田中浩一郎の発言 (資源エネルギーに関する調査会)

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○参考人(田中浩一郎君) よろしくお願いいたします。
 私の方は、お手元の資料の方にもございますが、基本的にこのスライドをベースにお話をさせていただきます。(資料映写)
 要点は何かといいますと、地政学の観点から、この中東、それから世界情勢が今どういうふうに動いているのかということを少し味付けとして加えることができればと思った次第でありますが、原油価格が近年低迷しておりますので、その地政学リスクという言葉が余り価格の上には反映されていないという状況があって、どちらかというと忘れがちではあるんですが、去年、今年に入るに当たって中東で非常に軍事的な緊張も含めて緊迫感が高まっておりますので、改めてその地政学リスクというものを捉えてみたいと思っております。
 言うまでもなく、イランとアメリカが軍事衝突を拡大するのではないかという、こういった問題がささやかれておりましたが、一難去って、次の難は何かというと、イランの核合意の存続が非常に危うくなっている中で、将来的にこの核危機がまた再燃してしまうのではないかと、そういうおそれがあるわけであります。
 また、イランの行状に対してアメリカ・トランプ政権が最強の圧力という言葉を使って制裁強化などを続けてきておりますけれども、最終的に、今、イランが白旗を上げる前に、あるいはその交渉に応じるようなことがないままに体制自体が弱体化ないしは崩壊してしまった場合、いわゆる失敗国家のような体を成したときにこの地域は一体全体どうなってしまうのかという、それは簡単に言えば、イラン一国の問題ではなくペルシャ湾全域に波及しかねない、そういう新たな危機を生む危険性があるわけであります。
 今、畑中参考人の方からもイラクの話が出ましたけれども、イランの西隣にあります隣国のイラク、ここも決して安定しておりません。今、イラン原油は市場に三十万BD程度しか、もう細々としか出ておりませんので、この先イランの原油がどうなるのかと、市場にどれぐらい出てくるのかというのは実は余り価格には影響しないんだと思います。しかし、イラクに至っては四百万BDぐらいを今出しているわけでありますから、ここに大きな変更が生じた場合に、これはまた別の意味で需給関係に大きな影響を及ぼすことになろうかと思っております。
 そして、地政学の話をより進めてまいりますと、ちょうど我々はホルムズ海峡の安全航行がどうだということで大いに頭を悩ませるわけでありますけれども、実はここ数年来、アラビア半島の反対側、すなわちペルシャ湾ではなくレッドシー、紅海の方に至るこの地域における不安定が非常に見られております。
 また、その海峡に関しては、ホルムズ海峡ではなくバーブルマンデブ海峡という別の海峡がありまして、実は私はそちらの方の安定あるいはその安全航行問題も含めた状況についての懸念を抱えておりますので、それがどのように関係国の間で見られているのか、あるいは関係国の軍事的な動きも含めた行動をどのように整理すべきなのかということを申し上げたいと思っております。
 またさらに、地中海の方に視点を移しますと、日本に入ってくるエネルギーは余り地中海の方は関係はないんですけれども、やはりこの地域全体に影を投じること、例えばトルコとイスラエルとの関係の悪化、あるいはトルコが最近リビアに対して非常に積極的に支援ないしはその関与を深めている状況、こういったものが地中海を取り囲む国々に波及する、そういう様相を呈しております。
 また、改めてペルシャ湾あるいは北アラビア海、オマーン海などの方に視点を移しますと、例の有志連合構想、アメリカが提唱して七か国ほどがそれに賛同しておりますが、それに関係して、イランの方ではこれに対抗すべく、ホルムズ平和構想ないしはホルムズ平和イニシアチブというのを打ち出しております。それとの直接の関係は不明であるにしても、イランとロシア、さらに中国が合同海事演習を行うという、これまでに見られなかった動きを招来、招いておりますので、ある部分、新たな動きがこの海の上にも見られるということになります。
 以上が要点でございますけれども、個別に見てみたいと思います。
 まず、イランとアメリカとの危機に関してですが、御存じのとおり、この両国の間の対立構造はもう四十一年を迎えております。ただ、この四十一年というのはアメリカの計算でありまして、イランからしますと、一九五三年に、民族政権であったモサッデク首相の率いる当時のイラン政府を、アメリカのCIAとイギリスのMI6が共謀したクーデターによって転覆されたということ。少なくともこの七十数年間の恨みつらみを持っておりますので、どちらがどちらへ先に何を仕掛けたにせよ、昨日今日始まった話じゃないということであります。
