山本和彦の発言 (法務委員会)

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○山本参考人 一橋大学の山本と申します。
 私は、大学では、民事執行法その他民事手続法の研究及び教育に携わっております。また、今回の改正案との関係では、法務大臣からの諮問を受けてこの問題について審議をしてまいりました法制審議会民事執行法部会の委員、部会長として、その審議に関与をいたしました。そのような立場から、今回の政府提出法案につきまして若干の意見を申し述べたく存じます。
 まず第一に、債務者の財産の開示制度の実効性の向上についてであります。
 日本では、強制執行を申し立てるには、債権者の側で債務者の対象財産を特定する必要があります。ただ、債権者が債務者の財産状態を把握していない場合も多く、また、特に最近は、債務者の財産が外部からはなかなか見えにくい状況になっているという面もあります。
 そのような中、強制執行の前提として、債務者の財産の探知手続を創設するということは、世界的な課題にもなっております。
 日本は、平成十五年の民事執行法の改正によって、債務者自身がみずからの財産を開示するという財産開示の手続を導入いたしましたが、残念ながら、十分に機能しているとは言いがたい状況にあります。
 そこで、今回、現行の財産開示手続についてはその要件を緩和しながら、違反に対する罰則を強化するということでより実効的なものにするということに加えて、新たに第三者からの情報取得の手続を創設することが提案されております。
 今回の提案は、銀行など金融機関から預貯金や上場株式等に関する情報、登記所から債務者の所有する不動産に関する情報、そして市区町村や年金機構等からは債務者の勤務先に関する情報を取得することを、債務名義を有する債権者に認めるものであります。
 ただ、このような制度を設けるについては、執行手続を実効化するという要請とともに、個人情報やプライバシーの保護とのバランスを慎重に考える必要があるところであります。そこで、例えば、勤務先の情報については、まず債務者による財産開示の手続を先行させる、あるいは、情報を得られる債権者を、養育費の債権者あるいは犯罪被害者など、特に要保護性の強い債権者に限定するなどの配慮を加えているものであります。
 以上のような改正は、近時の国際的な潮流にも合致するものと承知しております。かつては日本同様に債務者による財産開示制度しかなかったドイツや韓国においても、近時相次いで第三者からの情報取得の手続を導入しておりますし、またフランスなどでは最初から第三者を対象とした手続しか有していなかったものであります。また、情報取得の対象となる機関についても、大きく言えば金融機関と公的機関ということでありまして、ある程度国際的に共通しているものと理解しております。
 現在、日本の強制執行制度の最大の課題の一つは実効性の確保という点にあり、この点が必ずしも十分でないために国民の司法の利用自体をシュリンクさせているという見方もあるところであります。この部分の改正は司法制度全体の観点からも大きな意味があるというふうに考えておりまして、一日も早い改正法の成立が期待されます。
 次に、不動産競売における暴力団員の買受け防止の方策についてであります。
 現行法においては、暴力団員の買受け自体を制限する規定は民事執行法に存在しないところ、全国の暴力団事務所の一割余りが不動産競売の経歴を有しているとされています。この統計が民事執行法部会において示されたとき、私自身大きな衝撃を受けましたし、部会全体にも驚きの空気が流れたことを記憶しております。
 そもそも日本の競売手続には、歴史的に見て、反社会的な集団がさまざまな形で関与してまいりました。これは日本の司法制度において大変残念な特徴であったとも言えます。国際的な会議でこのような日本の競売の実態をお話しすると、日本社会に対する国際的な、一般的なイメージと異なるものとして、多くの国々の方に驚かれた経験があります。
 もちろん、これまで、さまざまな努力の中で、反社会的集団の競売手続への関与は徐々に制限され、特にバブル崩壊期に大きな社会問題となった暴力団等による執行妨害はほぼ根絶されるに至ったものと思われます。しかしながら、最後に残ったものとして、この買受けへの関与の問題があるということであります。
 今回は、暴力団員等の競売買受けの申出及びそれらの者の計算による買受けの申出を制限し、売却の不許可事由を新設するものであります。
 このような制度を提案するに際しては、競売の迅速、円滑な実現とのバランスを十分に考える必要がありました。競売手続の迅速性という観点も、競売市場の信頼確保のためこの二十年近く進められてきた重要な政策課題であるからです。
 今回、最高価買受申出人の決定後に警察への調査嘱託の制度を設けておりますが、それによって競売手続が過度に遅延することになってはなりません。そのため、売却不許可の要件等をできるだけ明確化するなどして対応したものであります。国際的に見ても恥ずかしくない執行手続のために、やはり一日も早い御対応を期待しております。
 最後に、子の引渡し及び国際的な子の返還の強制執行に関する規律の明確化、見直しについてであります。
