井上久美枝の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(井上久美枝君) ありがとうございます。ただいま御指名いただきました連合の井上でございます。
 本日は、このような場で労働者を代表しての意見を表明する機会をいただき、感謝を申し上げます。
 私からは、女性活躍の更なる推進と、あらゆるハラスメントの根絶に向けた観点から意見を述べさせていただきます。
 まず、女性活躍推進についてです。
 一点目は、今回の改正で一般事業主行動計画の策定義務が百一人以上の中小企業にまで拡大されることになりますが、日本の企業の九九・七%は中小企業であり、そこで働く労働者が全労働者の約七割を占めていることからすれば、真の女性活躍を進めるためには全ての事業主に行動計画の策定義務を課すべきだと考えます。
 二点目は、状況把握項目の任意項目となっている男女の賃金の差異ですが、ジェンダーギャップ指数の順位が上がらない要因の一つが男女間賃金格差であり、男性正社員の給与を一〇〇としたときに女性の給与が七三・三という実態に加えて、ジェンダーギャップ指数が毎年百位以降と芳しくない状況を踏まえれば、男女の賃金の差異を情報把握項目並びに状況把握項目の基礎項目にするべきだと考えます。
 三点目として、女性活躍推進法は十年間の時限立法となっています。今ほど申し上げたように、真の男女平等の実現には程遠い状況に鑑みれば、同法に基づく事業主行動計画の策定を恒常的な制度とするよう、男女雇用機会均等法の改正も含めて検討するべきだと考えます。
 なお、この後に提起するハラスメント対策にも共通しますが、根底にあるのは性別役割分担意識です。
 ILOの仕事の未来世界委員会報告書が指摘するように、育児、介護といった無償のケア労働の多くが女性によって担われています。そのような現状をそのままにし、女性の側だけになお活躍を求めるのではなく、男性の意識、働き方を大きく見直していくことが真の女性活躍、男女平等に欠かせないことを申し添えておきます。
 次に、ハラスメント対策です。
 この六月のILO総会において、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する新たな条約が採択される予定であることは、この間の国会審議でも様々な先生方から御発言がありました。
 私も、昨年の総会に続き今年も出席しますが、世界的にハラスメントの根絶が求められる中で、昨年のILO総会で発言したほとんどの政府は条約と勧告の採択に賛成の立場です。しかし、日本政府の対応は、日本にとって定義がやや広過ぎるとして立場保留と発言されました。今国会では、根本大臣が、日本政府としてもILO総会の議論に積極的に参加してまいりますと答弁されていらっしゃいますので、大いに期待をしているところです。
 その上で、国内法の課題について述べさせていただきます。
 一点目は、ハラスメントの禁止規定です。
 現在、日本においてハラスメント行為そのものを禁止する規定はありません。セクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメント、育児や介護に関するいわゆるケアハラスメントについては、法律に基づいて事業主に防止措置義務が課せられていますが、とりわけセクシュアルハラスメントについては、一九九九年に防止配慮義務、二〇〇七年に防止措置義務が導入されてから十数年が経過しているにもかかわらず、都道府県労働局には年間約七千件もの相談が寄せられています。国連の女性差別撤廃委員会から禁止規定を創設するよう長年勧告を受けていることもあり、禁止規定を求める声は大変強いものがあります。
 資料としてお配りさせていただいたものは、今年のILO総会で議論される条約案です。六ページ、第五条では、暴力とハラスメントを法的に禁止すると明確にうたっており、条約が採択されれば、ハラスメントの禁止は世界的な潮流となります。このような意味でも、もはや必要性も含めなどと悠長なことを言っていられる状況ではありません。
 なお、建議において、禁止規定の創設に当たっては、民法等との関係整理などの課題があるとして先送りされましたが、一方で、児童虐待防止に関して、体罰禁止については、こちらも民法との関係がありながらも、言わば先行して明記されることになりました。並べて論じるのは適切ではないのかもしれませんが、なぜハラスメントの方は禁止するとうたうことができないのか。いずれにしても、速やかに検討が行われるよう、強く要請しておきたいと思います。
 二点目は、パワーハラスメントの定義です。
 建議では、二〇一八年三月の職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書の概念を踏まえ、三つの要素として、一、優越的な関係に基づく、二、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、三、労働者の就業環境を害することを満たすものとすることが適当とされました。また、行為類型として、一、身体的な攻撃、二、精神的な攻撃、三、人間関係からの切離し、四、過大な要求、五、過小な要求、六、個の侵害の六つが挙げられています。
