石戸光の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(石戸光君) 千葉大学の石戸でございます。
本日は、お招きくださいましてありがとうございます。
私は、経済の観点から、配付させていただきました資料に基づいて簡潔にお話しさせていただきます。
では、資料の一ページ目の方を御覧いただきます。
多国間協力枠組みの在り方ということでございますけれども、貿易自由化による相互依存の高まりといいますのは、経済的な厚生水準が上昇する、つまり食べたり飲んだりといった、そういったものの消費財の多様化及び廉価化ということと同時に、域内の安全保障の度合いを高めるという効果を持つのではないかと。そして、すなわち、多様性に満ちたアジア太平洋地域の平和と繁栄というものを実現していく上で、貿易面での地域協力は経済的そして安全保障的に非常に大きな意義を持っているということでございます。
ここで、いわゆる貿易戦争という最近見聞きする言葉でございますけれども、こちらの生産、分配、消費、生産、分配、消費と延々続くグローバルな経済循環のうち、自国による生産ということを短期的に確保しようという行動であって、こちらはポピュリズム的で大衆にいっときアピールはいたしますけれども、国家間での競合が必然的に起こってまいりますので、また、比較優位ということを度外視して不得意なものも含めて抱え込もう、生産しようと、そうしますと結果的に生産、分配、消費というものが連鎖的に縮小してしまって長期的には勝者はいないということではないかというふうに拝察いたします。
アジア太平洋地域の経済的な構造や課題、既存の多国間協力枠組みの成果や限界ということでございますけれども、経済的な構造といたしまして、アジア太平洋地域、特にAPECというもので見てまいりますと、域内貿易の規模はEU及びNAFTAを大きく上回っているということでございます。
日本と幾つかのASEAN諸国の貿易、投資には、二国間FTAの存在というものがプラスの影響を与えているという点が指摘できるかと存じます。他の国々の締結しているFTAを考慮いたしました場合にも、同様に、FTAというものが発効している存在というものが貿易量にプラスの効果をもたらしているという点が成果ではないかというふうに思われます。
しかしながら、二国間FTAが複数存在している、乱立しているというような状況がアジア太平洋地域の現状でありますため、貿易ルールが錯綜しかねないということが限界でないかというふうに思われます。そして、物品に係る関税の引下げによるアジア太平洋地域の産業集積ということも一種の頭打ちということになってまいりますでしょうから、二国間FTAでは多国間の部品相互調達といったことにも限界が生じてまいります。
ですので、より実効性のある多国間協力の実現ということが、要は線から面への転換、すなわち二国間FTAの林立ではなく、TPP、RCEPを始めとしました多国間の貿易協定の締結ということが政策的に極めて重要となっておりますということでございます。
そして、日本政府様が進めておられますインド太平洋戦略ということからいたしましても、TPP及びRCEPに参加する諸国間を結ぶ、これはシーレーンの確立、安定確保といったことというふうに思われます。そして、競合しがちな状況をなるべく協調的な形に移行させていくための方策といったものが課題になってまいります。そのためには、非国家間のやはりサブリージョナルな形での協力といったものも必要となってくるように思われます。
我が国が果たすべき役割と具体的取組についての提言でございますけれども、TPPやRCEPなどの貿易、投資の枠組みや関連政策のみならず、より幅広い視点で様々な分野の協力について検討するために、貿易自由化と企業の規模、生産性に関するメリッツ効果といったこと、それから空間経済的効果、そしてサービス経済、この三つから簡単に提言させていただきたいと存じます。
提言一といたしましては、貿易自由化と企業の規模、生産性に関するメリッツ効果。こちらはハーバード大学のマーク・メリッツ教授が提唱しておられる非常に学界的には有力な理論となっておりまして、貿易費用が低下し、そして貿易の自由化といったものが進展いたしますと、メリッツ教授が提起しましたように二つの効果が生じてまいりますと。
一つは、貿易費用の低下のために輸出が容易になる。輸出のための閾値といったものが下がり、これまで輸出できなかった低い生産性の企業の一部も輸出を行えるようになります。もう一つは、国内で活動するために必要な生産性水準、参入閾値といったものが上昇していく。そのことによりまして、生産性の低い企業は、ただ手をこまねいているということですと撤退を余儀なくされるということでございます。
ですので、理論上は、輸出を行えるような生産性の高い企業が雇用者を増やすということで実質賃金の上昇が生じ、十分な賃金を支払えない生産性の低い企業の退出というものが促されていくということでございます。貿易自由化の結果として、相対的に生産性の高い企業のみが生き残るということになってまいります。労働市場といったものに仮に摩擦がないということでしたらば、高い利潤を上げる生産性の高い企業に多くの労働者が集まっていくということになる。それはプラスの効果ということになりますけれども、このため、経済全体としては、生産性が上昇し、そして厚生も上昇すると、そういったことでございます。
ただ、企業の海外進出の規模分布といった現状を見てみましても、やはり大規模な企業が海外進出ということに偏っておるということでして、その点の政策的な是正が課題ではないかというふうに拝察いたします。FTAにおける中小企業に関する章ですとか経済協力に関するチャプターをより具体化するための域内協力措置といったものを官民連携で拡大させていくことが重要と考えられます。
提言二といたしましては、TPP、RCEPなどFTAのもたらします空間経済的効果。こちらは日本の藤田教授ですとかポール・クルーグマン氏らによる研究成果ということでございますけれども、FTAによる貿易費用、広義の輸送費といったものが低下することによりまして、効率的な経済活動は、明治以降ということですと、分散していたものが大都市集積型になりました、これが、更に輸送費といったものが低下いたしますと再び分散型となってくる、これが空間経済学が理論的に予測していることでございます。
