吉村隆の発言 (文教科学委員会)

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○参考人(吉村隆君) おはようございます。経団連の産業技術本部長をしております吉村と申します。
 本日は、このような機会を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。
 著作権の柔軟な権利制限規定の創設は長年にわたる課題でございまして、今回こうして法制化に向けて国会で御審議いただけますことを心より感謝しております。
 個人的なことで恐縮ですけれども、私自身、経団連でこの問題に初めて接したのが約十年前ということになりまして、以来約十年間にわたってこの議論に関わってまいりました。その意味でも、今回の法案成立に向けた重要な局面でこうして皆様の前でお話しすることができるということには大変感慨深いものがございます。
 私からは、著作権の柔軟な権利制限規定に賛成する立場から、産業界としての考え方を申し述べたいと思います。
 なお、法技術的な論点とか条文ベースの議論というのは、隣に専門家である上野先生など、ほかの専門の委員もいらっしゃいますので、その方々に基本的にはお譲りしたいというふうには思ってはおります。
 まず、なぜ産業界が著作権の柔軟な権利制限規定を求めるのかということなんですけれども、その背景を昨今の状況も踏まえつつ簡単にお伝えしたいというふうに思います。
 現在、IoTやビッグデータ、人工知能などの先端技術があらゆる産業にパラダイム転換をもたらしております。特に、米国や中国などの海外企業は、大量のデータを用いて革新的なビジネスモデルを構築し、国際競争で優位な立場に立っているというのが現状かと思います。
 そうした中で、経団連では、我が国企業の国際競争力の向上に向けて、データの活用とそれから先端技術によって国際競争力の強化と社会課題の解決と、この両方を目指すソサエティー五・〇というコンセプトを掲げて現在様々な施策を推進しているところでございます。
 ソサエティー五・〇について詳しく御説明する時間はございませんが、端的に申し上げれば、革新的な技術の活用によって第五段階目の新しい社会を創造するんだということでございます。五段階目というのは、狩猟、農耕、工業、情報社会といったものの後に来る新しい経済社会というのをイメージしております。
 経団連では、こうしたソサエティー五・〇を国内外の社会課題の解決と我が国の成長を両立させるものというふうに捉えておりまして、これは国連の掲げる持続可能な開発目標、いわゆるSDGsといったものの達成にも寄与するというふうに考えております。こうした認識の下で、我々は現在、ソサエティー五・〇フォーSDGsという考え方を提唱しておりまして、国際的な評価も得つつあるという状況でございます。私も今日バッジをちょっとさせていただいているんですけれども、これはSDGsの関係のバッジですけれども、経団連ではSDGsを本業で企業としてしっかり取り組んでいこうということも別途活動しているということでございます。
 ソサエティー五・〇の実現に向けてはデータあるいは情報の利活用が重要な鍵を握ります。特に、近年、著作物を含むデータあるいは情報を大量かつ迅速に集積して活用する形のビジネスが世界で次々に起こっております。こうしたビジネスを活発化させて新しいイノベーションを創出することは、我が国の国際競争力の強化にとっても社会全体にとっても有益なものであり、喫緊の課題というふうになっております。
 こうした観点から我が国の現在の著作権法を見ますと、残念ながら、現状のままでは時代の要請に応えられない部分があるなというふうに感じております。詳しくはこの後申し上げたいと思うんですけれども、これまでより柔軟に様々なデータあるいは情報の利活用を認めていくということがどうしても必要になってくるというのが我々の見立てでございます。
 こうした認識の下で、今般提案されている柔軟な権利制限規定に対する考え方というのを申し上げていきたいと思います。
 今、私は、これまでより柔軟にデータあるいは情報の利活用を認めることが必要というふうに申し上げました。これがいわゆる柔軟な権利制限規定を求める意見ということになるわけですけれども、経団連が考えている柔軟な権利制限規定というものは、著作者が費用と労力を掛けて作った著作物を何でもかんでも権利制限の対象とすべきというものでは全くございません。著作物の利用に当たっては、著作物の創造サイクルを維持するという観点から、権利者から許諾を得ることが原則でございます。ただし、事前に権利者の許諾を得ることは極めて困難であり、かつ公共性、公益性、著作物の利用態様等の観点から、権利者の利益を不当に害さないと思われるケースが近年増えておりまして、そうしたケースについてはイノベーション創出の観点から権利制限を可能な限り認めてよいのではないかというのが経団連のスタンスでございます。
 経団連では、柔軟な権利制限規定の検討に当たりまして、権利者の利益が尊重され、著作物の創造サイクルが維持されること、著作物の利活用が促進され、権利者、事業者双方のビジネスチャンスが拡大すること、事業者が適切なリスク判断ができるよう予見可能性が確保されること、この三点が重要であるというふうに主張をしておりまして、私自身も、文化審議会の著作権分科会の中で、我が国の法体系や社会状況等を多面的に考え、我が国に及ぶ実際の効果と影響を十分に吟味して最善の制度を模索するべきというふうに申し上げてきた経緯がございます。
 この点、今回提案されている三層の柔軟な権利制限規定というのは、第一層として示している新三十条の四の非享受利用、新四十七条の四の電子計算機における著作物の利用に付随する利用、それから第二層として示している新四十七条の五である電子計算機による情報処理の結果提供に関する軽微の利用、こういったものによって、著作物を利用したい事業者側の現時点でのニーズをほぼ網羅するとともに、抽象度を高めた要件も加味するということで、権利制限の柔軟性も図る工夫もなされているというふうに理解をしております。
