岩崎茂の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(岩崎茂君) 本日は、参議院の外防委員会に出席し、このような形で安全保障に関する意見を申し上げる機会をいただきましたことは大変光栄なことだというふうに感じております。感謝を申し上げたいというふうに思います。ありがとうございます。
本日は、短い時間ですけれども、私が約四十年間、自衛隊で奉職させていただきました所感も交え、今回新たに策定されました三〇大綱、それから三一中期防について意見を述べさせていただきたいと思います。
申し訳ありません、手続をちょっと必ずしも承知しておりませんでしたので、私が今から申し上げることを事前に配付できていなかったことをおわび申し上げたいというふうに思います。
我が国は、現在、国家安全保障戦略、そして二五大綱、二六大綱を平成二十五年の十二月に策定いたしましたけれども、当時、私は統幕長としてこれらの策定に向け、防衛省・自衛隊内における検討に積極的に参加しておりました。あれから僅か五年の間に、国家間の相互依存関係が一層拡大、深化する一方、パワーバランスの変化が加速化、複雑化し、我が国を取り巻く安全保障環境は格段に速いスピードで厳しさと不確実性を増すようになってきております。とりわけ、宇宙、サイバー、電磁波といった新たな領域が死活的に重要になってきており、陸海空で対応してきたこれまでの安全保障の在り方を根本から変えなければならない時代になってきております。こうした外的要因に加え、安倍内閣総理大臣の下、日米ガイドラインの見直しや平和安全法制の整備など、我が国自身の安全保障政策も大きく変わりました。
このように、前大綱の策定から僅か五年の間で我が国の安全保障環境が大きく変化する中、昨年一月に安倍総理が防衛計画の大綱の見直しを判断されたことは極めて適切な判断であったというふうに考えています。
私は、昨年八月に安倍総理の下に設置された安全保障と防衛力に関する有識者懇談会のメンバーとして、七回の公式会議と数度にわたる勉強会、研修会等に参加し、広範な議論をさせていただきました。議論の詳細を申し上げることは事柄の性質上差し控えますが、国民の生命、財産と平和な暮らしを守るため、また地域と国際社会の平和と安全を確保するためにどのような防衛力が必要なのかについて、三村座長以下、懇談会メンバーと精力的に議論を重ねたところです。
今回の三〇大綱においては、一、宇宙、サイバー、電磁波等を含む全ての領域における領域横断作戦により我が国の防衛を全うできること、二、平時から有事までのあらゆる段階で柔軟で戦略的活動を常続的に行えること、そして三点目は、日米同盟の抑止力、対処力を強化し、その上で多角的、多層的な安全保障協力体制を推進できること、この三点を柱とする多次元統合防衛力を構築することとしています。
これは、我が国を取り巻く安全保障環境の現実を踏まえれば、軍事専門的な観点から極めて妥当な内容であり、まさに国民を守るために真に必要な防衛力の構築のための方向性が明確に示されており、高く評価できるものと考えています。
この多次元統合防衛力の構築を図っていく上で私として特に重要であると考えられる以下の五項目について申し上げたいと思います。一点目は軍事、非軍事の境界線の曖昧化、それから二点目は宇宙、サイバーのこと、そしてSTOVL機と「いずも」、四点目は技術分野での優位性の維持、最後に人的基盤のことについて申し上げたいというふうに思います。
まず第一に、大綱策定の背景となる我が国を取り巻く安全保障環境の変化について、軍事、非軍事の境界が曖昧になっているという点について申し上げたいというふうに思います。
現在、冷戦期に懸念されていたような主要国間の大規模武力紛争の蓋然性はかなり低くなっているものの、いわゆるグレーゾーンの事態は、国家間の競争の一環として長期にわたり継続する傾向にあります。また、いわゆるハイブリッド戦のような、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にし、現状変更を試みる手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強要しています。
一方、我が国は中国、韓半島、ロシアに囲まれた極東に位置していますが、時間の関係上、これらの国々の軍の近代化や活動の活発化についての細部は申し上げませんが、中国に関して一点指摘しておきたいと思います。