 あと、この両国、二国間の関係に影を投じているのは両国の間の行動だけではありません。イランを取り巻くサウジアラビアなどその周辺国がイランをどう見ているかということも、アメリカの対中東政策ないしは対イラン政策の方に影響を及ぼしております。さらに、ここにはイスラエルという中東におけるアメリカの最大の同盟国の行方も関係しておりますので、非常に複雑な構造を持っているということであります。
 ただ一方、イランは、長い間アメリカと敵対し、なおかつイラクから戦争を仕掛けられ、さらには制裁も長い間掛けられてきておりますけれども、やはり、人口八千二百万、民度の高い国民性、それから教育水準の高さなどもろもろを見てもこの地域にやはり存在感を示しているという、こういうところがありますので、周辺から見れば依然として怖い存在であるということがあります。
 ようやく二〇一五年に、イランの核開発疑惑をめぐる問題に蓋をする形でJCPOA、イラン核合意というのが成立したわけでありますが、アメリカがトランプ政権の下、二〇一八年五月にここから離脱し、制裁を強化して、最強の圧力というものを今突き付けているわけであります。
 イランの側は、去年の五月から段階的に核合意の下でのコミットメントの削減を続けてきておりまして、この次のスライドで御覧いただきますけれども、かなり今危ないところに差しかかっている状況があります。
 それはどういうことかといいますと、その五に当たりますけれども、ウラン濃縮上、イランがこれまで認めていたいろいろな制約を今後は一切受けないんだということを今年一月五日の段階で発表いたしました。まだ具体的にこれに沿って何を始めたということではないんですけれども、今後イランがどういう動きを取るのか、これは国際原子力機関、IAEAの報告などを待ちながら見ていくことになります。
 このウラン濃縮に関しての制約はなくなるというのは何を意味しているのか。別にこれは、NPTを今脱退するとかIAEAの査察官を追い出すということを言っているわけではないんですけれども、少なくとも遠心分離機の数を増やす、ないしは遠心分離機を次世代のものに取り替えていく、さらにはイラン国内に低濃縮であったとしても濃縮ウランの備蓄量を増やしていくなどの行為が当然考えられますので、元々この核合意を作る必要性に迫られたアメリカなどが一番心配したブレークアウトタイムですね、核兵器一発分の高濃縮ウランをイランが製造するまでの時間的猶予、これがどれぐらい縮まってしまうのかというところに焦点が移っていくわけであります。本当に危機になれば、アメリカや場合によってはイスラエルなどがいわゆる外科手術的、サージカルストライクと言われる軍事的対応を取る可能性も出てまいります。
 一つ戻しますけれども、このようにアメリカがイランに対して非常に強い対応を取れる背景には、もちろんイランとの対決姿勢というものはあるんですけれども、一方で、オバマ政権期の頃にもう既に始まりました米国内におけるシェール資源開発が軌道に乗ったこと、これによって需給関係が大きく緩んだこともあって、イラン原油を市場から締め出すという荒療治もできるようになったということが背景にあります。
 このアメリカとの対立、イランとの対立で最たるものは今年一月三日に生じましたソレイマニ司令官の暗殺でございますけれども、ここに至るまでもアメリカ、イラン双方が挑発を続け、最終的に報復もお互いが辞さないというようなところまで行ってしまったわけです。
 イランの側がとった報復措置は、イラク国内にあるアメリカが使用している基地に対して弾道ミサイル攻撃を行うというかなり思い切った手を講じました。人的な被害を出さないということで考慮はされていたと思われますけれども、最終的に現在百名を超える米兵が、脳しんとうなのかあるいはそれを超えた症状なのかは微妙ですけれども、いろいろな不具合を訴えているようでもあります。ただ、人命はまだ失われなかったということで、イランとアメリカとの間の報復合戦は一旦はここで手打ちとなっている。しかし、これは終わった危機ではなく、まだいつ何どき再燃するかも分からない状況にまたあるわけです。そこにイラクの政情不安が拍車を掛けられるということで、この地域における不安定がますます広がっていくということであります。
