三上理の発言 (法務委員会)

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○三上参考人 せたがや市民法律事務所の弁護士の三上理と申します。
 日本弁護士連合会では消費者問題対策委員会の多重債務部会に所属しており、東京弁護士会では消費者問題特別委員会の委員長をしております。また、任意団体である全国ヤミ金融・悪質金融対策会議の事務局長を務めております。
 これまで、主として多重債務問題を始めとする消費者問題に取り組んできた弁護士として、債務者の財産状況の調査に関する規定の整備と差押禁止債権に関する規律の見直しについて意見を述べさせていただきたいと思います。
 参考資料として、二〇一七年一月二十日付の日本弁護士連合会の提言と、二〇一七年十月二十六日付の全国ヤミ金融・悪質金融対策会議の意見を配付させていただきました。この二つの意見書については、私自身、ほぼ同じ考えを持っておりますので、御参考にしていただければ幸いに存じます。
 それでは、まず、基本的な視点について述べます。
 私自身、消費者問題に取り組む弁護士として、例えば、振り込め詐欺、投資被害、サクラサイト、原野商法などの被害に遭ってしまった方から依頼を受けて、そのお金を取り戻すために裁判をして、苦労して判決をとったのに、回収ができず、歯がゆい思いをするということがあります。
 こういう悪質商法を行い、多額の資金を集めていた者に換価すべき財産がないはずがないのに、債権者となる被害者には、どこにどんな財産があるかの情報がないために執行ができないというのは不合理であって、このような債務者の逃げ得を許すべきでない、だからこそ、私は、債権者が債務者の財産に関する情報を取得する制度が必要であると考えるものです。
 ただ、他方で、私は、長年多重債務問題に取り組む中で、そもそも換価すべき財産を持たない、債務名義があっても払おうにも払うことができない方を多く見てきました。貯蓄のない世帯、全世帯の三割、単身世帯の四割とも言われています。貯蓄のない世帯の債務者に対し、給与の差押えや年金、生活保護費が振り込まれる預金口座の差押えがされることは、極めて深刻な打撃となります。給与の差押えを受け、会社をやめざるを得なかった人、その差押えを取り下げてもらうために闇金から借りてでも支払うという選択をしてしまった人を見てきました。
 債務者への過酷な執行を防ぐための制度が必要であると痛感しております。
 この民事執行の手続が目指すべき方向性について、これまで真正面から議論することが避けられてきたように私には思える問題があります。
 債権者に対し、換価すべき財産を持っている債務者の、その財産に関する情報を取得させることで、民事執行の手続、つまり、債務者の財産の換価による債権の回収の実現を目指すのか、それのみならず、換価すべき財産を持たない債務者に対する心理的な威嚇力によって、知人から、親戚から、又は闇金から借りてでも支払うようにしむけることまで是とするのか、あるいは、債務名義に基づく支払いができない者は、健康で文化的な最低限度の生活にも満たないような暮らしを強いられることもやむを得ないと考えるのかということです。
 債権者の立場では、債務者に換価すべき財産がないのであれば、親戚から借りてでも払ってほしいと思うのは当たり前です。私でもと言ったら変ですが、私でも、債権者の代理人として行動するときは、相手方である債務者が低所得であるからといって差押えの手続を遠慮するというわけにはいきません。
 民事執行は、中でも給与の差押えは、単なる財産の換価のみならず、債務者に対する心理的な強力な威嚇となり得るものであって、債権者としてもそういうものとして利用することをとめられないものであるからこそ、制度設計に当たっては、債務者の生活保障のための目配りが欠かせないものであるというふうに考えております。
 次に、第三者から情報を取得する制度について述べます。
 中間試案では、預貯金と給与に関する情報だけがこの制度の対象とされておりました。しかし、これでは、株式、社債、投資信託等の金融資産や不動産などの換価すべき財産を持っているのに支払わない債務者に対しては、逃げ得を許すことになります。他方で、このような金融資産や不動産などの財産を持たない、わずかな収入でぎりぎりの生活をしている債務者の給与の差押えや、年金、生活保護費が振り込まれる預金の差押えだけは確実にしようとする。中間試案の制度設計は不合理であったと言わざるを得ません。
 私は、この法律案が、株式、社債、投資信託等の金融資産や不動産に関する情報を対象にしていることには賛成するものです。むしろ、今後の課題として、さらに、振替制度の対象として取り扱われていない投資信託等の金融資産についても、金融機関からの情報取得を認める方向で検討すべきではないかというふうに思っております。
 他方、中間試案では、債務者の給与に関する情報について、無限定に全ての債権者が公的機関から情報を取得できるものとしていましたが、これでは過酷執行を誘発するものであり、私は反対意見でした。
 この点、この法律案では、養育費等を請求する場合や、生命身体に対する侵害による損害賠償請求をする場合に限ってこの制度を利用できるものとしています。
 養育費等を請求する場合に公的機関から給与に関する情報を取得できるものとすることについては、私も賛成できるものです。養育費の金額は債務者の収入が幾らであるかに応じて決められるものであり、債務者の収入が変わったときは養育費の金額自体を変えることもできるものであって、養育費は給与を引き当てにしているという実質があるからです。
 しかし、生命身体の侵害による損害賠償請求をする場合にもこの制度を利用できるものとすることについては、私は疑問に思っております。養育費とは違って、それが給与を引き当てとしているという実質を持っているわけではないからです。
 要保護性という意味では理解できるところはありますけれども、要保護性というものをメルクマールにしてしまったら、私が取り扱っているような、例えば、老後の資金として蓄えていたものを根こそぎ持っていかれてしまった詐欺被害者である高齢者についてはどうなのか、あるいは、性犯罪の被害者についてはどうなのか。要保護性ということをメルクマールにしてしまったら、どこまでも広がっていってしまうおそれがあるんだろうと。
