柳澤協二の発言 (外交防衛委員会)

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○参考人(柳澤協二君) 柳澤でございます。
 時間も限られておりますので、お手元に二枚紙のレジュメ、二〇一八年の防衛計画大綱についてというのを御用意していただいたと思いますが、これに従いましてお話をさせていただきたいと思います。
 今度の大綱、非常に、何といいましょうか、意欲的な文書であるなということを感じているわけですが、一つ大きな特徴として、国際情勢認識の捉え方なんですけれども、もう基本的には米中の対立関係というものがあらわになってきている。それを踏まえた中で大綱にある言葉を幾つか抜き出してみますと、一つはパワーバランスの変化が加速していると、そして、その中で既存の秩序をめぐる不確実性が増大しているということを言っています。さらに、アメリカの動向として、その既存の秩序の修正を試みる中国、ロシアとの戦略的競争が重要課題になっているという指摘、さらに、国家間の競争によって、その一環としてグレーゾーンの事態がもう長期的に継続するものと認識しなければならない旨が述べられているわけですが、こういう状況は、この認識そのものを私は否定するつもりは全くありません。
 ただ、この中で、我が国の防衛力強化の位置付けについて、まさに我が国が自主的に同盟における役割を果たすために防衛力というものが必要であり、そういう防衛力の強化がまさに同盟を強化することになるんだという、こういう言い方は、私も長年防衛官僚をやっておりましたけれど、多分初めての、要は同盟の抑止力の中で日本の防衛力を位置付けるという言い方は、もちろん今までも関連はあったわけですが、こういう規定の仕方って初めてじゃないかなという感じがしています。まさに、米中の対立、秩序ということを言っていますが、軍事的には、ありていに言えば覇権をめぐる競争があるわけですけれども、その対決の中で、アメリカとの同盟の抑止力に一層傾倒して、傾斜していくという、こういう思想が背景に流れて大綱ができている。問題は、それが本当にそれでいいのかどうかという議論が必要だということだと思います。
 それから、その運用面でございますが、大綱というのは防衛戦略文書としてその運用、それから防衛力の整備の指針になるものでありますので運用面の特徴を見ていきたいわけですが、これはもう先に結論を、私の結論的な総括を申し上げますと、米軍と自衛隊の一体化を更に進めていく、そして、数で抑止するというよりは行動によって、いわゆる、何というんでしょうか、戦争理論で言うところの緊急抑止を重視しているということが言えると思います。
 具体的な大綱のワーディングとして言いますと、日米防衛協力、特に安保法制によって可能になった、これは米艦の防護等の活動のことですが、それを含めて一層の協力を強化するという表現、あるいはインド太平洋における日米共同のプレゼンスをやっていくとか、それから柔軟に選択された抑止措置という言葉で、相手の行動に対して、それに対応したこちらも行動をもって応えるという考え方が示されております。
 もう一つは、これは従来からでありますが、グレーゾーン事態が長期化する、その中でグレーゾーン事態からの拡大に対するシームレスな対処が必要だということが述べられているわけですが、これについてちょっとコメントを申し上げますと、二〇一八年、この大綱、昨年の十二月十八日ですが、昨年の一月の国会冒頭の施政方針演説の中で安倍総理が強調されていましたのは、昨年、昨年というのは一八年から見た昨年ですから、一七年に、自衛隊が初めてアメリカの艦艇、航空機を防護した、これによって日米同盟はかつてなく強固になったんだということをおっしゃっていました。ちなみに、一七年度には二回行ったわけですが、一八年度には十六回と言われています。
 一七年の二回というのは、北朝鮮情勢が緊迫して、米軍がこの日本の近傍に空母や爆撃機を出してきた時期ですから、それに対応したものであったと思いますが、一八年の十六回というのは、恐らく、アメリカが南シナ海あるいは台湾海峡での航行の自由作戦というものを頻度を上げております、これに対応した行動であるんだろうと推測されます。
 これは、何もないように工夫しておやりになっているとは思うんですけれど、実際に米軍が出ていくことによって、襲われる心配があるときに米軍の要請を受けて防衛大臣が承認する、そして発動される、そういう任務でありますから、本当にその現場で不測の事態があったときに、自衛隊は戦闘に巻き込まれるリスクを高める要素もある。つまり、同盟が強固になるという、こういう共同行動によって同盟を強固にするというのは、同盟も強固になるんでしょうけれど、一方で、自衛隊が現場で戦闘に巻き込まれるリスクも強固になるものと言わざるを得ないと思っております。
