平田仁子の発言 (資源エネルギーに関する調査会)
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○参考人(平田仁子君) 本日は、このような機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、まず、気候変動の話から始めさせていただきたいと思います。(資料映写)
この世界地図、御覧いただきたいんですが、二〇一七年に起こった人の移動、すなわち住む場所を奪われて移動を迫られた人の数を示しております。オレンジは紛争で、青が災害が要因で起こったものです。アフリカや中東では紛争が要因の方が多いのですけれども、アジアやアメリカ大陸では、熱波やハリケーン、干ばつ、洪水などの気候災害を伴って難民の数が増えております。そして、世界情勢が更に不安定になる状況をもたらしています。
気候変動問題とは、このような事態による日本の安全保障や経済への広範な影響を考慮する必要がある問題です。
昨年の西日本豪雨を始めとした様々な災害は、日本もまた気候災害に脆弱であることを指し示しました。二〇一八年の自然災害の統計では、ここには地震の被害も含まれているわけですけれども、死者、被災者数共に日本は上位にありまして、災害に多く見舞われるリスクの高い国の一つとなっています。このまま気候変動が加速しますと、昨年同様あるいはそれ以上の厳しい災害に見舞われることになります。気候変動の被害を未然に防ぐということは、地域コミュニティーの基盤を守るという観点で重要な取組であると思います。
現在、地球の平均気温は、産業革命前の水準から一度ほど既に上昇したということです。二〇一五年に採択されたパリ協定、先ほどお話ありましたが、この気温上昇を二度よりはるかに低く抑え、一・五度を目指すという目標です。そして、そのために、今世紀の後半に世界の温室効果ガスの排出をゼロにするということに合意したものです。もちろん日本もこのパリ協定に締結しています。
図を御覧いただきたいのですが、一八〇〇年から現在まで世界は温室効果ガスの排出を急速に増やしてきてしまいました。二度未満を達成するためには、この排出を、増やしてきたスピードよりも速いぐらいのスピードで急速にゼロに向かわせなければいけないと、まるで富士山の尾根を滑り落ちるようなスピードでございます。
しかし、世界の対策は全く今ここに届いておりません。このままでは三度、四度の世界を招いてしまいます。パリ協定は、これまでの行動の延長では決して達成できるものではありません。社会、経済の大きな革命とも言えるような転換を成し遂げる必要があり、そのための行動をどう引き上げるのかというのが命題になっております。
今日、地中には石炭を中心にまだ化石燃料が埋蔵されております。それらを掘り出して燃やしてしまうと、たくさんのCO2を更に出してしまいます。二度未満に気温上昇を抑えるという目標を達成するためには、そのうち七割から八割は掘り起こさずに地中に埋めておく必要があると試算されています。そのため、パリ協定の実施は脱化石燃料とほぼ同義だと言っていいと思います。
特に問題になるのが、最大の排出源、排出部門である発電部門、そのうちの発電当たりのCO2排出が最も大きい石炭火力発電の在り方です。図の右の黒い棒線ですが、二〇一五年の時点の既存と計画中の石炭火力発電所からの発電量の合計を示しています。それに対して、左側のピンク色の幅は二度未満目標と整合的な石炭火力発電所からの発電量で、平均値はかなり下の方に点線で示されています。ここから新規に計画を進めるということは、二度未満の目標をはるかに超えてしまいパリ協定に全く矛盾するということ、さらに、既存の石炭火力発電も廃止していかなければならないということが導き出されます。こうした知見から、石炭火力発電の削減は、パリ協定の目標達成の上で最も重点を置くべき取組の一つだという認識が共通として国際的に広がっております。
先ほど御案内ありましたIPCCの一・五度報告書は、一・五度に気温上昇を抑制することに関する新たな科学的知見を示しました。その結果、一・五度と二度の気温の差は決して小さくなく、一・五度に気温を抑制すれば生態系や気候災害への影響はより小さく抑えられることが明らかになりました。しかし、早ければ二〇三〇年にもこのレベルに到達してしまうと。本当に時間がないことも明らかになりました。また、一・五度の達成には、二〇五〇年という、もっと早く温室効果ガスの排出をゼロにしなくてはならないということも示されました。このようなことから、気候変動対策はもはやこれ以上の先延ばしは許されず、今すぐ大胆に行動をしなければならないと言うことができます。
