宇野和博の発言 (文教科学委員会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○参考人(宇野和博君) 筑波大学附属視覚特別支援学校の宇野和博と申します。本日はこのような場を与えていただき、ありがとうございます。
 私からは、障害当事者の立場から、著作権法第三十七条の改正案と読書のバリアフリー化について意見を述べさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 今回の法改正は、二〇一三年、国連の世界知的所有権機関で採択されたマラケシュ条約がきっかけになっています。ですので、この法改正は、マラケシュ条約に批准するための国内法整備という側面と、これまで障害者の読書の足かせとなってきた問題の解決、両方が含まれています。よって、マラケシュ条約に批准することも、それに伴い著作権法を改正していただくことも大変有り難いことだと思っております。
 著作権法改正に関し、障害者団体から要望された事項は三点あります。
 一点目は、マラケシュ条約が定義する受益者と三十七条三項の権利制限対象者を一致させることです。これまで視覚障害者や文字の読み書きに困難のある発達障害者が権利制限の対象とされてきましたが、ここに、寝たきりや上肢に障害のある方、眼球使用困難者を加えることはマラケシュ条約に批准するためには必須事項と言えます。
 二点目は、これまで認められてきた自動公衆送信に加え公衆送信が認められることです。これにより、図書館などからメールサービスなどによって障害者に情報が発信できるようになります。
 三点目は、法改正ではなく、政令の改正事項になります。これまでボランティア団体や社会福祉協議会、障害者団体は政令にありませんでしたので、別途、文化庁長官の指定を受けない限り、著作権者の許諾を得なければ音訳や拡大写本に取り組むことができませんでした。これは、障害児教育の現場においても教材入手の足かせとなっておりました。
 例えば、全盲の生徒のための点字教材はインターネット上のデータベース、サピエにそれなりの数が上がっているのですが、弱視生徒のための参考書や問題集の拡大版となると、著作権許諾の問題が足かせとなり、ほとんど整備することはできませんでした。これらのボランティア団体が政令で定められることは、障害児教育の現場においても大きな意義があると考えております。
 ここで、法改正のきっかけとなったマラケシュ条約について少し触れさせていただきます。
 マラケシュ条約の目的は、著作物を利用する機会を促進する、つまり障害者の読書環境を整えていくことにあります。既に三十七か国が批准しています。条約は、大きく二つのことを締約国に求めています。一つは著作権の制限や例外規定を設けること、もう一つは障害者が読書可能な図書データを国境を越えてやり取りできるようにすることです。
 しかし、私は、ここで条約批准に魂を入れるためにもう一つ大事なことがあると考えております。それが条約の前文に書かれています。たとえ著作権を制限したとしても、障害者が利用可能な著作物は不足している、障害者が利用可能な形式に変えていくには相当な資源が必要であるということです。
 例えば、ここに一冊の本があり、これは著作権フリーですよと言われても、私にとってはただの紙の束にしかすぎません。誰かに点字か音声か拡大か電子データにしていただく必要があるわけです。つまり、障害者の読書環境を整えていくということには、著作権を制限するだけでなく、障害者が読める媒体をいかに増やしていくかという取組の両輪が必要になるということです。
 それでは、一体、今、日本には障害者が読める本はどれくらいあるのでしょうか。現在、全国の点字図書館で作成された点訳図書や録音図書は、インターネット上のサピエにアップされています。また、国立国会図書館は数年前から全国の主に公共図書館で作成された図書データを収集し始めています。このサピエと国会図書館のデータを合わせると、点訳図書でおよそ十九万タイトル、録音図書で約九万タイトル、それ以外の媒体は一万タイトル以下という状況です。世界盲人連合は、障害者の読める本を、途上国で一%未満、先進国で七%と推計しています。現在、国立国会図書館に納本されている本は既に一千万タイトルを超えていますので、この数と比べると、点字図書は約二%弱、録音図書は一%弱ということになります。
 それでは、障害者が読める本をどのように増やしていったらよいのでしょうか。大切な理念は、障害のない人と同じように本を買う自由と借りる権利を確立していくことにあると思います。
 まず、本を買う自由についてです。以前はデジタル技術もありませんでしたので、発売された本は、ボランティアにお願いし、点字、拡大、音声にしていただくほかはありませんでした。これらの作業には一定の期間が掛かりますので、発売日当日に障害者が本を読めるということはありませんでした。ここでもし発売日にテキストデータを売っていただけるのでしたら、今の時代、実は障害当事者でも瞬時に点字に変換したり、合成音声で聞いたり、画面上で拡大したりすることができます。つまり、誰の手も借りないで、テキストデータをベースとしたワンソース・マルチユースが可能ということです。
