吉原祥子の発言 (国土交通委員会)
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○参考人(吉原祥子君) 本日は意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。公益財団法人東京財団政策研究所の吉原と申します。私どもは、民間独立の政策シンクタンクとして様々な政策課題について研究活動を行っております。その中で、私は日本の土地制度の課題について調査研究を行っています。本日は、これまでの調査結果に基づき、今回の法律案について所見を申し述べます。
近年、災害復旧や耕作放棄地の解消、空き家対策などにおいて、所有者の所在の把握の難しい土地が地域の取組の支障となる事例が各地で表面化しています。これがいわゆる所有者不明土地問題として広く社会の関心を集めるところとなっております。私ども東京財団政策研究所では、この問題の実態を定量的に把握をするため、二〇一四年秋に全国の自治体の税務部局を対象にアンケート調査を行いました。
所有者の所在の把握が難しくなる大きな要因として、相続未登記の問題があります。そこで、アンケート調査では、相続登記が行われないことで固定資産税の納税義務者、すなわち土地所有者を把握をする上でどのような影響が出ているかを調べ、間接的ではありますが、そこから所有者不明土地問題の実態把握を目指しました。全国八百八十八自治体より回答を得まして、回答率は五二%でした。
まず、これまで土地の所有者が特定できないことによって問題が生じたことがありますかという質問に対しては、六三%に当たる五百五十七自治体があると回答いたしました。具体的には、固定資産税の徴収が難しくなったが最も多く、次いで老朽化した空き家の危険家屋化、土地が放置され荒廃が進んだという結果となりました。
次に、死亡者課税について尋ねました。死亡者課税とは、相続未登記の事案についてやむなく死亡者の名義のまま課税を続けるものです。本来望ましくない課税ですが、一六%に当たる百四十六自治体が死亡者課税ありと回答いたしました。死亡者課税なしは七自治体、七百三十五自治体は分からないとの回答でした。
次に、こうしたやむなく死亡者名義で課税を続けるということが今後増えていくかどうか尋ねたところ、そう思う、若しくはどちらかと言えばそう思うという回答が全体の八七%、七百七十自治体に上りました。
その理由として最も多かったのは、今のままでは相続未登記は減らないからというもので、二百二十二自治体に上りました。相続手続の煩雑さを指摘する声や、また、土地の売買も鎮静化しており、正しく相続登記を行っていなくても当面実質的な問題が発生しないケースが増えているといった回答がありました。さらに、森林や耕作放棄された農地など、わざわざ相続登記をするメリットが相続人側に感じられなくなっているといった記述も見られました。
また、自治体外在住者、すなわち不在地主の死亡把握が困難であることや、地元を離れた子供世代が相続によって地域の土地の不在地主となるケースが増えることで、相続人調査が更に難しくなるといった回答がありました。現在の制度では、自治体内に住民登録のない納税義務者、すなわち不在地主が死亡した場合、死亡届の情報が土地が所在する自治体に通知される仕組みがございません。そのため、相続登記が行われなければ、自治体では不在地主の死亡事実を把握すること自体が難しいのです。
死亡者への課税がやむなく増加するだろうと考える理由のうち、次に多かったのが、土地の資産価値の低さや管理負担を理由とする相続放棄の増加、また、親族関係の希薄化に伴い、遺産分割協議が困難になるといったものです。
寄せられた回答の中には、相続人が地元に残っていない、山林、田畑について所有する土地がどこにあるか分からない方も多いといった記述もございました。さらに、寄せられた回答の中には、相続放棄によって所有者が不存在となった土地の扱いについて、相続財産管理制度などの仕組みはあるものの、費用対効果が見込めず放置せざるを得ない事例もあること、また、そうした財産管理人が選任されない土地について、その後の権利の帰属や管理責任の在り方が実態上定かでない点もあることなど、制度的、法的な課題を指摘するコメントもありました。
