窪田久美子の発言 (法務委員会)
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○参考人(窪田久美子君) おはようございます。
公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会、通称NACSの窪田と申します。今日は、このような場で発表する機会をいただき、誠にありがとうございます。
私どもは、消費生活に関する有資格者で構成された会員約三千名の団体です。会員の多くは、ふだんは企業のお客様相談室やCSR部門、消費生活センターの相談員など別の仕事を持っており、平日の夜や休日の空いた時間で活動をしております。
NACSの活動は三本柱です。消費者教育、消費者トラブルの解決、消費者と行政、企業、消費者団体等との連携を通じて、健全で持続可能な消費生活の確立を目指しております。
私は消費者教育委員長ですので、今日は、消費者教育に特化してお話をさせていただきます。
NACSの消費者教育委員会では、民法の成年年齢引下げの議論が本格化した平成二十八年度から、成年になる前に必要な消費者教育とは何かの研究を始めました。そして、この「思わず伝えたくなる「消費者市民社会」の話 「買う・支払う・使う・捨てる」の4ステップで育てる消費者市民の芽」という教材を作成しました。
お手元の資料の別紙一に、買う、つまりこの契約の基本のテキスト、こちらですね、それからあと、これめくっていただきまして、途中から指導書の数ページ、そして一番最後のページにこのテキストを使って行うワークシートと授業案、授業展開例ですね、こちらを抜粋して掲載してありますので、御覧ください。
この教材を作成する際に、私どもでは、高校の家庭科と公民科の先生にお願いをして、十数回にわたり授業をさせていただきました。私がこの二年間の活動で痛感したのは、高校では、今回の法改正によってどのようなリスクがあるのか、一部の熱心な先生方を除いてほぼ全くと言っていいほど理解されていない、認識されていないということです。
今までの活動を通して私が先生方から伺った言葉でよく聞いたのは、民法の成年年齢が引き下げられると何が問題なんですか、民法の成年年齢引下げってお酒とたばこの話かと思っていました、そして家庭科の先生に授業をさせてほしいというふうにお願いをしますと、民法は公民科の先生の分野ですから、そして今度公民科の先生に御挨拶に行けば、○○教育は主権者教育で十分かと思っていたとか、うちの学校では消費者教育は家庭科の先生に任せているからなどとおっしゃいます。
この先生方の御事情というのは私もよく分かります。先生というのは物すごくお忙しいですし、そもそも授業時間に余裕がないのです。
どういうことかといいますと、まず、御承知のとおり、消費者教育というのは家庭科の授業がメーンになっています。この家庭科の授業は、全国の高校のうち約七割は高校一年生のうちの一年間だけ授業をしています。学習指導要領には、この授業のうち五分の三は調理実習などの実技を行うということが決められていますので、結局その残された時間で衣、食、住、消費生活の勉強をしています。つまり、やらなければいけない項目がとっても多いのです。ですから、私たちが講座をさせてほしいとお願いに行っても、消費生活だけにたくさんの時間は使えないということになるわけです。これは公民科の先生にもお聞きいたしましたが、事情は全く一緒で、やらなければいけないことはとても多く、民法に充てられる時間は年間で一時間のみと、せめてあと一時間授業が増やせればということをおっしゃっていました。
このような状況の中でも、私たちから未成年者取消し権を喪失することの影響について説明をしますと、最初の資料の真ん中のところに受講した高校の教員の感想よりというふうに書かせていただきましたが、先生は、うちの生徒たち、大丈夫かしらと、まるで我が子のように大変心配されるのです。そうはいっても、先生は生徒にどうやって伝えればよいか、専門知識がないから難しい、分からないともおっしゃいます。
この家庭科の先生が、専門知識がないから自信がないとか、それから民法は公民科の先生の領域という気持ち、私もよく分かります。家庭科の先生というのは、そもそも食や衣服、被服ですね、そちらの大学を卒業して家庭科の免許を取得します。大体が理系の出身で、法律の勉強はしていません。ですから、民法の基本的な考えである、たとえ相手がどんなに大企業であっても人と人とは対等、だから、長時間粘り強く交渉されたとしても、一度成立した契約はどちらか一方の都合では取り消せない、それほど契約には強い拘束力がある、逆に言うと、その民法で規定されている未成年者取消し権はトランプで言うとジョーカーのように非常に強い権利を持っているということもほとんど理解している先生はいらっしゃらないと思います。
先生のお話を伺いますと、民法の基本的な考え方は公民科、特別法である消費者契約法やクーリングオフは家庭科で学習することになっているようです。学校内でこの二教科が連携して授業を行っていれば生徒たちも理解ができるのだと思いますけれども、まあ大体は連携はしておりません。違う時期にそれぞれ単独で学習、授業をしますと、家庭科の場合ですとクーリングオフばかりがクローズアップされる傾向があります。そうすると、未成年者取消し権がなくなると何が問題、クーリングオフがあるからいいんじゃないというような感覚になりがちです。
