坂東俊矢の発言 (法務委員会)

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○参考人(坂東俊矢君) 京都産業大学で民法と消費者法を教えております坂東と申します。本日はこのような場所で意見を述べさせていただく機会をいただき、心から感謝申し上げます。
 さて、成年年齢の十八歳への引下げが議論がされています。なるほど、成年年齢を幾つにすべきかということは、法理論的に定まるものではありません。国民の意識によってその判断をすべき事項であります。ただ、その判断をするについては、民法の未成年者保護法理がどのような意味を持ってきたかということについての共通の理解を言わば国民が持っていることが不可欠であるというふうに私は考えています。したがって、私は、慎重な御検討をお願いしたいという立場でございます。
 まず第一に、未成年者に関する規定は、一八九六年の民法の制定時から現在に至るまで同じ形で規定をされています。ただ、こうした規定は、すなわち対等平等な人の例外を規定した近代私法の考え方は、我が国固有のものではもちろんなくて、近代法を有している各国に共通して規定されているものであります。
 なぜ未成年者を対等平等な人の例外として保護したのか。その基本的な視座は、市民社会のしっかりとした担い手を育てるために、取消し権の行使をも含めて未成年者の保護が不可欠であると考えられたからであります。
 龍谷大学の川角先生は論文で、未成年者保護とは、市民法にとって、担い手を絶えず生み出していくために市民一人一人がその体に刻み込み、尊重すべきところの第一義的な法的価値基準であると述べておられます。私は、そのことをお互いさまの法理だと考えております。この部屋におられる全ての先生も含めて、全ての方が未成年者であったという経験をしています。現在の法律制度の中で保護をされ、大人になってきたわけであります。
 どのような市民法としての価値をどうした形で実現をしていくかという課題は、若者に課せられた課題ではありません。既に成人となった大人である私どもに向けられた課題であります。より直截的に言えば、私たちは本当に取引や契約に関する場面で十八歳の若者を大人として迎え入れる覚悟と制度的な準備ができているのかということが問われていると思います。
 先ほど先生からもお話がありましたが、高校三年生の生徒さんの中に成年と未成年者が混在することになります。高校三年生でも、親の同意とは関係なく、バイクを買ったりクレジットカードを持つことができるようになります。そうした現実に私たちは対処できるだけの覚悟と準備ができているのかということが問われているのだと思います。
 二つ目は、若者の契約に関する消費者被害の救済と被害防止としての意味であります。これは、もう既に多くの参考人も、あるいは国会の場でも大きな議論がされていると思いますので繰り返しをしません。
 しかし、さきにも述べたように、民法の未成年者の規定が一八九六年に制定されました。その当時には、消費者問題ということが意識されていませんでした。というのも、契約に関する消費者被害が社会問題になったのは、マルチや訪問販売による契約被害が顕在化した一九七〇年代になってからであります。その画期となった判決として、茨木簡易裁判所の昭和六十年十二月二十日判決があります。
 この事件は、いわゆるキャッチセールスで十六万円余りの代金の化粧品等を月一万四千円の十二回払いで購入した十八歳の仕事をしている女性が、親権者の同意がなかったとして取消し権の主張をしたものであります。この事件では、販売業者とクレジット会社は、働くことに親の同意を得ている十八歳の女性であれば、十六万円の化粧品代あるいは月一万四千円の支払は、処分を許された財産の範囲内であるというふうに主張をされました。裁判所はその主張を否定しました。クレジット契約は、御存じのように、一度でも支払が遅れると期限の利益を喪失して全額の支払義務が生じます。したがって、未成年者の処分ができる財産の額をクレジットの分割の金額で判断するのは適切ではないというふうに判断したからであります。そして、この女性が月々七ないし八万円の手取りを得ていたという事実を認定して、十六万円余りの化粧品という金額は、処分を許された財産としては高額に過ぎると裁判所は判決をしました。
 実はこの当時、クレジットカードは、十八以上の未成年者であっても、親の同意なく作ることができるという現実がありました。その結果、十八歳を超える未成年者に対して高額な商品が分割払の形式で売られ、消費生活センターの現場でも、それを未成年者取消し権、親の同意がないということを理由として未成年者取消し権で取り消すことが可能なのかどうかという点について迷いがありました。この判決は、こうした現状に対する警鐘となり、結果的に、未成年者取消し権を典型とする民法の未成年者法理に、消費者保護としての意義、機能があることを明らかにすることになりました。
 こうした経緯、つまり、時に取引の現場は、未成年者保護法理との緊張関係を生じさせるような現実を生み出してしまうということがこの判決の在り方からは御理解をいただけるのではないかなと思います。成年年齢を十八歳に引下げを考慮する際に、こうした取引の現実をどのように評価するかということについて、私たちはきちんとした整理が必要なのだと思います。
