佐藤丙午の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(佐藤丙午君) 拓殖大学国際学部・海外事情研究所の佐藤丙午と申します。
皆さんのお手元に発言内容をお配りしております。
本日は、外交防衛委員会にお招きいただき、どうもありがとうございます。本日は、平成三十一年度以降に係る防衛計画の大綱及び平成三十一年度から三十五年度の中期防衛力整備計画について、学者の立場より所存を申し上げたいと思います。
大綱と中期防は、現在の日本を取り巻く安全保障環境と技術動向の影響を受けて変化する軍事力の役割を適切に把握し、それに対応するため、必要な手段を確保しているものと考えます。特に、大綱の中で従来の延長線上にない真に実効的な防衛力の構築を掲げ、宇宙、サイバー、電磁波などの新領域における優位性を獲得することの重要性を指摘している点など、日本が直面する課題を取り込んだ対応としては十分に評価できると考えます。
大綱では、これら状況を踏まえ、能力の有機的な結合とその相乗効果により全体として能力を増幅させる領域横断、クロスドメイン作戦の重要性を指摘しています。この作戦の理解も、国際社会の、特に米国の軍事動向を踏まえた適切なものであると考えます。
日本は国家安全保障戦略を持ち、その下に大綱、中期防が存在します。その意味では、これら二つの文書は、一般的には戦略の下での優先分野を規定する軍事戦略と調達戦略と位置付けることが可能です。
その上で、大綱と中期防について四点申し上げたく思います。
第一に、安全保障戦略と軍事戦略の整合性の問題です。
国家安全保障戦略では「戦略環境の変化や国力国情に応じ、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備し、統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用に努める」とあります。大綱では、それを想定される期間の中で、防衛力の面でどのように実現するかという問いに対する回答になります。
今日の安全保障環境は、安全保障戦略が策定された当時から変化し、さらには大綱自体が制定された時点からも国際政治状況は大きく変化していると感じます。この変化は、主に米国のトランプ政権の安全保障戦略の変化によるところが大きいと思います。さらに、米国では、二〇一八年に輸出管理法が再法制化され、二〇一九年五月には行政命令等により敵対的な国家が情報通信技術を盗取することへの規制策が打ち出されました。二〇一九年に入り、米中の対立は技術覇権をめぐるものとしての姿を現しつつあります。つまり、残念なことではありますが、情報通信技術をベースにして世界が二分されつつあると見ることもできるのであります。
領域横断作戦の重要な点は、戦闘の各段階で実力組織の目と耳が極めて重要になることを意味します。お配りした資料一の方にその領域横断作戦のイメージが記されております。その目と耳の中核を担う情報通信技術の信頼性と安全性が領域横断作戦の成否を決めます。大綱でこの作戦の重要性を強調するのであれば、その作戦が成立する各種条件をどのように保護していくかという点も戦略の重要な内容になると考えます。
大綱と中期防は、現状を肯定し、将来の方向性を示す上で極めて重要な役割を果たします。しかし、国際政治情勢の変化の速度は速いので、それに対応する柔軟性を政策文書の面で今後担保していく措置が必要になると考えます。
第二に、戦略上のコミットメントと予算の均衡の問題です。
これは、一般的にはフォース・コミットメント・バランスと言います。掲げられた政策に対して予算の充当が必要になります。このバランスが崩れると、防衛省・自衛隊に求められる能力と保有する資源との間にギャップが生まれ、必要な作戦が実施できなくなります。これは国民の信頼を失う原因となると考えます。
必要な能力を確保できない背景には、政策側の問題もあると考えます。
大綱と中期防では、基幹部隊の見直し、特に領域横断作戦を実施する上で効率的な部隊運用体制や新たな領域に係る体制の強化が指摘され、宇宙、情報ネットワークの常時継続監視の必要性が記されています。また、新しい部隊の新編も盛り込まれています。防衛省・自衛隊は、これら任務に加え、従来からの任務も果たしていく必要、責務があると思います。現状の定員、現状の予算でこれら新しい任務と役割を果たすことが可能なのかどうなのか、オーバーストレッチであるかどうかということは常に検証していく必要があります。
これは従来から指摘されていた点ですけれども、防衛省・自衛隊が自ら検証作業を行うと、組織の特性として、無謬性の神話にとらわれてしまう可能性があります。国会を含めた外部の第三者機関による検証も進めていく必要があると考えます。
この均衡問題では、国内産業基盤の問題も考慮する必要があると考えます。自衛隊が必要な能力を調達する上で、国内の資源で充足するのか、国外の資源に依存するのかという問題は、これまでも防衛省・自衛隊の抱える大きな課題でありました。大綱では防衛産業基盤の重要性が指摘され、中期防では人工知能等のゲームチェンジャーとなり得る最先端技術などに重点的に投資する必要性と中長期的な方向性を示す研究開発ビジョンの策定が記されています。中期防では、国内の産業基盤に競争原理の導入の必要性とサプライチェーンリスクの問題についても言及されています。
