山川隆一の発言 (厚生労働委員会)
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○山川参考人 東京大学で労働法を専攻しております山川と申します。
今回、このような機会を与えていただき、光栄に存じております。
まず、女性活躍推進法の改正について意見を申し上げます。
女性活躍推進法は、職場における女性の活躍を推進するため、現状の把握に基づいて、各企業の実情に応じた行動計画を定めることを求めるものでありまして、いわゆるPDCAサイクルの実施という形でポジティブアクションを義務づけた、新たな手法を採用した法律でございます。
また、情報公表の義務づけによりまして、女性の職業選択に資するようにしております。女性が活躍できる企業は人材獲得競争において有利になるという点で、いわば労働市場メカニズムを通じて女性活躍推進のインセンティブを与える、そういうシステムを法律として採用したものでございます。
これらは、新たな労働政策の実現手法と言えるものでございまして、有益と考えます。私自身の経験でも、所属先で行動計画の策定に参加いたしまして、現場から意見を吸い上げて、押しつけというより自発的に取り組むという姿勢で男女を問わずかかわっておられたことを非常に印象深く思っております。そうした観点から、より広い企業にこうした仕組みを適用していくということは妥当なものと考えます。
公表項目につきましては、各企業の実情、特色を考慮する必要はございますけれども、女性の活躍状況のみならず、ワーク・ライフ・バランスにかかわる情報も、女性の活躍にとって、むしろ男女双方にとって非常に重要な情報であると考えますので、こちらにつきましても労働市場での情報開示を義務づけることは適切であると考えております。
その他、企業名公表によって実効性確保の手段をふやしたこと等を含めまして、全体として妥当な改正法案と評価できるものと考えております。
次が、パワーハラスメント、いわゆるパワハラへの対応についてでございます。
既に参考人の皆様方からお話がありましたように、パワハラに関する問題は、都道府県労働局の相談やあっせんの件数でも近年トップを占め続けている大変深刻かつ重要な問題となっております。パワハラによる就業環境の悪化は労働者の人格的利益を害するものでございまして、また能力の発揮も妨げる重大な問題でございますので、立法による積極的な取組が必要であると考えられます。
この中身としましては、審議会での議論の結果、内閣提出法案におきましては措置義務方式が選択されております。
措置義務方式は、事案が発生した場合の事後的な対応だけではなくて、予防のための体制づくりも義務づけるものでございます。ハラスメントについては、被害が一旦発生した場合にそれを完全に回復することはなかなか困難が伴うということですとか、また、措置によって体制をつくるということは全従業員に利益をもたらすものであるというメリットがあると思われます。
その際、これまで規制がなかった問題でございますので、どの法律で規律するかということがございます。内閣提出法案は労働施策総合推進法によっておりまして、他方で、労働安全衛生法の改正法によるということも選択肢として考えられるところでございます。
安全衛生法に規定を置く場合は、その実施の所轄機関がどこになるかということがございまして、ほかの規制事項との関係でいえば、労働基準監督署が実施を担当するということになろうかと思われます。これに対してパワーハラスメントは、セクシュアルハラスメント等と共通して、いわば人格的利益の侵害という性格を持つという点で特色があると思われます。そうした点では、ハラスメントに関しては、法の実施に当たる部局もそろえるのが妥当ではないかと考えております。
もちろん、パワハラに関しては、紛争ないし相談件数が非常に多いということから、十分な履行確保の体制をとることが重要になると考えております。
さらに、措置義務の対象として、取引先や顧客によるハラスメントも含めるかという問題がございます。提出されました安全衛生法の改正法案では、対象に含めているところでございます。
この点、措置義務ということを考えますと、加害行為者が企業外の者である場合に、従来の措置義務とは措置の内容がかなり異なってくると考えられます。また、対象となる行為の点につきましても、パワハラの場合は、業務上の必要に基づく適正な指導との区別という問題が指摘されているところでございますけれども、取引先や顧客につきましては、取引先ないし顧客としての正当な要求との区別という新たな検討課題が発生するということがございます。労政審での調整の結果を尊重いたしまして、現時点では内閣提出法案が妥当ではないかと考えております。
