松浦由加子の発言 (法務委員会)
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○松浦参考人 本日は、このようにお話しする機会をいただき、ありがとうございます。
私は、まず大阪で働いていて、今は京都で弁護士をしております。弁護士十七年目になります。
きょうは、山尾先生から、特に子供への配慮について問題意識を持っているとお伺いしております。
私自身、子の引渡しの直接執行の経験もありますし、また、知人の弁護士数名から子の引渡しの経験談をヒアリングしております。また、日弁連、日本弁護士連合会で、子の引渡しに実際にかかわったことがある方からアンケートをしておりますので、それに基づいて、できるだけ実務的なお話をしたいと思っております。
まず、子の引渡しの直接執行がどのようなものかということをお話ししていきたいと思います。
子の引渡しの事件の典型例は、離婚に向けて別居している御夫婦の間で、未成年の子供さんがいらっしゃって、どちらが引き取るかというので争いになり、片方の親が片方の親に引き渡せと求める裁判を起こしたというものが典型例になります。簡単に言うと、お子さんが奪い合いになっている事件ということになります。
審判は、家裁、家庭裁判所で行われるのですが、子供の心理について専門的知見を持っておられる調査官という職種の方が、両親やお子さんと面談をしたり、あるいは家庭訪問をしたりして調査した上で、それに基づいて裁判官が判断をするという流れになります。
審判がなくても自主的にお子さんを引き渡す親御さんもいらっしゃいますし、子を引き渡すように命ずる審判が出れば、もちろんそれに従ってお子さんを引き渡す親御さんも少なくはありません。
なので、子供を取り戻すために執行官による執行までされるケースというのは非常に少なくて、今回の統計資料の十一の一にもあるんですが、年間、全国で百件前後というのがこの十年ぐらいは続いているようです。都道府県によっては、年に一件もないというところも多数あると思われます。
同じ表にも記載があるのですが、子の引渡し執行は、近年は三割前後というふうに完了率が高くないというのが実情になっております。以前は、平成二十二年前後ぐらいは四割程度だったので、そのころから導入された債務者の同時存在の原則が影響して、少し完了率が下がったのではないかというふうに思われます。
次に、子の引渡しの執行をする、つまり、実際に執行官が子供を取り戻しに行くことが決まった後の流れなどについてお話ししていきたいと思います。
ここからは、国内法とハーグ条約実施法では、ほぼ同じ仕組みになっております。
以下、お子さんを取り戻そうとしている親御さんのことを債権者、子供と同居している方の親御さんのことを債務者と申し上げますので、御了解ください。
改正後も今でも同じく、現場に行くのは執行官ですので、その執行官が、まず債権者あるいはその弁護人、両方という場合が非常に多いんですけれども、が執行官に会いに行って、どのように執行を行うかということを打合せします。
この段階では、債権者の側は家裁調査官の調査報告書を持っていることがほとんどです。そこには、今のお子さんの生活パターンがどんなふうかとか、お子さんの性格や発達段階がどのような状況かとかいうことが記載されていますので、それをもとに、お子さんの性格を考えたり、どのようなタイミングで、どこで執行するのがよいかというのを協議します。
ただ、調査報告書には書けないことも調査官としてはあると聞いています。つまり、親御さんが両方見るので、子供が親に知られたくないということは書かないようにしていることもあると聞いていますので、場合によっては、調査官、直接話をしてということが必要な場合もあるのかもしれませんが、ただ、ちょっと、今回の制度改正でもそこまでは担保はされていないようです。
また、調査官の調査後に、子供を隠すために引っ越したりとか親戚に預けたりするケースもありますので、結局、子供の居どころがつかめず、執行ができないというケースもなくはないというふうに聞いております。
この打合せのときに、後ほど申し上げる、執行に立ち会う専門家が立ち会うことが望ましいのではありますが、スケジュール的にそれがかなわないということもあるようです。
執行の時間帯や場所ですけれども、近年は、先ほど御説明もあったように、ハーグ条約実施法と同じく、債務者がいないと執行できないという運用になっていて、債務者が働いている場合は、在宅している時間となりますと早朝や夜遅くに執行せざるを得ないというケースが少なくなく、特に、小さいお子さんには、もうおねむの時間ということもあって非常に負担になっていたのですが、今回の改正のとおりにいけば、これは改善されることというふうに思われます。昼間にも執行ができる可能性が非常に高くなる。
