北岡伸一の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(北岡伸一君) 北岡でございます。お招きありがとうございます。
今日は、二つ、SDGs及びパリ協定を中心としてお尋ねというふうに存じております。前者は後者をやや抱合するような広がりを持っておりますので、SDGsの方についてやや長め、そしてパリ協定をその残りという形で、合わせて二十分お話をさせていただきます。
二〇一五年は、ちょうど私がJICAの理事長になった年でございますが、SDGs、持続可能な開発目標が九月に国連で採択され、また年末にはパリ協定が採択されまして、これは、国際社会が協力していかなければ将来にわたって人類が発展していくことはできないという、そういう合意がある種頂点に達した時期でございました。
他方で、その翌年は、トランプ大統領の選出とかブレグジットとか、そうしたそれに反対の動き、あるいは北朝鮮情勢の緊迫化というふうな、個々の国々が自己主張を強める動きが強まってきたと。こういう、非常に、必要性はみんな分かっているけれども、他方でそれぞれの国が自己主張を強めるという矛盾した動きが生じていると、そういうのが前提だと思っております。
ところで、我々の国際協力機構の元来の目標は、国際社会の平和、安定、途上国を含むその繁栄、それをどう確保するか、それに貢献するというのが仕事でございますので、このSDGsもパリ協定も、我々にとっては大変有り難い方向が合意されたというふうに考えております。
今日は、これにつきまして、日本国内の体制やJICAの取組についてお話ししたいと思います。
まず最初に、SDGsの採択の前のMDGsについて一言お話しさせていただきたいと思います。
二〇〇〇年に、ミレニアム開発目標というので、MDGs、ミレニアム・ディベロップメント・ゴールズというのが採択されました。それは、極度の貧困と飢餓の撲滅等八つの目標について、途上国にフォーカスした目標を決めたわけでございます。私はちょうど二〇〇四年から六年まで国連大使をしておりましたので、このMDGsにどう取り組むかということが大きな課題でございました。
他方で、このMDGsについて、日本の国内の知名度は非常に低かったのでございます。ですから、それに大変苦労したのを覚えております。それに比べますと、SDGsの方はかなり理解が広がっていて、有り難いなというふうに思っている次第でございます。
MDGsは一定のかなりの成果を上げたと私は思っております。例えば、絶対貧困層の数が半分になったとか、五歳未満児の死亡件数も半減するというような成果があったのでございますが、そのかなりの部分は例えば中国やインドの成長のせいでありまして、最も苦しんでいるところのサブサハラ地域のアフリカでは余り改善がなかったという、そういう課題も残りました。
これは二〇一五年を目標にしていたところで、今度はそこでもう一つ大きな枠組みを打ち出そうとして合意されたのがSDGsでございます。それは、十七ゴールがあって、いろんなカラフルなゴールがありまして、こういうバッジになっているのは皆さん御案内のとおりだと思います。
資料にございますので個々の問題についての説明は省かせていただきまして、これにつきまして、日本政府は、安倍総理大臣が本部長を務められ全閣僚で構成されるSDGs推進本部というものを二〇一六年の五月に設置されております。そして、同年末にSDGs実施指針というのを決定されて、そのビジョンは、「持続可能で強靱、そして誰一人取り残さない、経済、社会、環境の統合的向上が実現された未来への先駆者を目指す」というふうに打ち出されたわけであります。
SDGsの実施方針につきましては、八つの部分で優先的に取り組むということになっておりますが、これ、またちょっと時間の関係で、必要な場合は後でまた振り返りますが、ちょっとここはスキップさせていただきまして、次にJICAの取組でございます。
JICAは、開発協力、途上国の発展に貢献して、もって日本とその国の関係を良くしようというのが目標でございます。ですから、MDGsやSDGsが採択される前から、これに相当するような事業は随分いろんなことをやってまいりました。保健、教育、環境、インフラなどが我々いろいろやってきたものでございます。SDGsの十七の目標、ターゲットのほとんどの部分は、ほとんどのところを我々はやっております。
しかるに、我々の歴史を振り返りますと、大きく分けてJICAの活動は二つに中心がございます。
一つは、人間の安全保障でございます。一九九〇年代から、あるいはまた緒方理事長時代から、国際社会、国連等で打ち出してきた人間の安全保障、これは、要するに、全ての人間には尊厳を持って生きる権利があると、そして国際社会はこれをサポートする義務があると、こういう考え方からきたものでございます。
もう一つのJICAの活動の柱は、質の高い成長でございます。質の高いというのは、別に非常に高度のインフラという意味ではございませんで、質の高いというのは、包摂的、インクルーシブであり、それから持続可能、サステーナブルであり、そして災害を含む様々なショックに対して耐えることのできる、レジリエント、強靱性を持った成長と、こういうものでみんなが成長していこうということでありまして、これまたJICAの伝統の一つでございます。