ただ、職場環境の悪化というハラスメントの特色につきましては、従業員等によるパワハラと同様の面がございます。そこで、例えば、従業員の相談に乗って雇用環境の悪化に対して対応するというようなことを望ましい対応として指針に盛り込んでいくということは考えられます。また、取引先、顧客等によるハラスメントに対して具体的にどういう措置が考えられるのかという点の検討を進めて、将来の見直しの際に盛り込んでいくことについても検討に値するのではないかと思っております。
なお、現在でも、就業環境が悪化したにもかかわらず、職場の管理者が何も措置、対応をとらなかったという場合には、民法では損害賠償責任が発生し得るものと考えます。
三番目が、セクシュアルハラスメント、いわゆるセクハラ等への対応についてでございます。
これも、参考人の皆様方から既にお話がありましたとおり、均等法で措置義務の規定が定められておりますけれども、まだ根絶されてはおりません。
この点はパワハラでも同じことが言えるかと思いますが、ハラスメント問題の重大性に関する認識がなお不十分ではないかと思われます。先ほど申しましたように、人格的利益の侵害である、また働く人たちの能力の発揮を妨げる、さらには企業としても生産性が阻害される。いわば、企業としては、従業員に対して十全に能力を発揮してもらいたい、そのような権利があると思いますけれども、それを加害行為者が侵害する、そのあたりで懲戒処分を行うということの根拠にもなってくると考えられます。
そうした点で、事業主はもちろんのこと、労働者としても、加害行為者になり得るという点で意識改革ないし自覚が必要であると思われますし、国もハラスメントに即した観点からの施策を更に進めていくということが必要と考えますので、国、事業主、労働者に対する責務規定を設けるということは妥当ではないかと思われます。
これに対して議論がございますのは、労働者に対してセクハラ行為を禁止する規定を設けるかという点でございます。これを含めた法案も提出されているところであります。
この点は、禁止規定というのは一体どういうものなのかということにかかわってきます。責務規定を超えて禁止規定を設けるという場合、一般的な法律の仕組みとしては、違反行為に対して制裁あるいは行政指導、取締り等を行うということが通常であるかと思います。
こうした観点からすると、労働者に対する禁止規定を設けるというのは、違反した場合に制裁を加えるですとか、そこまでいかなくても、行政指導によって対応するということになりそうでありますけれども、刑事罰に該当する場合はともかくとしまして、労働者に対してそのような権力的な対応を行うという法制は、これまでの労働法制の中ではやや異例ではないかと考えられます。
他方、措置義務規定のもとでも、事業主に対してセクハラを禁止することを義務づけているところでございます。ということは、法律上直接禁止されているわけではございませんけれども、企業内においては、就業規則等においてセクハラ行為は禁止されるということでございます、措置義務が履行されていればですけれども。そうした観点で、企業内での禁止は措置義務によっても確保できる、またそれは、制裁といいますか懲戒処分等による裏づけも伴うものであるというふうに考えられます。
また、保護ないし措置の対象者として、就職活動中の学生、フリーランサー、取引先の従業員も含めるかという問題もございます。この点、最近いろいろ事案が発生しているところでございますけれども。
ハラスメント問題は、これまでの理解では、事業主の雇用する者の労働環境の悪化への対応ということを労働法上の問題として取り上げる、そういう性格のものでございます。したがいまして、雇用関係にない者、労働者に該当しない者については、従来は対象とすることが想定されていませんでした。
この点は、特に、非労働者といいますか、労働者でない役務提供者に対してどのような政策をとっていくかということは、ハラスメントの問題に限らず、より一般的に労働政策の範疇をどう考えるかということにかかわっておりまして、私個人としては、より積極的に検討を進めるべきだというふうに考えているところでございます。