また、現在は義務づけられていませんが、すぐにお子さんを引き取れるようにということで、債権者が執行現場の近くに待機していることがほとんどです。ただ、その反面、このため、債権者が遠方に住んでいる場合などは、交通費がかかることはもちろん、宿泊の手配をしておく必要もありますし、実際に宿泊が必要な場合も多いというふうに思われます。
執行の場所は、こちらの統計資料にもありますように、従前から債務者の自宅というのが非常に多かったようですが、祖父母に預けておられることも多いので、親戚の自宅ということも間々あるようです。
債務者だけでなく、祖父母、債務者の両親のことが多いんですけれども、子の引渡しに強く抵抗されることがあります。恐らく、そういうためもあって、トラブルを避けるために、平成二十六年以前は、保育所や小学校や、場合によっては公道などが執行場所に選ばれることがあったようです、こちらの資料にもありましたけれども。恐らく、公道というのは、家や保育所にちょっと踏み込めないので、出てきたところを狙ってということが多かったのではというふうに推測されます。
ただ、保育所などで執行する場合も、保護者の了解が得られないからというので引渡しを拒否される場合も聞いておりますし、あるいは、債務者やその両親に連絡をして、保育所に、学校でもいいんですけれども、彼らが駆けつけてきて、結局トラブルになるということがよくあるようです。
また、既に指摘があったようですけれども、保育所や学校で執行する場合は、ほかのお子さんの目の前でやられてしまうと、お子さんの心の傷になりますので、そのやり方については十分に配慮する必要はあると思います。
執行前の打合せでは、こういったことをシミュレーションしながら段取りを取り決めていくというふうになります。
執行の現場ですけれども、どんな人員配置が必要かという観点からまずお話しさせていただきますが、債務者あるいは祖父母がいる自宅で執行する場合は、まず、その債務者や祖父母に説明し、説得する必要があります。債務者や祖父母、場合によったらおじさん、おばさんとか親戚が駆けつけてきてということもありますので、そうすると、それが数名いる場合は、場合によっては物理的に抵抗されるおそれもありますので、その人数以上の人員を裁判所がそろえていく必要はあります。できたら多い方がいいということになると思います。
債務者や祖父母の抵抗がどんなものがあるかですけれども、先ほど申し上げたアンケートのほか、杉山初江さんという方が横浜地裁の付近の執行状況を調査した文献があるので、それの中からの事例とかを見ていると、大声で威嚇し続けるとか、鍵を施錠してあけない、また、鍵屋さんに鍵を無理やりあけさせないといけないとか、暴れる、乱暴をするとか、近くに人がいるのに車で急に発進してその場を強引に走り去ろうとするとか、あるいは子供を抱えて放さないなどの、いろいろな抵抗のケースが見受けられます。もちろん、警察に警備を頼むことは可能なのですが、それでも、余りにも危険な場合には、執行を断念せざるを得ません。
結局、人身保護法という、刑事罰を伴う、勾引、勾留もできるような強力な手続があるんですけれども、人身保護法でもう一回子供の引渡しができるかどうかというのをチャレンジしないといけないというのが現状になります。
債務者等への説得は、執行官が担当することが多いですが、債権者代理人や子供の専門家が立ち会っている場合は、一緒に説得に当たることもあります。執行官も研さんを積まれていますが、家事事件全般には詳しくありませんし、また、引渡し後のことについてはかかわらないということになりますので、事後的なことについては債権者代理人から説明することもよくありますし、あるいは子の心理の専門家の方が子供さんについてのアドバイスはできますので、そういったこともなされる場合があるようです。
これに対して、保育所や小学校などで執行する場合は、大人からの抵抗を受ける可能性は少ないのは少ないのですが、先ほど申し上げたように、債務者たちが駆けつけてくるリスクはありますので、それに備える必要はあります。
以上が大人への対策ということになりますが、もちろん、執行の対象になっているお子さんに対する対応が一番重要で、大人とは別の担当者、執行補助者などが必要というふうに考えます。トラブルになっているときにお子さんがそばにいるということもありますし、何より、執行の対象になっているお子さんに丁寧に説明する必要があります、乳児、言葉がしゃべれないようなちっちゃいお子さんではない限り。お子さんが、結局、債権者についていくかどうか迷っておられる場合もありますので、お子さんに寄り添う立場の人が誰かいる必要があると思います。お子さんにできれば一人ずつ人員が配置されることが望ましいし、現在もそのように運用されているようです。