 従来、民事執行法には、子の引渡しの強制執行に関する規定が全くありませんでした。そのこと自体やや信じられないところもありますが、かつては、そもそも子の奪い合いの紛争自体が少なく、また、紛争があっても多くは話合いで解決していたものが、近時は、離婚の増加や少子化の影響などもあって、子をめぐる紛争が増加するとともに、親同士の対立が先鋭化し、強制執行の問題になりやすい傾向があるように思われます。
 ところが、明文の規定がないため、動産の引渡しに関する規定などを類推して実務的に対応してきましたが、子供は確かに動くものではありますが物ではありませんので、当然のことながら、このような対応はそもそも適当なものではなく、また、裁判所や執行官の実務における負担も大きなものになっているように思われます。その意味で、今回の明文化は時宜にかなったものと言えます。
 今回の改正案は、既に存在した国際的な子の返還の強制執行の手続を一つの出発点として議論されましたが、主に問題となったのは、直接的な引渡しを行う前に間接強制、すなわちお金を払わせることで心理的に強制する手続を先行させるかどうかという点と、執行に際して債務者、すなわち現在監護している親の同席を必要的とするかどうかという点でありました。ハーグの手続では、これらをいずれも必要的なものとしていたところ、債務者の抵抗や意図的な執行妨害を招いており、必ずしも十分に機能していないという批判もあったところであります。
 そこで、新たな手続では、間接強制を一律に先行させることはせず、その意味が少ないと見られる場合や子の危険を防止するために必要な場合には、直ちに直接的な強制執行を可能にすることとしております。加えて、債務者である親がその場にいなくても、債権者である親、他方の親が立ち会っていれば執行を可能にすることで、より実効的かつ円滑な強制執行を可能にしようとしたものであります。その審議の過程では国際的な動向も参考とされましたが、最終的にはドイツの制度などと類似するものとなりました。
 このような提案をした部会審議の過程では、立会人や執行補助者として強制執行に関与された経験のある児童心理の専門家等を参考人としてヒアリングを行いましたが、そこでは、執行の現場で債務者が子に対してどちらの親を選択するのかということを迫ったような事案や、子供が債権者のもとに帰りたいと泣いて訴えたにもかかわらず、債務者が介入して、結局、執行完了に至らなかった生々しい事案が紹介されたところであります。そのような実際の状況なども踏まえて、今回の改正提案になったものであります。
 もちろん、現在のハーグの規定も、子の心身への負担をできるだけ少ないものにするという観点から定められているものでありまして、そのような意味で、強制執行も子の利益、福祉のために行われるものでなければならないという点は、部会の共通認識としてありました。そのような観点を踏まえ、執行手続の実効化を図るとともに、改正法案百七十六条にありますような子の心身に対する配慮の責務を裁判所や執行官に課すようにしたものであります。
 以上のような国内の子の引渡しの強制執行の規律の新設を踏まえて、ハーグ条約における子の返還の執行手続も同様の形で見直すこととなりました。子の返還と子の引渡しとでは事情がやや異なる面もありますが、子の利益のために迅速かつ実効的な執行を行うべきであるという点には違いはないと考えられるため、最終的には同じ規律になるべきと部会では判断されたものであります。
 その結果、子の返還の手続でも、間接強制を必ず先行させることにはせず、また債務者の同時存在も不要としております。そのため、部会の審議の過程では追加試案を作成し、この部分について特にパブリックコメントを改めて行うとともに、その分野の専門家に委員、幹事として御参加いただくなど、慎重に議論を進めたものであります。この改正点は、条約上の日本国の義務をよりよく履行するという観点からも重要なものと考えております。
 このほか、債権執行事件の終了時期をめぐる規律や差押禁止債権の規律の見直しも、実務界からの強い要望に基づき部会で審議した重要な改正点であります。ここでは、時間の関係で詳細な言及は控えさせていただきますが、一点だけ、収入、資産の少ない債務者による差押禁止範囲の変更の制度、これは従来からあったものでありますが、従来は余り知られておらず、活用されていないことから、今回、この制度を差押えをするに当たって債務者に必ず教示するという手続を設けました。この点は重要な点と思われます。強制執行の実効性を一方で高めるとともに、他方では保護すべき弱い債務者が適切に保護されるという、めり張りのきいた執行制度が目指されるべきものと考えております。
 今回、改正の対象とされている事項は、いずれも、理論的に見ても実務的に見ても極めて重要なものであり、また国際的潮流という観点を踏まえても、一刻も早い対応が望まれているものであります。また、部会における審議も、パブリックコメント等を経て慎重に行い、最終的には全会一致で採択されたものであります。そのような点も踏まえまして、一日も早く法案が成立し、これが実務において実施されることを期待いたしまして、私の意見陳述を終わりたいと思います。
 御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 山本和彦

speaker_id: 32734

日付: 2019-04-03

院: 衆議院

会議名: 法務委員会