兵頭慎治の発言 (国際経済・外交に関する調査会)

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○参考人(兵頭慎治君) ただいま御紹介いただきました防衛研究所の兵頭と申します。
 この度は、参議院の調査会にお招きいただき発言をする機会を与えていただきましたことを、関係の先生方を始め皆様方に御礼申し上げます。
 私は防衛研究所という組織に属しておりますが、これは防衛省の一組織ではありますが、国立の唯一の安全保障シンクタンクということでございまして、東アジア全般の地域情勢、その他安全保障について研究をさせていただいております。国の研究機関に属しておりますが、今日は一ロシア研究者の個人的な見解ということでこれからお話をさせていただきます。
 お手元に配付資料がございます。これに従って御説明いたします。
 今日お話しする内容でございますけれども、まずは、来月にロシアで大統領選挙、これが予定されておりますので、次のプーチン政権、果たしてどういう状況になるのか、そして、そのプーチン政権と今、日本は領土問題も含めて平和条約締結交渉を進めているわけですが、この辺りの見通しについて私の研究者としての見解をお話し申し上げたいと思います。
 その前に、ちょっとロシアを我々日本の側から見る上で、なかなかロシアというのは捉えどころがないというところがございまして、なぜ捉えどころがないのかというところをちょっと簡単にお話をしますと、一つは、ロシアというのは世界最大の陸地面積を引き続き誇る国でございまして、モスクワというのは地理的にヨーロッパに属しておりますけれども、日本に近いウラジオストク、ロシア極東というのはアジアでございまして、ヨーロッパなのかアジアなのか、あるいはどちらの地域からロシアを見るのかによって大分この国の見え方が違ってくる部分がある。そして、ロシア自身は、ヨーロッパでもアジアでもない、自分たちはユーロアジア、ユーラシア国家であるという、こういうことをまたアイデンティティーとして主張する、そういう国でございます。
 それからもう一つは、非常にこのロシアというのはアンビバレントなところがございまして、経済規模でいうと実はGDPで韓国程度しかないと。そうすると、国際社会でこの程度の経済規模であればそれほど重要な国じゃないじゃないかという過小評価もあるんですけれども、他方で、核戦力も含む膨大な軍事力、これを有しながら、時としてそれを使うことがあり得る。それが御記憶の二〇一四年のクリミア編入であったり、シリアへの軍事介入であったりするということでございまして、非常にアンビバレントな、どの部分を見て評価するのか、ここも非常に見方が分かれるところでございます。
 それから最後に、日本からロシアをどう位置付けるのかということでありますが、冷戦時代は非常にクリアだったわけです。ソ連というのは日本の安全保障上の最大の関心であったということでありましたが、冷戦崩壊、ソ連崩壊後、果たしてロシアというのを日本の安全保障上どう位置付けていくのか。そこも、敵ではないんだけども、だからといって完全に価値を共有する味方かというとそうでもない、この辺りも非常に曖昧な状況が続いている、ここがロシアの分かりにくさではないかと思っております。
 それでは、来月三月十八日のロシア大統領選挙についてまず触れさせていただきます。
 もうこれはメディア等で御案内のとおり、現職のプーチン大統領、六十五歳でございますが、再選が確実視されています。ロシアの世論調査におきましても、プーチンの支持率は七割以上、高支持率でありまして、プーチンを含めまして八名の立候補者が出ていますが、事実上無風選挙ということで、プーチンの勝利、これが確実視されているわけであります。
 ただ、その三月十八日、これ何の日かといいますと、四年前の実はクリミアを編入した日でございまして、この日に大統領選挙をあえて設定しながら、ロシア国内でナショナリズムを意図的に鼓舞しながら、やはりプーチンじゃないと駄目だろうという選挙キャンペーンをやっているということであります。
 結果はプーチン勝利で見えているので安泰ではないかというふうに思われるかもしれませんが、実は今回の選挙というのは、プーチンにとっての国民からの信任投票という、こういう側面があります。プーチン陣営は投票率七割、得票率七割を課題に掲げていまして、これがクリアできると過半数の国民から信任を得たということになるわけであります。ただ、過去の得票率で七〇%を超えたのは一度しかプーチンございませんし、投票率に関しても大統領選挙で七割超えたことがないということで、実はこれはかなりぎりぎりの厳しい目標設定でもあるということであります。なぜ、プーチンがこのような目標設定するかというと、次のプーチンの六年間の政権基盤の強度、これに今回の選挙結果というのが直結するということになります。