 これらは暴力とハラスメントの全体を網羅していると言え、これから新たにパワーハラスメントの防止措置義務を事業主に課そうという中では、その行為類型について、狭小化するのではなく、包括的に定義するべきだと考えます。
 三点目は、行為者、被害者の定義です。
 この点に関しても、この間の国会審議でやり取りがありましたが、労働法制であるため、対象は労働者に限っているというのが政府見解だと認識しています。しかし、例えば男女雇用機会均等法の第五条、「性別を理由とする差別の禁止」は、「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」とあり、機会を与える対象には労働者になる前の求職者が含まれるわけです。とりわけ就職活動中の学生に対するセクシュアルハラスメントが社会問題化しており、フリーランス、教育実習生等に対するハラスメントも深刻な問題となっています。
 このような中で、防止措置義務はあくまでも自社の労働者を対象としたものであり、また、今回新たに規定される責務規定も、「他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、」とあるものの、他の労働者は社外の労働者までというのが厚生労働省の説明です。
 一方、加害者について、セクシュアルハラスメントに関しては、通達で、「事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者及び学校における生徒等もセクシュアルハラスメントの行為者になり得るものであり、」と一定幅広く規定されていますが、パワーハラスメントに関しては、これまでの労働政策審議会での議論及び国会審議を踏まえる限り、極めて限定的な範囲にとどまっていると認識しています。
 昨今、いわゆる悪質クレームにより、労働者が心身に支障を来す例も散見されます。建議では、自社の労働者等からのパワーハラスメント、取引先等の労働者等からのパワーハラスメント、顧客等からの著しい迷惑行為の三つに区分けされ、法案も、自社の労働者等からのパワーハラスメントを職場のパワーハラスメントとし、それのみに防止措置を義務付ける内容となっています。その上で、他の二つについては、事業主が講ずることが望ましい取組として指針で示すとされています。誰が加害者かによって事業主の対応が変わるのでしょうか。誰が加害者であっても守るのが事業主の責任ではないでしょうか。私たち労働組合は、誰が加害者であっても、働く仲間から相談があれば対応に差を付けるようなことはいたしません。そのことは強く訴えておきたいと思います。
 四点目は、被害者の救済です。
 先ほど申し上げたように、セクシュアルハラスメントに関しては既に防止措置が義務付けられており、都道府県労働局による紛争解決の仕組みが適用されています。しかし、その内容は相互互助を前提とする解決で、その多くが金銭解決、しかも低額という実態にあります。
 JILPTの内藤副主任研究員が述べられていましたが、何より、被害者の願いであるセクシュアルハラスメントだと認めること、謝罪をすること、二度と起こらないようにすることと大きく乖離しており、現行の仕組みでは、被害者も救済されず抑止にもならないとの指摘があります。では司法に訴えるという方法もありますが、勇気もお金も要ることですし、二次被害の危険性もあります。一方、地方自治体の場合は行政指導も紛争解決も対象外となっており、公務員の相談先は地方自治体の人事委員会等で、中立の都道府県労働局の紛争解決の仕組みを利用できない状況にあります。
 今回の法案では、パワーハラスメントに関して、セクシュアルハラスメントと同様の紛争解決の仕組みを規定、適用するとされていますが、今ほどのような問題を放置したままで、果たして実効性はあるのでしょうか。本来であれば、司法、行政、双方における被害者の救済状況について官民問わず実態調査を行い、その結果に基づいて対策を検討すべきで、それは防止措置義務の履行状況しかりです。次への課題として問題提起しておきたいと思います。
 最後になりますが、ILO条約は国際労働最低基準です。政府も使用者もグローバルスタンダードを強調しますが、労働環境は決してグローバルにはなっていません。一方、今回の法案は、内容的に一歩前進ではあるものの、真の女性活躍推進、男女平等の実現、また、ハラスメントの根絶にはまだまだ足りないと認識しております。ILO加盟国として、国際基準に沿った環境をしていただきたいと考えますし、何より、性別に関係なく、雇用形態に関係なく、誰もが安心して働ける職場環境のために役割を発揮していただきたいと思います。
 もちろん、私たち労働組合もそのために引き続き尽力することをお誓い申し上げ、意見陳述とさせていただきます。
 ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 井上久美枝

speaker_id: 11957

日付: 2019-05-23

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会