平澤慎一の発言 (法務委員会)

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○参考人(平澤慎一君) 平澤です。
 本日は、このような場を設けていただきまして、ありがとうございます。感謝いたします。
 では、私の意見を述べさせていただきます。
 私は、民法の成年年齢を二十歳から十八歳に引き下げる本法案について反対です。
 私は、弁護士として、消費者被害救済事件を多く扱ってきました。引下げによって十八歳、十九歳の者が未成年者取消し権を失い、若年者の消費者被害が拡大することを特に懸念していますが、今国会の審議を見ても、残念ながら十分な議論が行われているように見えません。極めて重要な法案であるにもかかわらず、国民的議論も行われず、イメージ先行の議論の下で成立に向かっていくことに大きな危機感を覚えます。
 以下では、一、そもそも成年年齢を十八歳に引き下げなければならない立法事実はない、二、引下げに伴って予想される若年者の消費者被害の予防、救済策が全く不十分である、三、国民的議論がなされていないという三点に絞って意見を述べさせていただきます。
 第一に、百四十年間も続き、社会的に定着している成年年齢二十歳を、なぜ今十八歳に引き下げる必要があるのかという積極的な理由、すなわち立法事実が見出せません。
 二〇〇九年の成年年齢引下げについての法制審議会は、引下げの意義について、十八歳をもって大人として扱うことは、若年者が将来の国づくりの中心であるという国としての強い決意を示すことになるとしています。今国会において、上川法務大臣も、十八歳、十九歳の若年者の社会参加の時期を早め、社会の様々な分野において積極的な役割を果たしてもらうことは、少子高齢化が急速に進む我が国の社会に大きな活力をもたらすものであると答弁されています。そして、引下げは、新たに成年になる若年者の自己決定権を尊重し、参政権に加えて経済取引の面でも一人前の大人として扱うことでこれらの者の社会参加を促すということが述べられています。
 しかし、若年者の社会参加が活力ある社会をもたらすとしても、そのために民法の成年年齢も引き下げるべきというのは論理の飛躍です。
 民法の成年年齢は、日本社会における大人を何歳とするかということに大きな影響を与えるものですけれども、法律的には、未成年者取消し権を使える年齢、親権の対象となる年齢を決めるという二つの点に大きな意味があります。十八歳から積極的に社会参加できる国にすることと直接的な結び付きはありません。若年者の社会参加という意味では、既に実現されている国民投票権や選挙権の付与が重要なのであって、民法の成年年齢引下げについてはその法的意味を踏まえた上での慎重な議論がなされるべきだと思います。
 また、十八歳、十九歳の自己決定権が尊重されるという理由も、日本の現状からすると大きな違和感があります。
 個人の自己決定権は、年齢や属性にかかわらず極めて重要で、最大限尊重されなければなりません。しかし、一人前に成熟する一定の年齢までは自己決定権とその者の保護とのバランスが必要です。現行法はその線引きを二十歳としているわけですが、十八歳、十九歳の若年者が未成年者取消し権や親権による制約によって自己決定権を行使できず、大きな問題や不都合が生じているということは聞きません。逆に、日本では、二十歳を過ぎても経済的、社会的に独立していない若年者が多く見られるのであって、あえて成年年齢を引き下げる必要が見出せないのです。
 第二に、若年者の消費者被害の予防、救済策が全く不十分であることを指摘します。
 成年年齢を引き下げるべき積極的な理由が見出せない一方で、引下げによる多くの具体的な問題点が指摘されています。特に、若年者の消費者被害拡大のおそれが懸念されますが、それに対応する施策は全く不十分です。
 私は、弁護士として、今まで消費者被害救済事件を多く扱い、また、国民生活センターのADRの仲介委員や消費生活相談員の方の事例相談などを通じて生の消費者被害事件に接してきました。
 消費者トラブルの態様は多種多様で、被害者も高齢者、若年者だけでなく、会社員や公務員、主婦の方など様々です。消費者トラブルは複雑多様化、巧妙化していますが、その背景にあるのは事業者と消費者との情報量や交渉力の格差です。消費者は、ちょっとした心の緩みや気分などからうまい話に乗ってしまい、あるいはうまく断れず被害に遭ってしまいます。その被害救済や予防は極めて重要で、多くの消費者被害に対応する法律、例えば消費者契約法や特定商取引法などが整備されてきました。
 その中でも、民法の未成年者取消し権が未成年者の消費者被害の予防と救済に絶大な効果を発揮しているということを実感します。
 若年者の消費者被害は、社会経験や知識の乏しさ、判断力、交渉力が乏しいことなどを原因としており、特徴的なものとして、マルチ商法、キャッチセールス、エステ、インターネット取引などによる被害があります。また、若年者は友人関係や上下関係などの人間関係の影響を受けやすく、被害が拡大する傾向があります。被害に遭ったときの問題対応能力も乏しく、問題を抱え込んでしまい解決ができず、被害を拡大させてしまうことも見られます。被害は経済的な損失にとどまらず、精神面に大きな傷を残すこともしばしばです。これらの若者に特徴的な消費者被害については、国民生活センターの資料を今般御配付していますので、是非御参照ください。
 このような被害について未成年者取消し権は絶大な効果を発揮します。未成年だったことさえ証明できれば、説明が違ったとか強引な勧誘だったとか証明しなくても契約を取り消せるからです。また、後で簡単に取り消されるリスクがあるため、事業者はそもそも未成年者を勧誘しません。このことは、既に衆議院の議論の中で鉄壁の防波堤などとして再三述べられているところです。