昨年の七月、我が国の海上保安庁に相当する中国の海警部隊が、中国軍の最高指導機関である中央軍事委員会による一元的な指揮を受ける武装警察の下に編入されたことは、大変注目をしなければならない事態です。中国海警は、特に平成二十四年以降、我が国の尖閣諸島周辺などで活発な活動を行っています。この組織改編により、その活動が海上における法執行にとどまらず、軍事的な意味合いを持つようになるおそれが出てくるからです。
新大綱は多次元統合防衛力の構築を目指しておりますが、この二つ目の柱として、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動を常続的に行える能力の構築がしっかりと明記されていることは極めて重要なことであります。今後、各種事態に我が国全体として効果的に対応できるよう、政治の強力なリーダーシップの下、防衛省・自衛隊を含む関係各省庁がより緊密な連携を図っていくことが重要だと考えています。
第二に、多次元統合防衛力の重要なポイントであります宇宙及びサイバーについて意見を申し上げたいと思います。
新大綱においては、領域横断、いわゆるクロスドメイン作戦に必要な能力を優先的に強化することとしています。これは、今までの大綱では、特定の分野を優先的に強化するという考え方は必ずしも明確ではありませんでした。新大綱、中期では、特に優先すべき事項を早期に強化するため、既存の予算、人員の配分に固執することなく、資源を柔軟かつ重点的に配分することとしています。これは、限られたリソースを最大限効果的に運用していく観点から極めて重要なことと考えています。
宇宙に関しては、これまで大綱でもある程度の記述はあったものの、私は必ずしも十分ではないと感じておりました。我が国の宇宙に関する基本的な考え方は宇宙基本計画に示されております。この基本計画は、平成二十年五月、宇宙基本法が制定されたことを受け、平成二十一年六月に宇宙開発戦略本部で最初の計画が決定され、以降、これまでに二回の見直しがされています。最新の計画は平成二十八年四月に閣議決定されています。これは、安倍内閣総理大臣の指示、これは平成二十六年九月に出されておりますが、国家安全保障戦略を踏まえた内容にしなさいという指示ですが、このことを含んだ大変すばらしい計画となっています。
今回の新大綱は、かかる状況を踏まえて、情報収集や通信、測位、宇宙状況監視や機能保証はもちろんのこと、相手方の指揮統制、情報通信を妨げる能力をも含め、平時から有事までのあらゆる段階において宇宙利用の優位性を確保するための各種能力の強化に取り組むことが明記されています。
宇宙は、米国のウィルソン空軍長官の言葉にもあるとおり、宇宙抜きでは私たちは安全保障政策を議論することはできないというふうな言葉がありますけれども、まさしく今後の安全保障政策を推進する上で最も重要な分野であり、大変高く評価できるものと考えています。
また、サイバーについては、陸海空を含むあらゆる領域での作戦を統合的に実施するためにはC4ISRがしっかりと機能しなければならず、その前提として、システムやネットワークのセキュリティー確保が必要不可欠です。これらがしっかりと機能しなければ領域横断作戦の遂行は不可能です。そのため、システム、ネットワークの監視能力、被害の局限、復旧能力の強化は不可欠であると考えております。
加えて、諸外国などのサイバー攻撃に関する技術的動向を踏まえれば、有事における相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力の整備は極めて重要な課題だと考えています。我が国でこういったことを検討することは難しい点もあろうかと思いますが、現実を見据え、しっかりと取り組んでいくべきと思います。
サイバーについては、民間の重要インフラ防護も喫緊の課題であり、大規模サイバー攻撃等における対応に際し、自衛隊に多くを期待する声も聞かれます。しかしながら、国の重要インフラを防護することは、現在の自衛隊の体力を超える可能性がある任務であります。国家としての対応が必要と考えます。
防衛省・自衛隊がサイバー分野でどのような任務や役割を担うのか、国家としてしっかりとした検討が必要だと考えます。我が国では、今年も来年も国際的なイベント、来年はオリンピック、パラリンピックが控えております。政府自らが主導し、国家としての体制整備を早急に行うべきと考えています。
次に、新大綱、中期の目玉でありますSTOVL機の導入と「いずも」護衛艦の改修について、軍事専門的な観点から私の見解を申し上げたいと思います。
