川口大司の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(川口大司君) 東京大学の川口と申します。
 今日は、経済財政全般の話というよりも、今話題になっております実質賃金変化の統計的把握についてのお話をさせていただければと思います。
 私自身は、労働経済学の実証研究を専門にしておりまして、ちょっと毎月勤労統計の個票という生のデータを使った分析をしたことはないんですけれども、私が把握している範囲でこの問題についての意見を述べさせていただければと思います。
 まず、毎月勤労統計の名目賃金の変化ですね、これ、共通事業所というのを使って名目賃金を、変化がどうなっているかというのを調べるということが今話題になっていると思うんですけれども、これについては検討会が厚生労働省の方で立ち上がっておりまして、今議論が進んでいるところということもまず指摘したいというふうに思います。
 それで、毎月勤労統計なんですけれども、皆さん御存じのとおり、賃金変化捉えるというときに、どういうふうにそのデータが構成されているかという話があるわけですけれども、事業所単位の賃金支払総額というのが分かっておりまして、かつ総労働時間というのが事業所の単位で分かっていると。そうしますと、事業所の単位で時間当たりの賃金というものが分かるという形になっております。これの、その毎月毎月の平均賃金が事業所ごとに分かるわけですけれども、これの平均値を計算するということができて、これの変化というのがいわゆる本系列の変化ということになります。それで、毎月勤労統計なんですけれども、大規模事業所を除いては抽出調査という形になっておりまして、この調査対象になる事業所が毎月毎月変わっていくというような形になっております。
 それで、今問題になっているサンプリングの変更に関してなんですけれども、以前のサンプリングというのは、この名簿替えのタイミングですね、元々、その調査の対象になる事業所を選ぶときの台帳を入れ替えたときにはもうその調査対象になる事業所を丸ごと入れ替えてしまうという形の方法が取られていました。こういうサンプリングの仕方の問題としては、その調査対象ががらっと変わってしまいますので、その平均値などを見たときに断層が発生してしまうという問題がございます。
 それで、今新しく取り入れられた方法は、いわゆるローテーティングサンプルと呼ばれる方法で、その一定の期間同じ事業所を調べるんですけれども、その期間がたった後は落ちる事業所があるんだけれども、それを入れ替えると、一遍には入れ替えないで順番に入れ替えていくというような方法を取っています。
 例えば、これ適切な例かどうかは分からないですけれども、焼き鳥屋さんのたれをちょっとずつ使った分をつぎ足していくような、そういう方法がローテーティングサンプルという形になっていて、味が安定するというような、そういったことが利点としては挙げられるということかと思います。
 それと、共通事業所のこの賃金変化なんですけれども、連続して調査されている、こういう事業所の賃金変化だけを見てみたらどうかということが話題になっています。このときに問題になり得るのは、一年後、今年調査されてまた一年後にも調査される事業所というのは、基本的にその事業を継続している事業所ということになりますので、ここに母集団からずれというものが発生することになります。
 それで、一年目に調査対象になったところで、二年目にその調査対象になったところと二年目には消えてしまったところの賃金の比較というのをその検討会では行っているんですけれども、その結果を見てみると、二年目に残っている事業所の方が一年目時点での平均賃金が高いというようなことが分かっています。で、全体を代表するようなサンプルというのを共通事業所から取ることが難しい部分もあるということが分かっています。分からないのは、共通事業所の賃金の伸びが全体の伸びと比べて高いか低いかというのが、二年目の賃金水準が分からないわけですから分からないというような問題がございます。ですので、過去の賃金の伸びと、例えば事業所のサバイバル確率の検証といったようなことが必要になってくるのかなというふうに思います。
 それで、今までの話が名目の話なんですけれども、実質化の話もございまして、実質化というのは、基本的には簡単な話で、名目賃金の伸びから物価水準の伸びを引いたものが実質ということになります。
 もっとも、皆さん御存じのことかとも思うんですけれども、消費者物価指数というのは、基本的に、ある種のバスケットを購入するのに幾ら掛かりますかという、そういう指標なんですけれども、例えばうどんとそばというものだけで構成されているようなバスケットを買いますと、それで、半分半分で消費している人がいて、うどんの値段が二倍になると、うどんの消費量というのは下がるわけですよね。こういった商品の代替というのが起こりますので、どうしても、固定されたバスケットの下で物価水準の変化というのを調べると、上方にぶれが出てくるという問題が知られています。