現在の取組では全く不十分だということは、気候変動枠組条約の交渉会議でも常に強調されていることでございます。今各国には、自国の目標を引き上げ、また対策強化することが要請されています。昨年末の民間の調査では、五七%の国や主体が何らかの形で目標や行動を引上げを検討していると回答しており、行動の強化の機運が高まりつつあります。
原田環境大臣は、昨年のCOP24の会議で、このIPCC特別報告書を歓迎し、世界全体が排出削減の取組をより強固なものとする必要があると述べられました。しかし、国内では、温室効果ガス排出削減の目標を引き上げる具体的な検討には着手されていない状況です。
政府による目標の引上げや対策強化の動きはまだ不十分なままですけれども、それをよそに、非政府の様々なアクターが行動を加速しています。その幾つかを御紹介させていただきます。
まず、企業の対応が大きく変化し始めました。
パリ協定の目標に沿ってビジネスも変わらなくてはならないという理解と決意の下に、日本語では企業版二度目標とも言われますが、サイエンス・ベースド・ターゲットのイニシアティブに世界の多数の企業が参加するようになっています。これは、脱炭素化時代に突入する中で、国際競争力を確保しビジネスチャンスを最大限に活用しようという企業の生き残りを懸けた取組であり、そのうねりでもあります。現在までに五百十五社が参加し、このうち日本の企業は七十社を占めています。
企業行動に強いシグナルを与えているのは、投資家の行動の変化です。
機関投資家らは、投資行動を通じて脱炭素社会を牽引し始めています。左側のインベスター・アジェンダは、グローバルな機関投資家が気候変動に関する課題に取り組むための指針を提示しています。その共同声明では、運用資産総額三千二百兆円に上る四百十五の機関投資家がパリ協定の目標を支持し、低炭素への転換の民間投資の加速を要請しています。その中には、化石燃料補助金の撤廃や石炭火力発電の全廃も含んでいます。
右側のダイベストメント、これは投資、インベストメントの反対で化石燃料への投資からの撤退を意味しますが、これを宣言した金融機関、機関投資家は世界で千以上に増えています。運用資産総額は八百兆円に上っています。化石燃料を進める企業にお金が回ってこないようになってきているということです。
日本の機関投資家にダイベストメントを発表したところは今のところまだありません。しかし、欧米の投資家が化石燃料事業を実施する日本の電力会社や商社への融資を取りやめる例も出てきておりまして、転換が遅れる日本企業にも影響が出始めています。
さらに、世界の脱炭素化への移行において、より適切な資本配分をすることにより金融の安定化を確保することが必要性として認識されるようになっています。
金融安定化理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース、TCFDは、投資家の理解を助けるために、企業に対して、気候関連のリスクと機会によるキャッシュフローと資産、負債への影響の情報開示の枠組みを提示しています。これには既に日本の経済産業省、環境省、金融庁も賛同しており、こうした情報開示は気候変動へのリスクの高い企業への資金配分を変えていくことにつながっていきます。
また、エネルギーの需要側の様々なアクターが再生可能エネルギー一〇〇%を目指す宣言をし始めました。少し前まではこのような目標は夢物語のような話でありましたが、パリ協定の脱炭素化はすなわち再生可能エネルギー一〇〇%を目指すことでもありますので、当然の流れと言えます。
大企業版のRE一〇〇には百六十二のグローバルな企業が参加し、自らの目標として、使う電気の全てを再生可能エネルギーで賄うことを宣言しています。地方自治体の動きも目覚ましく、二〇一五年には七百の自治体が再生可能エネルギー一〇〇%を目指すと宣言し、百以上が既に一〇〇%に到達しつつあります。
日本国内の動きは世界に比べて随分遅れてしまっているのですけれども、それでも今日までにRE一〇〇に名を連ねた企業は十四社、中小企業、大学、自治体の宣言も十五団体になっています。化石燃料から再生可能エネルギーへという流れは、需要側の消費行動からも加速されています。
石炭をめぐる動きも大きくなっています。