アベノミクスで言います地方創生、つまり、地方で暮らす人たちが幸せを実感できる社会へというためには、恐らく経済活動が再び分散化することが重要であり、TPP及びRCEPを通じた国際的な政策においても、この再びの分散効果をもたらすための協力が重要ではないかと考えられます。
あわせまして、旧共産圏といいますか、ミャンマーですとかカンボジア、ラオス及びベトナムのインドシナ半島及び朝鮮半島におきましても、この空間経済的な効果といったものは非常に重要な役割を果たすのではないかというふうに拝察いたしております。
二十世紀の前半に、アジア太平洋においては複数の小さな港と複数の都市が分散的に存在していました。その後、広義の輸送費の低下によりまして、シンガポール、香港など少数の貿易港が隆盛してまいりました。今後は更に分散的なシーレーン、産業集積の開発といったものが効率的となってまいりますので、日本及び中国、ASEAN加盟国が南シナ海でも調和して目指さなければならないものではないかと。アジア太平洋地域の多面的な協力は、協働といったことを通して平和構築の精神を育てるのに役立つのではないか。TPP及びRCEPの規定内容を実効性あるものにするためにも、このような具体的な案件を積み重ねていくべきではないかというふうに思われます。
APECといったものが打ち出しておりますFTAAP、アジア太平洋自由貿易圏、こちらがTPP及びRCEPといったものを経由させながら最終的に実現させていくということも中長期的には念頭に置くべきではないかというふうに思われます。
提言三というところでございますけれども、サービス経済という視点からでございます。サービス産業といったものは、生産性向上及びFTAによるサービス貿易自由化のための施策といった観点で、非常に注目すべき、そして手厚く政策がなされていくべきではないかといったことを提起させていただいております。
中国におきましても、物といった分野から事、つまりサービスによる付加価値上昇といったことが、日本へのインバウンドの観光という面におきましてもシフトが起きているということでございます。
地方の観光資源もサービスとして経済価値へと転化させていくという必要がございますでしょうということであります。中小企業の多くが存在しますサービス分野、その分野での貿易自由化によりましてコンパクトな集積地帯を分散的に立地させていくことが、平和的なアジア太平洋の経済活動にとってもやはり重要ではないかというふうに思われます。
小括とさせていただきますけれども、中国の入っておりますRCEPは、アジア太平洋地域における信頼醸成と永続的平和の実現に向けた取組と課題ということに大きく関連、もちろんいたしております。現在、ASEAN市場における中国の優位性が非常に目立つということでございまして、国際河川であるメコン川流域を総合的に開発するための話合いのメコン・フォーラムといった場でも、南北回廊、中国が中心で雲南省から伸びるそういった回廊を推進するような中国の姿勢が非常に目立っております。
けれども、技術的な面では、中国は依然として日本にある意味依存といいますか、注目をしているのではないかと。例えば、宝鋼集団など中国の国有企業の主導する鉄鋼生産ですとか環境対策技術、それからADBによる開発金融のノウハウなどは中国が主導いたしますAIIB及び一帯一路に大きく関連いたしますけれども、日本の経験から学び取ろうという姿勢が現場感では感じ取れるということでございます。
RCEP交渉は、ASEANセントラリティーといったことを建前としております。そして、ASEANは合意形成といったものがコンセンサスベース、いわゆるASEANウエーでありますために交渉ペースがえてして遅くなりがちではありますけれども、RCEPにおける例えばサービス貿易章は、分野や提供形態をあらかじめ除外せず、WTOサービス貿易に関する一般協定、GATS、それからASEANプラス1のFTAによるサービスの約束、こういったものを基礎として形成されるといったことが現状でございます。
ですので、日本の主導により設立されましたERIA、東アジア・ASEAN経済研究センター、インドネシアのジャカルタに所在しておりますけれども、といった研究機能ですとかの更なる活用によりまして、ASEANを後方支援しながらサービス貿易の自由化を進めるということも重要な課題ではないかというふうに拝察いたします。
さらには、日本が主導してハード面、道路、港湾などのインフラ面ですとか、それから、上物のソフト面、いろんな技術を用いた制度的な措置、ソフトの双方で、アジア太平洋地域、インド太平洋域も含めまして、における支援といったものを行っていくべきと。環境面では、例えば初期費用の安さということではなくライフサイクルコストといったことが中長期的には重要だ、こういったソフト面での価値形成といったことも重要ではないかと思われます。
急速に発展する中国が二〇一三年に開始しました一帯一路のイニシアティブは、中国、アジア、ヨーロッパ、アフリカ及び経済移行国を更に結び付け、新たな貿易ルートの確立を目指しております。このイニシアティブは、輸送コストの削減、貿易の拡大と関係する全ての国への新しい市場開拓、ASEAN加盟国の発展を促進するのに役立つとされております。
これらのRCEP関連の取組により中国と連携を実質的な活動を通して目指しながら東アジアの経済的な一体化を高めていくということが、この米国によるTPPへの何らかの回帰といったものをより平和的に促していくことに貢献するのではないかと拝察いたします。
アジア太平洋地域の分散型の経済システムの構築は、これまでその国の地場企業としてのみ操業してきたサービス関連を含みます中小企業のグローバル化を後押しし、日本は多国間協力枠組みとして分散的、後方支援的な地域協力を目指していくということを明確化した上で、その政策姿勢をパブリック外交としてあらゆる機会に発信していくべきではないか、このように拝察しております。
私からは、一旦、以上でございます。ありがとうございました。