 それから次に、柔軟な抑止措置ということですが、これは一五年の日米防衛協力ガイドラインの中でもタイムリーな演習が抑止力を高めるという表現を取っておりますが、これは何かというと、軍事体制を全般を示すことによって相手に乱暴をさせないという一般抑止という概念とは違って、相手が出てきたときに、それにこちらも軍隊をぶつけることによって防衛の意思を示すというか、相手の行動を拒否しようとするという意味では一種の緊急抑止に当たる、あるいは前の前の大綱で言っていた動的抑止と同じ概念だと思いますが、これは非常に実はやり方が難しゅうございまして、相手が本気でやってきた場合に、こちらがそこに、現場に部隊を出せば、それはもう決して抑止が成立することはないわけですし、あるいは、相手がそこでびっくりするほどのことを抑止としてやってしまうと、かえって緊張を高めて相手に対して挑発という意味を持ちかねないという意味で、これはそう言うべくして実際の運用は極めて難しいものであろうと、そこを認識しなければいけないと思います。
 それから、もうかねてからのことでありますが、私はグレーゾーン、私も現役の官僚の頃は、なかなか日本の法制の階段の、何ていうんでしょう、垣根が高いものですから、何とかシームレスな対応ということを考えていたんですが、しかし、考えてみると、まさにそのグレーゾーンというのはまだいまだに軍事衝突でない状態であるわけですから、これをシームレスに、例えば海保の手に負えなくなったから自衛隊がシームレスに出ていくというのは、それはこちらが海警行動という警察行動であると主張したって、軍隊が出るというふうに相手は認識する、あるいは国際社会が認識した場合に、事態の拡大の引き金を日本側が引くような非難も受けかねないことになるので、やはりここのところはシームレスではなくて、政治がきちんとシームをつくるという思想を取り入れることがむしろ大事なのではないかというふうに思っております。
 それから、これもかねてからのことでありますが、島嶼防衛の運用上の表現の中で、島嶼を、島を守るためには航空優勢、海上優勢を確保しなければいけない、これはもうそのとおりなんですが、しかし、そこで続けて、万一占拠された場合には速やかに奪回するとあるんですね。これどうやって、つまり、占拠されるというのは航空優勢、海上優勢がないから占拠されているはずなので、そこでどうやって速やかに奪回するんだ、これはもう本当に部隊に私は不可能を強いることになりはせぬかということが心配であったんですが。
 もう一つは、一回占拠されてそれを奪回した、そしてどうするんだいという問題なんですね。相手が本気であれば二回目が来るわけですね、三回目が来る、どこまでそれを考えているんだ。どうも恐らくは、占拠されたままでは後の交渉になりませんから、奪回したという一定の優位な、こちらにとって有利な状況をつくって講和に持ち込むという、戦争学で言う講和に持ち込むということが背景にあるんだろうと思うんですが、しかし、こちらが優位な状況で講和に持ち込むことを相手が受け入れるかというのはこれはまた別の問題で、この辺も、本当に政治としてもどう実現していくのか、どう実際に事態が進んでいくのかということを悩んでいただきたいところだと私は考えております。
 それから、防衛力の整備目標としてのところで申し上げますと、一言で言うと、どこまで行くんだろう、つまり、目標としてここまであればいいよという。私は冷戦時代の昭和五十一年の防衛計画大綱の時代に防衛官僚として育ってきたわけですが、あの頃は、限定小規模な侵略に対して独力で対処をし、一定期間自力で持久すれば米軍の来援があると、こういうシナリオであらゆるスペクトラムの侵略に対処できるという発想があったんですが、ただ、今のこの立て方ですと、グレーゾーンがあって、そのグレーゾーンから本格的な衝突に至るかもしれない、全ての場面でどう対応していくか、しかも、相手は日本よりはるかに大きな軍事力を持った国、周辺国を相手にしようとするわけですから、どうも本当にその辺が、目標としてどこまで行ったら満足するんだろうかということが見えない、そういう何か息苦しさを感じざるを得ないんですが、具体的には、宇宙、サイバー、電子といった新たな領域でのこれはやはり対応が必要なことは私もそのとおりだと思うのですが、平時から有事におけるあらゆる場面で、あらゆる段階での優位を獲得するという目標が示されているんです。
