国谷裕子の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(国谷裕子君) 国谷裕子でございます。
今日は、発言の機会をいただきましてありがとうございます。
今日は、この三年ほど私がSDGsの取材、そして啓発活動に関わってきた者としまして、SDGsの国内での広がりがどのような状況になっているのか、浸透度の状況、国内での推進体制につきまして感じている幾つかの課題、そして若干の提言を申し上げたいと思っております。
私は組織に全く所属しておりませんで個人として活動しておりますので、この場で、ごく簡単にですけれども、なぜSDGsの取材、啓発活動を行うようになったのかということにつきましてお話しさせていただければと思います。
私がSDGsに初めて出会いましたのは、全加盟国でSDGsを採択することになります国連の七十周年記念総会のときで、SDGsは実は数年前から、各国の政府や政府関係者、NGO、そして市民、学者など、目標策定に向けたかんかんがくがくの議論がずっと数年間行われていたんですけれども、私はそのことについて全く気が付かず、そして「クローズアップ現代」のレーダーにも捉えられることはありませんでした。発足七十周年を記念する総会に向けての取材の準備をするに当たって、初めて知ることになったわけです。
SDGsというものが非常に新鮮であるということに感じられましたのは、解決をしなければならない課題に一つ一つ個別に対応するのではなく、それぞれの課題がつながっているということを深く認識して、それぞれの課題解決がほかの課題解決にもなるよう総合的に、統合的に進めていこうというものだったからなんです。経済、そして社会、環境、それぞれの課題を切り離すことなく、一つ一つの目標の解決がほかの目標の解決も促すという相乗効果により解決に至るというふうにつくられていたわけなんですね。そのことに、大変新鮮な驚きとともに、そして感銘を受けました。
三年前の三月まで「クローズアップ現代」という番組をキャスターとして担当してまいりましたが、一つの問題が起きて、その問題について番組で取り上げて、解決策だと考えられていたことを番組で提示したことが、数年たってみてまた取り上げてみますと、その解決策だと思えたことから新たな問題が生まれていました。あのとき一体自分は何を伝えたんだろうか、そう悩むことがございました。そういう思いが深まる中でSDGsに出会って、その考え方、進め方というのがとても新鮮に思えました。何か番組で続けながら悩んでいたことに対して解決策を与えられたような、そんな印象を持ちました。
そして、もう一つ、ニューヨークで取材をして、番組を出して日本に戻ってまいりますと、今後の世界、日本に大変大きな影響をもたらすであろうSDGsについてメディアが余り取り上げていない、伝えていないということにも衝撃を受けました。私自身が、申し上げたように、SDGsを知るということが大変遅かったわけですから大きなことは言えないんですけれども、そういうこともありまして、番組を離れましてからこの三年、SDGsの取材、啓発に微力ながら個人として関わってきております。
国連で採択されましてから三年半たちました。政府内に、先ほどの北岡理事長のお話にもありましたように、SDGs推進本部が発足しましてもう三年になります。
国内での浸透度がどうかということについて申し上げますと、最初の二年ほどはなかなか浸透しませんでした。この一年を見ますと、企業、自治体、生活協同組合などの協同組合、大学など、幅広いステークホルダーの中で浸透度、認知度は急速に高まってきているように思えます。
とりわけ、大企業においてこの動きが顕著です。積極的に経営計画に取り込んで、統合報告書に経営課題とSDGsがどのように関係しているかを記述する企業が増えています。企業にとりましてはSDGsが新たなビジネスチャンスをもたらすという側面もあるんですけれども、大きな影響をもたらしているのは、ヨーロッパを中心に急速に広まっていますESG投資が、日本にもその波が押し寄せているからだと思われます。
ESG投資は、企業が環境、社会的課題にどのように向き合っているのかが重要な投資判断基準になります。このため、企業はSDGsが掲げる様々な社会的課題の解決を企業経営に取り込もうとしています。さらに、年金積立金管理運用独立行政法人、世界最大の機関投資家、GPIFがおととしからESG投資に関わる資金運用を始めたことも大きな影響をもたらしています。特にグローバルな展開をしている企業は、当然かもしれませんけれども、海外のグローバル企業、そして海外の政府のSDGsに向き合う動向に非常に敏感に反応しています。