 生命身体に対する侵害による損害賠償請求については要保護性が高い、しかし、財産犯罪の被害者、性犯罪の被害者については要保護性はそれほど認められないなどという区別ができるのかどうか。メルクマールとしての曖昧さが残っていると思います。
 一旦これを認めてしまうと、今後、債権者の範囲が更に拡大されていくことを私は懸念するものであります。
 次に、給与の差押禁止の下限について述べます。
 現行法の問題点として、どんなに低い金額の給与でも、その四分の一が差し押さえられることになっています。低所得の世帯の生計を支える債務者の給与が差し押さえられると、健康で文化的な最低限度の生活にも満たない暮らしを強いられるおそれがあります。既に生活保護基準にも満たないような暮らしをしている世帯の債務者に対してさえ、給与の差押えがされることがあります。憲法二十五条で保障する生存権という観点から、見過ごせない問題であるというふうに考えております。
 この点、ドイツの民事訴訟法でも、あるいは、我が国でも国税徴収法では、債務者の生活保障のために、給与の額が一定の金額に満たないときはその全額を差押禁止にするということを定めております。民事執行法でも、債務者の生活保障のために、このような定めは当然に必要不可欠であるというふうに思います。
 日弁連もその旨の提言をし、中間試案に対するパブリックコメントでも、この論点についてはかなり積極的に見直しを求める意見があり、現状よりも債務者を保護する方向での見直しを求める意見が多数寄せられていたとされているにもかかわらず、この法律案でこの点が盛り込まれなかったことは極めて残念に思います。私がこの法律案について最も残念に思うのはこの点です。
 法制審では、債務者は、給与の差押えにより生活ができなくなるときは、みずから差押禁止債権の範囲変更の申立てをすればよい、したがって、債務者に対しては、その制度の存在を教示すれば足りるというふうに考えられたようですけれども、私は疑問に思います。制度の存在を教示したからといって、債務者がみずからこの申立てができるようになるとは私には思えないからです。
 最後に、差押禁止債権の範囲変更の手続の教示について述べます。
 給与の差押えを受けた債務者が、みずから範囲変更の申立てをするのも、ましてや弁護士に依頼してその申立てをしてもらうというのも、容易なことではありません。申立てをしようにも、どんな事情を説明すればどれだけ差押えを取り消してもらえるのか、基準もなく、予測可能性もありません。
 法制審の第十八回議事録によれば、東京地裁では、平成二十九年の一年間で、給与の差押えに対して範囲変更の申立てがされたものはわずか五件しかなく、しかも、その申立てが認められたものは一件もなかったとされています。つまり、現状では、給与の差押えを受けた債務者から範囲変更の申立てはほとんどされていないし、仮に申立てをしても、ほとんど認められていないということです。
 他方、低い金額の給与が差し押さえられている事例の多さについて、同じく法制審の第十九回議事録によれば、東京地裁では、平成三十年五月七日から五月十八日まで、わずか二週間で、実際に債務者が働いている勤務先への給与が差し押さえられた事例六十五件のうち、給与の額が十万円以下のものが七件あったとされています。
 つまり、給与の差押えがされた事例のうち、一割以上は十万円以下という低い金額の給与が差し押さえられていたということです。そして、このような低い金額の給与の差押えを受けた債務者からは範囲変更の申立てができていないわけです。
 債務者にとってのハードルの高さについて、東京地裁では、生活保護を受給している方が生活保護費の振り込まれた預金の差押えを受けたケースを想定して、「差押範囲変更(減縮)の申立てをする方へ」という書面をつくっています。そこでは、生活保護を受けるに至った事情、その後の現在に至るまでの生活状況、家計の状況を事細かに陳述させるとともに、必要書類、証拠資料の提出を求めています。債務者にとってはハードルが高過ぎると私は思います。
 この書面を参考にして、みずから範囲変更の申立てができた債務者がどれだけいたのか、ここ数年で一人でも二人でもいたのかどうか、ぜひ調査していただきたいと思うところです。
 今後、債務者に教示すべき事項と教示のあり方について、これは最高裁判所規則で定められることになるようですけれども、申立てに際して債務者が明らかにすべき事項の例示とその提出資料の例示は必須であると思います。
 ただし、完璧な、申立てさえすればすぐに認められるような、そんな申立書のつくり方まで教示しようとする必要はないと思います。生活保護の申請について、いわゆる水際作戦というものが問題になりますけれども、債務者に対し範囲変更の手続を教示することが、間違っても、申立てを諦めさせる方向に働くようなことがあってはならないというふうに考えます。不十分な内容でもよいから、不備があれば必要に応じて追完すればよいから、とにかく、低所得の債務者が差押えを受けたときは誰でも簡単に申立てができるように誘導するための教示が求められると考えます。
 そして、改正法の施行の前後で範囲変更の申立て件数がどれだけ変わるのか、例えば、申立て件数がふえた裁判所と余り変わらない裁判所があったとすれば、その違いはどこにあるのか、その効果測定はぜひお願いしたいというふうに思います。
 債務者の生存権にもかかわる問題を、今までどおり百五十三条の手続に、債務者がみずから申立てができるかどうかということに委ねたままでよいのかどうか。その効果測定の結果次第で、改めて、今度こそ、給与の差押禁止の下限の定めを民事執行法の中に導入することを実現できるように、今回の手続教示の導入を、これで終わりではなく、まず第一歩としていただきたいというふうに思っております。
 私からは以上です。(拍手)

発言情報

speech_id: 119805206X00820190403_008

発言者: 三上理

speaker_id: 23443

日付: 2019-04-03

院: 衆議院

会議名: 法務委員会