 プーチン、勝利しますと二〇一八年から二〇二四年まで、ロシアの大統領任期六年ですから、まあ、プーチンさんは二〇〇〇年に大統領になって一度首相は退いていますが、事実上の最高実力者であって、何と二〇二四年まで二十四年間、ほぼ四半世紀ロシアのトップに君臨するということになりますが、しかしながら、次の六年間で事実上プーチン政権は最後であるというふうに見られています。
 これを我々、二〇二四年の壁というふうに言っていますが、なぜ次の六年間、最後の任期になるかといいますと、ロシアの憲法規定上、三選は禁止されています、三期連続が禁止されています。ですから、これに従えば次回六年で最後ということになりますし、ただ、ロシアの場合は憲法修正もあり得るんじゃないかという、こういう指摘もあろうかと思うんですけれども、実はプーチンさん、今六十五歳でありますけれども、何とロシアの男性平均寿命というのは六十七でありまして、二〇二四年までプーチンさんが大統領任期満了して七十一歳、そこからもう一回出馬して六年というのはちょっとやっぱり考えにくいということで、多くの識者、それからロシアの中でも次が事実上プーチン政権最後というふうに見られます。
 また、プーチンさんが長年大統領をやっていますので、国民からはちょっとプーチン疲れのようなものもありますし、潜在的な反プーチン的な動きもロシアの中では見られると。ただ、主要国のリーダーの中で二〇〇〇年から国のトップを務めているという、これはやはりプーチンさん以外にほかに見られないということになりますので、主要国のリーダーの中では、やはり個人的な政治家としてのリーダーシップというのは優位性が残されるのではないかというふうに見ています。
 そうなりますと、次の六年間でプーチンさんのレームダック化がいつ始まるのか、実はこれが今後、日ロ関係、平和条約締結交渉を進めていく上で非常に重要なポイントになります。やはり最終的に政治決断、これをプーチンさんに行ってもらうということからしますと、いつ頃になるのか。これも今有識者の間でいろいろ議論されていますけれども、やはり六年間の後半三年は緩やかなレームダック化、ポストプーチン体制に向けた内向き傾向が強まるのではないかという見方が多いと見られますので、やはり二〇二一年頃、この辺りを目指してロシアとは交渉を進めていく必要があるんではないかと思っております。
 一枚おめくりいただきまして、続きまして、ロシアの世界観というのはどういうものかということなんですけれども、冷戦時代の二極、それからアメリカの一極世界というのは事実上終わって、多極世界が到来したというのが現在のロシアの世界観、あるいはプーチンさんの世界観ということになります。
 その中で、多極世界の中でいかにロシアが存在感を示し、そして一つの極として台頭していくのか、これがプーチンさんの外交課題、戦略課題というふうに言えると思います。この観点から、実はその多極世界、当然これはアメリカと中国も極の一つというふうにロシアは見ているわけでありますが、相対的にアメリカから中国にパワーシフトが展開していくというふうにロシアも認識しておりますので、やはり今後ロシアもアジアを重視せざるを得ない。こういうアジア重視、ロシアの東方シフトというのはこれからも更に強まっていくというふうに考えております。
 こうした中、次のプーチン政権の外交課題というのは何なのかということを考えていきますと、これはプーチンさんの本音の部分、まあ私が推測するところでありますけれども、行き過ぎた反米親中路線というのをいかに次の六年間で修正していくことができるのかというのがプーチンさんの本音の外交課題ではないかというふうに私自身は見ています。
 実は、この米ロ関係、ロシアゲートも含めて、非常にもう改善の兆しがないほど悪化してしまっている。これはロシアからしても非常に行き過ぎであって、何とかしてこの米ロ関係をもう少し改善していきたい、多分これが本音ではないかと。今選挙キャンペーンやっていますから、反米レトリックを前面に出しながら選挙戦っていますけれども、実はこれ以上やってしまってもどうかという思いがプーチンさんにあるのではないか。それから、中ロ関係に関しても、表面的には政治的蜜月というふうに言われていますが、しかしながら、ウクライナ危機後、国際社会でロシアが孤立する中、必要以上に中国傾斜、中国依存が進んでしまったというふうにプーチンさんは思っているんではないかというふうに私は推測をしております。
