小沼廣幸の発言 (政府開発援助等に関する特別委員会)
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○参考人(小沼廣幸君) 今御指名にあずかりました明治大学の小沼廣幸と申します。本日は、参考人として意見陳述をする機会を与えていただきまして、非常に光栄に思います。
二十四歳のときに二年間シリアで青年海外協力隊員として初めてODAに従事しまして、その後、外務省派遣の国連FAO準専門家、アソシエートエキスパートとして南イエメンで二年、国連難民高等弁務官事務所のジャララクシ難民キャンプ所長として二年間ソマリアで勤務し、ガーナのFAOアフリカ地域事務局に四年、イタリア・ローマのFAO本部に約七年、FAOバングラデシュ事務所長として四年間、そしてタイ・バンコクのFAOアジア太平洋事務局に十六年勤務し、二〇一〇年より約五年間FAOのアジア太平洋局長として従事しました。二〇一五年に足掛け三十五年間勤めました国連を定年退官しまして、現在、明治大学特任教授兼アセアンセンター長としてバンコクに駐在し、新しい世代の育成に従事しております。
本日の意見陳述は、この間に得た知識と経験に基づくものであります。
御存じのように、世界の持続可能な開発目標、SDGは、二〇一五年九月にニューヨークで開催された国連総会におきまして加盟百九十三か国の全会の一致により採択され、十七の共通目標を二〇三〇年までに達成することを目指して二〇一六年に開始されました。このSDGは、二〇〇〇年から二〇一五年までに実施されましたミレニアム開発目標、MDGに比べまして格段に違う重要性を持っております。
その理由の一つは、MDGが国連の主導で作成されたものに対して、SDGは国連の加盟国が主体になり、それぞれの国の政府や民間、NGOなどの意見を反映させて、二年以上に及ぶ長い論議やディベートの末に、全ての参加国の合意により、自分たちによる自分たちの開発目標であるというオーナーシップを持って作成されたものであることです。日本がこのプロセスに重要な役割を果たしたことは周知のとおりです。また、MDGが開発途上国に主眼を置いたのに対し、SDGは日本や他の先進国を含む全ての国の開発目標です。
したがいまして、SDGの国レベルでの行動計画の作成や目標の実現に向けて、我々一人一人が地球市民としてみんなで責任を持って行動を共にする責務を保有すると言って過言ではないと思います。言い方を変えれば、我々一人一人の努力や貢献なくしてSDGの目標の達成は難しいと思われます。例えば、地球温暖化ガスの排出削減や食品ロスや棄却の削減は、我々一人一人の日常生活の努力なしには達成できないでしょう。
私は教員としまして、職業柄、日本やタイの学生たちに対してSDGのことを授業で話しますが、国際分野に関連した学部の学生たちを除きまして、驚くことにSDGを知る大学生は通常二割から三割ぐらいしかいないのが事実です。SDGに対する教育は、中学、高校生のうちからレギュラー科目の一つとして週に一、二時間程度の頻度で導入し、大学においては必修科目の一つとしてはいかがでしょうか。日本が真の国際化を目指すためには、中学、高校生たちに対してSDGを中心とする地球市民教育の導入が必要不可欠と思われます。
さて、SDGの全体について述べましたが、十七ある目標のうち特に重要だと思われる幾つかの目標に絞り、話を進めたいと思います。
SDGの第一の目標は、貧困の撲滅です。SDGの採択文書にも明記してあるように、貧困問題は世界で最も重要な共通課題です。
一人一日一・九ドル以下での生活を基準とする世界の貧困人口は一九九九年から二〇一三年にかけて半分以下に減少し、世界全人口に対する比率は同じ期間に約三〇%から一〇%程度まで下がっていますが、国連ESCAPの資料から分かりますように、アジア太平洋地域の後進国では、一日一人当たり一・九ドル以下で生活している人の割合は一六・七%まで下がったものの、一日一人当たり三・一ドル以下で生活している人の割合は五二・六%にも達しております。
これは何を意味するかというと、表向きは貧困人口は大きく減少し、我々はほっとしているけれども、表に現れない一日一人当たり一・九ドルから三・一ドルの間で生活している、言わば貧困のボーダーラインよりも少しだけ上でひしめいている人たちが驚くことに全人口の半分以上いるわけで、この人々は、家族の病気や失業などの内的要因、あるいは自然災害や人的災害、経済不況、食料価格の高騰などの外的要因により、すぐにまた貧困に逆戻りする高いリスクを持つ人たちであります。後進国に対する自立、自活のための足が地に付いた支援や充実した社会保護制度や、弱者を救済する社会福祉構築のための支援なくして持続可能な貧困撲滅は達成できないと思われます。
外務省の資料によりますと、日本のODAの支出総額は二〇一三年のピーク時に比べますと二〇一六年には約二五%減少し、アメリカ、ドイツ、イギリスに次ぎ四番目で、同年の日本のODA支出総額の国民総所得比では、OECD、DAC諸国の平均の〇・三二%に比べまして〇・二%と低く、加盟二十九か国中二十位でありました。