 これについて、どれぐらいの大きさなのかというのを評価した研究というのがあるんですけれども、一つの例を挙げると、〇・五%ポイント毎年ずれますと。インフレが一%、二%というこの範囲のところで議論しているときに、〇・五%ポイントの上方のずれというのは結構大きなずれということになりますので、そうすると、物価水準が上振れすると実質賃金の伸びというのは下振れするわけですね、こういった特性があるということは踏まえた上で議論をしていく必要があろうかというふうに思います。
 ここまでが事業所単位の平均賃金の話でした。我々がもっと関心あるのは、個人のレベルで賃金がどういうふうに変化しているかということなんですけれども、これについて、私自身、試論レベルなんですけれども少し研究をしたことがございますので、それについて報告をさせていただければと思います。
 この紙の、二枚目の方の紙を御覧いただきますと、表が出ているんですけれども、その個人レベルの賃金変化というのを知ろうと思うと、各個人の賃金を追ったようないわゆるパネルデータというものが必要になります。リクルートワークス研究所がそういったパネル調査というのを行っているわけですけれども、これを見てみますと、二〇一六年の時間当たりの賃金と二〇一七年の時間当たりの賃金というのを計算をしてみました。この三万人をちょっと超えるようなサンプルの中で、二〇一六年の賃金が手に入るのは六六%、二〇一七年の時間当たり賃金が手に入るのは六七%、で、両方の年で賃金が分かる人というのは六〇%しかいないんですね。ですので、片方の年で賃金が分かる人と比べると一〇%ぐらいの人が落ちてしまうと。共通事業所の話と同じなんですけど、個人レベルでこういうことが起こっていると。
 二〇一六年の平均賃金、これ全体の、賃金が手に入る人に関して全員の平均賃金を見てみると千七百十八円と、二〇一七年の平均賃金を見てみると千七百四十七円というのが分かって、平均賃金の伸びが一・七%という形になります。じゃ、その二年分ですね、賃金が分かる人に関して計算をしてみると、二年間観察される人というのは賃金が高いんですね、千七百四十二円と千七百八十四円と。ですので、賃金が高いタイプの人の方が二年間連続して働いている可能性が高いのでこういうことが起こると。この人たちに関して平均賃金の伸びというのを計算すると、二・四%になります。
 これは日本でだけ観察される現象ではなくて、景気回復局面において、統計上、賃金が上昇していないように見えるという問題は世界各国で報告されておりまして、それはなぜかというと、景気が回復していく局面で失業率が下がります。この中で、今まで失業していた人たちが働くようになるんですけれども、どちらかというと賃金が低い方が多いですので、平均賃金がなかなか上がっていかないというようなことがあります。日本でもそのことが観察されたという面があります。
 あともう一つ、最後なんですけれども、これ平均賃金の伸びの話をしているんですね。これと個々人の賃金の伸びの平均値というのはずれるんですね。この個々人の賃金の伸び率の平均値というのを計算してみますと、実を言うと六・〇%というのが出てきまして、かなり大きなずれというものがあると。
 ちょっと、ポイントとして四点まとめさせていただいたんですけれども、二年連続で働いていて賃金が観察できる個人というのは高賃金の方が多いと、これサバイバルバイアスなどというふうに呼びますけれども、まずこれが観察できたと。それで、いわゆる、働いている人の構成が変わっていくので賃金が上がっていないように見えるという構成バイアスというのを取り除くと、平均賃金の増加率は一・七%から二・四%に上がりましたと。平均賃金の伸びではなくて、成長率の、賃金増加率の平均値というのを見てみると、平均賃金の増加率は二・四%なんですけれども、済みません、増加率の平均値というのを見てみると六・〇%だと。ですので、平均の増加率と増加率の平均というのはずれているということがございます。
 何が起こっているのかというのを考えてみますと、恐らくこういうことだというのは、賃金の低い人々の賃金増加率が高いと。元々賃金水準が低い人の賃金が伸びても平均賃金を押し上げる効果というのは限定的ですので、それですので、増加率の平均値を計算すると高い数字が出てくるんだけれども、その人たちの、賃金が低い人の賃金の伸びというのは平均賃金の増加にそれほど影響しないので、平均値の伸びというのを計算するとかなり低い水準のものが出てくるというようなことがございます。
 最後にまとめさせていただくと、なかなか、賃金が伸びているかどうかということを計算するのは技術的にいろんな難しい問題があって、一つこの数字で賃金の伸びが表現されているんですよということはなかなか難しいと。どういうことが必要かというと、この生のデータに恐らく立ち戻って、いろんな計算の仕方があるので、それぞれの仮定に基づいた計算の仕方の数字というのを出して、どの数字が望ましい数字なのかということを議論していくということが、迂遠ですけれども、必要なのではないかなというふうに思っております。
 以上です。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 川口大司

speaker_id: 34348

日付: 2019-03-12

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会