 この中ロ関係ですけれども、GDPでいいますと、中国の経済規模というのはもうロシアの六倍でありますので、もう対等な関係は失われつつあって、上下関係、このままいくとロシアというのは中国のジュニアパートナーになってしまう、更にいくと軍門に下る。それを本当にプーチンが腹をくくって覚悟しているかというと、私は、多極世界の中でロシアが生き残っていこうとした場合、やっぱり中国に更に依存するというこの選択肢はロシアにはないのではないかというふうに見ています。
 しかしながら、この米ロ関係の悪化、それから中ロ関係をよりロシアに有利な形で展開しようというふうにプーチンさんが考えていたとしても、なかなか今の状況からするといずれも難しいかなというふうに私自身は見ております。さらに、ロシアはウクライナ、それからシリアに介入をしまして、最近ではちょっと北朝鮮問題にも少しロシアが影響力を発揮しようという、こういう動きが若干見られるわけでありますけれども、しかしながら、ウクライナあるいはシリアに見られたような形で、ロシアが力を使った形で何か国際社会に介入する、その矛先というものはちょっと北朝鮮では難しい、それ以外にも、ちょっとロシアにとってもう見られないんじゃないかというふうに私自身は見ています。ですから、次の六年間のプーチン政権、対外強硬路線、今まで進めてはきたんですけれども、次の材料というのがなかなか見当たらないような感じがしております。
 次のページでございますけれども、最近、日ロ関係あるいは北方領土問題などで注目されていますのが、北方領土、国後、択捉島でのロシアの軍備増強、これもございますが、実は昨年の秋に、千島列島の中間地点、松輪島といいますけれども、こちらにロシアが新たな軍事拠点を設置し地対艦ミサイルを置くという、そういう報道がロシアの中で流れてきています。全体としてその千島列島、さらには千島列島の内側のオホーツクの軍事的あるいは戦略的な価値というのがロシアにとって高まりつつあるのではないか、それが極東のロシア軍の動きを見ていると観察されるということでございます。
 ただ、それが一体何を意味しているのか、あるいはどの国を念頭に置いてロシア軍がこの地域で軍備増強しているのかということでありますけれども、そこにロシアの影響圏的発想という地図、これを御用意しておりますが、ロシアは最近、北極海とかオホーツク海、ここを戦略的に重視する姿勢、これを強めている中、この両地域での軍事力増強というのを行っています。
 私の研究成果からしますと、ロシアは北極海とかオホーツク海というのをロシアの影響圏あるいは縄張、こういうふうに見ているところがありまして、やはりここで一つ外国の軍事的影響力を排除したい地域というふうに見ているのではないかというふうに分析をしております。
 その中で、北極という話になってきますと、実はロシアにとって今一番その北極海の問題、北極海航路の問題、ロシアも非常に関心を持っていますが、一番北極海に向かって進出している国はどこか。北極海に向かう場合はオホーツク海を通って千島列島を横切るんですけれども、実は中国であるということであります。ロシアは自らの安全保障、軍事政策に中国ファクターがあるということは表向き言わないわけでありますが、どうも中国を念頭に置いた軍事的な動きというのが、やはりロシア極東の軍事の動きを見ていますと一定程度あるのではないかというのが私の分析でございます。
 そして、次のページでございますけれども、最近、ロシアは北方領土問題に関して、安全保障面から様々な発言をこの一年間投げかけております。
 例えば、ロシアの安全保障会議のトップのパトルシェフという方は、二〇一六年十一月でありますけれども、島が引き渡された場合、米軍駐留があり得るのかという、こういう発言がありました。そして、十二月にプーチン大統領が訪日されたときも、共同記者会見の席上で、この地域というのは二つの大きな海軍の基地があって、ロシアの艦船が太平洋に出ていくんだという、こういう発言がありました。これは、国後島と択捉島の間を通っている国後水道、これを意味しているんだろうと思いますが。さらに、昨年六月の日本のメディア等との会見におきまして、島の非武装というオプションもあり得るという発言もされておりますし、また、十一月においては、日米安保条約が交渉にどのような影響を及ぼすのか見極めなくてはならないと、この課題解決は大きな作業で、一年間では終わらないかもしれないなど、ロシア側はこの領土問題というのは軍事、安全保障の面から議論をしようという、その動きが見られるわけであります。
 どちらかというと、日本側は今まで経済協力、資源協力、それとこの領土問題という、こういう発想がありましたが、ロシアの関心からすると国後、択捉島というのはロシア軍が駐留しておりますし、やはりこの問題というのはロシアにとって軍事、安全保障の問題であると。引き渡した場合に、それが安全保障上どういう取扱いになるのかという、この懸念をストレートに日本にぶつけてきているということであります。