日本のODAは、元々東南アジア諸国に対する賠償、それを引き継ぐところから発展してきて、その多くの部分はインフラを提供するというところからきたので、これも一つの伝統でございます。
特に、SDGsに近いものとして、JICAがやってきて国際社会から大きな評価を受けているものを四つ紹介させていただきますと、例えば一つは母子手帳でございます。母子手帳は、日本人では当たり前ですが、世界ではそうでない国が多いのであります。生命を授かったときから、お母さんに母子手帳を渡して、そして出産、その後に至る重要なデータをきちんと記録していただくと。おなかに赤ちゃんのいる、そしてまた小さな赤ちゃんを育てているお母さんにとって最も大事なものの一つであって、これを世界に広げようと。これなんかも全く人間の安全保障の中心であり、また、このSDGsでいいますと、ゴール三の保健部分に非常にぴったり当てはまるものであります。
また、もう一つ、もうちょっと大きくなりますと子供は小学校に参りますが、日本式の教育というのが、割合、世界で今日評判が高うございます。
エジプトの大統領は、三年前、私お会いしたときに直接交渉されまして、日本式の学校を造りたいと、二百校造りたいと言うので、これをお受けしてやっているところでございますが、要するに、まず、そこに行くと、子供は石けんで手を洗うんです、学校へ行くと。そして、授業の中には、音楽、図工、体育というような、それからクラスの討論会のようなものがあるわけです。
私は、最初、大統領に言われたとき、本当ですか、日本じゃ子供が掃除するんですよと言ったら、それだ、それをやらせたいんだと、こうおっしゃって、これをやっておられて、ちょっと私は実験校をのぞきに行きましたら、大統領にお会いしたら、どうですかと言われるから、いや、なかなかうまくいっていますねと言ったら、そうだろう、エジプト中やるんだと、こうおっしゃっているんですが、とにかく、割合、方々で日本の小学校、国内ではいろいろ批判もあるんですが、海外では人気があり広がってきております。これなんかも、人間の安全保障、そしてSDGsのゴール四、教育に非常に関連するものだと思います。
それから、カンボジアでは、もうプノンペンの奇跡ということがございまして、水道をやったことがあるんですね。日本の自治体などの協力を得ましてプノンペンの水道公社に施設整備をやりまして、二十四時間水道の水が飲めるようになったと。これはプノンペンの奇跡として知られているものでございます。今のは水ですから、実はインフラなんですね。これはゴール六に関係します。
そして、もう一つインフラ系では、インドのデリーで地下鉄を造りました。今やデリーの地下鉄は、全部合わせると東京の営団地下鉄より長いんです。都営と合わせた同じぐらいほぼあります。ここは、皆さん、インドの鉄道といいますと、人が殺到して、下手をすると屋根まで上るというイメージだと思うんですけれども、実は、この地下鉄ができた結果、インドの方々が地下鉄に乗るために行列を作るようになったと。これは奇跡だと、あるいは文化革命だと言われたんですが、それは不思議はなくて、三分後に次の電車が来ますということが分かったら何もそんなことをする必要はないのです。一種の文化的なショックも及ぼしたと。
かつ、女性専用車両をつくりました。その結果、女性の中に、押し合いへし合い男性に触れられないで乗れるというので非常に好評でありまして、乗客数が増えて収入が増えたというようなこともございまして、これなんかは、インフラですけれども、同時にSDGsのゴールのファイブ、ジェンダーとか、イノベーションとか、あるいは都市とか、イノベーションは九番で都市が十一番でございますが、これにも関係するものでありまして、それぞれについてというよりは、我々のプロジェクトがいろんな意味合いを持って展開されている例でございまして、まだまだございますが、こういうことをやっております。
さらに、これを推進するためにあとは何をやるべきか。我々は、大学の受験なんかと同じで、得意科目は伸ばす、苦手科目はしっかり補うようにするというのがございまして、SDGsの中で、強いて言えば、JICAが苦手なのはパートナーシップでございます。民間の参加、他の主体との協力をいかに確保するかというのはやや得意ではございませんでした。これにも力を入れるようにしておりまして、地域でいいますと、関西で関西SDGsプラットフォームというのをつくっていただいて、民間企業、市民社会、大学、自治体などが一緒になって協力するフォーラムをつくっております。
また、全国的に日本には中小企業が大変多いと。特に地方に非常にイノベーティブな中小企業の方々が多いわけでございます。そういう方々のノウハウと、それから途上国の必要性、デマンドを結び付ける仕事をしようといって、JICAの事務所で、地方でそういう能力のある会社を発掘し、途上国を紹介して企業進出していただいている。これは、日本再興戦略にも貢献するだろうというので、そういうことをやっております。
またさらに、最近、やはり国民の間に、貢献、世界、社会に貢献しようという意識がやっぱり高まってきているような気がいたしまして、社会貢献債、JICA債というのを発行いたしまして、これは日本最初のソーシャルボンドとして発行されまして、無事、速やかにはけた次第でございます。
というようなことをやっておりまして、ちょっと時間が食い込むといけませんので、慌てて後段のパリ協定の方に行かせていただきます。