しかし、大企業全体にSDGsが十分な浸透を見るまでには至っていません。企業の社会的責任を重視する大企業で構成されていますグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの会員企業へのアンケート調査を見ますと、SDGsが経営に定着したと答えた企業が急速に増えて、昨年の秋の調査では五九%にまで達しています。そして、取締役会で議論したという企業も七〇%になっています。しかし、中間管理職に定着したと答えたところは、増えているとはいえ、まだ一八%、従業員に定着したと答えたのは一七%にとどまっています。
さらに、中小企業への浸透度を見ますと、ほとんど浸透していません。関東経済産業局が昨年十月に一都十県の中小企業五百社を対象に行ったアンケート調査によりますと、SDGsについて全く知らない、今回の調査で初めて知ったとする企業は八四・二%に上りました。SDGsに対して対応してアクションを起こしている若しくは検討していると答えた中小企業は、全体の僅か二%でした。
これからの時代、ESG投資やSDGsの動きは、グローバル企業、大企業にとどまらず、中小企業も無縁ではありません。サプライチェーンを含む、原材料から製品の消費段階に至るまでのあらゆるビジネスプロセスがESGやSDGsの視点でチェックされる時代が来ようとしています。中小企業にとってもビジネスチャンスの機会が生まれる可能性があるわけです。そのために、中小企業への浸透というのが急がれます。
一方、自治体を見てみますと、SDGsに対する関心が高まっています。国が地方創生にSDGsを原動力として位置付けました。昨年からSDGs未来都市の選定を始めたこともあります。SDGsの認知度が高まりました。二〇三〇年のありたい未来を描いて、そこからバックキャスティングして現在の課題解決の方向性を見出していくというSDGsの手法が、人口減少などに悩み、未来に向かってどう行動したらいいのか苦闘している地方自治体に地域づくりの新しい視点をもたらしているんです。例えばある町では、住民が参加して、SDGsが掲げる社会課題に照らし合わせて自らの課題を見出し、将来こうなりたいというビジョンを描いて、そこから地域づくりの総合計画を作り上げています。
一般市民への浸透はどうでしょうか。これはまだまだといった感があります。私もSDGsの講演を頼まれて伺った会場などで、SDGsを知っていますかと手を挙げてもらいますと、SDGsを知っている人はまだ僅かです。ある新聞社が継続的に東京、神奈川県在住の三千人を対象に調査を行っていますが、この二月の調査で、SDGsを聞いたことがあると答えた人一九%、五人に一人といった感じでした。
最近、食品ロス、使い捨てプラスチック問題など、SDGsにとっても大きな目標であり、また市民、消費者にとっても身近で自分事になりやすいテーマが大きな問題として浮かび上がっています。こうした身近な問題が入口になってSDGsへの理解が広がればと期待がございます。そして、先ほどの新聞社が行っている調査ですけれども、SDGsについて知ると共感する傾向が高いのは若者と女性たちというトレンドが見られます。
SDGsが実質スタートした二〇一六年から四年目に今年は入ったわけですけれども、日本の中ではSDGsへの取組は大きなうねりとはまだなっておりません。この三年間啓発活動に取り組んできた実感として、SDGsを作らざるを得なかった背景が十分に知られていないと、そこが大きな要因ではないかと感じています。
このSDGsというのは、地球の持つ、私たち人類の生命を維持してくれている地球システムが危険な状況に近づきつつあるという強い危機感からSDGsが作られたわけですけれども、それがなかなか共有されない、SDGsが自分事として受け止められていないということが大きいと思っています。更なる推進の強化、そして啓発活動の強化が求められていると思います。
その点から、様々な取組を取材して感じているのは、SDGsを強力に推進していこうという政治の意思がまだ希薄だということでございます。
先ほどグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンによる加盟企業へのアンケートを御紹介しましたけれども、このアンケートでは、SDGsに影響力のあるセクターはと尋ねますと、政府、政府系団体がトップとして挙げられます。また、自治体へのアンケート調査でも、取組の障害として、先行事例や成功事例がないといった理由と並んで、国や地域の盛り上がりが乏しい、国の方針が分かりづらいためどう推進していいか分からないという答えが上位を占めています。
SDGsの目標は全世界共通のものであって、様々なステークホルダーが同じ目標を目指して進むわけですが、その目標達成に向けての方法、プロセスはそれぞれの状況に応じた自主的な方法に任されています。こうした多様な人々が参加し、自主性を重んじた方法は、思いもしないようなアプローチやイノベーションも生み出す可能性を秘めています。
