内藤忍の発言 (厚生労働委員会)
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○内藤参考人 労働政策研究・研修機構の副主任研究員の内藤忍と申します。
今回は、貴重な場で意見陳述の機会を賜りまして、ありがとうございます。
私は、労働法の領域で、仕事上のハラスメントについての調査研究を進めてまいりました。
ハラスメント関係では、厚労省において、二〇一一年度の職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ委員、二〇一五年度以降のパワーハラスメント対策企画委員会の座長、二〇一六年度の職場のパワーハラスメントに関する実態調査検討委員会の委員などを務めさせていただいております。
きょうは、時間の制約上、私からは主にセクシュアルハラスメントの法規制のあり方について意見を述べさせていただきたいと思います。
セクシュアルハラスメントについては、均等法の十一条で事業主に一定の措置が義務づけられております。
具体的な措置の内容は、御存じのとおり、指針に十項目定められております。
柱は三つありまして、一つ目は、事業主の方針等の明確化及びその周知啓発、二つ目は、相談窓口など、相談、苦情に応じ適切に対応するために必要な体制の整備、三つ目が、事後の迅速かつ適切な対応です。
こうした措置が義務づけられたのは二〇〇六年の均等法改正ですが、今なお多くの人がセクシュアルハラスメントを受けているという実態があります。
労働政策研究・研修機構が二十五歳から四十四歳の女性約一万人から回答を得た二〇一五年のハラスメントの調査においては、セクシュアルハラスメントの経験率は二八・七%にも上りました。また、都道府県労働局における相談件数は年間約七千件に上り、均等法の中で最も多い相談事案となっています。
セクシュアルハラスメントが多いままになっていることについては、二点理由が考えられると思います。
一点目は、措置義務を履行していない事業主が多いということです。
どれだけの事業主が措置義務を履行しているかといいますと、二〇一七年度の厚労省の雇用均等基本調査によれば、重要と思われる相談窓口の設置をしている事業主は三九・四%、相談窓口担当者の研修はわずか八・九%の事業主しか行っていませんでした。三四・六%の事業主がセクシュアルハラスメントの防止対策に何も取り組んでいないと答えています。
JILPTの調査でも、同じように、取り組んでいないと答えた企業は四〇・八%もありました。
均等法十一条を遵守しない場合、均等法の二十九条に基づきまして行政は事業主に対して是正指導をすることができますが、不遵守に対する罰則はなく、唯一の制裁と言える三十条の企業名の公表制度でも、セクハラの措置義務違反で企業名が公表されたことはありません。
つまり、十の措置は均等法によって義務とされていますが、遵守させる仕組みが足りないのではないかということです。
また、仕組みだけでなく、運用上、行政が是正指導を行うのは当事者の相談が契機となることがほとんどでありまして、十一条の是正指導は、例えば二〇一七年度は四千四百五十八件も実施されてきておりますが、遵守していない事業主のほんの一部にしか指導できておりません。
是正指導を行う労働局の現在の人員では、全ての企業を監視するのは難しいと思います。
今回の法改正では、パワーハラスメントについても同様の措置義務が提案されていますが、現在、労働局における職場のいじめ、嫌がらせの相談は年間七万件を超えています。つまり、セクハラの十倍寄せられているということです。
セクハラもパワハラも、たとえ措置義務化されたとしても、現在の労働局の人員では有効な監視や指導が難しいと考えます。
セクシュアルハラスメントが多いままとなっている理由の二点目は、法が求めている措置がセクハラ防止や解決に有効かどうか実際のところ不明であるということです。
なぜかといえば、例えば相談窓口の設置は措置義務の一つとされていますが、JILPTの調査によれば、セクハラを受けた人の六三・四%が我慢したと回答していまして、会社の相談窓口に相談した人はわずか三・一%でした。つまり、法は相談窓口の設置を求めていますが、ただ窓口を設置しても利用されない、実効的ではないということです。
ハラスメント対策として事業主に措置を課すということであれば、どのような取組をどう取り組めばハラスメントを実際に防止できたり、当事者が納得できる解決が得られたりするのかをきちんと検証した上で、企業に義務化する必要があると考えます。