 十八歳を成年とすれば、高校三年生の間に成年になります。また、高校卒業という進学、就職、転居という人生の大きな節目で必ず成年ということになります。このような、多感で社会と接触する機会が格段に増える時期に未成年者取消し権を十八歳、十九歳の者が失うのであれば、それに見合う効果を持った制度が必要不可欠です。二〇〇九年の法制審議会意見も、十八歳引下げを適当としながら、その条件として、消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要であると明記していました。ところが、本法案の成立に当たって、そのような施策が全く盛られていません。
 法務大臣は、今国会に提出されている消費者契約法改正法案について、若年者を中心に発生する消費者被害事例を念頭に置いた取消し権の創設等を内容とするものと位置付け、成年年齢引下げに伴う消費者被害拡大のおそれを解決するための施策が実現していると繰り返し答弁されています。しかし、この答弁には無理があります。
 今国会で審議されている消費者契約法改正法案に盛り込まれた取消し権は、消費者が抱いている不安や勧誘者に対して恋愛感情を抱いていることに付け込んだ勧誘を理由とするものです。その趣旨は、不当な勧誘により消費者が合理的な判断ができなくなったことを理由に取消しを認めようとするものであって、若年者の特性に着目したものではありません。内閣府消費者委員会の消費者契約法専門調査会の報告書でもそのように整理されています。それが、今国会の法案提出の段階で社会生活上の経験が乏しいことからという要件が付され、特に若年者の特性に配慮したような文言になってしまったものです。
 不安を抱かせるような就職セミナー被害やデート商法による被害を受ける若年者はいるかもしれませんが、そのような悪質商法被害からの救済の必要性は若年者に限られません。この消費者契約法改正法案は、直接若年者の消費者被害を念頭に置いて創設されたものではないのです。そして、これらは消費者被害のごく一部の類型についてのものでしかありません。
 法制審議会の言う消費者被害の拡大のおそれを解決する施策というのは、そのような特定の商法に着目した被害救済を行うような小さな施策ではありません。もっと広く、若年者の知識、経験、判断力不足から生じる消費者被害の救済や予防を実現する施策だったはずです。そして、それはさきに述べた若年者の消費者被害の実情に対応した施策であり、消費者契約法に関して言えば、広く、判断力、知識、経験等の不足に付け込んで締結させた消費者契約についての取消し権創設ということです。このような取消し権創設すら実現していない状況での成年年齢引下げは、法制審議会が指摘する条件を無視するものです。
 また、消費者被害の拡大のおそれを解決する施策として、消費者教育の充実も極めて重要です。この点、法務大臣は、二〇〇八年の現行学習指導要領によって充実した消費者教育が展開され、国民に浸透しており、引下げの環境整備が既に整っていると答弁されています。しかし、これも実態と離れたものです。二〇〇八年当時は、成年年齢引下げの議論も具体化しておらず、引下げを前提に学習指導要領が改訂されたり、その後、引下げを見据えて消費者教育が全面的に展開されたという実態はありませんでした。
 消費者教育は、生の社会で生じる消費者問題への考え方や具体的な対応を扱うものであり、教科書を使った従来型授業では限界があります。その限界を超えて実践的な消費者教育が行われ、その効果が国民生活上に現れるには長い時間を要するのでして、今までそのような消費者教育は行われていないのです。
 政府は、消費者教育について、今年二月に決まった関係四省庁による三年間集中のアクションプログラムを施策の実現として強調します。しかし、これは逆に言えば、今年二月の時点で実現されていなかったことを示すもので、これによりどれだけ効果が上がるのかは全く未知数です。本来、その効果を丁寧に検証し、その後に成年年齢の引下げを行うというのが法制審議会の意見なのでして、順番が違うと言わざるを得ません。
 第三に、国民的議論が行われていないことが挙げられます。
 百四十年間も続いて特段不都合が生じておらず、国民の生活に深く根付いている成年年齢二十歳を十八歳に引き下げるのであれば、国民的な議論の盛り上がりが必要です。ところが、議論の盛り上がりどころか、多くの国民は成年年齢が引き下げられようとしていること自体を知りません。また、引下げによってどのようなことが生じるかについての正しい知識も持っていません。そして、世論調査でも反対意見が多くを占める結果となっています。
 この点、成年年齢引下げは国民投票法制定時の政治判断であり、弊害についてはそれまでに論じるべきで、本法律案の審議で議論することは時期遅れだとする賛成意見が衆議院本会議で述べられました。しかし、これは耳を疑う暴論です。国民主権の我が国において、国民の意見を無視し、あるいは国民の意識に浸透しないまま国民生活に密着した重要な制度変更がなされるなどということはあり得ません。だからこそ、法制審議会意見は、引下げを国としての強い決意としながらも、国民の意識に現れることを重視しているのです。本法案については、成立前に国民的議論がなされることが絶対に必要だと考えます。
 最後に、今、我が国の二十歳以上の人は、婚姻によって成年擬制となった人を除けば、全員二十歳まで未成年者取消し権や親権による保護を受けていました。その我々成年者が、将来の若者に対して、十八歳から社会に出て活躍してほしいので、保護を外すけど頑張ってくれというのであれば、自分たちが受けてきた保護に匹敵する別の手当てを将来の若者に与えなければ、余りにも自分勝手で無責任だと思います。
 若年者が社会に参加し、柔軟な視点で日本社会を変革してくれることを期待するならば、若年者が安心、安全に暮らせる社会的基盤を保証することが必要不可欠です。未熟な若者に重い責任を与えて自覚をさせるのではなく、社会全体で若者を育てながら社会に参加させる制度が必要なのではないでしょうか。そして、それは国民的議論の下で、社会的意思として構築されるべきものです。そのような国民的議論もなく、十分な施策もなく、今拙速に成年年齢を十八歳に引き下げることに反対です。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 平澤慎一

speaker_id: 28860

日付: 2018-06-05

院: 参議院

会議名: 法務委員会