恐らく不十分だというふうに思っております。
 そのことについて、次のスライド、ハリケーン・サンディのスライドで少し説明をさせていただきます。
 ハリケーン・サンディは、アメリカを二〇一二年に襲ったハリケーンでして、このときの被害というのは、ニューヨーク市にかなり大きな被害を与えました。四十人以上の人たちがお亡くなりになられたりですとか、大規模停電を引き起こしたりとか、ニューヨーク市が想定していた以上の被害がありました。
 この被害があった後にニューヨークでもいろんな研究が行われまして、その中で一つ印象的だったのが、左下にそのハリケーン・サンディが引き起こした被害があった地域と、それから、そもそもニューヨーク市で準備をしていた洪水に関する想定の地図を比較したものがあります。
 細かい議論は飛ばして端的に結論だけ申し上げますと、百年に一度程度の洪水を想定していた地図よりもサンディが引き起こした被害の方が範囲が広かったんですね。こういうことを受けて、ニューヨーク市では、今後こういった洪水の被害等を検討する際には気候変動によって洪水等の規模や頻度が高くなるということを織り込まないともうできないねという気付きに至ったということが論文等でも書かれておりました。
 このように、単に適応対策が別個のものとして存在するということだけではなくて、防災対策であるとか農業対策であるとか、あるいは地域の医療・衛生対策、これからますます気温が高まれば熱中症にかかられる患者の方も増えると思います。そういった対策をするときに気候変動を加味すると、今まで以上に頻度であったりとか規模であったりといったものが増えるかもしれないということを考慮して書けるかどうかということです。
 これは、良い適応対策ができるかどうかということとは別に、その適応の考え方、気候変動を加味するという考え方がほかの対策の中に入り込んでいけるかどうかということが大事になってくる。これをできる人材というものを地域で確保していけるかどうか、制度的に確保していけるかどうか、縦割りを超えていけるかどうかというのがかなり大きな課題になってくるだろうというふうに思います。
 法律の中で具体的にどれぐらいそれを強く入れるのかというのは先生方のお知恵に頼るところだと思うんですけれども、単に連携という言葉だけで済ますのではなく、もう一歩踏み込めたら本当はいいのではないか、法律の中にそれが書いてあれば、地域でもそれを実施する際により強固に実施していけるのではないかというふうには思います。これが第二点目のポイントです。
 そして、第三点目、最後のポイントになりますが、「緩和こそが最大の適応」ということです。
 どれぐらい適応が必要になってしまうかというのは、究極的にどれぐらい排出量削減をしてきちんと温暖化を抑制できているかどうかにかなり依存します。その意味で、緩和をやるということこそが最大の適応対策であると言うことができます。その点でいいますと、日本は必ずしも緩和の方面で十分にできていないということを残念ながら申し上げざるを得ません。
 スライドの「日本の現在の温室効果ガス排出量削減目標」のポイントでは、二〇二〇年、二〇三〇年、二〇五〇年の日本の現在の目標を列挙しております。このうち二〇三〇年の目標というのがパリ協定の下で日本が誓約している目標ですけれども、これについては、国際的な研究グループ等から不十分であるという残念な烙印を押されてしまっています。残念ながら、我々WWFジャパンも、必ずしも十分ではないというふうに同意せざるを得ません。
 それを更に事態として悪化させるのが、昨今進んでいる石炭火力発電所の増設の傾向です。これが本当に全部建設されてしまいますと、難しい話を抜きにして、恐らく、今の不十分と言われる二〇三〇年の目標ですら達成が難しくなるであろうということが言われております。
 こうした未来とは違う未来を選択する必要があるのではないかという観点から、WWFジャパンとしては別のシナリオという形で研究報告等も出しております。これが十六枚目のスライド、「WWFの長期シナリオ」と書かれているシナリオの中で御紹介しているものでして、全て化石燃料を使わない日本社会を描いた一〇〇%の自然エネルギーのシナリオと、日本が二〇五〇年について掲げている八〇%の目標を達成したときのブリッジシナリオという二つのシナリオを検討して、少なくとも、技術的には、理論的にはこれら二つは両方とも達成できるという結論に至っております。
 それの中身については十七枚目のスライドでごく簡単に御紹介をしておりますが、まず、どれぐらい省エネでいけるのか、そして、原子力、化石燃料を段階的にフェーズアウトしていくということを想定して、残ったエネルギー需要を自然エネルギーで本当に賄うことができて、それがどれぐらいのコストになるのかということも実は検証をしております。
 それらを踏まえて、最終的には、十八枚目のスライドでお示ししているように、違った未来はあり得るんですということを一応は示しております。こうした形でお示ししていますように、違う未来を、より強固な緩和の政策を目指すことによって必要とされる適応の度合いというものも引き下げていくことが将来的には可能だというふうに考えております。
 その点で考えますと、今回の適応法案というのは適応の面ではすばらしいものだとは思いますが、もう一つ大事なのは、温暖化対策の緩和についてより強固な法律を作るということです。現在、温対法、いわゆる温暖化対策の推進法がありますけれども、ここでもう一度原点に立ち返って、これだけ国際的に重要な対策であれば基本法を制定するということも必要ではないかとWWFジャパンとしては考えております。これを最後のポイントとして申し述べて、まとめとさせていただきます。
 どうもありがとうございます。

発言情報

speech_id: 119614006X01020180531_005

発言者: 山岸尚之

speaker_id: 9457

日付: 2018-05-31

院: 参議院

会議名: 環境委員会