長尾ゆりの発言 (厚生労働委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○長尾参考人 日本婦人団体連合会副会長の長尾と申します。全労連の副議長もしております。
本日は、時間の関係で、ハラスメント対策に限って意見を述べさせていただきます。
財務事務次官のセクハラ行為に対して声を上げた女性の勇気ある行動から一年となります。世界的なミー・トゥー運動の広がりもあって、ハラスメント問題は、人間の尊厳、人格、人権が侵される重要問題であり、その解決は喫緊の問題であるということが改めて明らかになった一年でした。女性団体も労働組合も声を上げた人をひとりにしないと運動を広げる中、パワハラ対策法制化がやっと動き始めたことに感謝申し上げたいと思います。
しかし、内閣提出法案については極めて不十分であると考えます。五点について、意見を申し上げます。
まず第一に、ハラスメントは人権侵害であり、全ての人に暴力とハラスメントのない仕事の世界で生きる権利がある、その最も重要な中身が抜け落ちた法案だということです。
昨年十二月の労政審の建議では、「ハラスメントは、労働者の尊厳や人格を傷つける等の人権に関わる許されない行為であり、あってはならないものである。また、企業にとっても経営上の損失に繋がることから、防止対策を強化することが必要である。」として、労働者の人権と企業の損失との二つの点からハラスメントの問題点が示されました。
ところが、法案には、労働者の尊厳、人格、人権という言葉はなく、一人一人の人格と人権を守ることこそがハラスメント対策であるのに、その記述はありません。
雇用対策法を改定した労働施策総合推進法の第四条に、その第一条の目的、つまり労働生産性の向上などの目的を達成するための取組の一つとして、「職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な施策を充実すること。」と書き加えるという案です。これでは、就業環境を守るということを口実にして、事を荒立てずに済ませてしまおうという企業の対応を導いてしまわないかと懸念します。
第二に、だからこそ、包括的なハラスメント禁止法を策定すべきだと考えます。
男女雇用機会均等法にセクハラ対策、育介法にマタハラ対策として、「必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」措置義務が書かれたのと同じ文言で、今回、労働施策総合推進法にパワハラ対策として書き込もうという法案です。
しかし、セクハラ、マタハラの現状を見れば、雇用措置義務を法律に書き込んでも解決になっていない、実効性がなかった、そのことは明らかです。禁止法整備こそ必要です。
被害者は、自分が受けたハラスメントを違法なものだと認めてほしい、謝罪してほしい、そして二度と同様のことが起こらないようにと求めています。その被害者の要望に応える一番の手段は、ハラスメント禁止規定、制裁規定の法整備だと思います。
日本政府は、国連女性差別撤廃委員会から、セクハラ禁止法整備を繰り返し勧告されています。また、六月のILO総会で採択が予定されるハラスメント条約、その案にもハラスメント禁止法の整備がうたわれています。お手元の資料に出したところです。EU諸国を始め多くの国に禁止法があり、ハラスメント禁止法と制裁措置を策定することこそ必要です。少なくとも企業名の公表については、すぐにでもできることではないでしょうか。
さらに、セクハラ、マタハラ、パワハラ対策がそれぞれ別の法律に書かれ、担当部署も違います。被害者に、自分が受けたハラスメントはセクハラなのかパワハラなのか、どちらから訴えた方がよいのかなどと考えさせるというのでしょうか。包括的なハラスメント禁止法が求められます。
第三に、法案では、労働施策総合推進法第三十条にパワハラの定義として三つの要件を上げていますが、どれも大きな問題をはらんでいます。
まず、職場の優越的な関係を背景とするという要件ですが、同僚間のパワハラはあります。また、新人からベテランへのいじめやパワハラもあります。また、この定義では、患者や乗客、顧客など外部からの嫌がらせや言葉の暴力についてパワハラと認定できなくなります。
全労連の介護労働実態調査では、複数回答なんですが、パワハラの相手は上司が六六%とトップですが、セクハラの相手は利用者が八四%とトップになっています。顧客からのハラスメントに苦しむタクシー労働者、そして患者からのハラスメントに悩む看護師、就職試験のセクハラ質問で心が折れてしまった大学生、さまざまな苦しみを持つ方々をどう救えるのか、実態から出発したハラスメントの定義を行うべきと考えます。
次に、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものという要件もあります。これでは、業務上の必要があったとか正当な業務の範囲だとか、指導や教育を口実にして抜け道を用意してしまわないでしょうか。
さらに、労働者の就業環境が害されることという要件もありますが、ハラスメントは人格の否定、人権の侵害という大問題です。もちろん就業環境の悪化を引き起こしますが、それにとどまるものではありません。
第四に、ハラスメント問題では、被害者の方に落ち度があったのではないかと逆に責められたり、相談時に二次被害、三次被害を受けたり、バッシングされて屈辱的な思いをすることが多くあります。
今回の法案に相談、協力を行ったことへの不利益取扱いの禁止が盛り込まれたことは歓迎しますが、それに加えて、ハラスメントを受けたことによる不利益取扱いの禁止、独立した救済機関の設置、そしてそれに必要な人員配置をあわせて求めるものです。
第五に、ILO総会で採択が予定されている労働の世界における暴力とハラスメントを根絶するための条約、その水準に見合う法整備を行うべきと考えます。
条約案の基本的な考え方は、ハラスメントは、あってはならない権利侵害であり、機会均等に対する脅威であり、容認できないというものです。ハラスメントは、ディーセントワークとは相入れない、心理的、身体的、性的な健康や人間の尊厳、家族と社会環境に影響を及ぼす、女性が労働市場にアクセスし、とどまり、活躍することを妨げるおそれがあるなどと定義をされています。
また、この条約の対象となる労働者には、正規、非正規、フリーランス、インターン、実習生、雇用完了者、ボランティア、求職者や就職申込者、訓練中の人々も含まれます。そして、顧客やサービス提供者、ユーザー、患者など第三者からのハラスメントも対象としています。加盟国には、暴力とハラスメント禁止法規や制裁規定、政策、効果的な被害者保護なども求めています。このILO条約の水準が国際水準だということです。検討をお願いしたいと思います。
最後に、ハラスメントの土壌として、長時間過密労働、人手不足、競争主義のもとで時間と目標に追い立てられ、人を思いやる余裕もない、ぎすぎすした職場の中で、そして人間が大切にされない社会の中でハラスメントが蔓延していることを指摘しなければなりません。
私どもの労働組合の実態調査には、妊娠を報告したら産む順番はまだだと言われたという保育士、そして学校が忙しいときに子供をつくるなと言われた教員など、悲鳴のような声があふれています。また、医労連、医療労働者の組合ですが、その調査では、パワハラを受けた労働者のうち約半数が仕事をやめるかどうか悩んでいると答えています。
今このときもハラスメントに苦しむ方々にとって希望になる法案へと審議を進めていただきますように求めて、発言を終わります。
どうぞよろしくお願いいたします。(拍手)