こうしたアンケート調査の結果から、人口減少、高齢化といった社会の変化に対して今の制度が十分に対応し切れておらず、結果として所有者不明土地が広がっているという問題の全体像が徐々に浮かび上がってきました。このような制度の問題は、基礎自治体の現場の努力だけでは根本的な解決は困難であり、国による制度の見直しが必要です。今回の法案は、こうした背景からその必要性が認識され、御審議が進んでいるものと考えます。
では、そもそも日本では土地の所有者情報はどのように把握されているのでしょうか。なぜ個人が任意の相続登記を行わないことが所有者不明土地という大きな問題につながっていくのでしょうか。
土地の所有、利用について様々な制度を洗い出してみると、見えてくるのが情報基盤の課題です。現在、土地についての基本情報は、不動産登記簿のほか、固定資産課税台帳や農地台帳など、目的別に作成、管理されています。しかし、台帳の内容は様々で、土地の所有、利用に関する情報を一か所で把握できる仕組みはありません。国土管理の土台となる地籍調査も、一九五一年の開始以来、いまだ五割しか進んでいません。その一方で、個人の土地所有権は諸外国と比べても極めて強いという特徴があります。様々な台帳のうち不動産登記簿が実質的に主要な所有者情報源となっているものの、権利の登記は任意です。
そもそも、不動産登記制度とは、権利の保全と取引の安全を確保するための仕組みであり、最新の土地所有者情報を把握するための制度ではございません。人口減少に伴う空き家や空き地の増加、また、相続した土地の管理に対する人々の負担感を考えると、今の制度のままでは、今後、相続登記が積極的に行われるようになるとは考えにくいでしょう。このままでは相続未登記による所有者不明土地の慢性的な拡大は避けられないと考えます。
空き家の放置や農地の耕作放棄を所有者による物理的な管理の放置と呼ぶとすれば、相続未登記によって死亡者の名前が何十年も登記簿に残り続けるのは所有者による権利の放置とも言えます。こうした権利の問題は目に見えにくく、ふだんはなかなか表面化しません。農地を利用する、空き家対策を進める、あるいは災害が起きるなどのきっかけがあって初めてその実態が見えてくるのです。
では、今後どのような対策が必要でしょうか。対策の方向性として大きく二つあると考えます。まず一つは、既に発生している問題にどう対応するかということ、そしてもう一つは、今後こうした問題を拡大させないためにどう予防するかということです。
この度の法案は、既に所有者不明となった土地の利用をいかに促進するかというものであり、まさに、この前者の既に発生している問題への対応策として極めて重要な第一歩であると考えます。本法案でうたわれている地域福利増進事業の創設、公共事業における収用手続の合理化、円滑化、さらに所有者探索の合理化の仕組みなどは、いずれも地域の土地利用において必要なものです。是非、今後、各種手続について基本方針やガイドライン、マニュアルなどにおいて具体的かつ分かりやすく提示され、これらの仕組みが各地域において広く活用されることが望まれます。
そして、更に必要なのは、二点目の、今後こうした問題を拡大させないためにどう予防するかということです。具体的には、相続登記の促進、土地情報基盤の整備、そして、管理の放置と権利の放置の拡大を防ぐために、土地の寄附受付など低未利用地の受皿の整備が必要であると考えます。人口が減少する中で、田舎の土地を相続したものの、利用予定がなく売却の見通しも立たないという人は今後増えるでしょう。土地が使われないまま放置され、相続未登記のまま荒れ地となっていくことを防ぐため、適切な受皿をつくっていくことが必要です。
現在の日本の土地制度は、明治の近代国家成立時に確立し、戦後、右肩上がりの経済成長時代に修正、補完されてきたものです。地価高騰や乱開発など過剰利用への対応が中心であり、過疎化や人口減少に伴う様々な課題を十分に想定した制度とは言えません。
所有者不明土地問題とは、こうしたこれまでの制度と社会の変化の間で広がってきた構造的な問題であり、問題を一度に解決できる万能薬はありません。まずは、人口減少を前提とした国土保全の理念を打ち立て、これまで明治の頃から築き上げられてきた制度を生かしつつ、国としての共通基盤の上にそれぞれの地域になじむ多様な方法を一つ一つつくっていくことが必要です。特に、土地についての制度改革は、財産権に関わる問題でもあり、国民の理解がなければ進めることはできません。
今回の法案はそうした制度見直しの第一歩であると考えます。本法案が是非成立し、そして、これからの土地制度の在り方について今後議論が更に進んでいくことを心より願います。
以上が所見でございます。ありがとうございました。