イギリス政府とカナダ政府が主導してつくった脱石炭国際連盟と呼ばれるイニシアティブには、これまでに三十の政府、二十二の自治体が参加し、脱石炭火力の方針を宣言しています。このうち幾つかの国では法制化などの制度化も進められています。
また、先月、石炭がたくさん掘れるドイツにおいても、二〇三八年までに国内の石炭火力発電を全廃するという方針が政府の諮問委員会から勧告されました。これに基づいて、ドイツ政府は脱石炭火力の制度をつくる段階に入っています。
このように、石炭火力のフェーズアウトはパリ協定の下で加速する大きな国際トレンドになっています。
それでは、日本に目を移したいと思います。
これまでの排出トレンド、実績を見ますと、このままではまだまだ難しく、急速に削減を進めていかなければならないことは明らかです。目下の二〇三〇年二六%削減目標を定めておりますけれども、まだ二〇五〇年の脱炭素化への明確な道筋とビジョンが描けているとは言えないのではないかと思っております。
国際的には、日本の二〇三〇年目標はパリ協定と照らしてかなり不十分であると評価されています。全ての国が日本と同様の行動水準にとどまれば気温上昇は三度、四度になってしまうと指摘されています。また、海外のNGOが実施する他のランキングでも、日本の気候政策は六十か国中四十九位、石炭火力をめぐる政策はG7の中で最下位と、厳しい評価になっています。日本は国際トレンドから大きく取り残され、後れを取っているというのが世界の見方なのです。
その日本の取組で最も問題視されていることは、今も続く石炭火力の推進です。
福島原発事故後、政府の政策転換もありまして、新規の石炭火力発電所が御覧のように全国に五十基も計画されました。その規模二千三百万キロワット、大型原発二十三基分に相当します。このうち小規模の石炭火力の十基は既に運転を開始しました。また、現在、大規模な石炭火力を含む十七基が建設中です。さらに、環境アセスメント中の案件もあります。日本は今まさに石炭火力発電の建設ラッシュを迎えています。計画のうち十一基は事業性が認められないとして中止になりましたが、なお二十九基が新たに建設されようとしています。石炭火力フェーズアウトが国際トレンドになっている現状におきまして、先進国でこれほどの新設に突き進んでいるのは日本だけになっています。
この方針は海外支援においても同じです。中国、日本、韓国の三か国は、この青いところに行き着く東南アジアやその他の国々へ石炭火力発電の技術の輸出に公的支援を継続しています。しかし、これらの多くの国では既に再生可能エネルギーの方が安価になっているという実態があるにもかかわらずです。このことは、気候変動の観点から問題になる時代遅れの技術を輸出しているという批判と疑念が日本に向けられる要因となっています。
国内の石炭火力の新設は原発の行方が不透明な中では必要ではないかという声もあります。しかし、新規建設の規模は、ここに御覧いただけますよう、既存の発電所、青いところの規模と比べても膨大です。また、この間、高効率の天然ガス火力発電所もかなり建設されています。現在の供給力に問題がないこと、そして、これからの人口減少による需要減、再生可能エネルギーの導入拡大を考えれば、これだけの石炭火力発電の増強は過剰でありまして、もちろん気候変動の観点からは全く逆行するものであります。
現在の石炭火力は高効率だから良いという指摘もございます。高効率の石炭火力発電所でも、しかしながら大量の二酸化炭素を排出します。LNGコンバインドサイクルの二倍の量です。現在、福島で建設中の最も高効率のIGCCと呼ばれる石炭ガス化複合発電所は、年間五百二十四万トンの二酸化炭素を排出すると推計されます。これは百万世帯分の年間のCO2排出量に匹敵します。そして、一度建設されれば何十年とCO2を排出し続けます。
パリ協定と整合的にするためには、日本でも二〇三〇年に石炭火力発電をフェーズアウトする必要があります。古いものを新しいものに置き換えるのではなく、全廃が必要ということです。しかし、現在、古いものから新しいものまで百基以上ある既存の石炭火力発電所に加えて、このピンク色のところ、新しい発電所をこれだけ追加しようとしています。日本の電力会社は廃止計画を示してはいないのですが、仮に四十年で運転を停止すると見込んだとしても、二〇三〇年にも多数の既存の石炭火力発電所が運転していることになります。また、新規に建設される石炭火力は、二〇五〇年を超えて運転し続ける可能性がございます。