さて、私どもが授業に伺う際、高校は学校によって特色があるため、事前にその学校の生徒さんたちの様子や学習の理解度というのを確認させていただいております。今回の成年年齢引下げについては、経済的に何の問題もなく、親の経済的に何の問題もなく進学できるような環境にある生徒さんたちにとっては、今まで未成年者で一人で、単独で契約ができないということで困ったことはないし、法律が変わってもまあそんなに余り困らないというふうに思っているようです。これに対して、うちの生徒、大丈夫かしらと先ほどお話ししました先生方が心配する生徒さんというのは、経済的に進学を諦めざるを得ない状況にあることが多いのです。
こういった学校の先生に、高校三年生に成人と成人でない生徒が入り交じり、高校でもマルチ商法がはやるかもしれないというお話をすると、大変先生方は心配されます。私の人生、これで変わるかもしれないと思い込んでマルチ商法を始めてしまう生徒さんがいるだろうとおっしゃっていました。ほとんどの大人は、簡単にもうかるなんという言葉は誰も信じません。しかし、この進学を諦めざるを得ないような経済状況、それもまだ十八歳という年齢の子にとっては、この簡単にもうかるという言葉は何か魔力を持ったような言葉に聞こえるようです。
今回この法律が改正されますと、経済的には自立していない十八歳、十九歳の子が親の承諾なく一人で契約し、さらに借金もできてしまうのです。これは、悪質業者にしてみたら、今まで鉄壁の防波堤と思っていたこの未成年者取消し権がなくなることで、判断力が未熟な十八歳、十九歳の新たなおいしい市場ができるようなものではないでしょうか。もし高校でマルチ商法がはやったら、現場はどうしたらよいでしょうか。実際に、私は大学でマルチ商法がはやった学校で対応に右往左往しているという話をお聞きしました。これが高校でも起こる可能性があるということなんです。
消費者教育については、今年の二月に、若年者への消費者教育推進に関するアクションプログラムを四省庁合同で出されました。これは今までになかったとても画期的なことだと思います。アクションプログラムでは、今後三年間で、消費者庁が作成した「社会への扉」というテキストを全県、全学校に配付して授業をすることが数値目標となっていますが、高校の生徒の理解度、それから特色は様々です。私どもの消費者教育のメンバーがお世話になった先生に、どんなにいい教材であっても自分たちの生徒に合っていなかったら意味がないというふうに言われたことがありますが、全くそのとおりだと思います。
テキストを配って消費者教育を一回やればこれは終わりというようなものは消費者教育ではないと思っております。そして、現場の学校の先生は大変お忙しく、このテキストの内容を勉強している時間というのもほとんどないと思います。このような中、誰がこの問題を子供たちに伝えるんでしょうか。
最後に、私は、この国会の参考人の機会をいただくと決まり、慌ててNACSや身近な友人に民法の成年年齢の引下げに関するマル・バツクイズ五問と、今回の引下げに関する感想を聞きましたので、これで御報告をして、終わりにしたいと思います。
一枚目の資料の一番後ろ側を御覧ください。お出しした問題は、この三番の成年年齢引下げに関するクイズ及びアンケート結果からというところの一番の問題です。仮に民法の成人年齢が二十歳から十八歳に引き下がるとしたら、次のうち何が十八歳でできるようになりますか、マルかバツかで答えてください。一番、十八歳で酒が飲めるようになる。二番、十八歳で十年間のパスポートが作れるようになる。三番、十八歳で性別転換の届けを出せるようになる。四番、十八歳で馬券が買えるようになる。五番、十八歳で親の承諾なくクレジットカードが作れるようになる。全問正解した正答率は全体の四三%です。内訳は、NACSの会員は元々興味があるものですから高く出がちなので、一般とNACSの会員と分けて書かせていただきましたが、一般の人は三二%、NACSの会員は五七%でした。
そして、別紙の二ですけれども、その次にまとめさせていただいたのが、この三番のところに書いてある成人年齢引下げに関して御意見がある方は是非お願いしますということで、書いていただいたコメントがこちらに寄せられています。三日間で百五十六人の回答がありましたけれども、これだけの意見が寄せられています。この中には、必要性を感じないとか、あと、なぜ今引き下げるのかとか、酒とたばこは年齢を引き下げないでほしいといったコメントが多く書かれています。
法制審議会の最終報告書では、成年年齢引下げの法整備は、若者の自立を促す施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題解決のための施策が実施すること、そして、その効果が十分に発揮されること、それが国民の意識と現れた段階で速やかに行うのが妥当となっていますが、このクイズの結果やコメントからも、社会的に認識されているとはとても思えません。
このように、教員も保護者も社会的にも認識していない人が多い中、成年年齢の引下げを進めることは、特に学校現場で混乱が起きるのではないかと大変危惧いたします。
以上、NACSの報告を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。