世界の貧困削減に向けた努力は近年大きな成果を上げてきたものの、まだまだです。表向きの数値に満足することなく、SDGの中心課題である持続可能な貧困撲滅達成に向けた、世界第三位の経済大国である日本のODAの今後のより一層の貢献と増額を期待したいと思います。
もう一つの問題は、貧困人口比率は全体では減少したものの、地域により極端な差が生じていることです。二〇一三年のサハラ砂漠以南のアフリカの場合、その地域全体に占める貧困人口の割合が四二%、中央・南アジアの場合は一四%、そして東アジア、東南アジアだと三%と、地域による大きな違いがあります。
日本のODAは、外務省の資料によりますと、二〇一六年時点で総支出額の五二%がアジアに、一四%が中東、北アフリカに、一一%がサハラ砂漠以南のアフリカに配分されています。日本とつながりが一番強いアジア地域の支援に日本が力を入れることは重要だと思います。それと同時に、地域の総人口の四〇%を超える極めて高い貧困人口割合や、世界全体の三〇%近い飢餓人口を有し、それが現在も悪化している現状というものを総合的に考慮しますと、サハラ砂漠以南のアフリカに対してより一層の支援の目を向ける必要があるように思います。TICADを通じて浸透したアフリカ支援に対する日本のリーダーシップが、サハラ砂漠以南のアフリカに対するODAの実質的な配分増加に反映されることを期待したいと思います。
さて、SDGの第二の目標は飢餓の撲滅です。
国連FAOの統計によりますと、二〇一五年まで過去十年間以上減少傾向にあった世界の飢餓人口は、皮肉なことにSDGが開始された二〇一六年を契機に増加に転じ、二〇一七年度に更に増加しています。二〇三〇年までに飢餓人口をゼロに減らすのがSDGの目標なのに、それどころか反対に増加しているわけです。
その主な原因は、世界各地で発生している国内外の紛争による食料不足や避難民の増加や、自然災害などの多発による被災民の発生や食料生産、流通への悪影響などが挙げられています。これでは、幾ら食料の増産や栄養の改善に努力しても、それだけではSDGの第二番目のゴールである飢餓撲滅を達成することは難しいと思われます。紛争や気候変動の悪い影響が増加している今日、緊急援助や食料援助の重要性はここにあります。
外務省の資料によると、二〇一六年度の日本のODA全体の中の分野別配分で、緊急援助、食料援助の比率は僅かに四・八%で、アメリカの二五・四%、イギリスの一四・一%、ドイツの一一・九%、カナダの二九・一%に比べて極めて低いことが分かります。この点、現実の問題とそしてニーズに照らして、我が国のODAの中の緊急援助の役割と重要性を再度検証し、増額を考慮していただければと切に思います。
私が二〇三〇年までに飢餓撲滅、食料安全保障の達成という第二番目のSDGのゴールに強い関心を持つのは、上記以外に大きな理由があります。これは、現在約七十六億人の世界人口が二〇五〇年には九十七億人に達すると推測され、それに見合う食料の増産を二〇五〇年までに世界は達成できているだろうかという疑問であります。これは、日本のような食料自給率がカロリーベースで三八%という食料輸入依存国にとり大変大きな死活問題です。
現在、世界は地球の人口の必要量に見合う量の食料を全体として生産しているので、自分の国で十分に生産できなくとも海外から輸入をすれば問題はありませんが、もし世界の食料の生産が増加する需要に追い付かなくなり、需給のバランスが崩れ、食料が不足し食料価格が高騰したら、そのしわ寄せは貧しい食料輸入依存国を襲い、栄養失調や餓死者の発生、スーパーなどの焼き討ち、内乱や治安の悪化、ひいては食料をめぐる紛争や国際テロなどが発生するおそれがあります。
国連FAOは、増加する食料の需要を満たすために、二〇一三年を基準にして二〇五〇年までに食料を世界全体で四九%増産する必要があると警告しています。とはいえ、世界の耕地面積はごく僅か、現在の五%ぐらいしか増加が期待できないため、食料増産の約九〇%は現存する耕地において単位面積当たりの収量の増加に頼らざるを得ないだろうとFAOは予測しています。
しかしながら、近年、穀類の単位面積当たりの生産性の増加は伸び悩み、水問題が深刻化し、土地や水の利用をめぐり食料作物とバイオ燃料作物との間に競合が生じております。また、せっかく生産されても、世界の食料の約三〇%が生産、加工、貯蔵、消費などの異なる工程でロスされたり棄却されています。特に深刻なのは、気候変動の影響による自然災害の多発と、それによる農業や生活環境への悪影響、そして地球温暖化による農産物の生産性の低下や農地の水没、病虫害の発生など、将来の食料増産に対する不確定要因が多く存在します。
