伊永大輔の発言 (経済産業委員会)
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○参考人(伊永大輔君) おはようございます。東京都立大学に所属しております伊永大輔と申します。
本日は、法案審議における貴重な申述の機会をいただきましたので、デジタルプラットフォームをめぐる規制の必要性やその在り方について、私の専門である独占禁止法、競争政策の観点から意見を申し上げたいと思います。
まず、私の現状認識について述べさせていただきます。
デジタルプラットフォーマーと呼ばれる巨大IT事業者によるデータの独占が社会的関心を集め始めたのは二〇一七年頃からでした。これは、この時期、我が国において既存業種の垣根を越えたデジタル経済が一層進展したことへの反動、反作用でもありました。技術革新に支えられた新しいビジネスモデルの進展は、既存の事業者にとって競争上脅威となる反面、国民全体に広く便益をもたらす点で社会に大きなメリットももたらしたと言えます。
デジタルプラットフォームは、都心よりも地方で、大企業よりも中小企業に、よりその恩恵をもたらします。例えば、これまで広告宣伝や営業担当部門に十分な人員や資金を回すことができなかった中小企業であっても、インターネットを通じて日本中あるいは世界中の消費者を相手に商売を展開することが可能になりましたし、小さな地域市場で事業活動をしていた企業は、良い製品、サービスをつくれば、地域を超えて販売網を拡大できるというメリットを享受できるようになりました。今や日常生活に不可欠なインフラの一つとして存在するデジタルプラットフォームは、社会的にも重要な役割を果たしていると言えます。
このようなデジタルプラットフォームの良い面をくじくことなく、最大限その機能、能力を発揮し続けてもらうというのがこの分野における規制の基本的視座だと私は考えています。
一方、デジタルプラットフォームには負の側面もあります。昨年十月に公表されました公正取引委員会の実態調査によりますと、年々市場が拡大しているオンラインモールやアプリストアにおいて多くの競争政策上の問題が報告されております。例えば、規約を一方的に変更された上で手数料を引き上げられたり、新しい決済システムに移行させられたりといった事例や、検索結果や手数料などについて自社や関連会社を優遇した運用がなされたといった事例を始め、様々な問題が表面化してきているところだと認識しています。
こうした事例が生じている背景には、プラットフォーム事業者間の競争が活発でないとか、取引が不透明でブラックボックス化しているであるとか、取引先事業者との間に情報格差があって力の不均衡が生じているとか、そのような指摘がなされているところであります。
このような事態に対し、公正取引委員会も積極的な独占禁止法の執行に力を入れております。二〇一七年のアマゾンジャパンに対する最恵国待遇条項をめぐる事件を始め、二〇一八年にアップルのアイフォン携帯電話の契約をめぐって、あるいは本年の楽天による送料無料化などについて、独占禁止法上の懸念を解消させる措置をとらせてきたと承知しております。
他方、公正取引委員会による行政処分は、通常、裁判所による司法審査の対象となるものであり、厳格な法運用がなされております。そのため、法執行において柔軟な対応が取りにくく、事件の調査にはどうしても時間も人も掛かってしまいます。プラットフォームという多数の当事者を結び付けて取引を行うビジネスモデルにおいて、独占禁止法を適用する上でも多くの事実関係を調査する必要があり、一筋縄ではいかないことが多いことは想像に難くありません。
それでは、独占禁止法以外の法律で規制することは可能かという点につきましても、市場構造全体が劇的に変わるようなデジタル経済の実装に対し、これまでどおり規制の枠を当てはめようとしてもうまくいくとは限りません。デジタルプラットフォームは、既存の事業概念の枠を超えて活動を展開しておりますので、事業法では対応できないことが多く、現在のところ有効な規制は独占禁止法以外に余り存在していないと言えます。
そのため、独占禁止法を中心とした事後規制によって一つ一つ事例を積み重ねてルールを形成していくというのが基本となるわけですが、一方で、それだけでは今困っている事業者、消費者に対して十分に対応できないという現実が残ります。そこで必要となるのが、公正な競争に悪影響を与える行為を事前に抑止するとともに、先進的な取組を促進するといった規制の枠組みになると思います。
本法案でも示されておりますこの規制枠組みは、特定デジタルプラットフォームに対し、契約条件の開示や変更の事前通知を義務付けたり、自主的な手続、体制の整備を行うよう義務付けたりしており、こうした義務を契機として先駆的な取組の促進を図ることが規定されております。
EUにおきましても、この夏に施行が予定されておりますオンライン公正透明化規則で同様の規制枠組みがございまして、本法律案が実現すれば、日EUで規制の歩調がそろうことになります。
また、事業者の創意工夫を最大限尊重しつつ消費者の利益を確保するためには、より柔軟な形でのルール形成も重要な役割を果たすことになると考えております。
