秋田喜代美の発言 (内閣委員会)
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○参考人(秋田喜代美君) 東京大学教育学研究科長の秋田喜代美と申します。
お手元に資料は配付してございませんので、口頭でお聞きいただければと思います。
このような場で意見を述べさせていただく機会をいただきましたことを大変有り難く思っております。
私は、幼児教育や保育の質の在り方、そしてその向上に関する調査研究を行っております。また、OECD、国際経済協力機構の乳幼児教育ネットワークの常任理事、ビューローを今年二月まで担当をいたしておりました。このような背景から、今回の幼児教育、保育の無償化につきまして大変望ましいことであると考えておりまして、意見を述べさせていただきます。
まず、幼児教育の無償化、保育の無償化の政策には、大きく、少子化対策、保護者支援ということと、子供たちの発達への幼児教育、保育の重要性という二つの観点からの効果を説明することができます。
一つ目は、衆議院内閣委員会におきましても松田茂樹参考人が指摘されているところでありますけれども、子育て、教育負担の軽減という親世代の支援という現世代投資であります。第一子を有している人が第二子以降の出産希望を持つという意味での現世代の投資があります。
また、私も研究者として参加いたしまして、二〇一六年から現在、ゼロ歳児から子供たちの発達を毎年追跡をいたしておりますが、その二〇一六年の三千人を対象にした調査におきまして、その父親及び母親も、約七割の保護者がもっと子供を持ちたいというふうに回答をいたしております。それと同時に、もっと欲しいが難しいと答えておりまして、その理由は、上位から、第一位が子育て、教育の費用負担、第二位が身体的な負担、第三位が仕事との両立負担を挙げております。
この第一位の子育てや教育にお金が掛かるという理由は、父親も母親もほぼ八四%が挙げている点でございます。
この意味で、幼児教育、保育の無償化は、子育て世帯の保護者支援として大きな意味を持っているというふうに言うことができます。
そして、二つ目でございますが、幼児教育、保育の無償化に関してこれが最も重要な点だと私は考えております。それは、幼児教育や保育は、生涯にわたる人格形成の基礎を培い、人が生涯にわたる幸福やウエルビーイングというものをもたらすということでございます。これは日本の未来社会形成への寄与、つまり少子化社会の中での次世代投資としての効果を持ちます。
国際的に見て、幼児教育は生涯における学び方の基礎を培う時期でございます。そこで言う教育というのは、いわゆる知的な能力の育成という側面だけではありません。非認知能力、社会情動的スキルと言われるように、他者と共にうまくやっていく共同性、また他者への思いやり行動、そして自分の感情をコントロール、抑制し、そして集中して目的に向かって取り組むような自己調整能力というものの育成に大きな効果を安定的にもたらします。
この知見は、二十年、三十年にわたって人の発達を追跡してきた長期縦断研究と呼ばれる研究方法によって得られた結果であります。既に欧米や中南米などの数多くの国で行われた百以上の研究を、知見を集めまして、その知見をメタ分析と呼ばれる方法を用いて出されたものです。つまり、安定的で信頼できる、世界的に得られている知見であると言うことができます。そして、これらの知見を踏まえて、既に実際にフランスやイギリスや韓国、それからルクセンブルクやチリ等でも無償化を実施しております。
幼児教育は、今申しましたように、認知及び非認知能力とともに、皆様もお感じだと思いますが、体力や、そして運動能力の育成という点でも、生涯にわたる心身の健康な生活のためにも極めて重要であります。OECDやユネスコ、EU等の出版している刊行物等でもこの知見が既に紹介、報告され、幼児教育の持つ長期的な効果や社会政策の重要性が国際的に共有されてきています。
幼児教育への投資効果は、既にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授のデータが有名ですけれども、それは、経済的に恵まれないなどのハンディを持っている子供たちに対して効果があるということを明らかにしています。しかし、その後、それらの階層だけではなく、経済的に中流以上の家庭の子供であっても、この幼児教育がとても効果を持つということを全米幼児教育研究所のスティーブン・バーネット教授らが明らかにしています。特に、二歳、三歳から五、六歳の時期において、同年代の子供たちとの集団での幼児教育、保育が自己調整能力やコミュニケーション能力の基礎となる語彙力の発達に大きな影響を与えるということが明らかになってきています。つまり、二、三歳頃からの重要性が言われてきているということになります。