 一方、現在の出版社の合理的な配慮に関する取組についてですが、ごく一部の本にはテキスト引換券が付いています。また、電子書籍の中には合成音声で読み上げするものもありますが、そうでないものもたくさんあります。障害者が読める媒体を販売していただく、それを促進していただくというのは、出版社、障害者双方にとってウイン・ウインになることですので、何らかの形で政策上の後押しをしていただければと思います。
 次に、借りる権利についてです。今、条約批准に伴い最も考えなければならないのは、新たに受益者となる寝たきりや上肢に障害のある方の読書を誰がどのように保障するかということです。長年の歴史がある視覚障害者の読書については、視覚障害者情報提供施設、いわゆる点字図書館が大きな役割を果たしてきました。では、寝たきりや上肢障害者のために新たに情報提供施設をつくるかとなりますと、これは現実的ではありません。
 それでは、点字図書館にその役割を担ってもらうかという考え方もあります。しかし、二〇〇九年に著作権法が改正され、読み書きに困難のある発達障害者が権利制限の対象者に加えられましたが、その後、発達障害者の点字図書館の利用はほとんどないという実態から考えても、これも現実的な解決とは言えません。
 結論としては、公共図書館、学校図書館、大学図書館といった法律上の図書館に障害者サービスを充実させていっていただきたいと考えております。
 約二年前の四月に施行された障害者差別解消法にも、障害者への合理的な配慮の提供義務が明記されております。しかし、公共図書館の障害者サービスの実態は、一部の図書館を除き、まだまだ十分とは言えない状況にあります。これは、各自治体において予算が削減され、サービスを充実したくてもできないという側面もあるようです。
 学校図書館については、盲学校でさえ、年会費四万円の問題もあり、サピエに加入できていないところもあります。また、文部科学省はインクルーシブ教育を推進していますが、地域の学校に在籍する障害児の読書環境は特別支援学校よりも更に手薄になっていると言えます。
 大学図書館については、せっかく国立国会図書館にデータをアップし全国で共有する仕組みがあるにもかかわらず、そこにデータをアップしている大学は僅か六大学にとどまっています。つまり、それぞれの大学でテキスト化されたデータはその障害学生支援室又は図書館に眠っており、大変もったいない状況になっています。点から線、線から面へと障害学生の教材保障のサポート体制を広げていく必要があると思います。
 このように、図書館が障害者サービスを充実させていく鍵は、インターネット上のネットワークの整備にあります。その縁の下の力持ちになっていただきたいのは、国立国会図書館関西館と考えています。そして、障害者が読書可能なデータを全て関西館に蓄積していくということです。その上で、点字図書館、学校図書館、大学図書館、公共図書館がネットワーク化できれば、子供も大人も、どこに住んでいたとしても、近くの図書館に行けば日本で制作された全てのアクセシブルなデータに出会えるということになるわけです。
 今、サピエに約七万タイトルの録音図書がありますが、これらは寝たきりや上肢に障害のある方にもきっと楽しんでいただけるものだと思います。しかし、残念ながら、サピエのデータは国会図書館には流れないという仕組みになっています。また、全国に約三千二百ある公共図書館のうち、サピエに加入しているのはおよそ百六十にとどまっています。
 一方、サピエの財政も脆弱で、システムを管理していくための費用は厚生労働省からの補助金で賄われていますが、運営費はありませんので、実際は会員からの寄附や加盟図書館の年会費で賄われているという実情があります。
 今後ネットワークを整備していくためには、省庁を横断した協議の場が必要であると考えております。といいますのは、サピエは厚生労働省、学校図書館、大学図書館、公共図書館は文部科学省、国立国会図書館は立法府の所管になっているからです。省庁の垣根を越えて、障害者の理想的な電子図書館はどうあるべきか、障害当事者を交えて今後検討していっていただきたいと考えております。
 少し外国に目を向けてみますと、アメリカには日本のサピエのようにブックシェアというデータベースがあります。最初はスキャナーで読み取った不完全なデータの共有から始まったそうですが、その後、出版社がデータを提供するようになり、今は完全なデータが読めるようになっているそうです。また、フランスには、障害者が国立図書館に申し出れば出版社からデータが提供され、それが図書館を通して障害者に届けられるという仕組みが法律で定められているそうです。
 これからの高齢化社会を見据え、誰もが図書に親しめるようにするにはどうしていったらいいのか、出版社にはどこまで協力がお願いできるのか、これらの課題を含め、読書のバリアフリー化に資するような施策を検討していっていただきますようお願いいたします。
 障害者にとって読書は、教養や娯楽という側面だけでなく障害者の教育や就労を支える大切な基礎的環境整備とも言えます。是非、先生方のますますの御理解をお願いしつつ、私の話を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 119615104X00820180515_009

発言者: 宇野和博

speaker_id: 31316

日付: 2018-05-15

院: 参議院

会議名: 文教科学委員会