 このアメリカが取っている最大の圧力作戦なんですけれども、当初は、イランに行動の変化を求めるとかあるいはイランが弱体化していけばそれだけ封じ込めやすいとか、いろいろなことは言われております。あと、前々からささやかれているのが体制変換、レジームチェンジを狙っているのではないかということで、いずれにしてもその意図はよく分かっておりません。
 しかしながら、実際にその不安定がイランを襲ってしまった場合に、ここに人口八千二百万人の多民族国家があります。イラクのおよそ二倍から三倍の規模があります。多民族国家の構成の複雑さはイラクの比ではありません。より複雑です。ここが不安定化したときには、ペルシャ湾岸で最も長い海岸線を持つ国、更に言えばホルムズ海峡を望むような国が一斉に不安定を囲うということでありまして、この先、仮にイランがこの最強の圧力の下で崩壊したり失敗国家の中のリストの中に入ってしまった場合には、かつてのアフガニスタン、あるいはひところのイラクやシリアのように国際テロ組織にとって非常に好都合な状況すら訪れかねないということでありまして、これはもはやイラン一国の問題ではない。あるいは、イランからの原油が買えるか買えないかではなく、ペルシャ湾全域に不安定が及ぶ、そういった状況を懸念しなければいけなくなってしまうわけであります。
 イラクですけれども、もう既に畑中参考人の方から指摘がありましたのでここは簡単にしたいと思いますが、問題は、アメリカとイラクとの間も、今回の件、すなわち、ソレイマニ司令官とともに、カタイブ・ヒズボラという民兵組織の司令官、あるいはその指導者であったアル・ムハンディスという人物も殺害されております。この方はイラク人ですので、当然イラクの側にとってみれば、あるいはイラクの民兵組織にとってみればアメリカに対しての報復は終わっていないわけですし、手打ちもできていないわけですので、彼らが新たな抗議行動や報復措置をとるということも、これは止めようがないのかもしれません。
 これは、イランが指図しているしていないということにかかわらず、トランプ政権が前回と同様に、イランを連座責任、あるいはイランが背後にいるということで、また同じ構図の下で危機をつくり出すこともあり得るかとも思われます。
 時間を考えますとこの辺りで少し違うものをお見せしたいと思うんですが、これはアラビア半島を中心に見た西アジアの様子であります。
 ここで何を申し上げたいのかといいますと、このアラビア半島、中央にサウジアラビアが大国として鎮座しておりますが、このサウジアラビアを実は取り囲むような形で、アラビア半島をめぐる、北はペルシャ湾、そして南西の方においては紅海、レッドシーをめぐっての地政学的な囲い込みが実は行われているということであります。それぞれの首都であるところを頂点にして図形を描くとこういうことになります。
 サウジアラビアは、紅海の沿岸、これほとんどサウジの領海、領土でありますので、ここに対するにらみを利かせると同時に、最近ではNEOMという新設都市をアカバ湾に近い地域において開発するというようなことも言っております。ですので、彼らの関心は紅海全域、そして特にシナイ半島に近いところ、北部のところにまで至るような力の投影を行っております。当然、アラビア半島の南西部に位置しておりますイエメンとの内戦に介入しておりますので、ここへの牽制も当然その中に入ってくるわけであります。
 イエメンにおいてサウジアラビアとともに連合軍を構成しているUAE、アラブ首長国連邦は、同様にその首都のアブダビから投影しますと、そのバーブルマンデブ海峡、先ほど申し上げました要衝になります、こちらに対するにらみとともに、南部のアデン湾、アデンという港町がありますけれども、ここのアデン湾に強い影響力を行使しております。また、対岸のアフリカの角と言われているところでは、ソマリアにやはり橋頭堡を築きつつありまして、このような形でイエメン、それからイエメン沖のアデン湾などに力を投影する状況にあります。
 これに対抗している形で、イランがホーシー派と言われる武装民兵を支援しているとされるイエメン情勢にどう関わっているのかということになりますと、やはりテヘランを頂点としてこのような格好になります。間には、サウジアラビアの東部州などシーア派が多数、イランと同じシーア派が多数住んでいる地帯、そしてサウジアラビアの中心的な油田地帯もこの中に含まれる形でありまして、別の言い方をしますと、このイランから更に西の方に別の三角形を伸ばして二つをつなげると、ひところ言われましたシーア派三日月地帯というものをここで構成する形になっております。このように、イランがバーブルマンデブ海峡ないしはイエメンに向けて力を投影しているところであります。