現在、中国を始めとする周辺国の航空戦力の近代化に伴い、太平洋側を始め、我が国周辺の海空域において、戦闘機や爆撃機、そして空母等の活動が拡大、活発化しているという厳然たる事実があります。
特に、中国海空軍機による活動は年々質的な向上を見せています。平成二十九年には十八回もの沖縄本島と宮古島間を通過する飛行がありました。同年八月には爆撃機が紀伊半島沖まで進出しています。昨年四月には、沖縄県南方の太平洋上で空母遼寧に搭載されている戦闘機の飛行と推定される事象が初めて確認されています。また、今週、防衛省が発表していますが、空母遼寧等が沖縄本島と宮古島間を通過し、西太平洋に向け航行したとのことです。
今後、このような中国海空軍の東シナ海や西太平洋における活動が一層拡大、活発化することが考えられます。このような観点から、我が国の防空体制の早急な強化が必要と考えています。
一般的に、戦闘機の運用には長い滑走路が必要ですが、このような戦闘機を運用できる飛行場の数は、我が国ではそれほど多くありません。特に島嶼部においてはかなり限定的であります。こうした中、我が国がSTOVL機を導入することになれば、滑走路の短い飛行場でも離発着ができ、戦闘機の柔軟な運用が可能になり、防空能力を格段に向上させることができます。また、これまで必ずしも対応が十分できていなかったと考えられた離島の防空や広大な太平洋地域側においても有効な対応ができるようになります。
このような中、我が国の特性から、私は、護衛艦からSTOVL機を運用することが可能になれば、我が国の防衛能力を、特に防空能力を更に充実、向上させることができると確信しております。
太平洋側の島嶼部では、現在のところ、自衛隊の戦闘機が使用可能な滑走路は硫黄島一か所だけです。また、この広大な空域で任務に当たるパイロットの安全確保を図ることも困難な状況です。先ほど申し上げたとおり、最近では西太平洋での中国海空軍の活動が活発化しています。空母遼寧の進出もあります。また、ロシアの爆撃機も、時折、我が国を周回する飛行を行っています。
このような事態を考慮すれば、私は、現職時代、現場を預かる指揮官として、基地からはるか遠方に所在する離島や太平洋側での防空体制を早期に確立する必要があると感じておりました。そのためには、「いずも」型護衛艦を改修し、STOVL機を運用することは極めて有効な方策と考えます。
この「いずも」型護衛艦での戦闘機の運用には、いろいろな議論があることは承知しています。課題も多くあることは事実だと思います。しかし、今後予測される事態や将来の防空体制が不十分になる可能性を秘めた事象が起こりつつある事態をこれ以上放置することはできません。防衛力整備には長時間を要します。我が国を取り巻く環境を考慮すれば、軍事専門的な観点から我が国の領土、領海、領空を守るため、また最前線部隊の任務遂行に遺漏なきを期すため、早期に処置すべき事項と考えています。
次に、四つ目に、技術分野について申し上げます。
我が国は、長年、周辺国に対して質的、技術的優位を確保し、我が国の平和と安全を確保してきました。この観点から、我が国にとっては技術的優位の維持確保が極めて重要です。特に、昨今では、AI、情報通信、量子技術等、各分野における急速な技術革新に伴い、軍事装備品にも目覚ましい進展が見られます。各国は、ゲームチェンジャーとなり得る最先端技術を活用した兵器、例えば高精度、長射程の攻撃が可能な極超音速兵器、AIによる自律的に作戦を行うことができる無人機、低コストで弾数の制限がない高出力レーザー兵器などの開発にかなりの資源配分、努力を払っております。これらの兵器が実用化されれば、戦闘様相が一変する可能性があります。
軍事技術については、いわゆる西側がかつては圧倒的な優勢を確保しておりましたが、中国は強大な経済力をてこに科学分野での軍と民の相互連携の強化等を掲げた軍民融合戦略を進めており、徐々に米国に劣らないようなレベルになりつつあります。こうした中、我々がいつまで技術的優位を維持できるか強く懸念されるところであります。是非、大綱、中期に書かれたような施策を積極的に推進していただきたいと考えています。
最後に、人的基盤について私の考えを申し上げたいと思います。
いつの時代でも、組織の中の中核は人であります。このことは、見通せる限りの将来においても不変であると考えています。いかに優秀な装備品であろうとも、これを運用するのは人であり、まさに我が国の防衛力の中核は自衛隊員です。
自衛隊員の現在の素質を申し上げると、私はいろいろな国々に……