片野歩の発言 (国際経済・外交に関する調査会)
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○参考人(片野歩君) 参考人の片野と申します。本日はよろしくお願いいたします。
私は、三十年以上、ノルウェーを始めとした北欧の漁業を見てきた者として、国際的な視点から日本の水産資源管理に関して個人的な見解及び意見を述べさせていただきます。少しさかなクンのときと雰囲気が変わりますので、よろしくお願いします。
私の方は、プレゼンの資料、この写真の付いている資料ですが、これを使わせていただいて解説させていただきたいと思います。全部で二十ページございます。
まず、この一枚目、表紙ですが、これはノルウェーの大型巻き網船の船内の写真です。主に、サバであるとかニシンであるとか、青魚を捕っています。彼らの主要魚種であるサバの最大の市場は日本向けになっています。ノルウェーを始めとする北欧の水産資源管理や漁船については後ほど詳しく述べさせていただきます。
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このグラフは、世界の水揚げ量推移を示しています。オレンジ色が天然魚で、青色が養殖です。全体としては、一九八〇年代で一億トンの大台に乗り、現在では二億トンに倍増しています。天然と養殖を分けてみると、天然は横ばいで、養殖が大幅に伸びているように見えます。しかし実際は、例として北米、北欧、オセアニアなどでは、現在の漁獲量の倍の漁獲は可能です。しかし、資源の持続性を考えて漁獲量を大幅に抑えているという現実が背後にあります。
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このグラフは、世界と日本の水揚げ量の推移を表しています。青の折れ線グラフが日本で、右側の数字を御参照ください。一方で、赤色の折れ線グラフは世界全体の水揚げ量推移です。左側の数字を御覧ください。
日本の水揚げ量は、一九八〇年代の約千二百万トンから二〇一七年の四百万トンへ三分の一に激減しています。一方で、同時期の比較では、世界全体の水揚げ量は一億トンから二億トンに倍増しています。科学的根拠を基に数量管理をして水産資源を持続的にしている国々がある一方で、日本では、主に漁期や漁具などで規制はしているものの、数量管理が弱いため、いつの間にか捕り過ぎてしまい、その主な原因を環境の変化や外国のせいにしてしまっているケースが少なくありません。海水温の上昇にしても、世界中で日本の海の周りだけが温暖化しているのかと冷静に考えてみると、自国の水産資源の管理の重要性が改めて分かってきます。
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この表は、世界銀行が二〇一〇年と二〇三〇年の水揚げ量予測を比較したものです。世界全体では、先ほどのグラフで御説明したとおり増加傾向が続いているので、二三・六%の増加予想となっています。しかし、海域別では、唯一日本の海域のみがマイナス九%という予測になっています。しかも、既に二〇一七年で四百三十万トンまで悪化し、予測を前倒ししてしまいました。更に言えば、水揚げの減少要因とされてきたマイワシの水揚げ量は、東日本大震災の二〇一一年以降は逆に全体の減少を支える増加要因になっているにもかかわらずです。
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この写真は、最初にお見せしたのと同様に、ノルウェーの大型巻き網船内です。左の写真がラウンジで、右下は船内のジムです。
ノルウェーの漁業では、天然、養殖共に成長が進んでいます。漁獲枠は漁船の大きさや漁法で分かれています。主要魚種であるマダラを例に取りますと、資源量が少ないときほど沿岸漁業者への配分比率を増やす仕組みになっています。このため、我が国と異なり、沿岸と沖合の争いは過去の話になっています。
二〇一六年の国の調査では、漁船の大きさなどにかかわらず、ノルウェーでは漁業者の実に九九%が満足しているという調査結果が出ています。資源が持続的になっていることで、将来が明るく、収入も高いことで、都会にわざわざ出て働かなくても、地方で様々な産業が生まれ、豊かに暮らせる仕組みができています。日本も、かつて水産資源が潤沢である頃は地方は豊かでした。
ところで、ノルウェーだけでなく、アイスランド、デンマークといった北欧の国々でも漁業は成長しています。これらの国々が漁業で成長しているのに共通している点があります。それは、科学的根拠に基づく漁獲枠であるTACと、IQ、ITQ、IVQといった個別割当て制度による資源管理となります。