その一方で、SDGs達成に向けて一体何をすべきか、どう取り組んでいけばいいのかといった戸惑いを与えているのも事実です。そうした中で、国、政府の役割はどうあるべきでしょうか。
三年前の二〇一六年五月に、政府に全閣僚によるSDGs推進本部が設置されました。その下で策定された実施方針により、八つの優先課題と具体的施策が決定されています。そして、それに基づいて二〇一八年からはアクションプランも策定されています。また、政府が実施しているジャパンSDGsアワード、昨年から始まったSDGs未来都市の選定は、先進的にSDGsに取り組んでいる自治体、企業、NPOなどを広く社会的に知らせ、SDGsに取り組もうとしている組織や人々に先行モデルとして多くの刺激を与えています。
しかしながら、このような取組が行われているにもかかわらず、なぜSDGs推進に向けた政治の意思が強く受け止められていないのでしょうか。
それは、一つには、具体的施策として挙げられているものが、SDGsに取り組む以前から各省庁が既に提案し進められている施策を八つの優先課題別に整理されたもので構成されていて、SDGsに取り組むに当たっての国家戦略であるとされながら、二〇三〇年へ向けての新しいビジョン、新たな政策としてはくっきりと示されておらず、SDGsによって何をどう変革していくのかが見えていません。
また、SDGsには、様々な目標、ターゲットの達成に向けての行動がお互いに連関し、相乗効果、シナジー効果を生み出すことによってその達成をより確かなものにするという特徴があります。そのことを可能にする強力な仕組みが必要だと思われますが、その仕組みは実現していません。
SDGs達成のためには、できることを積み上げていくというのではなく、野心的な目標を掲げて、やらなくてはならないことをスピード感を持って実施していかなければなりません。そのためには、複雑に絡み合う課題を統合的に検討し、その具体化施策を策定していく核となる強力な専任スタッフ部門、例えば内閣府にSDGsを推進する部局の設置などが必要ではないかと思われます。この省庁縦割りを超えたスタッフ部門と、現在推進本部の下にある円卓会議に参加している様々なステークホルダーのメンバーが深く連携し、その議論の中から二〇三〇年を目指す様々な施策を生み出すといった方法が取れないでしょうか。
円卓会議は、SDGs達成に向けた日本の取組を広範な関係者が協力して推進していくためにつくられたもので、円卓会議は今、年二回の開催にとどまっています。意見交換する場、ややもすれば政府から出されたプランにお墨付きを与える場としてしか機能していない、具体的な政策形成の場となっていない面があり、この円卓会議の機能を大幅に見直し、強化することが重要だと思われます。
実施指針には、省庁横断的な分野別の事項についても、事項に応じて関係するステークホルダーとの意見交換や連携のための場の設置等を検討すると書かれています。テーマ別の分科会も積極的に行って、より深い検討を行い、新たな政策形成に反映させていただければと思います。
そして、SDGsは国際法のような法的拘束力を持つものではないんです。世界共通の目標に向けて、各国は進捗状況をきちんと把握して、国際社会でどこまで進んだのかということを明らかにしなければなりません。そして、それをハイレベル政治フォーラムなどでその進捗が比較評価されることで各国の積極的な行動を引き出そうというものです。
SDGsは、目標、ターゲット、指標から成っていて、その進捗をモニタリングして評価するという、ある意味、測って比べるという分かりやすい仕組みを持ったものです。推進に当たっては、強い政治の意思の下、その仕組みがシステマティックに動くようつくっていかないと、スピーディーな目標達成ができないというふうに思います。そして、現在の推進体制では、フォローアップの、進捗把握の、個々の政策担当の省庁任せになりかねませんし、各種政策の統合効果の測定もできないまま終わる可能性がございます。
そして、もう一点だけ申し上げたいのは、今年、実施指針の改訂が行われるということですので、多くのステークホルダーの参加の下で大胆な改訂をしてほしいと思いますし、そしてもう一つ、この場で申し上げたいのは、政治の強い意思を内外に示すためにSDGs推進基本法を制定する必要があるというふうに考えます。政治の意思の本当に強度を保つためにも、立法措置による政府や自治体など行政組織に対するある種の縛りというものが必要ではないかと思います。
基本法についてはもう少し申し上げたいこともありますけれども、時間となりましたので、私の発言はここで終わらせていただきたいと思います。
このような場で発言させていただく機会をいただきましてありがとうございます。