 三つ目に、いや、実は、未成年者の民法の法理の中には未成年者が徐々に大人になっていくについての段階的な準備が組み込まれていて、それが実はかなり有効に機能しているということをお話ししたいと思います。
 釈迦に説法で恐縮ですが、民法は、未成年者であっても、法定代理人、多くの場合は親ですが、親の同意を得なくても契約ができる場合を定めています。その中でも、第五条三項の、法定代理人によって事前に処分を許された財産に関する規定がとても重要だと思います。
 私は、講義で学生たちに、この例として、小遣いとか仕送りとかは、個々の契約をするについて親の個別の同意を得なくても契約をすることができると説明をします。考えてみたら当たり前で、私の大学にも、一回生、二回生、十八歳、十九歳の学生たちがいますが、コンビニで弁当買ったりお茶を買ったりするときに、携帯電話を取り出して、お父さん、今から同意してくれるなんという姿を見たことはありません。それはなぜか。そういった契約は、未成年者であっても小遣いの範囲内で自由にできると民法が決めているからです。
 まず、未成年者の年齢というのは、出生から二十歳まで、非常に幅が広いものです。
 生まれた赤ちゃんから恐らく六歳ぐらいまでは民法上の意思能力が認められませんから、単独で契約をすることというのは考えられません。しかし、小学校になれば、小学生になれば、親からお小遣いをもらいます。そのお小遣いで、例えばおやつを買ったり、小学校の高学年になったら恐らく文房具を買ったり、そういった契約を自分でするようになると思います。中学生しかりです。高校になったら、日常で自分が着るTシャツやそういったものぐらいは、洋服ぐらいは恐らく親の同意なく契約の締結をしているはずだと思います。そして、そのことを民法は認めているんです。
 高校を卒業する十八歳という年齢は、とても画期となる年齢です。先ほど先生のお話にもありました。働く方もいるでしょう、大学に進学する方もいるでしょう。働くためには雇用契約という契約を締結しなければなりません。学生になって京都に来るときには、多くの学生が京都に来てくれますが、下宿をしなきゃいけません。賃貸借契約という契約を締結するわけです。先ほどまでお話をした、高校生として契約を締結するという経験と、十八歳になって働いたり、あるいは下宿をしたり、そういったことで経験する契約は質的に大きく違います。大学に入学が決まった学生たちが親とともに京都にやってきて下宿を探し、親とともに契約を締結します。そのことは、私から見て自然なことです。
 その学生たちが二年間大学で学びます。学生課でいろんな話を聞くでしょうね。先輩の下宿に行って相場観を知るかもしれません。いや、就活のためには京都のどの辺りに住んでいた方がいいよねという話を自分で判断できるようになります。言わば、十八歳から二十歳までの間に、大人になる、徐々に大人になっていくというステップが組み込まれているんです。最終のレッスンの時間として、この二年間、学生たちは大きく成長すると思います。
 未成年者は、なるほど、例えば、借金をしたり高額な商品や投資的取引を契約したりすることについての自己決定権は制限されています。でも、少なくとも、その学生たちが、日常的な取引についての権限は、その年齢に対応して、その意味を学びながら締結できることになっています。言わば、民法の仕組みの中に、自己決定を練習して積み重ねながらゆっくりと大人になっていくことが準備されているのです。そして、その仕組みは、私はとても有効に機能していると考えています。
 もちろん、私は、成年年齢をどうするかという問題は国民の判断だと一番最初に申し上げました。十八歳にするということ自体を否定しているわけではありません。しかし、そのためには、今ある民法の規定の適切な評価をした上で、それに関する国民の意識がきちんと整理された段階で物事の準備を進めるべきであるというふうに考えています。
 小児科医で、九州大学の先生をしている佐藤先生という人が、「大学で大人気の先生が語る「失敗」「挑戦」「成長」の自立学」という若い世代に向けた本を書いておられます。その先生が、大人として自立するためにはまず自らが努力しなければならないとした上で、そのためにはすてきな大人を探しなさいと提案をされています。そして、大学生になると、尊敬する人はという質問に対する答えが一挙に広がるというふうにも書いておられます。
 未成年者に対する保護法理は、その理論的な意味からも、その法理に組み込まれた徐々に大人になる仕組みという具体化の観点からも適切に機能しています。そして、それは、社会と国民に受け入れられています。成年年齢の改定に当たっては、こうした点に対する慎重な御検討を心からお願いしたいというふうに思います。
 良識の府としての参議院での丁寧な御議論を期待して、私の発言を終わります。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 坂東俊矢

speaker_id: 25238

日付: 2018-06-07

院: 参議院

会議名: 法務委員会