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世界と日本の資源管理の違いを魚種で具体的に御説明してみます。
まず、サバについてです。
日本の場合、実際の漁獲量より枠が多いので、食用にならないような小さなサバまで見付ければ捕ってしまいます。このため、ノルウェーのサバ漁では九九%が食用であるのに対して、日本では七〇%程度が食用になっているにすぎません。太平洋側のマサバ資源は、後に御説明するマダラと同様に、東日本大震災で漁獲圧力が大幅に減少し、一時的に資源が急回復しています。しかし、今のままでは資源は再び減少してしまいます。
次は、ズワイガニの例を挙げます。
日本では雄も雌も漁獲します。雄に比べて小さな雌ガニは価格が半分程度です。日本が輸入しているアメリカ、カナダ、ロシア、ノルウェーでは雌の漁獲を禁止しています。これらの国々は個別割当て制度を適用しているので、漁業者は安い雌は捕らないという意識が働いています。雌は海に放流され、卵を産み、資源を回復させていきます。
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次は、北欧での主要魚種であるマダラについて、日本の資源管理との違いを御説明します。
アイスランドの漁業者では、小さなマダラが捕れないように、国の網目規制が十五センチ以上に対して自ら二十三センチに広げているケースがあるそうです。これは、個別割当て制度により漁獲枠が厳格に決まっているので、価値が低いマダラはできるだけ捕らないようにしているからです。結果として、単価が上がり、水揚げ金額が増え、資源にも良くなります。
一方で、日本の場合は考え方が異なり、そもそもマダラの漁獲枠さえなく、写真のような手のひら程度のマダラの赤ちゃんでも容赦なく漁獲してしまいます。
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日本のマダラの例を挙げます。
右側のグラフは、太平洋北部系群のマダラの資源の推移を表しています。震災の影響で一時的に捕れなくなり、資源は急回復しました。グラフのとおり、震災前の二〇一〇年に比べて、震災後の四、五年間は資源量が激増しました。しかしながら、漁獲枠もなく、また写真のような小さなマダラまで捕ってしまうため、再び資源は急減してしまいました。これは、決して漁業者の問題ではなく、資源管理制度そのものの問題と考えております。
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次に、同じ大西洋マダラの資源でも、ノルウェーとEUでは国の政策によって資源量に大きな違いが出ているケースを御紹介します。
オレンジ色の折れ線グラフを御覧ください。ノルウェー漁船によるバレンツ海でのマダラの水揚げ金額は、二〇〇九年の約三百四十億円から二〇一八年では七百五十億円へと倍増しています。水揚げされたマダラは、付加価値が付けられて販売されていき、様々な形で地場産業に貢献しています。小さなマダラの海上投棄の可否の違いで、同じ太平洋であっても、バレンツ海と北海という両国の漁場の資源量には大きな差ができてしまいました。
ノルウェーのバレンツ海でのマダラの資源は実に潤沢です。これは、一九八七年にノルウェーのビヤルネ漁業大臣が、反対を押し切ってバレンツ海でのマダラの海上投棄の禁止を断行したことにあります。このため、小さなマダラの海上投棄が止まりました。一方で、北海で漁獲するEUでは投棄を続けて、二〇一九年にようやく海上投棄が禁止となりました。EUでは、小さなマダラを水揚げすると枠の消化にカウントされてしまうため、海上投棄が行われてきたのです。
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このグラフは、ノルウェー漁船によるEU海域でのマダラ漁の水揚げ金額推移を示しています。
オレンジ色の折れ線グラフを御覧ください。マダラ漁業は国別TACが設定されています。しかしながら、北海でのノルウェー漁船の水揚げ金額は二十億円弱で横ばいと、バレンツ海での水揚げ金額の上昇と対照的になっています。その理由は、北海のマダラ資源はバレンツ海と異なり回復している状態とは言えないからです。資源状態が異なる原因は、海上投棄の可否が大きく影響していたのです。