私は、昨年七月に、総理の御指名でパリ協定長期成長戦略懇談会というものの座長を務めさせていただきました。その議論の結果は、今年四月二日、今月の二日に提出をさせていただきました。
この背景は、日本はかつて京都会議などで環境問題の先進的な地位にいたのでありますが、その後、東北の大震災、福島の事故等の結果もあって、ちょっと停滞しております。そして、このパリ協定の中で長期戦略を策定するようにということが義務付けられておるわけでありますが、G7の中で長期戦略を出していないのは、直前、すぐこの間、今の時点で日本とイタリアだけなんですね。ほかの国はみんな出している。ですから、ちょっと後れを取っているわけであります。これに何とか対応しなくてはいけないと。
今年はG20の会合がございますし、これは、昨年はアルゼンチン、来年はサウジアラビアということなので、やっぱり日本は非常に重要な位置を占めております。ここで日本がそう格好の悪い提案は出せないということで、何かを考えてくれと言われまして、しかし、この懇談会は事務局が三省から出ているというなかなか難しいものでありまして、環境省、外務省及び経産省、それぞれの意見は控えめに言って同じでないわけであります。そこで出てくるのはなかなか難しかったのでありますが、総理の最初の御指示で、大胆なものを出してほしいと、野心的なものを出してほしいと言われたわけであります。かつ、気候変動への取組を制約とか障害と考えないで、これをチャンスとして考えるようなものを出していただきたいと。これまたますます難しいわけでございますが、というふうに言われまして、これを取り組んだわけでございます。
この中には、有識者の方々、それから産業界の方々、金融界の方々、それぞれ代表的な方々が網羅されてやったわけでありまして、その提案が出た後、新聞などの、要旨は、御案内のとおり、今世紀後半のできるだけ早期に脱炭素社会の実現を目指すということであります。それから、一・五度Cの目標、つまり、産業革命以後、二度ではなくて一・五度、もうちょっと高い目標で頑張ろうと、一・五度の努力目標を含むパリ協定の長期目標に、実現に向けて貢献しようというのを掲げたわけであります。
簡単に言いますと、新聞等の評判では、何か全然野心的ではないというふうに言われたのでございます。まあそのコメントの趣旨は分からないでもないのです。それは、国際会議ではよくあることなんですけれども、猪口先生なんかも御案内のとおり、みんな確信がないことを平気で言うんですよね。ですから、そういう国に比べれば、確かに余り野心的ではないんです。しかし、これを各論で、これをどうやって実現するかというところに下ろしていきますと、これは実に相当野心的な難しい課題を含んでおります。ですから、会議の中ではかなり激論もいたしました。こんなことはできるはずがないという方もあれば、こんなのでは生ぬるいという方もあって、それを何とか、懇談会ですので、コンセンサスに持っていったというのが実態でございます。
特に難しいのは、やはりエネルギーの分野でございます。CO2問題の八割がエネルギーの問題なわけであります。日本は、日本の立地条件その他から考えて原発は難しいと、それからリニューアブルエナジーも難しいと、それから他の国とのコネクティビティーも難しいという中で、どうやっていくかというのはなかなか確信を持つ案はできなかったんですけど、とにかく目標は決めようというので、今言ったような目標を決めたわけであります。
ただ、明らかなことは、これはビジネス・アズ・ユージュアルではできないということなんですね。ですから、是非、大胆な取組のエッセンスはイノベーションなんですね、イノベーションをとにかくやっていこうと。相当なお金をつぎ込んで、そして、かつ世界中からお金をつぎ込んで、日本に投資をすることが世界の気候変動に貢献できるというような姿勢を見せることによって世界の資金を日本に誘導して、そしてこの問題に取り組んでいこうと。
あわせて、今よく言われておりますように、日本の学会、大学等で、なかなか仕事がない、定職がないという方々に、そうしたお金を出すことによって彼らを鼓舞して、しっかり研究してもらおうということを願って、そういう方針を政府が打ち出されることを期待してこういう提言をまとめたわけでございます。
一つだけ、非常に難しかった例を一つ挙げておきます。それは、石炭火力発電の輸出という問題であります。これは、一方でとんでもないという方もいらっしゃるんです。他方で、本当に貧しい国で石炭火力しか当面安いエネルギーは考えられないという国もあると、そういうときに一体どうするのかという問題で、これは私は高度の政治・外交判断を政府、内閣がされるしかないというふうに思うわけでございます。
ですから、このときの会合のときにも、ここは、これについてはっきりしたことは書きませんでした。しかし、そういう幾つかの意見があったことは最終回で御報告いたしまして、これに対して、最後の締めくくりで河野大臣が、例えばそうしたどうしても石炭火力が必要だという国があって、日本が断ったら他の国が支援するかもしれないし、またその国との関係に傷が付くかもしれない、そういう判断は政府に委ねたいというのが私の、座長としてそれでまとめたんですが、そこは政府でしっかり引き取っていきたいというふうに言われていたわけであります。
ほかにもたくさん論点はございましたけれども、最後にこれを御紹介することで、取りあえず私の御報告は以上とさせていただきます。
ありがとうございました。