 今後は、やはりこの問題、ロシア側の懸念をどう払拭するのかも含めて、安全保障の面から更に議論をしていく必要があるのではないかというふうに考えております。
 最後に、日本側の対ロ戦略といいましょうか、対ロ政策の根幹が、二〇一三年十二月に日本が史上初めて策定しました国家安全保障戦略と呼ばれる国家戦略文書の中に記載されております。この中では、東アジア地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、安全保障及びエネルギー分野を始めあらゆる分野でロシアとの協力を進め、日露関係を全体として高めていくことは、我が国の安全保障を確保する上で極めて重要であるという、こういうことが実は書かれているということであります。
 ロシアとどう向き合うのかというのは、以前であれば日ロ関係だけを切り取って見ているところがありましたが、最近日本の視点というのが、より東アジア全体の安全保障環境、それが厳しさを増す中、少なくともロシアとは平和条約を締結して関係をより正常化しておいた方が望ましいのではないかという、東アジア全体を俯瞰しながらロシアとどう向き合うのかという、こういう発想に移ってきたのだろうと思います。これは非常に望ましいことではないかと思います。
 次のページ、おめくりいただきたいんですけれども、実はロシア側も、程度の差はあれ、最近こういう発想を見せ始めています。
 お示ししておりますのは、二〇一六年十一月、ロシア連邦の対外政策概念と呼ばれる外交政策、戦略を規定した文書なんですけれども、ここで日本についてこういうふうに書いてあります。アジア太平洋地域の安定、安全を確保するために、日本との善隣関係を建設し、互恵協力を実現するための方策を継続するということで、今までであると、どちらかというと、日本だけ切り取って経済協力あるいは平和条約締結交渉という表現だったのが、アジア太平洋全体の安定、安全、これを考えたときに、日本との善隣関係、これを建設するということがロシアにとっても重要だという表現がここ一、二年見え始めてきていて、どうもロシアもそういう感じで見始めているというのが私の認識でございます。
 つまり、アジア太平洋全体の安全保障、これは朝鮮半島の問題もあります、中国の問題もあります、それからアメリカの相対的な影響力低下の問題もありますが、この中でもう少し日本とロシアというのは距離を縮めておいた方がいいんじゃないかということに関しては、どうもロシア側もそういう発想を持ち始めているような感じがするわけであります。
 最後、結論でございますけれども、今後の日ロ関係、プーチン政権、次のプーチン政権の対日アプローチということでございますが、ロシアの相対的な日本重視というのは強まるのではないかというのが私の分析でございます。
 その背後には、多極世界が到来していて、そして行き過ぎた反米親中路線というのを修正していきたい、これはプーチンの本音の部分。それと同時に、やはり実利的、戦略的にもロシアというのはアジア重視、東方シフトを極めなくちゃいけない。対中依存、このまま依存をエスカレートしてしまうと完全にロシアは中国のジュニアパートナーになってしまいますが、そのバランスをうまく取るためにも、ロシアにとってインドとか日本との関係をやはり重視せざるを得ない、そういう側面があるんではないかという気がしております。
 今後、日ロ間でどういう対話をすべきかということなんですけれども、やはりヨーロッパサイドからするとクリミア編入などがあったロシアということになるんですけれども、やはり我々東アジアからロシアを見る者からすると、ロシアに、国際社会でより建設的な役割を果たすために、ロシアと更に安全保障面での対話、これを進めながら、東アジアの安全保障問題、北朝鮮問題、それから中国の問題、こういうところで両者の認識をより近づけていく、こういう努力をしていくべきではないかというふうに考えています。
 つまり、アジア太平洋全体の中でそれを安定化させるために、日本とロシアというのはもうちょっと協力した方がロシアにとってもそれは戦略的にメリットがあるんではないかという、この問いかけをしていくことによって、何とか平和条約締結あるいは領土問題交渉の前進、これにつなげていくことができるのではないかというふうに考えております。
 ちょうど二十分になりましたので、以上で冒頭の陳述を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 119614305X00320180221_003

発言者: 兵頭慎治

speaker_id: 8561

日付: 2018-02-21

院: 参議院

会議名: 国際経済・外交に関する調査会