格差なく、落差なく、段差なく、つまり、子供たちに家庭の経済格差や地域間の格差なく、そして、あらゆる子供たちを落としこぼすことのない落差なく、幼児教育や保育を行うということが小学校以降への円滑な移行を段差なく可能とするものと考えられます。
そして、これらの長期縦断研究からは、子供たちの個々人への効果と同時に、社会的にも青年期や成人期の非行や犯罪率の低下、また成人の心身の不健康の予防等の効果があるということから、幼児教育は個々人だけではなく社会保障のコスト全体の低下にも影響をもたらすということも示されてきています。
このように、幼児教育、保育の重要性は古くから現在まで認知されてきております。幼児教育の普及率が我が国は既に高いわけですけれども、無償化することによって、出生率を始め、どのような効果が、どのような子供たちに対して、どのような保育や幼児教育にもたらされるのかということを、きちんと政策効果の検証を行っていくということが今後中長期的に必要なことであるというふうに考えております。
また、どんな園であっても保育や幼児教育の施設に通えばいい、保育を提供されればいいということでは全くありません。園での幼児教育や保育の質、つまり、子供にとってどのような経験が園でなされているのかということが子供たちの発達にとって大きな影響を及ぼすということもまた実証的に明らかにされてきています。
例えば、オランダやイギリス等の国では、国のナショナルカリキュラムにのっとって計画的に実施される保育実践というものが良質な保育の質をもたらすということを示しています。そして、それは、いわゆる施設形態や施設類型の種類によらず、何よりもカリキュラムという実際に子供に対して行われる教育内容が具体的にどのような形で実践されているのかが大事であるという知見を示しています。
我が国でも、幼稚園教育要領、保育所保育指針、認定こども園教育・保育要領が今回同時に改訂されました。これからの時代に求められる資質、能力の育成のために、小学校以降の新学習指導要領の改訂と一貫した形でのカリキュラム、発達の連続性を保障するカリキュラムの改訂がなされています。
それらが実際にどのように幼児教育や保育の場で実践されているのかという質のモニタリング、つまり質の吟味や評価を行い、それによって各園や自治体が更なる質の向上に取り組むというサイクルを生み出していくということが幼児教育の無償化では特に重要であり、必要であろうというふうに考えております。
一定の基準の質を整えることを質の確保と呼びますが、質の確保の重要性は言うまでもありませんが、確保だけではなく質の向上に取り組む仕組みをつくり上げていくということが今後の幼児教育、保育の無償化とセットで考えられるべきことだと考えております。その際にも、質の向上のためのモニタリング、評価や監査に関して、国、自治体、園が何をどのように行うのかということに関して、これから更に具体的に検討を行っていくことが必要であろうと思います。
また、このカリキュラムを実際に行うのは専門家である保育者や園職員です。そのためには、保育者の専門性向上のための研修というものがとても大事です。子供の発達に最も影響を与えるのは保育者の研修であるということを二〇一七年にOECDは指摘しております。保育者が働き続けたいと思い、キャリアを積むことが保障されるような給与体系、そして労働環境、専門家として学び続けていく研修体系を併せて考えていくことが必要になるというふうに考えております。また、これらを支援する自治体や大学の役割も考える必要があろうと思います。
以上、幼児教育の無償化の重要性とともに質の向上の必要性を述べてきましたが、我が国において幼児教育、保育の質向上に向けた取組を今後行うためには、子ども・子育て会議で議論をしてきました〇・三兆円超のメニューの実現は是非とも必要だと考えております。幼児教育、保育の無償化と保育の質向上がセットで実施できることで効果も十分に期待できると考えられます。
また、各園や自治体の方と私はお話しすることが多いのですけれども、法案の早期成立が幼児教育の無償化の実施に当たって必要であると考えております。園の現場や自治体の準備のためにも、なるべくより早期の法案の成立が望ましいと考えられます。実際に、保護者や園が理解し、また、それを支援する基礎自治体の担当者が混乱なく、あらゆる子供たちに対して確実に幼児教育、保育の無償化を実施していくための御配慮をお願いしたいと思います。
以上、私の意見陳述を終了させていただきます。
御清聴ありがとうございます。