政府は、CO2を回収して地中に埋める、あるいは再利用するというCCS、CCUという技術の開発も進めていますが、現在、新規の発電所のいずれにもこの技術は準備されていません。技術開発は間に合っておりません。このまま建設を容認し、順次廃止するという対策を取るだけでは、パリ協定とは矛盾したままということになります。
そこで、私たちは、お手元に別冊子をお配りさせていただいておりますが、二〇三〇年石炭火力フェーズアウト計画を提示しています。ここにピンクの絵が見当たらないよう、新たな石炭火力はもはや新設するべきではないという考えに基づいています。さらに、今年から毎年、効率の悪い古いものから順次廃止していく必要性を提示しています。
現在、四千万キロワットを超える容量があり、政府が重要なベースロード電源と言う石炭火力を今後十年余でゼロにするということには、電力の安定供給への懸念もあろうと思います。私たちの分析では、様々な取りまとめ、分析、統計を踏まえましても設備には余裕があり、さらに電力需要の伸びがないことを踏まえれば、原発の再稼働を経ずとも供給力は足り、この計画は十分実現可能だと見ています。
取るべき方針は、今から新たに建設することによって数十年もCO2を排出し続ける設備を抱え、その削減に多額のコストを掛けるのではなく、既存の設備を使いながら省エネの取組を加速させ、再生可能エネルギーへと転換していく道筋だと考えています。
そのような道筋に妥当性があるもう一つの理由は、再生可能エネルギーのコストが急速に低下しているということがあります。特に太陽光と風力の発電コストの低下は目覚ましく、世界では既に石炭や天然ガス火力と比べても最も安い発電方式となっています。日本ではまだ再生可能エネルギーが高く、石炭火力の方が優位にありますが、二〇二五年にはその転換点が訪れ、再生可能エネルギーの方が安価になるという分析もあります。その分析では、この図に示されておりますように、運転中の石炭火力発電所は、現在は一〇〇%採算取れていますけれども、二〇三〇年にはその全ての発電所が採算割れすると見込まれており、経済合理性を喪失すると指摘されています。
現在、日本では、化石燃料の輸入に二十兆円ものお金を費やし、国外に支出しています。石炭を使い続ける限り、燃料費は掛かり続けます。石炭火力は、近い将来、採算性が危ぶまれ、座礁資産になることが見込まれることも視野に入れなければなりません。それを回避するエネルギー選択は何なのか、今考える必要があります。
以上より、私からは、気候変動の観点から、そして経済合理性の観点から、石炭火力フェーズアウトにかじを切ることが今必要だと強調したいと思います。現在検討中の低炭素発展長期戦略にもこれを盛り込む必要があると考えます。また、日本の二〇三〇年の温室効果ガス排出削減目標も、パリ協定の目標に沿うよう引き上げる検討を早々に始めることが必要です。
本日は、電力、特に石炭火力のことを中心にお話をさせていただきましたが、脱化石燃料というとき、熱利用や運輸部門においての化石燃料からの脱却も併せて考える必要があります。本日は時間がありませんで、そこまで申し上げることはできませんが、その対策の強化も必要だということも付け加えさせていただきます。
最後に、三点、まとめさせていただきます。
気候変動がもたらす甚大な被害を回避するためのパリ協定の一・五度から二度未満の気温上昇の抑制は、世界全体の共通目標であります。温室効果ガス実質排出ゼロへの脱炭素化は、もはや逆行することのない流れです。
それを受け、非政府アクターに大きな脱炭素化の潮流が生まれ、お金の流れ、経済の質が転換しつつあります。これに対し、日本の投資家、企業には出遅れがあると見ています。その要因には、政治、政策が脱炭素化へ向かうべきという明確なシグナルを発信していないことにあるのではないかと考えています。
そこで、経済戦略としても、石炭火力からの脱却を急ぎ、脱炭素への道筋を長期戦略の中に明確に位置付ける必要があります。もちろん、そのためには産業構造の転換が必須となり、労働、雇用の移転、そして、再生可能エネルギー、省エネのビジネスを日本の国際競争力を高める上で育成していくという観点での備えと対応が必要です。
もはやこの問題は、できるできない、難しいからやらないではなく、経済戦略と統合しながらどうやって実現するかの課題です。これはダボスでも安倍総理がおっしゃっていたことと一致すると思います。そのための日本の行動が求められていると思います。
ありがとうございました。