その際、ハラスメントの抑止の観点から、企業内でハラスメントがあってはならない旨の方針の明確化という現在の措置義務にとどまらず、より実効性がある方法として、法が直接にハラスメントを禁止することもあわせて検討すべきだと考えます。
なお、ハラスメントの禁止規定については海外の多くの国で導入されておりまして、また、ことしの六月のILO総会で採択される予定の、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約案にも、全ての形態の暴力及びハラスメントを法律で禁じることが盛り込まれ、加盟国として批准を意識した取組が求められること、さらに、国連の女性差別撤廃委員会は、複数回にわたり、日本政府に対して禁止規定の導入を勧告してきていることを付言しておきます。
もう一つ指摘しなければならないのは、セクシュアルハラスメントの救済制度についてです。
セクシュアルハラスメントを受けて裁判をできる人はほんの一握りです。
セクシュアルハラスメントによって精神疾患を負い裁判が難しい場合が多いこと、性被害であるセクシュアルハラスメントの場合は公開手続である裁判への心理的ハードルが高いこと、そして、被害者バッシングの風潮もさることながら、セクシュアルハラスメントを直接に禁止している規定がなく、民法の不法行為を利用することで、過失相殺のための行為者側の被害者の落ち度探しの攻撃にさらされ、二次被害を受けることも多いことなどが理由と考えられます。
とすると、頼みの綱は行政救済であると私は考えています。
労働局に寄せられるセクシュアルハラスメントの相談は、二〇一七年度は六千八百八件でしたが、中立的な立場で解決の援助をしてもらう紛争解決の援助の申立てはわずか百一件、調停は三十四件と少なく、ほとんどの被害者が労働局には相談のみしてその後の援助を依頼していません。
その理由の一つに、被害者の要望と本制度が想定する解決内容との乖離があると私は考えています。
私も参加して二〇一六年度から一七年度に行った、文科省科研費による行政救済利用者のヒアリング調査によれば、多くの被害者の要望は、一つ目として、行為がセクハラであって違法な行為であると認められ、二つ目として、謝罪され、三つ目として、もう二度と起こらないようにしてほしいというものでした。しかし、制度が実際に提供する解決は、ほぼ金銭解決に限られているのが実情です。
第一の問題は、均等法がセクハラの禁止や定義を持たないことから、判定や認定が行政には不可能であるということ。
第二に、そもそも、均等法の行政救済が前提としている被害者と事業主の譲り合いの仕組みがセクハラの被害者には受け入れがたいものであるということです。
第三に、結局、金銭合意という形になりますが、私たちの調査では、解決金額は中央値二十九・五万円となっておりまして、低額で本人の損害を十分に賠償する額となっていないだけでなく、現状では、解決金の支払いが課された事業主の学びの機会とならず、今後は予防措置を講じようという動機にならない可能性があると考えます。
被害者救済の観点からも、企業の防止の取組促進の観点からも、現行の行政救済制度の課題を検証し、制度の再検討が早急に必要と考えます。
最も必要なことは、禁止されるハラスメントが定義され、行為がセクハラであり違法な行為であるという認定を前提に、早期に行政が柔軟な救済命令を出せる仕組みを導入することであると考えます。
その意味で、業務等における性的加害言動の禁止等に関する法律案において、禁止の対象となる言動の具体的内容を定めることや、セクハラに該当するかを判断することなどが盛り込まれていることについては評価し、閣法の法律案にはこの点が足りないと考えます。
また、昨今、就活生や教育実習生、そして雇用以外の就業者もハラスメントを受けていることが報告されています。
ILO条約案でも、契約上の地位にかかわらず就業する者、実習生、ボランティア、求職者などが適用対象者であることが示されています。
均等法五条の募集、採用時の性別を理由とする差別の禁止では、労働者となろうとする者が対象とされていることから、均等法において労働者しか対象にし得ないわけではありません。立場がより弱く、被害を受ける就活生等を保護対象とすべきだと考えます。
最後に、パワーハラスメントの定義について一言申し上げます。
「優越的な関係を背景とした言動であつて、」とされていますが、優越的な関係とは、職務上の地位のみならず、特定の属性を持つ人の場合などさまざまな場合が想定されること、さらに、言動については、本人の了承なくセクシュアリティーについて第三者に公言してしまう、いわゆるアウティングも当然に含まれることを付言しておきたいと思います。
以上です。(拍手)