 ここに新たなアクターとして登場したのがトルコであります。トルコ自身はエネルギー大国ではありませんけれども、カタールとの関係を通じまして、アラビア半島のカタール半島、そしてカタールとの合意の下でカタールに軍隊を駐留させております。また、UAEと同様に、アフリカの角のソマリアにも駐留をさせ、さらにはスーダンの領下にありますスアーキン島という、かつてオスマン帝国時代にトルコがここを使用していた軍港がありますけれども、これをリバイズさせたいという、そういう意向も持っておりますので、このようにポジションを考えると、トルコが実はこの領域で一番広い視野を持って行動しているということ、そしてそれは、今現在、トルコとサウジアラビアの関係を見ても明らかですけれども、非常に敵対的なものになっているということでございます。
 もう一つは東地中海の話でございますが、東地中海の海底ガス田の開発が近年活発になり、イスラエルといえば、我々と同じように元々天然資源、特にエネルギー資源がない国として知られていたわけでありますけれども、一転して十分に自国のガスを賄えるほどのところまで来た。さらには、これをほかに輸出するだけの余力を蓄えつつあります。その観点で、イスラエルは、キプロスを経由し、さらにはギリシャと組むことによってイタリアなどへの、すなわちヨーロッパへ向けてのガス輸出というものを海底パイプラインの敷設によって現在進めようとしているところですが、このイスラエルとの関係も近年悪化していたトルコは、実は、ここに割って入るような形でこの海底パイプライン構想に茶々を入れているところであります。
 この地中海を東から西に至る形で延びている黄色い線が、これが今申し上げたイスラエルからキプロス、そしてギリシャに至るまでの、さらにはイタリアに向かうパイプライン敷設構想でありますけれども、今般、トルコがリビアのトリポリにあります正統政権と言われているところと合意を結びまして、イスラエルに対する新たな牽制だと思われますけれども、いわゆる排他的経済水域、EEZの設定というものを一方的に宣言しております。もちろん、これを実力で守る、ないしは主張して行使する力が、海軍力がトルコ海軍にあるかどうかというのはちょっと別なんですが、少なくとも、大いなる牽制をここで参入企業などに対してしていることは間違いないと言えます。これも新たな動きでございます。
 そして、最後になりますが、ペルシャ湾の方に視野をもう一度戻します。
 イランに対しての、いわゆる反イラン同盟と考えられる有志連合構想、日本はそれと距離を置くということでありますが、去年、何度かタンカーが襲撃されるということなどから、ひところの一九八〇年代に生じましたタンカー戦争が再び起きるのではないかという懸念が生じたことは間違いありません。いわゆる船舶の安全航行に対しての脅威であります。これに対してのアメリカの回答ないしは待っていましたとばかりの行動が、ポンペオ国務長官が言い出したセンチネル作戦ないしはその有志連合構想ですけれども、その反イラン包囲網としての性質もあり、イラン側が当然対案として、あるいは反発して出したものがホルムズ平和努力ないしは構想であります。
 面白いことに、これは、イランがイラクとの戦争を終えることになった一九八七年に安保理で成立した決議五九八の第八項に、この地域の安全航行に関してのメカニズムを周辺国、地域国として進めるという文言がありましたので、古い証文なんですが、イランはこれを持ち出すことによってある種の法的な裏付けというものを主張しております。
 もう一つ面白かったのは、あるいは興味深いのは、域内国だけでなく、去年の九月に行われました国連総会の場では例えば中国や日本などにもこの協力を要請したということでありまして、域外国にこのような話をイランが持ち出すのは実はかなり異例のことでございました。
 ただ、これはさておき、このイラン、そして中国、ロシアが、最近、海上安全保障ベルトということをめぐって、アラビア海とそしてインド洋で合同海事演習を行ったということです。御承知のとおり、BRI、一帯一路構想を掲げる中国がかの地域に触手を伸ばしている、あるいは元来ここに海軍力を持っていなかったロシアがプレゼンスを示している、そこにイランが加わる。これは果たして、我々の側から見て、吉と取るべきなのかあるいは凶と見るべきなのかという課題を現在突き付けられていると見ております。
 私の方からの報告は以上でございます。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 田中浩一郎

speaker_id: 11883

日付: 2020-02-12

院: 参議院

会議名: 資源エネルギーに関する調査会