改正後は、債権者の出頭が原則になりますし、立入りすることもできるようになりますので、債権者にその役割を担わせることも、選択肢の一つにはふえます。しかし、債権者が自宅に入ると、債務者やその親族が強く抵抗して現場が荒れることも少なくありませんし、対象となるお子さんが複数おられることもあります。また、債務者にいろいろ吹き込まれてというのもありまして、例えば、おまえのことを嫌いだったから出ていっちゃったんだよみたいに言われたりして、お子さんが債権者に対して複雑な気持ちを持っておられることも非常に多いので、債権者が出ていけば必ずしもいいとは限りません。なので、やはり債権者以外に子供の担当者を配置する必要があることは変わらないと思います。
では、子供の担当者としてどのような方がふさわしいかですが、これは非常に難しい問題だというふうに思います。
古い事例を見ていると、保育士の方に依頼されたケースもあるようです。乳児の場合であれば、そういった方が適任という場合もあるんじゃないかなというふうに思います。
ただ、大きくなってくると難しい。子の心理の専門家というんですけれども、ただ、今までも御説明したように、子の引渡しの執行というのは、事前に調査報告書を読んで、債権者と打合せをして、親御さんと打合せしてというのができるだけで、執行の現場でゆっくりお子さんとお話しできるとは限りません。また、幼いお子さんが多い、十歳以下のお子さんがほとんどなので、そうすると、発達段階にもよりますが、うまく言葉で自分の気持ちが表現できないお子さんも多いので、通常の大人と同様のアプローチは難しくという問題があります。
そうすると、子供について臨床経験があって、紛争性の高い場での対応のトレーニングがある方ということになるんですが、先ほど申し上げましたように、件数が非常に少ないので、そこまでして養育できるかというのは非常に難しい問題がございます。
法制審の部会の中でも心理職の方が、役割分担の問題はあるんだけれども、トレーニングを受けていない部分もあるので、対応が難しい部分もあるというふうにお話しされていました。
個人的には、家庭裁判所の調査官が、児童心理について専門的知見を持っているとともに、紛争に関与するのがお仕事ですので、適任じゃないかとは思うんですが、これは制度的になかなか難しいようです。そこで、調査官OBなどを活用するのも一つだと思います。現在も、調査官OBが多く所属しておられるFPICという団体に依頼されているケースも多いようです。
このほか、件数が少ないので、経験の積み重ねにより執行官や執行補助者がブラッシュアップしていくというのが非常に難しいようです。また、先ほど申し上げたように、適任者が全国にいるとは限りません。
前者に関しては、全国的規模で、執行補助者の方も入れて、特に子の引渡しの執行について事例集積して、経験交流をして、研究してブラッシュアップしていく仕組みの構築が不可欠だというふうに思います。
後者については、件数が少ないことがあって、各地で専門家を擁するのはなかなか難しいので、都会から専門家が派遣できるように交通費や宿泊費の問題をクリアしていく必要があるのではないかと思っています。一方で、その費用を債権者負担とすると、過疎地の債権者が、経済的な問題から執行できないというふうになりかねないので、大きな問題だというふうに思っております。
最後に、子の所在の調査について一言申し上げたいと思います。
子の引渡しは、子供がどこにいるかわからないとできません。一方で、子の引渡しの事件で執行まで至るケースは対立が深いケースがほとんどで、このため、子供を親戚や知人に預けるなどして隠したり、ホテルを転々としたり、保育所や学校にも行かせないというような悪質なケースも散見されます。
ハーグ条約実施法では、国の行政機関や地方公共団体の協力を得て所在の特定を行う制度がありますが、国内法にはありませんし、今回の改正でも、ちょっとその制度については見送りになりました。
先ほど山本先生のお話の中で実効性の確保という問題がありましたが、国際的な指摘はさておいて、とりあえず、日本の国の中で、子供を隠したら返さずに済むというのは法秩序をないがしろにするものですし、非常によくないことだというふうに思います。ぜひ、この点について改善していっていただきたいというふうに思っております。
以上です。ありがとうございました。(拍手)