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米国と日本のスケトウダラの資源管理の違いについて御説明します。
TACを示すオレンジ色の棒グラフと漁獲量を示すオレンジ色の折れ線グラフの差を見てください。ほぼ一致しています。米国では、TACと実際の漁獲量はほぼ一〇〇%一致しています。これは、実際に漁獲できる数量より大幅に抑えてTACが設定されているためです。なお、日本のTACの運用については、後ほどサンマと併せて詳しく御説明いたします。
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資源減少を他国に責任転嫁してしまった例として、スケトウダラの日本海北部系群の例を挙げます。
左のグラフは水揚げ量の推移を表しています。当時、資源減少の原因は、二百海里設定後も日本のEEZ内で操業を続ける韓国漁船のせいだとされていました。そして、ついに一九九九年に韓国漁船が撤退となりました。その後、資源は回復するはずでしたが、逆に大幅に減少してしまったのです。確かに、韓国漁船も漁獲していたので資源量に影響していました。しかしながら、その比率は僅かでした。魚が減った主な原因は、韓国ではなく、日本漁船そのものにあったのです。
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海外でも、日本と同じ資源量減少の問題が過去に起きています。その代表例が東カナダで起きたマダラの乱獲です。青の折れ線グラフを御覧ください。
東カナダ沖では、一九六〇年代に各国による乱獲が起き、漁獲量は一時百八十万トンにも達しました。その後、資源の激減が起こりました。カナダの政府は、近海でマダラを捕る外国漁船を批判しました。同様の漁業問題が各国で起こり、一九七七年に設定されたのが二百海里漁業専管水域でした。外国船の操業は規制されたので、本来であれば資源は回復するはずでした。しかし、残りの資源を自国主体で捕り続けてしまい、資源は崩壊しました。これは、前のページで御説明しました日本のスケソウダラが減ったパターンと類似しています。
カナダでは、一九九二年にマダラ漁が禁漁となり、三万人以上が失業したと言われ、現在に至っています。その乱獲の反省でできたのが水産エコラベルとして有名なMSC認証です。
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この図は、北欧各国が協力して行った資源調査結果を表しています。赤がサバ、青がニシンの分布です。EU、ノルウェー、アイスランドといった国々は、サバ、ニシンなど共有する資源を共同で調査して情報を共有し、全体のTACや国別TACの設定に利用しています。
日本は、サンマ資源を始めとして、同様に、中国、韓国、ロシア、台湾などと協力して資源調査をすることが不可欠です。科学的な調査と国別TACの交渉は分けて実行していくべきです。共有された、できるだけ正確なデータがないと正確な議論はできません。
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二〇一九年、サンマの水揚げ量は、ロシアへの洋上売却分も合わせて僅か五万トン弱と過去最低でした。国別TACの設定が待ったなしとなっています。右上と右下の図は、サンマの資源分布と資源調査結果をそれぞれ示しています。しかし、比べてみると、サンマの分布として示される海域は、実際の資源調査範囲よりもかなり広くなっています。日本だけで資源調査では物理的に限界があるので、他国と共同で調査し情報を共有することが不可欠になっています。
左下のグラフは、各国を合計したサンマの漁獲量の推移を表しています。サンマの漁獲量が減少した原因の一つに海水温の上昇が挙げられています。海水温の上昇は世界的な問題です。このため、水温が高いために日本の沿岸に近づくのが遅れたと言われています。
では、その影響がなかった、影響が少なかったはずの日本から遠い公海でのサンマの漁獲はどうだったのでしょうか。まだ正確な情報は得られていませんが、中国、ロシアを始め不漁だったという情報です。ロシアでは僅か二千四百トンで、前年の三割を割っています。これは、資源量そのものが大きく減少をしていることを示している例ではないでしょうか。
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日本のサンマのTAC設定について御説明します。