 我々といたしましては、今回の条文案は、事業者にとっての予測可能性を確保する一方で、非享受とか軽微とかいった文言によって権利者の利益にもバランスよく配慮できているというものと評価しておりまして、早期の成立を強く期待するということでございます。
 これまで柔軟な権利制限規定をめぐる検討の大半を費やしていたのが米国型フェアユースを日本に導入すべきであるという議論であったというふうに理解をしております。
 御高承のとおり、米国のフェアユースは、著作物の利用の目的、著作物の性質、利用された著作物の量、重要性、著作物の利用の及ぼす影響という四要件を総合的に勘案して、司法が公正な利用と認めたものについては権利者の許諾を得ずに著作物の利活用を行うことが認められております。
 米国型フェアユース導入の賛成論の根拠としましては、現時点で予想できない新たな技術やビジネスモデルに即応できるという意見がございます。ただし、注意すべきは、予測可能性が低く、かつ最終的には司法の判断に委ねるというものであるということでございます。我が国の企業につきましては、コンプライアンス意識が高いことから、こうした予測可能性が低くて、かつ最終的に司法判断に委ねるというものであった場合に、ビジネスにどうしても萎縮効果が生じるおそれがあるというふうに考えます。我々も会員企業の方々といろんな議論をこれまでしてきておりますけれども、やはりそういう傾向があるかなというふうに感じておりますし、さきの文化審議会の報告書でもそのような結果が示されているというところでございます。また、権利者の方から居直り侵害のおそれが高まるといったような強い懸念の声があるということも耳を傾ける必要があるというふうに思っております。
 基本的な原則のみを法律で定めて具体的な運用を判例に任せるというのは一つの考え方ではあると思うんですけれども、少なくともこの考え方を著作権法だけに導入しても機能しない可能性が高いのではないかなというふうに思います。もし法体系全体を英米法型に変えるべしというような議論をするのであれば、それはそれで非常に大きな議論でありまして、幅広い国民的な議論を経る必要が不可欠ではないかなというふうに思います。
 あと、米国型フェアユース導入を賛成する議論としてもう一つ根拠としてよく挙げられるのが、グーグルが生まれたのはフェアユースがあったからだという御意見がございます。この意見は、客観的に事実に照らせば少し無理があるかなというふうに思います。この点は文化審議会の報告書でも詳しいので、詳しくは割愛したいと思います。
 加えて、私から、この間、東京大学の渡部俊也教授から教えていただいた話を少しだけ御紹介したいと思います。有名なグーグルの創設者であるセルゲイ・ブリン氏、この方がラリー・ペイジ氏とともに独自の検索技術を開発してグーグルの基礎をつくったというふうに言われておりますが、実は彼はその前に既に検索技術に関する特許出願を行っていて、その権利者は実は某日本企業でございました。当時、彼はその日本企業の米国法人でアルバイトをしていて、その間に検索技術の開発に成功したということでございます。その日本企業は、そういう意味ではその当時検索技術の特許権というのを有していたということですけれども、自社のビジネスモデルと異なっていたので検索サービスを事業化することはございませんでしたというようなことでございました。
 何が申し上げたいかというと、日本には米国型フェアユースがないからイノベーションが起きないという主張は、それはそう主張される方もいるんですけれども、現実のビジネスというのはそれほど簡単、単純なものじゃないということだと思います。今申し上げた事例を引くまでもなく、一つ法律が何か問題で、それだけでビジネスが止まるとかそういうことではなくて、やっぱり、元々革新的なビジネスモデルを考えるとか、そういったことを含めたところからイノベーションが起こるんだろうなというふうに思っているところでございます。
 話を少し戻したいと思うんですけれども、米国型フェアユースについては、日本の法体系全般に関わる問題もあり、イノベーションを萎縮させる可能性があるということ、それから居直り侵害による権利者の不利益も大きい可能性があるということから、そのまま我が国に導入しても十分に機能しない可能性が高いというふうに考えます。米国型フェアユースを強く主張する企業というのは今でもいらっしゃるわけですけれども、そうした企業さんの主張は、結局のところ事業者さんとの対立を先鋭化させるということになって、結局のところ法改正をずっと遅らせる結果を招いたというふうなことだというふうに思っています。
 そういう意味で、今回の法案は権利制限の柔軟性と明確性のバランス、それから権利者と事業者の間のバランス、そういったものを取った非常にリーズナブルなものであって、我が国の国情にも沿った、この国にふさわしい内容であるというふうに考えられることから、経団連としては今国会での確実な成立を強くお願いする次第でございます。
 今回の著作権法改正によって、データの収集、データの蓄積、解析、それからデータの解析結果の提供、こういったものが権利者の不利益が軽微の程度、軽微である程度を超えない限りは権利制限の対象となりますということになりますので、我が国が後れを取っているAIの開発とかインターネットによる様々なサービス、こういったものが著作権法上の懸念なく実施できることになりますので、その意義はとても大きいというふうに思います。
 現在、二〇二〇年のオリンピック・パラリンピック東京大会に向けて、様々な企業が様々な分野でイノベーションを起こして革新的な製品、サービスを提供し、国民生活の向上に寄与すべく努力をしているところでございます。今回の法改正は、こうした努力を力強く後押しするものになるというふうに確信をしております。イノベーションの革新に向けて、今国会での確実な著作権法改正を再度お願いして、私からのお話を閉じさせていただきたいと思います。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 吉村隆

speaker_id: 19836

日付: 2018-05-15

院: 参議院

会議名: 文教科学委員会