具体的には、モニタリングレビューという事業者による報告とその評価を通じた官民の継続的なコミュニケーションによって、具体的にどのような形で問題となっているかが共有され、その問題に対して自発的な解決に向けた取組を行うよう促す枠組みが本法律案に盛り込まれております。
オンラインモールやアプリストアの運営事業者に対し定期的な報告を求め、その評価を通じた問題解決を行うというのは、デジタルプラットフォーマーの自主的、自発的な取組を促しつつ、更なる改善を求めるという成果を得るための現時点における最善策ではないかと考えております。これは、動きの速いデジタル市場を規制当局がしっかりと把握する上でも有効な枠組みでもあります。多方面からの情報収集により把握した問題、課題をプラットフォーマーと共有しながら、自主的な課題解決を見出し、これを他のプラットフォーマーにも広げていくという好循環を取引慣行に組み込んでもらうためです。
もとより、優れたビジネスモデルとは、ユーザーや取引相手の権利を尊重し、その価値を真摯に受け止めることができたその先にあることは明らかです。こうした信頼を勝ち取ろうとする企業姿勢を評価し、具体的な取組を加速させることは、ユーザーの自主的かつ合理的な選択を確保し、公正な取引環境を実現する上でも重要な意味を持ちます。プラットフォーマーにとっても、デジタル経済における競争は、透明な取引条件に基づき、契約トラブルを未然に防止しつつ、ビジネスモデルへの安心感、信頼感を高める具体的対応を後押しするものが望ましいはずです。
私は、こうした取組を積極的に促すに当たっては、法律に違反するかどうかといった単線的、一方的な捉え方をするよりは、法令遵守は当然のこととして、それとは別に、多様なユーザーの価値観に応えていくといった双方向の複線的な考え方が有効な場面ではないかと思っています。
巨大IT事業者が率先して信頼できる透明な取引慣行を築くことによって、現在は不信感が募っているデジタルプラットフォームをより公正で透明な競争環境に変えていくことは、ユーザーや取引事業者に選ばれるプラットフォームになっていくためにも重要なことです。そのように考えますと、現時点ではモニタリングレビューを通じた共同規制が一つの有効策として機能していくことが期待されると考えております。
最後に、デジタルプラットフォームをめぐる規制の在り方について、二点申し上げておきたいと思います。
一点目は、プラットフォームを介した取引の透明化は、取引事業者にとって取引するかどうかの選択肢を実質的なものにするために必要なことでありますが、それと同時に、デジタルプラットフォーマー当事者にとっては、競争者に取引先事業者を奪われないよう、自らがより良い選択肢となるための不断の努力を促すという点が重要だということです。取引透明化によって独占禁止法違反を未然に防ぐだけではなく、プラットフォーム間の競争を活性化する効果が生まれることを過小に評価すべきではないと考えています。
プラットフォーマーに対する競争の圧力は、様々な苦情や紛争の迅速な解決につながるだけではなく、取引先事業者との相互理解を促進するインセンティブをもつくり出します。また、プラットフォームは、モールの規模やアプリの品ぞろえによって多数のユーザーを引き付けるというネットワーク効果を重要視していますので、プラットフォーム間の競争が活発化すれば、今よりもユーザーの選択肢も広がりを持つようになるという副次的な効果も期待されます。
このような競争の持つプレッシャーがデジタルプラットフォーム分野において非常に重要な役割を果たすことになると考えています。
二点目は、取引の公正化についてです。
取引先事業者からの搾取といった濫用行為が不公正であることについては多くの賛同を得られると考えておりますが、こうした搾取濫用もデジタルプラットフォームの問題として常々報告がされているところです。搾取濫用を直接規制することはもちろん重要ですけれども、取引の透明化、情報の開示を通じて、取引上、搾取しにくくする方向にも働くという点も指摘しておく必要があろうかと思います。デジタルプラットフォーマーも社会的評判からは無縁ではいられず、搾取の事実は根拠ある悪評として取引先事業者から敬遠されるもととなるからです。
激しく移り変わるデジタル市場に公正な競争条件を整備することは容易ではありませんが、取引条件やそのプロセスを透明化すること自体が公正につながる要素を多く含んでいるということを踏まえますと、このような透明化した取引方法が商慣習として定着するということは公正な競争環境への大きな一歩となります。
本法律案をきっかけとして、我が国においては、巨大IT事業者が積極的に優れた取引慣行を形成しようとすれば、それが業界のスタンダードとして市場に埋め込まれ、多くのプラットフォーム事業者が自発的に行うようになる可能性があります。こうした一つのムーブメントを引き起こすためには、まずはオンラインモールとアプリストアにおける巨大IT事業者を巻き込むところから始めることにも理由があると考えております。
以上になります。
御清聴いただき、どうもありがとうございました。