これらを総合的に見ると、防衛産業基盤と防衛省・自衛隊の関係を包括的に見直す方向性が示されていると感じます。この方向性自体は支持するものでありますけれども、産業基盤を構成する企業側の事情を考慮し、基盤の育成、発展に向けた施策を策定する必要があると考えます。しばしば「国が私企業の営業行為を支援するのか」と批判されますが、分断が進む国際社会では、国家と企業が一致結束して営業活動を行うというのが常識になっております。
資料二を御覧ください。これは経団連が二〇一二年に共同開発・生産に関わる四つのモデルを出したものですけれども、これのいずれにおいても国家と企業側の協力がうたわれております。このように、防衛省・自衛隊と防衛産業を切り離して考えるべきではありません。
第三に、新技術に対する取組の問題です。
さきに、今日の国際社会では国家と企業が結束して防衛技術基盤を維持発展させると言いましたが、これは国家と企業の癒着を推奨するものではありません。企業と国家にはそれぞれ異なった利害がありますので、相互の利害を調和させ、それぞれの求める成果を追求すべきというものであります。防衛生産に係るステークホルダーがそれぞれのステークスを持ち寄り、相互の利益を模索する必要があるということを意味しております。
これは、新技術の問題で特に顕著になっていると思います。大綱と中期防では、最先端の技術等に対して選択と集中による重点的な投資の重要性が指摘され、企画提案方式の採用を含めた研究開発の合理化が記されています。留意すべき問題は、新技術の開発とその防衛装備への適用は、残念ながら防衛省・自衛隊が主導するものではなく、民間側の技術的優位を前提に考える必要があるということであります。
実は、これは国際社会の多くで見られる現象です。中国では、軍民融合というスローガンの下、民間企業の協力を組織化して取り込んでいます。米国でも、先日発表された国防総省のAI戦略の中では、民間のエクセレンスを軍に取り込む必要が指摘されています。防衛省・自衛隊が防需を前提に民間企業を管理しようとすると、民間企業は防衛生産基盤の充実に協力しないばかりか、そこに背を向けるようになるのではないかと考えます。
このため、民間企業を防衛生産のステークホルダーと考え、国、企業、アカデミア、市民社会の全ての利害を調和させる方策、すなわちマルチステークホルダーアプローチを採用すべきだと考えます。特に、これは少子高齢化の対策、また戦場の霧の克服、戦闘の合理化など、様々な目的の下で進められる無人兵器システムにおいては必要不可欠であると考えます。資料の三ページ目に、これは特定通常兵器使用禁止制限条約の下で示された兵器のライフサイクルのチャートですけれども、これを見ても、国と国際機関、また企業との協力が必要であるということが示唆されているというふうに考えます。
四番目に、大綱そのものが抱える問題として、見直し時期の問題を指摘させていただきたいと思います。
平成二十六年度以降に係る防衛計画の大綱ではおおむね十年程度の期間を念頭に置いたものとされており、今大綱においても同じ文言が使用されています。もちろん、一旦作成した計画を時々の状況に合わせて修正するのは必要であり、今般修正されたことは、日本を取り巻く安全保障環境等の変化が流動的であることを示すものであります。
今回の改定若しくは修正が前大綱の内容を否定するものではなく、新たな技術動向や米軍の戦略に合わせて新たな作戦を導入し、そのために部隊の編成等の見直しを行うものであったことは、歓迎すべきものであります。しかし、中期防は、大綱の見直し期間の十年を基準に中間との位置付けがされています。大綱の本来である、性格である軍事戦略と調達戦略の方針が余りにも短期間で修正されること、また逆に、長期間にわたって修正されないことも大きな問題を抱えています。
防衛省・自衛隊が今後大綱の改正や改定若しくは現状維持が必要と考える際に、その根拠を検討し、その検討結果が政策過程に反映されるような透明度の高い枠組みの構築を目指す必要があると考えます。その説明責任が果たされないと、新規に採用する作戦や戦略の妥当性を検討する機会が失われ、民主主義の下での軍隊に必要な社会との協同が失われるのではないかと危惧します。
最後に、幾つか指摘させていただきたいことがあります。参考人は以下の問題に明確な回答を持っているわけではありませんが、大綱、中期防の今後を考えるときにどうしても考慮いただきたい内容とお考えいただければと思います。
まずは、我々は韓国を失おうとしているのかという問題です。
韓国を失うことは、過去数十年にわたって防衛政策の前提であった朝鮮半島問題からの解放と同時に、その反面、更に厄介な新たな問題を抱えることを意味します。
二番目に、安全保障のパラドックスにどう向き合うかという問題もあります。
トランプ政権の安全保障戦略の下では、同盟国や友好国が地域紛争、いわゆるプロキシーウオーを戦うよう組み込まれています。それを日本としてはどう受け止めるのか。
三つ目の問題として、組織化された条約ベースの軍備管理・軍縮の終えんにどう向き合うかという問題です。
国際社会では、条約をベースにした軍備管理・軍縮に対する悲観論が主流になっています。その中で、特に核兵器の問題にどう向き合うのか、真剣に考慮する必要があると考えます。
ここで指摘させていただいた問題は、大綱、中期防の価値を落とすものではありません。大綱にも書かれているように、この文書が政策文書として生きたものであり続けるためには、状況の変化を取り込み、新たな視点の政策を発展させる必要があります。そのための検討の材料の一つとして、本日は私の所見を述べさせていただいたものであります。
どうも、委員長、ありがとうございます。以上でございます。