日本のTAC設定は、残念ながら、漁獲量より大幅に大きく、機能していません。過去十年間の消化率は僅か五割でした。二〇一九年のTACは二十六・四万トンですが、漁獲量は僅か五万トン弱。二〇二〇年も同じTACの枠です。先ほど御紹介したアメリカのスケソウダラのTACとは大きく異なっています。
今年の夏には、北太平洋漁業委員会で国別TACの交渉が行われる予定です。中国、ロシアを始め、フリーだった公海を狙って新造船を配備していた国々は容易に妥協はしません。また、仮に国別TACが決まったとしても、昨年決まった全体の漁獲枠のように捕り切れない枠では資源管理の効果はありません。漁獲枠の配分は国益が絡むため、要望した数量で決めることは極めて難しいです。
そこで、日本が行うべき施策の一つは、まだ話合いの議題になっていないマイワシの国別TACの設定をすぐに提案することだと思います。資源量が増加傾向にあるマイワシ漁へ中国、台湾などの漁船を向かわせて、サンマへの漁獲圧力を少しでも下げさせる。その間にサンマの国別TACを決めていく戦略です。漁獲枠の配分は実績がベースになるので、各国はマイワシの実績づくりをしようとします。マイワシに各国が向かえば、相対的に日本のサンマの漁獲比率が微量でも上がる可能性もあります。
一方で、このままでは、漁場が遠くなっていることと、他国の漁船が大型化、最新型になっていることにより、日本の現在の三割の漁獲比率は更に下がり、サンマの漁獲枠配分の交渉が不利になっていくことになります。
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最近、中国船に対して話題になっていない、新たな脅威となっているロシア漁船の御説明をします。
余り話題になっていませんが、ロシアは漁獲枠の配分をインセンティブとし、新造船建造と北方領土などに新工場の建設を急ピッチで進めています。ロシアの漁獲量は二〇一八年で五百万トンと過去二十六年間で最高で、これを二〇三〇年までに五百五十万トンに増やす計画です。日ロ両国の合意により、相互に九万トンの漁獲枠がEEZ内で可能となっています。ロシア側は、この枠の増加を求めています。ロシアが増加分を主に期待しているのはイワシとサバです。これらの魚種と資源は、主に日本で産卵してロシアや公海にはみ出していく資源なのです。
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中国の水産資源管理政策も大きく変わってきています。中国では、自国の乱獲を認め、自国のEEZ内では五月一日から九月を実質禁漁にしています。一方で、燃料費に対する補助金を出しています。これが遠洋漁業を奨励することになり、近年、国別TACがない日本のEEZの外側に中国船が急増してしまった主な原因と考えられます。
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左上のグラフを御覧ください。これはノルウェーの漁船に対する補助金推移です。一九八〇年代に、漁獲圧力を下げるために多額の補助金を使いました。そして、ピークには百五十億円だった補助金を減船など漁獲圧力を下げるために使用した後に大幅に減らし、今ではほとんど補助金はありません。
一方で、下のオレンジ色の折れ線グラフを見てください。これは、サバ、ニシンなど青魚の資源量推移を示しています。厳しい漁獲量の制限後、一九八〇年代の八百万トンから千六百万トンへと資源量を倍増させています。マダラなどの底魚なども大幅に資源が増えています。つまり、補助金が激減して資源量が倍増している状態です。
右のグラフは、既に御説明したスケトウダラの漁獲推移のグラフですが、皮肉にも左上の補助金が減っているグラフの傾向と似ています。
ところで、資源量の増加はそのままノルウェーでの漁獲量の増加とはなっていません。それは、冒頭に申し上げたように、資源の持続性を考えて漁獲をセーブしながら捕っているからです。
次は最後のページです。
最後になりますが、まとめについては御説明したとおりです。三十年以上にわたり北欧の漁業を見てきた立場からすると、北欧を始めとする海外の成功例が誤って伝えられているケースが散見されます。漁業者が日本と同様に減少しているのは事実です。しかし、漁獲枠の設定を始め水産資源を持続的にする仕組みにより、水産加工、物流、資材、金融、建設業を始め様々な産業がかつての日本がそうだったように生み出され、成長を続けています。
二〇一八年十二月に改正された漁業法の施行が近づいています。本日は、少しでも水産資源管理に対する理解を正しくするためのお役に立てたなら幸いです。
御清聴ありがとうございました。