 こんなことできるのかというのが、私は、その優位という言葉は、まあそれは望むらくはそのとおりなのでありますが、しかし、戦略というのは願望ではないのですね。何ができるかということを踏まえた上でもっと正確な目標を示さなければ、これは本当に、ここ、まさにどこまで行ったら済むんだろうか。そして、細かい話ですけれども、この大綱の中には、こちらが更に進んでその相手のサイバーの利用を攪乱するようなことも書いているわけですが、それってつまり一種のサイバー攻撃をこちらがするということなんですが、それは一体どういう法律的な根拠でやれるんだろうか。多分、武力攻撃ではないのかもしれませんが、あるいは武力攻撃として自衛隊法八十八条で、失礼しました、武力の行使としてやるんだろうか、どうもその辺もはっきりさせる必要があるのではないかと思っています。
 それから、長距離巡航ミサイルですとか陸上自衛隊で将来持ちたいという高速滑空弾、これは一種の、まあもちろん防衛のためにやろうとしているわけですけれども、少し前に出せば、あるいはブースターロケットのパワーを上げれば相手の国土まで届く兵器に当然なるわけですから、こういうものを持っていくことをどう考えていくかということも政治としてお考えいただく必要があるだろうと。
 二枚目に行きまして、策源地攻撃能力についても、これは同盟全体の抑止力強化のための観点で検討するということが言われている。あるいは、「いずも」型護衛艦の空母改修にしても、太平洋の航空優勢の目的が示されているんですね。
 これは、私、現職の頃は、もう太平洋を越えて敵が攻めてくるって考えたことなかった、太平洋の向こうはアメリカですから。これは多分、西太平洋が今、米中の軍事バランスの焦点になっている、その西太平洋の恐らく第二列島線の内側の航空優勢をどうするかという問題意識なんだと思うんですけれども、つまり、それって日本の国土の防空というよりは、まあまあ非常に単純に言えばアメリカ軍を守るということなんだねと言われかねない。
 あるいは、そうだったとしても、それでいいか悪いかではなくて、まさにこの大綱を貫く思想というのは、そうやってアメリカ軍を、抑止力としてのアメリカ軍を健全に保つことがトータルとしての抑止力なんだという発想で、同盟の抑止力というものを大事にするならばこれも一つの発想としてありということになるんですが、それでいいんだろうかという問題がある。
 それから、歴史的な考察のところ、簡単に言いますと、抑止力という言葉で全て説明し尽くされているような感覚でいるんですけれども、実は軍隊の役割というのは歴史とともに変わってきている。第二次大戦までの時代というのは、軍隊は戦って勝つために軍隊が使われた時代ですね。そして、冷戦の時代というのは、戦わないために抑止力として軍隊の存在意義が正当化された時代である。冷戦が終わって対テロの時代になりますと、戦争というよりは秩序の維持あるいは警察的な役割のために軍隊を使わざるを得ない時代があって、そして今日、米中の確執の中で、何というんでしょうか、航行の自由作戦なんかそうですが、これは戦争というよりは政治的な不快感を表明するために軍隊を出している、しかし、そのまま戦争をしようというつもりはないという、こういう軍隊の使い方が今日のトレンドになっている。そういう中で、抑止力という言葉だけでは言い尽くせない、安全保障をめぐる歴史的な変化を今日迎えているのではないかということであります。
 結びとして申し上げれば、やはり防衛力にどうやったって限界はあるわけですね。それを、防衛力が足らざる部分をどうするのか、それは私は、一言で言えば、政治が何とかしてくださいということなんですね。それを、その前にアメリカ軍に何とかしてもらおうと思ってしまうと、まあそれはその部分もあるのかもしれませんが、際限なくアメリカ軍に協力しなければいけないし、防衛力もどんどん増やさなければいけないということにならざるを得ないのではないかということです。
 本当の最後ですが、大綱の中にも、望ましい安全保障環境を創出するのをまず第一義という表現があります。望ましい安全保障環境って何でしょうかといえば、それは米中の対立がどこかで安定する……

発言情報

speech_id: 119813950X01720190613_015

発言者: 柳澤協二

speaker_id: 31694

日付: 2019-06-13

院: 参議院

会議名: 外交防衛委員会