資料にあるように、IPCCの二〇一四年に公表された試算では、もし人類が地球温暖化ガスを更なる規制なしに排出し続けると、その影響で二〇五〇年頃には約半数の作物の生産性が一〇%から五〇%減少するだろうと警告しています。もしこれが現実に起きたら、世界は食料不足に陥り、地球の平和や秩序を保つことが難しくなるかもしれません。特に、日本のような食料輸入依存国にとっては深刻です。FAOが試算するように、二〇五〇年までに食料を四九%増産できるかどうかという、それどころの問題ではなくなります。
結論から言いますと、将来の世界の食料安全保障を達成するには不確定要因がたくさんあり、それを乗り越えるには足並みのそろった強い国際協調を構築することが不可欠です。
外務省の二〇一六年の資料によると、日本のODA全体で農林水産分野に占める割合は僅か三・三%と、ごく僅かなことが分かります。世界の食料問題が人類の平和や秩序の構築に及ぼす影響の重さ、稲作やバイオテクノロジーなどを中心とした日本の持つ高度な先端技術、食料輸入依存国である日本が途上国の食料生産に貢献することの重要性などを考えると、日本のODAの農業分野へのシェアがもっと高くなることを期待したいと思います。
さて、三つ目の重要なゴールとして特に注目したいのは、SDG十番目のゴールの格差の軽減です。
国連の統計では、世界の上部一〇%の富裕層が世界の収入の四〇%を得ていると言われ、地域差はあるものの、世界的に貧富の差の広がりが大きな問題になっています。資料にあるように、アジアでは中国、インド、タイ、インドネシアなど、貧富の差が顕著で、それぞれの国の上部二〇%の最貧富層がその国の富の七〇%から八〇%を所有していると言われています。
情報やマスメディアの発達は、貧富の差を問わず人々の消費意欲を駆り立て、欲しいものに手の届かない貧しい人たちは欲求不満を募らせていく現状があります。格差問題は、将来人類が克服しなければならない重要課題として貧困問題よりも重要性を持つと言われています。なぜなら、人間と人間との間に広がる格差は心に隙間をつくり、妬みや不必要な競争心や逃げ場のない絶望感をあおり、それが犯罪や社会不安の元凶になる危険をはらんでいるからです。
こうした格差の是正には、国家予算を弱者救済のための社会福祉政策に十分に充当すればいいのですが、多くの後進国では経済発展を重視し、年七%のGDP成長率を達成して、早く中進国の仲間入りをすることに力を入れている現状があります。特に東南アジアではこの傾向が顕著で、二〇一七年度の国連のSDG経過報告によると、東南アジアでは格差が全く是正されておらず、SDGが開始された二〇一六年よりも逆に悪化していると報告されています。
また、東南アジアでは、都市化と高齢化が物すごいスピードで進んでいます。国連の統計では、ミャンマーの都市人口の四一%がスラムに住み、ベトナムでは二七%、カンボジアでは更に悪く五五%がスラムに住んでいると言われています。年老いて年金をもらえる老人たちはごく僅かで、急速な経済発展のゆがみが至る所に現れています。
外務省資料の二〇一六年度の日本のODAの分野別配分を見ると、経済インフラが五一%なのに対し社会インフラが一七%と、三分の一の配分になっています。社会インフラに対する他国のODAの配分は、アメリカが五一%、イギリスが四六%、フランスが三八%、ドイツが二四%、カナダが三七%と、どの国も社会分野の支援に力を入れていることが分かります。
急速な経済発展のゆがみを是正し、貧富格差のより少ない調和の取れた社会を築く支援をするために、日本のODAがソフトの部分を含めた社会福祉分野により多く使われることを願いたいと思います。
最後に、青年海外協力隊とNGOについて少し触れたいと思います。
私が協力隊の隊員であった経験から、協力隊のすばらしさを自分の体験をもって感じてきました。振り返ると、協力隊の経験なくして国連三十五年間の勤務したキャリアはなかったと思っております。一人でも多くの若者に協力隊の貴重な経験を積んでほしいと願っていますが、JICAの資料にありますように、協力隊員の派遣数は二〇〇八年をピークにして二〇一八年には三〇%以上も落ち込んでいます。いろいろな原因があると思いますが、協力隊予算を増加し、広報や宣伝に十分な投資を行うことが重要だと思われます。
また、NGOに関してですが、事務を統括する専従の職員のポストがなかったり、職員がいても給料が安くて定着しなかったりという話をよく耳にします。それゆえ、組織が不安定で消えてしまいそうなNGOが幾つもあります。NGOといえども、しっかりとした事務母体とそれを動かす経費が必要です。多くの国連機関では、プロジェクト予算の一〇%から一五%程度がサポートコストとして事務経費や関連する人件費等に充てることを認められており、NGOにも似たような配慮がなされることを期待したいと思います。
最後の最後になりますが、東南アジアでは中国が留学生の確保に多大な予算や労力を費やしていることを紹介します。将来の親中国派の若者を育てるための大きな国策と理解します。日本はこれに負けていてはいけないと思います。将来の日本の大学の無料化が、海外の選ばれた日本に来る留学生たちに対しても適用されることをお願いして、最後としたいと思います。
御清聴ありがとうございました。